あのあと、降ってきたアレがなんなのか、分からないままにロマーニャの基地へと連れてきた。
ミーナが指揮権を私にゆだねたのには参ったが、冷静な判断を下せないと思ったのだろう。
私が言うことでは無いかもしれないが、抱え込まれるよりか遙かにマシである。
それに私自身、頼られるのは嫌いじゃない。
「しかし、このままというわけにはいかないな」
「何がこのままというわけにはいかないんだ?」
………驚いた、というか私の気がゆるんでいたのか。
「シャーリーか、いや、落ちてきたあいつのことだ」
そう言うとシャーリーは顔をほころばせた。
「ああ、基地に着くまで私の胸にしがみついてた甘えん坊のことか」
そう、ロマーニャの基地に着くまでずっと、まさに片時も離すことなく、
グラマラスシャーリーとあだ名される女性の胸にしがみついていたのである。
そのせいか、あいつの名前が分かるまで甘えん坊と呼ばれることが決定している。
もっとも、あれから三日間がたっているのに意識回復の兆候すら見えないのだが。
「あのあとルッキーニがご機嫌斜めで大変だったよ」
「その割にはあいつにあまり怒っていなかったようだな」
「ルッキーニはあいつのことをマリアに似てる、と言っていたからなぁ、
怒るに怒れなかったんだろう」
そういうものだろうか?
「そういえば、今日はルッキーニと一緒じゃないのか?」
そう聞くと、シャーリーは医務室の方向を指さした
「あの甘えん坊のところだよ、目が覚めたら遊んでもらうんだって聞かないんだ」
「なるほどな、しかし、三日間も昏睡状態の相手に、それは酷だと思うが」
そう口にした次の瞬間。
「シャーーリーーーー!!!!」
ルッキーニが医務室から飛び出してきた。
「ルッキーニ?そんな大声上げてどうしたんだよ?」
「あの子目を覚ましたよ!」
ルッキーニは見ているこちらが幸せになるような笑顔を爆発させていた。
「噂をすれば、だな少佐」
「ああ、ルッキーニはミーナを医務室に呼んできてくれ、
シャーリーは他のメンバーを作戦室へ」
「了解!」
さあ、お前が誰なのか、正体を教えてもらうぞ。
私が医務室を開けたとき、美緒は烈風丸を抜いていた。
「ちょ、ちょっと美緒!何をしているの!」
「ミーナか」
何があったというのだろう、美緒は激しやすい性格ではあるが
いきなりこんなことをする人物ではない。…………………はずだ。
抜刀したままこちらを向き、一瞥したらすぐにあちらに向き直って、
気のせいだったのか、とつぶやいた。
「一体何があったの?」
「ストライカーを研究していた頃の私にそっくりだったんだ」
誰が、とは聞くまでもないだろう。
「私はここにいるんだ、ならばそれは偽物だろう?
第一そんなことが出来るのはネウロイしかいない」
そういうことか、しかしこの場で烈風丸を抜くとは思い切ったことをやるものだ。
「何か聞いた?」
美緒は首を振り、烈風丸を鞘に戻しながら、
「いやまだだ、聞こうと思って顔を見た時に……な」
「でも、助けたときにはそんなことはなかったでしょう?」
美緒は頷きつつ、言葉を紡いだ。
「話を聞けば分かるかもな……おいお前」
声をかけられた男の子は美緒を凝視するとよく通る声で、こうつぶやいた。
「坂本美緒、階級は少佐、魔力の減退が始まっており、刀に頼った危険な戦闘を
繰り返している」
今度こそ美緒は、神速とも言える抜刀術を披露した。
止める暇など無く、人間に避けられるものではない一閃だ。
しかし、彼はいまだにそこにいた。
「貴様はいったい何だ」
自分の一撃が避けられたにもかかわらず、美緒は眉一つ動かしてはいない。
しかし、美緒の質問に彼は答えるのだろうか?
それ以前に、むしろ彼こそが質問したいのではないだろうか?
何せいきなり空から自由落下してきたのだ、まともな神経をしていれば
ここが一体どこで、なぜここにいるのか聞きたくなるはずだ。
そう、それこそ普通の人間がとるべき行動だ。
しかし、彼は質問にこう答えた。
「その質問の仕方は適正ではない。貴女の意図するものによっては
この個体にその情報が入力されていない可能性がある」
この子は一体何を言っているのだろう。
入力とは装置に情報を与え、操作することだ。
間違っても人間に使う言葉ではない。
しかし、美緒はまったく動じる様子もない。
それどころか、最初から分かっていたかのようなそぶりだ。
「では訊き方を変えよう、お前は人間か?」
分からないことだらけだ、この質問になんの意味があるのか?
彼は他でもない私たち人間とコミュニケーションをとっているのだから
答えなど分かっているはずだ。
第一この質問の仕方ではまるで……、
私が美緒の質問の意図に気付いたとき、彼は答えた。
違う、…………と。
最終更新:2013年01月31日 15:00