――次の日、俺は正式に『ストライクウィッチーズ』の一員となった。
ミーナには借りを作ってしまった。ちゃんと返さないと。

それから更に2~3週間ほど経った。
少佐には訓練でしごきにしごかれた。部活の練習なんて比べ物にならないほどキツかった。
飛行訓練や射撃訓練にも付き合ってくれて、そのおかげで普通の民間人だった俺でもあっという間に上達した。

他の皆とも打ち解けることが出来た。
こんな俺を仲間と認めてくれるのだから、嬉しい限りである。

因みに、医務室に置きっぱなしにしていたお菓子はエーリカが勝手に食べてしまっていた。
「こんなのが未来にたくさんあるなら私はそれまで生きてやる」と感想を述べていた。

あと、俺はまだ戦闘に出たことがない。まあ、当然と言えば当然だけど。

そしてそんなある日、『ストライクウィッチーズ』の隊員達がそれぞれ思い思いの午後を過ごしていた時、それは訪れた。




ウウウゥゥゥ―――

俺「……いつ聞いても煩くてたまらんな」

俺(今日はどんなのが来るのかなー)タッタッタッ





ミーナ「今回出現したネウロイは午前のブリーフィングで皆さんに伝えた通り、小型が3機、ロマーニャ方面に向かって侵攻しています。
今回はハルトマン中尉、バルクホルン大尉、そして、俺さんで出撃し、これを迎撃してもらいます」

エーリカ「了解~」

俺「あ、了解っす」

バルクホルン「了解。……だが、初出撃なのに気の入っていない返事だな、俺」

俺「いや……緊張するのはネウロイを目の前にしてからでもいいんじゃないかと」

エーリカ「目の前にする前に緊張しておいたほうがマシなんじゃない?」

俺「それもそうだな……」



ミーナ「俺さんの成長振りは美緒から嫌というほど聞かされているから、心配はないと思うわ」

坂本「嫌とはなんだ、嫌とは」

ミーナ「うふふ……。とにかく、三人は直ちに出撃準備、他は基地で待機よ。いいわね?」

『『『了解!』』』





それから駆け足でハンガーへ向かうと、そこでは整備兵達の掛け声や怒鳴り声が飛び交っていた。

「ほら、さっさと行くよ!」

その雰囲気に圧倒され、思わず足を止めてしまっていた俺はエーリカの声で我に返る。

「すまんすまん」

「全く……そんな調子で大丈夫か?」

大丈夫だ、問題ない。
この台詞は心の中で言っておいた。

「よ、っと」

三人それぞれが各々の武器とストライカーを装備する。



「カラヤ・アイン!いっくよー!」

エーリカが、

「ゲルトルート・バルクホルン!行くぞ!」

バルクホルンが、

「俺、行っきまーす」

そして俺が、青く澄み渡る大空へと飛び込んで行く。

(コールサイン欲しいな……)





「しっかし、今日もいい天気だな」

我ながら、緊張感のなさすぎる台詞と思う。

「馬鹿者が……」

「あっははっ。ま、いいじゃん」

「そうそう、緊張してガッチガチになるよりマシだって」

エーリカの言葉に便乗して言ってみたが、バルクホルンの鋭すぎる眼光で睨まれたのでそれ以降は黙っておいた。





俺「あ……いた」

エーリカ「?」

バルクホルン「見えたのか?」

俺「ああ、ほら、あそこ」スッ

エーリカ「むぅ~……何も見えない」

バルクホルン「……私もだ」

俺「いやでも……小型が3機、確かに見えるんだけど……」

<<ザザッ……こちらHQ、そちらにネウロイが接近しているわ。方位250、距離30000」

バルクホルン<<こちらバルクホルン、了解>>

俺「ほら、やっぱりいた」ドヤ

バルクホルン「……行くぞ」

エーリカ「しっかりついてきてね~」





こちらに接近してくるネウロイを逸早く迎撃すべく、三人は速度を上げる。

「……見つけたッ……!」

ネウロイを目視確認したバルクホルンが凛とした声で二人に指示を出す。

「ハルトマンは左翼、俺は右翼を叩け!中心は私が叩く!」

「「了解!」」

「あと俺、お前はこれが初戦闘だ。あまり無茶はするな。無理だと思ったら素直に引け。私たちがすぐに向かう」

「りょーかい」

「よし、各自散開!各個撃破に向かえ!」


バルクホルンの合図で三人はそれぞれ目標の撃破に向かう。

(なんでだろ……微塵も緊張しねぇ……)

そんな中、俺は緊張どころか、ちょっとした余裕を抱いていた。









俺「この戦闘シーンは諦めました。ごめんなさい☆ミ」










バルクホルン「片付いたか」

エーリカ「終わった終わった~」

俺「案外簡単だなぁ」

バルクホルン「あまり調子に乗るなよ?……まあ、初撃墜のことは褒めてやらんでもないが」

エーリカ「よく頑張ったねー」ナデナデ

俺(おおう……これは……)

バルクホルン「はぁ……、さっさと基地に帰るぞ」

「「了解~」」





基地に戻ろうと方向転換しようとした時、俺は何故か振り返らずネウロイの消えた空をただ見つめていた。
そんな俺を不思議に思ったのか、バルクホルンが怪訝そうな表情を浮かべて俺に声をかける。

「……どうした?俺」

「…………」

何も言わずに、ただ虚空を見つめてぼんやりとしていた俺の前にエーリカが来る。

「どーしたの、俺っ」

「…………る」

「え?」

エーリカの言葉にも答えず、俺はおもむろに上昇し始める。

「おい、俺……」

「邪魔だ……」

ゆっくりと上昇を続けながら、持っていた武器――MG42――を海に捨てる。

「おい!何をしてッ……」

バルクホルンの言葉は途中で途切れた。何故なら、

「…………」

何故なら、俺の顔が満面の笑みに染まっていたからだ。             バット
そして、バルクホルンは気付くことができなかった。俺の手に、青く光る一本の"棒"が握られていることに。

「……この辺かな」

ある程度上昇したところで静止し、自分が穿いているストライカーを見る。

「……これも邪魔だな」

そう呟いて、俺はストライカーも捨てる。だが、落ちることはなかった。





「……シールドの上に乗っかって……る?」





「……よし」

俺は一歩下がってシールドの中心から少し外れる。
そして、俺は"棒"でシールドの中心をトントンと叩き、ある一点を見やってそこに"棒"の先端を向ける。
この"棒"は、いざというときに力を発揮することができる"魔法の棒"だ。

「9回裏、ツーアウト、ランナー満塁、カウントはフルカウント、こっちは1点ビバインド、
相手ピッチの武器は剛速球。そして俺の得意球はストレートだが、今日はまだノーヒット」

両膝を柔らかくし、軸となる右足の親指付け根に重心を置き、左足はやや内側にしぼり、
"棒"を両手で長く持って肩のラインよりもやや上に構える。このとき、右手にはあまり力を込めない。

「押し出しだけは絶対に避けたい場面。しかも俺は変化球の見極めは結構良いからな。投げてくる球は勿論決まってる」

左足を滑らせるように引き、"棒"を構えた両手も少し引く。

(俺の大好物っ……)





バルクホルン「……ハッ、おい!おrむぐっ……」モゴモゴ

エーリカ「まあまあ……ここはゆっくり観戦しようじゃないの」ニシシ

バルクホルン「っ……ぷはっ、何をする!ハルトマン!」

エーリカ「だって、面白そうじゃん?あれ」

バルクホルン「だがな……ん?あれは」

エーリカ「あ……ネウロイ?」





左足を一気に踏み込み、しかし右足に重心を残したまま、軸をブラさずに身体を回転させる。

「ったあァ!!!!」

                                                ボール
インパクトの瞬間、"棒"を握る両手に力を込め、こちらに高速で向かってくる"ネウロイ"を思い切り叩き、そのまま振り抜く―――



「……へへっ、ヒーロー確実だな」

歓声の代わりに、きらきらと輝く"ネウロイ"の破片が降ってくる。
だが、次の瞬間には左手に握られていたはずの"棒"は消え、俺が立っていたシールドも消えて、

「あれ……なんか痛いし、眠いし……」

俺の意識も、消えそうになっていた。







「……――!俺!!しっかりしろ!!」

「俺!!大丈夫!!?」

二人の声で、いつの間にか失っていた意識がよみがえった。

「……うっ……」

「俺!?」

二人に向けて喋ろうとしたとき、左脇腹に激痛が奔った。

「っつ……あの、俺、どうなって……」

「今はまだ喋るな!」

「もうすぐ基地につくから!そしたらミヤフジが治療してくれるからね!」

どうやら俺は今、二人に両肩を支えられて飛んでいるらしい。

(ストライカー捨てたのは流石にやり過ぎたかな……)




俺(しっかし……いつの間に怪我なんてしちまったんだろ)

俺(あー……あの野郎、俺に打たれる直前に俺を撃ちやがったのか)

俺(もしそうだったとしたら、そりゃ気付かないだろうなァ……脳汁出まくってたし)

バルクホルン「俺っ!もう――だ!―――ぐ――――」

俺(……気持ち良かったなぁ……あんなのは初めてかも……)

エーリカ「――!あと―――――だ―!」

俺(ぁぁ……眠い……)

俺(ストライカーで飛んだ後は決まって眠くなるな……魔法力使うと眠くなる体質なのか……)

俺(まあいいや……とりあえず一眠りさせてもらおう……)





「……ん……」

目が覚めると、目の前には見たことのある天井が広がっていた。
部屋は暗く周りも静かなため、今はもう深夜なのであろう。

「……?」

一旦身体を起こそうとすると、両腕に重さを感じた。
それが何なのかを確かめるため、なんとか首だけ起こしてみると、

「あらら……」

右側には、いつもお得意の説教をかましている堅物軍人。
左側には、いつもお得意の説教をかまされている自由人。
どちらも丸椅子に腰掛け、俺の腕を枕にして静かに寝息をたてている。

「心配……いや、迷惑かけちゃったか」

正直、怪我をした時のことはよく覚えていない。まあ、それほど無茶をしたということだろうか。
……しかし、二人の寝顔を見られるとは、幸運なことである。夜目が利く方でよかった。

「……もう一眠りするか」

滅多に見られないであろう二人の寝顔をしっかりと記憶に刻み込んで、俺もまた二人のように眠るのであった。
最終更新:2013年01月30日 15:14