美緒と共に作戦室に着くと、世界が誇るエース達の視線が一斉にこちらを向いた。

誰もが訊きたいのだ。

彼が何者で、どこから来て、何をするのかを。

そして私はその質問に対する答えを持っていながら、話すことが出来ない。

この歯がゆさになれてきている自分が、私は大嫌いだ。

しかし今は仮面を被るとき、顔をゆがませれば最後、二度と仮面を被ることなど
出来なくなってしまう。

自分を騙すことすら容認して、私は口を開いた。

「皆さんはここに呼ばれた理由が分かっているでしょう、彼が目を覚ましました」

この一言で、いっぺんにみんなの質問があふれ出した。

「ミーナ中佐あの人なんで降ってきたんですか!?」
「お、落ち着いて芳佳ちゃん」
「あいツ、嫌な感じがするから嫌いダ」
「そんなこと言っちゃ駄目よエイラ」
「規律を乱さなければ良いのだが…」
「(眠いなぁ)」
「いつ遊べるの?」
「ルッキーニ、いくら何でもそうはいかないだろ、三日も寝てたら衰弱もするだろうし」
「まったく、殿方をウィッチ用の医務室に寝かせておくなんて…!」

本当に、ネウロイを医務室に置いておくだなんて……、考えられないわね。

彼女たちの疑問も分かる、しかしここで真実を言うわけにはいかないのだ。
無用な混乱を招けば、それだけで生還率が低下する。

覚悟を決め、まさしく喉元まで声が出かけた、
その最悪のタイミングで誰かが入室してきた。

叱責しようと視線を向かわせた先には、医務室にいるはずの彼がいた。

そして、全てを見通すかのような目を私に向け、逆に私を叱責してきた。

言葉ではなく、視線で。

何も言えなかった、たとえ私のしようとしたことが彼女たちを守るためであっても、

彼女たちにとってそれは裏切り意外のなにものでもない。

なぜ私はこうも情けないのか。


彼はミーナが目を伏せるのを確認すると、自分達の最重要案件を口にした。

宮藤芳佳はどこか、と。

「わ、私です」

若干茶色がかった黒髪、意志の強さが見え隠れする不思議な目、

何事かと不審を表そうとする真一文字に結ばれた口。

他に手を挙げる人間もいないようだし、おそらく彼女こそ宮藤芳佳なのだろう。

周りの人間の反応はなかなかに面白い、敵意をあらわにするもの、寝ていた体を起こし
こちらを観察するもの、不用意にこちらに近づこうとするもの、それを止めるもの、
宮藤芳佳に話しかけるもの、様々だ。

しかしそれらは関係ない、彼の目的はただ一つ、そして残された時間も少ないのだから。

彼は言った、答えてもらいたいことがある、と。

「な、なんですか?」

この世界が好きか?彼はそう質問した。

宮藤芳佳は頬を紅潮させながら答えた。

「そんなの当たり前です!」

彼はもう一つ質問した、この世界を憎んでいるものはこの世に存在するだろうか?と。

宮藤芳佳は、この質問にも躊躇無く答えた。

「この世界を憎んでる人がいないなんて言いません……」

そしてこう付け加えた。

「でもこの世界を愛している人のほうがずっと多いです!!」

………つまりそういうことか。

ネウロイとはヒトの感情が凝り固まったものだ。

本来、その凝り固まったものが担当すべき世界の役割をある人物達が恣意的にねじ曲げた。

そして、今のところ役割がねじ曲げられたことに気付いたネウロイは、アドリアのネウロイだけだ。

いや、それは少々違うか。

元々、アドリアのネウロイハイヴは別のハイヴが担当していた。

しかし、ねじ曲げたもの達の言うことを聞いた結果がこれだ。

あのハイヴのとった行動は間違っていなかったのだ。

人類に接触し、真実を知ろうとしたその行為は、
今、アドリアにいる私たちと何ら代わりはなかった。

そして、私たちもまた、この真実を他のハイヴに伝えることは不可能だろう。

ねじ曲げたもの達は必ず私たちを消しに掛かる。

彼が強制的に休眠状態に陥ったのも、ねじ曲げたもの達のせいだ。

彼を排出したアドリアのネウロイハイヴはもはや防衛力をほとんど持っていないだろう。

ネウロイハイヴを守る黒い雲と、彼、そしてハイヴのコア、現在持っている力はこれだけだ。

更に、この三日間でその黒い雲もだいぶ薄くなっているだろう。

ねじ曲げたもの達にとってもアドリアのネウロイハイヴが無くなるのは痛手だ。

しかし、ここで全てをばらされるより、いくらかマシなのだろう。

俺はここで、最低限のことしかできない。

しかし逆に言えば、最低限のことは出来たのだ。

三日で目覚めたのはまさしく僥倖だ。

今のネウロイの頭脳は、ねじ曲げたもの達が担っている。

ネウロイは、人類のためのもの、ならば人類がネウロイを導くことこそ正しい姿。

そういわれたら仕方ない、ネウロイが人類のためのものと言うことは真実なのだから。

………………そろそろ限界か。

早いものだ、ハイヴに帰らなければ、たったこれだけの時間で消えてしまう。

外見を人と寸分違わない個体をネウロイが作ればこうなるのは見えていたことだ。

しかし、何とも惜しい気がしてならない、これは一体どういうことだろう?

正体を確かめたいが、その時間もないようだ。

彼はここにいる全員に問いかけた。

この世界を守りたいか。と。

返ってきた答えは、思った通りのものばかりだった。

彼は助けてくれたことに礼を言い、アドリアのハイヴは、抵抗しない旨を伝え。

消えた。








しばらくの間、作戦室にはなんの音もしなかった。

そこに、扉を蹴破らんばかりの勢いで、通信兵が飛び込んできた。

「ち、中佐!!」

「どうしたの、騒々しいわよ!?」

「それが、それが…」

通信兵は、言葉を紡ごうとするが、うまく言葉にならない。

それに放心状態から我に返った坂本少佐がしびれを切らした。

「軍人ならばしゃんとしろ!!!」

通信兵はその一言で、やっと頭の中の事柄を言語化した。

そしてその情報は、さっきまで居た彼の存在をどこまでも肯定するものだった。



アドリアのネウロイハイヴ、コアを残し消滅。
最終更新:2013年01月31日 15:00