第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」
通称、ストームウィッチーズ
アフリカの星と言われるスーパーエース、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ、
そして扶桑海の電光と呼ばれた扶桑海事変のトップエース加東圭子を抱えている。
そう、扶桑海事変のトップエースは加東圭子、それが通説だ。
しかしこれは間違いである。
驚くべきことに、たった一ヶ月の実働期間で58機を撃墜した
伝説のウィッチが存在するのだ。
そしてその伝説のウィッチは、今まさに、空母天城の南から、
アドリア海へと侵入しようとしていた。
『杉田艦長!』
無線を使用するのは誰だ?
この声は間違いなく男の声、であれば戦闘機パイロットか、
もしくは私と同じく撤退しようとしている連合軍艦隊の誰かである。
先ほどヴィルケ中佐から、大和の破壊に失敗したという無線が入った。
もしや、それを聞き、玉砕覚悟で大和に特攻をかけようとするものでもいるのだろうか?
しかし、この声は無線からは初めて聞く声だ。
「すまないが所属を明らかにしてくれ、君の声を聞いた覚えがない」
すると無線相手は意外そうに唸ったあと、こう言った。
『杉田さんよ、そりゃあ無いんじゃないか?』
しゃべり方が変わった。
それによって一人の候補が浮かび上がる。
扶桑海事変における影のエースだ。
しかし、そんなことがあるのか、今、彼がアドリア海にいるはずはない………。
不審がっていると、相手からまた通信があった。
『アフリカの近くまで送ってくれた礼をしようと、それこそストームウィッチーズの根城
からすっ飛んできてやったというのに』
言葉にならない、もしもホントにアフリカから飛んできたのなら大馬鹿者である。
そして、なんと心強い援軍か。
「辞令など出ていないだろうに…!」
『そんなものは糞くらえだ』
「では、君は何に従うのかね、扶桑海の荒鷲よ」
彼はためらうことなく答えた。
『無論!力を待たぬもの達の願いにのみ従う!』
変わっていない、相変わらずぶれがない。
ならば、私が言うべき言葉はただの一つ。
「頼む、彼女たちを助けてくれ…」
荒鷲は、力強く答え、天城の上空を駆け抜けていった。
ミーナは大和の中で決断を迫られていた。
引くか、それとも無茶を承知で、再度の攻撃を敢行するか。
いや、答えなど決まっている。
「皆さん、ここまでよ……、撤退の準備をしなさい」
ミーナはロマーニャを切り捨てた。
そうではないかもしれない、だが、ルッキーニからしてみれば
撤退するとはそういうことだ。
「とにかくいったん外に出ましょう、このままでは閉じこめられます」
そこに小さな声が響いた。
「うそ………」
それはとても小さな声だった。
しかし、
「あ……ああ……う…あ……っ」
今のルッキーニにとって精一杯の声だった。
誰もなにも答えない。
その静寂が、ルッキーニの中の何かを決壊させた……。
ルッキーニの瞳から涙はあふれてこなかった。
その代わり、何一つとして映し出されてもいなかった。
黙って見ていることは出来なかったのだろう、シャーリーが手を伸ばしかけたそのとき。
『随分と諦めが良いんだな』
無線から、張りのあるテノールが響いた。
その魅惑的な声の主は、早々にミーナ達に辛らつな言葉を浴びせる。
『闘う気が無いのなら、そこからとっとと退け』
その声には、どこか強制されるものがあった。
戦場において、この声に逆らってはならない。
全員の本能が、そう告げていた。
だが、はいそうですかと信じることが出来るはずはない。
「あなたは誰!?所属と名前、階級を明らかにしなさい!」
ミーナの発したとっさの質問に、彼はこう答えた。
『所属か…、今ちょっと分からないな、階級は飛び出してくるまでは中尉だったが
今はどうだろうな、名前だけは教えておこう』
そういうと彼はもったいぶるように間をおいてから、その名前を口にした。
『名前は俺って言うんだ、響きで分かると思うが扶桑人だ。
そしてこれが最後の警告だぜ?』
『死にたくなければ、一分以内に大和から出ろ』
そして思い出したように彼は言った。
『もう一つ言っておく、すぐにロマーニャを解放してやる』
ルッキーニの瞳に若干ながら光が戻っただろうか。
いや、それは違う、映ったのは1%の希望と、99%の絶望だ。
ルッキーニから返事がなかったのが不満だったのだろう。
彼は静かに続けた。
『フランチェスカ・ルッキーニ、ロマーニャにとってお前がどんな存在か…
考えたことがあるか?』
そんなこと思いもよらなかったのか、ルッキーニが答える気配はない。
そんなルッキーニに彼は激高した。
『ならば教えてやる、ロマーニャにとってお前という存在は、希望そのものだ!
そのお前が、絶望してどうすんだ!?ここはロマーニャだろうが!
何を勝手に希望を捨ててやがる!!今ここで、ロマーニャを取り戻せるのは
ロマーニャ人であるお前だけだろうが!!』
ルッキーニの目にやっと生気が戻った。
「私だけ……?」
『そうだ、分かったら前を見ろ、胸を張れ、お前は必死になってここまできたんだろうが
俯く必要がどこにある?』
ルッキーニは言われたとおり、前を見た、そこにはこちらを心配そうに見つめる
仲間達がいた。
そして胸を張った。
この大切な仲間達を心配させるわけにはいかない。
しかし、そこに不安が去来する。
「ホントにロマーニャを解放できるの?」
思ったことはそのまま口を突いてでた。
それに対し、無線から聞こえてきた返事は、
『安心しろ、これでも伊達男を気取っていてな、女の子との約束を破ったことはないんだ。
分かったら早く外に出ろ、アフリカのロマーニャ人連中があんたのことを
べた褒めしてたし、是非とも顔を拝みたいんだ』
ロマーニャ風の、小気味良いものだった。
無線を聞いていた美緒は絶句した。
間違いない、あの問題児の声だ。
もっとも私より(十日ほどではあるが)年齢は上なのだ。
問題児と言うのは少々語弊がある。
そして、なるほど。
確かに奴の固有魔法を使えば、この大和を倒せるかもしれない。
しかし、あいつのことだ、おそらく所属していたアフリカから飛んできたのだろう。
だとすれば……、
「おい、俺中尉!」
気がつけば、美緒は俺に対して無線回線を開いていた。
『その声は坂本さんか、久しいね、何年ぶりだろう』
本当に、何年ぶりだろう。
彼が、つい最近、アフリカのストームウィッチーズに配属されたことを風の噂では聞いた。
だが今は、そんな思い出話に花を咲かせているときではない。
「そんなことはどうでも良い、お前のことだアフリカから直接飛んできたんだろう。
魔力なんて残ってないんじゃないか?」
その通り美緒のこの予想は見事当たっていた。
しかし、彼はそれを気にした様子はない。
それどころか、
『坂本さんよ、俺が見えるか?大和の直上にいるんだが』
なんてことだ、彼は直上と言ったが、
ほとんど大和に降り立っていると言っても過言ではない。
そうこうしているうちに、ミーナ達が大和から飛び出してきた。
『やっと出てきたな、坂本さんコアの位置を教えてくれ』
「待て、お前魔法力は……」
『今のアンタよりかは幾分マシだ、良いから早く教えろ』
有無を言わせない辺り、何一つ変わっていないのだろう。
コイツがこうなれば何を言ったところで無駄だ。
「……第一艦橋の真下だ、必ず破壊しろ」
彼は、応、と一言。
それ以上は、必要ない。
さて、あれだけの大口を叩いたんだ、やらなければならない。
甲板の真下にコアがあれば真上から最短距離でぶち抜けばいい。
しかし艦橋の真下にコアがあると言うことは、それは出来ない。
俺の射撃は必中だ、問題は威力だ。
大和の装甲を貫き、コアを破壊するだけの威力を、
この7.7mmの八九式機関銃という骨董品で出せるかどうか。
しかも、今の俺がそれだけの威力を出すには、
たった一発に残っている魔力を全て込めるしかない。
だがストライカーを飛ばすだけの魔力は残さなければ、ほぼ確実に死ぬ。
そんなことは分かってる、それでも俺は、
7.7mmの小さな弾丸にありったけの魔力を注ぎ込んだ。
今に全力を尽くせないものに、未来は語れないのだから。
俺は、ゆっくりと引き金を引いた。
放たれた魔弾は、装甲を食い破りながら圧倒的な速度でコアに辿り着いた。
だが、その魔弾はコアに罅こそ入れたものの、粉砕するには至らなかった。
それでも俺は慌てない。
なぜなら、俺の後ろにはもう、ロマーニャの希望が来ている。
コアまでの道はまるでクレーターのように開かれている。
更に罅が入った以上コアの移動は出来ない。
「ぶちかませ、ルッキーニ!!」
俺のシャウトに応えるように、ルッキーニはブレダの残弾を全てはき出した。
そしてその内の何発かが、コアへ命中。
見事に破壊。
まあ、ここまでは良いのだが。
見れば、ルッキーニ少尉は前のめりに倒れている。
おそらく、魔力を使い果たしたのだろう。
そして俺も、飛ぶだけの魔力が残っていない。
更にもう一つ、今まで大和が空を飛んでいたのはネウロイの力である。
コアを破壊すればどうなるか、火を見るより明らかだ。
落ちる、そう思ったとき、抜群のプロポーションを誇る美人がルッキーニを抱えていく。
俺は俺で、誰かに抱えられている。
そして俺を抱えている誰かは口を開くなり、なにやら文句を言い放った。
扶桑のウィッチはこういう人ばかりだとか何とかいってるが、一体これは誰だろう?
魔力の欠乏で、いまいち思考が纏まらない。
……まあ、誰でも良いか。
今、俺に必要なのは休息なのだから……。
最終更新:2013年01月31日 15:01