第伍話 『姫ならきっとそう望むから』~その手に掴むもの~
~1950年 とある前線基地 宮藤少佐自室~
エイラさんとサーニャちゃんから届いた手紙を読んで、私はもう1度思い出す
人は本当に大切な人のためならば、己の限界など軽く飛び越えていく事ができる事を知ったあの日を
あの日、エイラさんが必死に手を伸ばした結果掴んだ物はサーニャちゃんの笑顔だった
私と俺さんはそのお手伝いをしただけ・・・
そう言えば、あの作戦の時エイラさんに『お前達は本当に似た者同士ダヨ』って言われたっけ?
あれってどういう意味だったんだろうか?
私と俺さんって全然似て無いと思うけど・・・
~1945年 501基地 ブリーフィングルーム~
こ、こんにちは!!宮藤芳佳です!!!
大変な事になりました、今日現れたネウロイは全長が3万メートル超え・・・えーと富士山の・・・って数えてる場合じゃありません!!
巨大なネウロイのコアはその天辺にあるらしく、ロケットブースターを使用しての攻撃作戦が決定されました。ロケットブースターは強力な反面、魔法力の消耗が激しいらしく短時間の使用しかできないそうです
そこで瞬間的かつ、広範囲な攻撃力を備えているサーニャちゃんがネウロイのコアへの攻撃役を、そのサーニャちゃんを守るための盾役として、最も強力なシールドを張れる私が作戦の実行役に選ばれ、私達2人を、残りの全員が高度3万メートルまで押し上げてくれるそうです
そんな作戦に不満そうな2人が・・・エイラさんが私に、俺さんがサーニャさんに何か言いたげに詰め寄ります・・・
エイラ「ぐぬぬぬぬぬぬぬ・・・・」
俺「ぐむむむむむむむ・・・・」
ち、近いです・・・エイラさん・・・
あと、俺さんもサーニャさんにそんなに近寄らないでください!!!私とは魔力供給の時以外でそんなに顔近付いた事無いですよ!!!
~翌日~
俺「姫、あれ何やってるんですかね?」
俺さんの指さす方を見れば、基地の上空でリーネちゃんがペリーヌさんに銃弾をしこたま撃ちこんでいる姿が目につきました
芳佳「えっ――――!!」
俺「よく見ればリネットがエイラに対して撃った弾をエイラがかわしてるみたいに見えますね・・・エイラのシールド練習でペリーヌがサーニャ役・・・って所ですかね?」
芳佳「そうなんだ・・・よかった・・・」
リーネちゃんがおかしくなっちゃったかと思いました
あ、ちなみに俺さんは私の説得もあって私が突撃班になる事に納得してくれました、一晩かかりましたが・・・
俺「やっぱりペリーヌがサーニャ役は無理があるんですかね?やる気的な意味で」
今、酷く失礼な言葉を聞いた気がしましたが、無視します
俺「ひ、姫?あの~別に俺が手伝いたいとか、そんなのじゃないんですけど、俺実は忍術で他人にそっくりに変身できるんですよ」
俺さんが、少し目線を外して喋りだしました、えへへ、素直に『手伝いたい』って言えばいいのに
俺「きっとペリーヌよりかはエイラもやる気が・・・あ、いや別に手伝いたいとかじゃなくて・・・」
芳佳「俺さん、宮藤芳佳が命じます、エイラさんの特訓手伝ってきて」
うふふ、俺さんがんばってね♪
~基地 上空~
エイラ「やっぱお前じゃやる気でないナ・・・」
ペリーヌ「どういう意味ですの!!??」
ツンツン眼鏡が私に協力してくれてるのは感謝するけどさー・・・やっぱりサーニャとこいつじゃ全然違うよなー
サーニャ(?)「・・・エイラ?」
ペリーヌ「サーニャさん!?なぜここに?・・・まさか練習に協力・・・」
エイラ「お前・・・サーニャじゃないナ!?誰ダ??」
サーニャ(俺)「な、なんで速効バレてんだよ!!完璧に化けたはずだぞ!!」
エイラ「ふふふ、匂いが違ウ!!」
甘いんだよ!確かにサーニャに“近い匂い”ではあるがあくまでそれは“近い”だけ!!完璧に一致しなければ私を騙す事は不可能だ!!
サーニャ(俺)「クッ・・・無念・・・」
という訳で、サーニャに化けた俺でも私の練習の役には立たなかった・・・
やっぱり、私じゃ守れないのかな?私のこの手は・・・何を守れるのかな・・・?
~その日の夜 海岸~
サーニャに怒られてしまった「なんで諦めるの?」って「諦めるからできない」って・・・サーニャには解からないんだ、私の気持ちが・・・守りたいのに、守れない・・・
沈んだ気持ちになった時に、人が海を見つめたくなるのはなんでなんだろうか?現に私も今こうしてなんの問題の解決にもならないのに一人で海を眺めている・・・いや、どうやら一人ではなかったみたいだ
エイラ「・・・おい、お前やっぱ気配隠すの下手だヨ」
俺「バーカ、今のはわざとだよ」
嘘付け、背後の物影からフソーニンジャが負け惜しみと共に現れる
エイラ「お前はいいのかよ、大事なお姫様が危険な任務に出向くノニ」
俺「姫が“自分でやる”と望んだからな、お前達には理解できないかもしれないが、忍ってのはあくまでも主君の道具だ・・・姫の事は守る・・・が、その意思は何よりも尊重するのさ」
エイラ「じゃあ私と一緒ダナ、サーニャもきっと私に守って欲しいなんて思ってないヨ、私もサーニャの意思を尊重して・・・」
俺「サーニャが前に守って欲しくないって言ったのか?」
エイラ「それは・・・」
エイラ「サーニャは私に『諦めるな』って・・・」
俺「はぁ・・・」
俺が心底呆れた顔でため息をつく、なんかその顔が無性に腹が立った
俺「サーニャはお前に“守って欲しい”って言ってるようなものじゃん」
エイラ「でも私じゃ守れない!シールドも満足に張れない私じゃ!!」
俺「まぁ確かに、“できない”から諦めるのか、諦めるから“できない”のか・・・俺には結論はだせない・・・だけど“やらない”奴の手は何物も掴めないぞ」
俺「お前は・・・“やらない”のか?」
自分の手を見つめてみる、小さい、ちっぽけな手だ・・・
俺「おっと、要件を忘れる所だった。今日はお前に伝えたい事があってきたんだった」
俺「お前には借りがあるからな、1度だけ・・・只1度だけ・・・お前が望んだ時に、俺はお前の為に不可能を可能にしよう」
私の気持ちも考えずに、俺は言葉を続ける
俺「最後に1つ、扶桑の言葉をお前に贈るよ『成せばなる、成さねばならぬ、何事も』個人的にはあまり好きな言葉じゃない、俺は常に物事を成すからな・・・だが、今のお前には・・・ぴったりな言葉だと思うよ」
好き放題偉そうに言いたい事言った挙句、未だ悩む私を置き去りにして、優しくない忍者は去って行った
エイラ「・・・」
こんなちっぽけな手でも、掴める物があるのかな?
~海岸から基地への道~
らしくない事をした、いつから俺は他人に説教できるほど立派な人間になったのだろうか?
本当は要件だけ伝えて帰るつもりだったのに、諦めようとしてるエイラを見て無性に腹が立ってしまった
なぜだろうか?俺の任務は姫を守ること、エイラに借りがあるとはいえ俺は道具、望まれた時にだけ力を貸すのが本来のあるべき姿だろう
エイラとサーニャの事なんて気にかける必要も無いのに・・・
俺「・・・はぁ」
全く、忍者失格だな、俺は今『私がやります』と言った姫の言葉よりも、エイラに笑顔になって欲しいと思っている
どうする?主君の意思は何よりも尊重しなけばならない物だ・・・
俺「・・・」
脳裏によぎったのは、己の主君、誰かのためなら自分が傷つく事すらいとわない少女
真剣な顔でみんなが笑顔になって欲しいと迷わず言える事のできる少女
俺が、憧れ、こういう人間になりたいと思う少女
俺「そうですよね、悩む必要なんて無いですよね・・・姫なら・・・きっとこう望みますよね」
~翌日 作戦開始~
なんの決断もくだせないまま、作戦は始まってしまった、私の揺れる気持ちはそのままに5人からなる第一打ち上げ班による上昇はもうじき高度1万メートルに迫ろうとしている
ふと、上をみればサーニャと目が合った
サーニャ「・・・」
何か言いたげな瞳、その視線に耐えられなくなって視線を外す
坂本「高度1万メートルに到達!これより第一打ち上げ班は離脱!第2打ち上げ班のロケットブースターによる上昇に移る!!」
少佐の言葉に全員が作戦通りの動きで応じる
ロケットブースターの加速はもの凄くて、グングン上昇していく・・・もうじき・・・高度2万メートル・・・サーニャと、宮藤を見送る地点
俺「おい、どうするんだ?“やる”のか?“やらない”のか?」
エイラ「!?」
高度2万メートルに到達、私達第2打ち上げ班は離脱、サーニャ・宮藤の突撃班はロケットブースターで上昇を始める
エイラ「私は・・・私は・・・」
この期に及んでまだどうしたらいいのかわからない
俺「チッ!しょうがねぇな!!」
俺が手で印を結ぶ、これは確かニンジュツの合図だったはずだ
サーニャ(?)「・・・エイラ」
私の目前に突然サーニャが現れ、そっと私の手を握る・・・なんだ、私の手でも、ちゃんと掴めるじゃないか・・・感じる、サーニャの掌から、暖かさを・・・儚さを・・・愛おしさを・・・それが、私の・・・
俺「これが今お前の望んでいる物だ!!」
突然の俺の声で我に返った、私の目の前にいたはずのサーニャが消えさってしまう、本物は当然私の上で上昇を続けていた
俺「今のは!俺がお前の今一番望んでいる物を見せた幻術だ!!何が見えた!?何を望んだ!?さぁ!!答えろ!!!」
私は・・・私は・・・そうだ“やるんだ”!!そうだ!!私がサーニャを“守りたい”から!!!!この手に掴むんだ!掴みとってみせるんだ!!今度は本物の!サーニャの笑顔を!!
エイラ「私が!!私がサーニャを!!守るんだァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
ロケットブースターにもう一度点火する、飛行の機動もデタラメだ
ペリーヌ「何をなさってますの!!もう届きませんわよ!!
俺「意地でも届かせるさ!俺は天駆忍者、仲間のためなら不可能を可能にしてみせる!!」
再び印を結んだ俺が無数に分身する、そのまま私の下に先程私達が組んだような打ち上げフォーメーションを一人で組んでしまった、そのまま私達は急上昇を開始する
俺「エイラ!お前は魔力を残しとけ!サーニャを守るんだろ!俺が必ずサーニャの元まで届けてやるから!!」
エイラ「俺・・・なんで・・・私のためにそこまでしてくれるんだ?」
俺「言ったはずだ、只一度だけ、お前の為に不可能を可能にすると・・・」
俺「・・・・あと、きっと・・・姫なら・・・きっとこう望んだろうから」
~高度3万メートル付近~
さっきから、サーニャちゃんが少し寂しそうな表情をしています・・・きっとエイラさんに来て欲しかったんだろうな・・・
でも大丈夫、きっと・・・エイラさんはきっと来るよ・・・
私がそう望んだから、エイラさんとサーニャちゃんに笑顔になって欲しいって、そう望んだから、きっとあのお節介な優しい私の忍者が運んでくるよ
ほら、ロケットブースターの音が聞こえてきた
エイラ「サーニャ―――――ッ!!!」
サーニャ「エイラ!?」
俺「くっそ!!もうちょいなのに!!魔力が・・・」
後少しで届きそうな距離で、次々に俺さんの分身が消えていきます、きっと魔力が限界なんでしょう
俺「姫―――――ッ!!!お手をッ!!!!」
手を伸ばす、私の手はエイラさんの手を掴み、俺さんに変わってエイラさんは押し上げる、俺さんは魔力が切れたようで下降を開始しました
芳佳「エイラさん、行きましょう」
エイラ「宮藤!?お前までなんで!?」
芳佳「ふふっ、なんででしょうね?多分・・・私はエイラさんとサーニャさんに笑っていて欲しいんだと思います・・・」
芳佳「あと・・・きっと・・・俺さんならこう望んだだろうから・・・」
エイラ「お前ら・・・呆れるほど似た者同士だヨ・・・」
――――――――――――――
エイラさんを、限界まで送って、私は下降を開始する
寄り添っている二人の姿は私にはとても眩しく映りました、多分今のエイラさんならどんな困難からもサーニャさんを守りきるでしょう
人が誰かのために限界を飛び越える事、それはとても難しい事ですよね・・・それでもエイラさんはそれを成し遂げてしまいました
すべて終わらせて帰ってくる時、きっとエイラさんの手には笑顔のサーニャさんの手が握られているのでしょう
あ!やっと俺さんに追いついた!
芳佳「俺さん、おつかれさま」
私は、自分の守りたい物をちゃんと守れて少し嬉しそうな忍者の手を掴みました
え?この後のエイラさんとサーニャちゃんですか?・・・えへへ、それはまた別のお話ですよ
~1950年 とある前線基地~
うん、やっぱり似てないと思う、私はあんなに不器用じゃないし、あんなに厳しい言葉も言わないし・・・
あんなにお節介じゃないし、そもそもあんなに鈍感じゃないし!・・・
はぁ・・・ダメだ・・・最近私、俺さんの事考えてばっかだな・・・
芳佳「気晴らしにお風呂でも行こうかな」
《次回予告》
~1950年 とある前線基地 大浴場 脱衣場~
私が配属された基地には必ず大浴場を作ってもらっている、少佐にもなれば発言権はかなりあるのだ、今の私は偉いんです エッヘン
服を脱ぎ、第2次性徴を終えて少しは女性らしい凹凸のでた体を鏡越しに見つめる
そう、もう私は『少女』ではなく『女性』なのだ
もちろん四六時中なにかと私を見守っているあの過保護な忍者もさすがに入浴中はどこかに行くようになった
あれ?いつからだっけ?というかそれって私の事多少なりとも『女』だと意識している証拠じゃないの!?
えーと・・・えーと・・・
あ!あの日!ロマーニャ基地にお風呂ができた日!!!
次回『俺さん!私を見てください!!』~女の意地と男の純情~
最終更新:2013年01月31日 15:07