事態はまさしく、消えるまえの彼が想像した方向に進んでいた。
ねじ曲げたもの達が、アドリアのハイヴをほぼ無力化していたのだ。
この絶好機を逃がすものはまさしく阿呆だ。
ついこの間、ミーナはネウロイ一機に構っていられる状況ではないと言っていた。
その認識は正しい、なぜなら、今は消え去った彼が寝ていた間に、
人類側はアドリアにおける最終作戦の発動を決定していたのだ。
最終作戦の概要は可能な限りウィッチに頼ることなく、ハイヴを破壊すること。
今までに幾度となく考えられてきた作戦だ。
そしてその全てにおいてことごとく失敗してきたことでもある。
もう失敗は許されない。
だからこそ、コアのみとなったアドリアのハイヴに大和という人類の威信をかけた兵器を
投入したのだ。
その結果は、
やはり………失敗だった。
ネウロイのコアに近づき、接触した瞬間、大和に積んであった魔導ダイナモが暴走、
一瞬にして駆逐艦を三隻も轟沈せしめた。
既に501のウィッチは戦線を押し返している。
更にハイヴのコアは無抵抗だ。
にもかかわらず私たちは撤退しなければならない。
ウィッチの才能がないものは、おとなしく指をくわえていろとでも言うのか。
ならば我々軍人はなんのためにある、誰か教えてくれ……。
杉田艦長は自らの中に答えがないことはよく分かっていた。
だからこそ、少しでもこの教訓を生かすため、学生時代に秀才と言われた頭脳を
フル回転させていた。
その結果、最大の教訓として浮かび上がったのは、ウィッチ以外の人間に
大型のネウロイは倒せない。
と言うあまりにも残酷な答えだった。
人類が、ネウロイに対抗する術を見つけたと思ったらこれだ。
空中に浮かぶ大型ネウロイには、ウィッチしか対抗手段はない。
しかし、それを看過できないのだ。
自分の子供よりも遙かに年端のいかない少女達にぼろぼろになるまで戦わせ、
自らは安全圏にいることなど、扶桑軍人として、いや男としてそれは出来ないのだ。
ちんけな矜恃だ、だが忘れてはならないものだ。
しかし、己の矜恃を守るためだけにこの場に残るのは、
ウィッチにとっては邪魔以外のなんだというのか。
戦場をあとにしながら、杉田は己の無力と、矮小さを呪った。
そして、杉田の乗る天城に近寄る影が一つ、あった。
アドリア海の上空では未だに戦闘がくり広がられていた。
ネウロイ化した大和の撃滅とネウロイハイヴコアの粉砕、
言葉にすればただの1行、しかしそれは困難を極める。
十一人のウィッチでもって、何とか残っていた天城などの艦隊を守りきった。
しかし問題はここからなのだ。
いかにして、大和のコアである機関室までたどり着くか。
美緒はおそらくこの戦いが最後だ。
烈風斬を一度放てば、もう飛ぶこともままならなくなるだろうと話した。
しかし、ハイヴのコアはあまりにも大きい、あれを粉砕するには烈風斬しかない。
ならば、
「みんな聞いて!部隊を二つに分けます!」
大和の張る弾幕をかいくぐり、全員に伝えた。
「坂本少佐を筆頭に、バルクホルン大尉、リーネさん、宮藤さんは
大和を外で引きつけていてください」
「突入部隊は私、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニさん、ペリーヌさん
エイラさん、サーニャさんの七人です」
しかし、宮藤はとリーネがこれに異を唱えた。
「ミーナ中佐、私とリーネちゃんは大和に乗艦したことがあります、
突入部隊に入れてください!」
「そうです、私と芳佳ちゃんは中の様子を知ってます!」
だが、ミーナはこれを許さない。
「却下します、見取り図は頭にたたき込んでありますからコアの場所さえ分かれば
ルートは頭の中で作れます」
「それに宮藤さんには守備の要になってもらわなければなりませんから
連れて行くことは出来ません」
今言ったことは事実だ、しかし理由はまだある。
まず、宮藤さんと美緒の関係だ、この二人は強い師弟関係で結ばれている。
宮藤さんがまさしく目の前にいれば、宮藤さんを助けるために無茶な行動はしても、
自分の気持ちに整理をつけるためだけの無責任な無茶はしないだろう。
それに、美緒自身の気持ちにケリをつけさせるには、
ハイヴのコアを破壊させるのが一番だ。
更にトゥルーデ、美緒がこの戦闘行動中にもし飛べなくなったとき、
人一人を背負いながらシールドを張り、また回避することが出来るのは501には
トゥルーデしかいない。
そしてリーネさん、彼女は宮藤さんとロッテを組むことで、
彼女自身も意図せず、自分の持っている能力を最大限に引き出している。
自分の考察で気付いた、この編成は美緒を守る為の万全を期している、
且つ最大限早く大和を沈ませることで、またも美緒の安全を図っている。
しかし、これ以上ない編成のはずだ。
自信を持って突入できる。
「行ってくるわね美緒」
「頼んだぞミーナ」
「少佐、ご無事で…」
「ペリ-ヌ泣くのはロマーニャを解放してからだ」
「少佐のこと頼んだよ、トゥルーデ」
「任せろフラウ、おいリベリアン!」
「なんだよ堅物」
「早く帰ってこい、貴様には今日食べられたポテトの恨みがあるからな」
「早さは私のアイデンティティーだからな、明日も音速でお前のポテトを食べてやる」
「その発言忘れるなよ」
「なにやってんダ?アイツラ」
「そうですよね、音速でジャガイモは食べられないのに……」
「イヤ、そうじゃないダロ……」
「リーーネーー!!!」
「ひゃっ!ルッキーニちゃん、なんでこういうことするの!?」
「そこにおっぱいがあるから♪」
「サーニャちゃんルッキーニちゃんを止めてー!」
「(ちょっとうらやましいな……、エイラ相手にだったら出来そうだけど……)」
「サーニャ聞いてないみたいだよ」
「そんな~」
作戦は簡単だ、シュトゥルムで突破口を形成、フリーガーハマーで突破口を拡大、
シャーリーとルッキーニの複合魔法で機関室までの道を造り、
エイラの未来予知を使い、被害を最小限に抑えながら機関室へ、そしてとどめにトネールだ。
それで全て終わる。
はずだった………………。
ミーナの立てた機関室へ至るための作戦、これは見事に当たった。
「まずは私だね、シュトゥルム!」
ハルトマンが13mm連装機銃と25mm3連装機銃を悠々とかわしながら、一撃離脱していく。
「行くわエイラ」
「サーニャ、気をつけてナ」
次に501で最大の火力を持つフリーガーハマーをサーニャがたたき込んだ。
「シャーリーさん!ルッキーニさん!」
「分かってるさ中佐!いくぞルッキーニ!」
シャーリーが加速魔法を使いルッキーニを大和へ放り投げた。
「まっかせなさーい!」
そしてルッキーニは自らの固有魔法を最大限使い、大和の機関室までの装甲を
ぶち破っていく。
突入するのはここだ。
「突入部隊はついてきなさい!」
機関室までたどり着けば私たちの勝ちだ。
「エイラさん攻撃の気配があったら教えてください」
「分かっタ」
エイラには一つ気がかりなことがあった。
エイラは毎朝、運勢を占うために、タロットをやっている。
今日引いたカードは「運命の輪」であり、幸か不幸かエイラの占いはよく当たるのだ。
もちろんそれは、今回も。
抵抗らしい抵抗もなく、七人全員が機関室にたどり着いた。
しかし、あるべきものがなかった。
ネウロイコアの代わりとも言える、魔導ダイナモがないのだ。
ミーナはそこで一つの誤算に気付いた。
コアの移動である。
赤城がネウロイ化したときにはコアの移動がなかった。
確かにそうだ、しかしだからどうだというのだ。
現にネウロイ化した大和はまだそこにある。
なんという失態、心のどこかに油断があったとでも言うのか。
引かなければならない、だが、引けばロマーニャの解放は遠のき、
大和はより強大なネウロイとなる、それどころか新たなネウロイのハイヴとして機能
することになるだろう。
今の私たちに、この逆境を覆すだけのカード………、
つまり、タロットにおける正位置の戦車のカードは存在しないのだ。
最終更新:2013年01月31日 15:01