夢を、夢を見ていた。夢のなかのあいつは、必死に戦っていた。
何度も何度も打ちのめされながらも決して諦めようとしなかった。大切なものを守るため、願いを叶えるために。あいつはあいつじゃなくなろうとしていた。大きな力を得るために。
 俺は何度も何度も必死に声を送る。
やめろ。いなくならないでくれ!お前がお前じゃなくなってしまう。俺にはお前が必要なんだ。面と向かってなら決して言えない言葉。決して届くはずのない言葉。
しかし俺はその時、あいつがこっちに振り返って笑ったのを見た。


「……またか」

 目を覚ました俺の眼前に広がるのは、見慣れた天井。もはや見慣れてしまった。病室の天井だった。また俺は倒れたのか、自分の躰の弱さが嫌になる。
 倒れた時はいつもあいつの夢をみる。物心ついた時からいつも一緒にいたあいつ。何故だか俺を慕っていたあいつ。俺はそんなあいつが信じられなくて、いつも色々な無茶をさせたっけ。毛を剃ってきたときは本当に笑った。
 そのとき風を感じた。窓は閉まっている。だれもいないはずの深夜の病室に、おかしな話だ。 
 しかしその風はどこかあいつの使う魔法に似ていた気がした。誰よりも優しいあいつの魔法に。
 あいつがそこにいる気がして。あいつが今戦っている気がして。矛盾する二つの予感を、しかし不思議と確信しながら俺はあいつに言葉をかける。

「頑張れ。芳佳」

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最終更新:2013年01月28日 16:25