『「あいつ」のいないバースデー』

1945年2月21日  湖上基地




「ハッピーバースデー!!!!」



鳴り響き、弾けるクラッカーの音
舞い飛ぶシャンパンのコルク
喝采の拍手
香ばしい匂いを巻きたてるチキンの丸焼き、色とりどりの豪勢な食事がテーブルに並べられている

エイラ「え!?」

サーニャに呼び出されて基地の食堂に来てみれば、基地のみんなが彼女を祝ってくれる


サーニャ「エイラ、お誕生日おめでとう」

横にいる大切な人の言葉で、今日が自分の誕生日だった事に彼女は気付いたようだ
うふふ、と普段のエイラではその笑顔を見ただけで冷静さを一瞬にして失ってしまうような天使の表情を浮かべるサーニャ


エイラ「あ・・・今日誕生日だったっけ・・・」


サーニャに手を引かれて、食堂の中へと連れていかれる
みなが彼女の誕生を神に感謝し、祝福してくれている

エイラ「あ、ありがとう」

若干戸惑いながら、彼女も嬉しそうだ
自分の誕生日を忘れていたのはマイペースな彼女らしいと言えるだろう


エイラ(そっか・・・今日は誕生日だったんだ・・・)

しかし、彼女が夜まで自分の誕生日だと気付かなかったのは16年間の人生で初めてだった
ではなぜ今年は忘れていたのだろうか?
そう、普段なら「あいつ」が朝一番にやってきて自分の誕生日を誰よりも早く祝ってくれたから

サーニャ「501のみんなからも、バースデーカードが届いてるのよ、エイラ」


エイラ「ほ、本当カ!?」


言葉と共にサーニャがバースデーカードを取り出す、丁度9枚
共に数多の死線をくぐり抜けてきた大切な家族達からの祝福の手紙は、彼女の涙腺を緩ませるには充分だった


エイラ「えっと、届いたカードは9枚だけ?」


サーニャ「?」

サーニャ「そうだけど?」


エイラ「そっか・・・」

一瞬、寂しそうな表情を見せてからエイラはすぐにいつもの彼女へと戻る

エイラ「サーニャ―――――ッ!!ありがと―――――っ!!!」


サーニャだけにでは無い、祝ってくれたみんなに不器用にも感謝の言葉は彼女らしく伝えて、エイラの生誕祭は盛り上がる








「はぁ・・・」

窓から見える世界は極寒のブリザード
しかし暖炉に火をくべたため、部屋の中は温暖で過ごしやすい
吹雪く風が分厚い窓を揺らす部屋でエイラは溜息をこぼす

非常に盛り上がった彼女の生誕祭も日付が変わる頃には基地の人間がほとんど全員酔い潰れてしまい、彼女が「今日だけだかんナー」などとボヤキながら片付けを行った
サーニャも悪い同僚にジュースだと言われてウォッカを飲まされ、早々にダウンしてしまっていた

テーブルにはサーニャから誕生日プレゼントで貰った新しいタロットカードが並べられている

エイラ「・・・あいつ、私の誕生日忘れちゃったのカナ」

エイラ「まぁ、2年間も会ってないし・・・しょうがない・・・カ」

彼女が述べた「あいつ」は、今やスオムス国民では知らぬ者はいない超有名人
去年の年末に、彼女の故郷付近で起こった大規模なネウロイの侵攻を少人数で食い止めた事で異例の5階級昇進を果たし
非ウィッチでの最年少尉官として
非ウィッチでもネウロイを倒せる事の証明としてプロバカンダに利用されていた

しかし、彼女にとってはそんな事は関係なく
あくまで幼馴染であり、友人であり・・・ちょっとだけ・・・ちょっとだけ気になる「あいつ」だった

しょうがない、そんな言葉とは裏腹にかなりその面持ちは悲痛
まるで己の半身を失ってしまったかのような表情だ

エイラ「去年はちゃんとカードくれたのにナ・・・」


去年だけでは無い
「あいつ」と出会ってからエイラは自分の誕生日を、いつも彼の非常にぶっきらぼうな「おめでとう」と言う言葉で思い出していた
彼の祝福が無い初めての誕生日は、どこか物足りなく感じた




エイラ「有名人様になって私なんて忘れちゃったのカナ?」

当時はカードだけで、近況報告やエイラに対する質問などが全く無い、味気ない内容に憤慨した事を思い出す

そんな「あいつ」に自分から手紙を書かなかった理由は単純
悔しかったからだ
あっちから手紙が来ないのに自分から送るなんてエイラのプライドが許さなかった
全く安いプライドだ、と今なら自嘲するだろう

エイラ「・・・」

細く白い指でカードを捲る

昔から、なんどもなんども占ってきた「あいつ」とのこれからを占ってみる
10年以上、いつだって同じ結果が出続けた占い
「運命の逆位置」その意味は惰性、停滞
まさに2人の関係を表すカードだった

そんな結果が昔から嫌で、しょうがなかった
どうにか変えたかった
今だったら、悪い意味でも違うカードが出る気がする


サーニャとの未来は怖くて占えなかった
だけど“あいつ”との未来はこんなに簡単に占える…
すがるようにカードを捲る、悪い意味のカードが出れば、もう悩む必要もなくなって諦められる気がして…



しかし、現れたカードは「運命の逆位置」

エイラ「また一緒・・・」

少し、ホッとしている自分がいる事に気づく


エイラ「私はどうなりたいんダ?」

意味が解からない自分の行動や心理に苦笑して、頭を抱えて悩む
好きな人はサーニャ、それは間違いないはず
去年彼女に会って、「愛おしい」という感情を初めて感じた
サーニャに嫌われる事が、死ぬほど怖いと思った
神様にも祈った、サーニャの笑顔のためなら他の物なんていらないって



エイラ「神様ごめんなさい」



エイラ「あれ嘘みたい」


失った物が簡単に戻らない事が解からない年でもない
暖炉の炎が幻想的に揺らめく部屋で、エイラは自分の調子の良さを呪いながら絞り出すように言葉を吐いた








それからの彼女はどうも調子が悪かった
精彩を欠く、こう例えるのが適切なのだろうか?
心ここにあらずと言った感じで、戦闘での撃墜数も振るわない
日常でもあまり元気が無く、普段あまりしないドジまでする始末
そんな中でも被弾の1つも無く、シールドを使用するような事態にも陥らなかったのはさすがにダイヤのエースと言うべきか


そんな親友の様子をサーニャは心配していた

サーニャ「エイラ・・・」

エイラに悩みがあるのは明白、それを彼女に聞いても「なんでもないサ」と言って強がって教えてくれなかった

日に日に、エイラの調子が悪くなる


そんなある日、カウハバ基地周辺に大型ネウロイが襲来した
急ぎ出撃するサーニャを含むウィッチ達
エイラはそんな彼女達を地上から見送っていた

あまりにも調子が悪いので危険だと、サーニャが上官に直訴したのである



エイラ「私は何やってんダヨ・・・」

エイラ「あいつは・・・約束通り故郷を守ってくれたのに・・・」

エイラ「私は空を守るって約束・・・守れてないじゃないカ・・・」

あまりにもふがいない自分の姿に涙がこみ上げてくる


エイラ「こんな私を見たら、お前は笑うかナ?」


「あ、ユーティライネン中尉!」


ふと、誰かに呼ばれる
振り向けば、見た事も無い男
基地の人間ではなさそうだ


エイラ「なんダヨ」

うっすらと浮かんだ涙を袖で拭って泣きそうになっていた事を隠す

「お手紙です、いやー参りました、基地にきた瞬間にネウロイの襲げ・・・」

エイラ「!?」

彼がカバンから取り出した封筒を見た瞬間、エイラは言葉を遮って奪い取る
去年、見た封筒
味気ない、素っ気ないシンプルな封筒
「あいつ」らしい封筒



急いで中を確認する

《イッルへ
 誕生日おめでとう
 俺は約束守ったぞ

  俺“少尉”より》


ぶっきらぼうに、汚い文字で書きなぐってある
アホみたいに「少尉」の部分を強調して書いてあった

エイラ「残念でした、今の私は中尉だヨ・・・」

手紙の上に水滴がこぼれ落ちて、インクが滲む
消印を確認、「2月19日」
ちゃんと間に合うように出してくれている


エイラ「バーカ・・・遅いってノ」

こぼした涙は一滴だけ
後は必死で我慢する
嬉しい時は笑うべきだから
泣いてる顔なんて見られたら“あいつ”に笑われちゃうから
手紙を両手で握り潰して胸に引き寄せ抱きしめる
不器用だけど、ぶっきらぼうだけどどこか暖かい「あいつ」を確かに感じる
グチャグチャになっているのは手紙だけではなく、彼女の表情も一緒だ

「すいません、一昨日からの暴風雪のせいで遅れてしまって」

そんな言葉も彼女の耳には入っていないようだ



エイラ「ありがとう」



エイラ「私も、ちゃんと約束守るからさ」

小さく、だけど力強く呟いて顔をあげる
彼女の眼には赤い炎が揺らめく
何よりも強い、決意の色、その炎はスオムスのブリザードにも負けないほど煌々と揺らめいている

急ぎ、ハンガーへと走るエイラ
その表情に迷いは見えない

敵は大型ネウロイ、だが問題無い
だって今日の彼女は・・・



エイラ「今日のエイラ・イルマタル・ユーティライネンは一味違うぜ!!」



一味違うらしいから
最終更新:2013年01月29日 14:40