第八話『もう、俺では姫をお守りできません』~その力、誰がために~


~1950年 とある前線基地 上空~

芳佳「反応が遅い!!そんな動きじゃすぐに撃墜だよ!!」

部下に激を入れながら、私は愛機である震電で飛ぶ

今私は「訓練をつけてほしい!」と部下の頼みを受け、それに付き合っているのだ

あのひよっ子だった私も今では少佐、昔の坂本さんと同じ階級

昔の私を知る人からはきっと想像もつかない姿だろう

時の流れとは恐ろしい物なのである

しかし、そんな時の流れの中で変わらない物も多分にある

私はそれを知っているし、両手で数え切れないほど持っている


それは


恋心とか


大切な思い出とか・・・


芳佳「思い出すのは501での出来事ばっかりだなぁ・・・」

幾多の夜を超え数多の戦場を駆けた私達の思い出は、あの輝かしい日々に集約されているのかな?


その中でも、今回のお話は私達に訪れた試練の思い出





~1945年 第501統合戦闘航空団基地 ハンガー~

芳佳「俺さん!い、いきます!!」

ロマーニャに迫るネウロイを迎撃するため、私達第501統合戦闘航空団に出撃命令がくだされました

私が前線に出る以上、私を守るために父と契約している俺さんも問答無用で出撃しようとします

実際、彼のトリッキーな動きや多彩な忍術は501の他のエースでも真似できない唯一無二の物なので戦力として数えられています・・・


多分・・・ひよっ子の私以上に・・・


芳佳「目・・・つむって・・・」

しかし!!そんな彼はウィッチではないため!飛行するだけの魔力は持っていません、そこで!私の出番なんです!!

私は他の人より魔力の量が多いので、他人から魔力を供給される事によって力を得る俺さんとはとっても相性がいいんですよ!!

で・・・その供給方法はと言うと・・・

俺「はっ!!」

目をつむり、直立する彼の顔を両手で支え

私よりかなり背の高い彼に合わせるように、背伸びをする

そして・・・ゆっくりと、唇を重ねる

そう、魔力供給の方法は粘膜接触


彼に対し、恋心を抱いている私にとっては苦でもなんでもありませんが・・・


少し、複雑です・・・


唇を重ねるという行為が持つ意味を、彼はどのように感じているのだろうか?







ふと、違和感を覚える

なんだろうこれ?勢いが止まらない!!

彼に流れ込む魔力を止められない!!



俺「っく!!ああっ!!」

俺さんの体が私から離れ、倒れ込む

その体からは魔力が溢れんばかりに青白く輝き

彼はその溢れる魔力を制御できずに床をのたうちまわり、苦しんでいる

芳佳「俺さん!!!!」

なにこれ・・・どうしたらいいの!?

そうだ!治癒魔法!!・・・でもこれは怪我じゃない!!

坂本「何事だ!!」

騒ぎを聞きつけたのか、出撃準備をすました坂本さんがこちらに駆けつける

芳佳「それが!俺さんに魔力供給をしたら急に・・・」

坂本「この症状は・・・魔力の過剰供給か!!」

俺さんを一瞥して坂本さんは症例を予測しました

芳佳「でも・・・私はいつも通り・・・」

坂本「解かっている!まずは落ちつけ宮藤!!」

坂本さんは背中に背負った妖刀・烈風丸を抜き俺さんに握らせます

坂本「これで症状は治まるはずだ」

みるみる内に魔力の煌めきは烈風丸に吸収されていき、俺さんの表情も安らいだものに変化していきました


坂本「よし!すぐに医務室へ運ぶぞ!!」

芳佳「そんな・・・どうして・・・」

坂本さんの声も聞こえない程、私は茫然としていたようで・・・

坂本「宮藤!おい!大丈夫か!?」

芳佳「私が・・・俺さんを・・・傷つけた・・・」





~医務室~

俺「・・・っ!!」

目を覚ませば、視界に入るのは染み1つ無い白い天井

芳佳「俺さん!!よかった!!」

耳に入ってきたのは、大切な人の震えた声

いきなり体に抱きついてきたのは、守るべき主君

俺「ひ、姫!!」

芳佳「よかった!本当に!目を覚ましてくれて・・・」

姫の目は涙に濡れている

またか・・・俺は・・・また彼女を泣かせてしまったのか・・・

たしか・・・魔力供給を受けて・・・俺の魔力許容量を大幅に超えて・・・

そして・・・倒れた・・・


無様に


芳佳「私のせいで・・・俺さんを傷つけてしまって・・・」


違う!姫の魔力が日に日に増大しているのは俺にもわかっていた

姫の魔力を受け続けられるように、毎日かかさず鍛錬は重ねてきた

そう・・・全ては・・・俺が弱かったのが原因なんだ


俺「すいません姫、俺では・・・姫をお守りできません」


その言葉を聞いた姫の顔が歪み、再び涙がこぼれおちる


そう今の俺では彼女と共に空を駆ける事すらできないんだ・・・



影は影らしく、地面に張り付いていろと言う事か






~談話室~

俺さんの口から、信じたくない言葉を聞いた後、私は感情のままに泣き続け

そして眠りについてしまったらしい

そして、目を覚ました時

俺さんの姿は私の前から・・・いや、501の基地から消えていた


どうしたらいいのかわからない・・・

俺さんが飛べなくなったのは私のせいだ、私が自分から彼に流れ込む魔力を制御できなかったから・・・

俺さんから、弱音という物を初めて聞いた

その言葉は、私にとってとても衝撃的な物で・・・

私にとって彼は間違いなく、ヒーローだったから

ペリーヌ「まったく!あなたにいつまでも陰気臭い表情をしていてもらっては、私の調子まで狂ってしまいますわ!!」

芳佳「ペリーヌさん・・・」

ペリーヌ「あの方は、あなたのニンジャは一度ダメだった程度で折れてしまうほど弱い殿方なんですの?」

芳佳「・・・」

ペリーヌ「私にはそうは思えませんわ、だって彼はいつだって一生懸命でしたもの」

ペリーヌ「宮藤さんのために」

ペリーヌ「きっと今回だって再び彼方のために立ちあがりますわ」


芳佳「・・・うん!」


そうだ!私は俺さんの主君なんだ!私が信じなくちゃ!

俺さんが帰ってくるまでにもっともっと強くならなくちゃ!

芳佳「ペリーヌさん!よかったら訓練つきあってくれない!?」

ペリーヌ「もちろん!よろしくってよ、リーネさんも呼んで3人でやりましょう」




~501基地 上空~

どうして!!??ストライカーが上手く動かない!!

なんで!?

ペリーヌ「宮藤さん!?いったい・・・」

リーネ「芳佳ちゃん・・・いつも通りの動きならこんなに結果悪くないのに・・・やっぱり」

芳佳「私・・・どうしちゃったんだろう・・・」

さっきだってそうだ、ペリーヌさんの背後を上手くとった所までは良かった、しかしその後ストライカーがバランスを崩して飛行が不安定になってしまった

芳佳「俺さんの分まで、私が頑張らないといけないのに・・・」

ペリーヌ「宮藤さん・・・」

リーネ「芳佳ちゃん・・・」

二人は私にかける言葉が見つからないようで、心配そうな目で私をみつめていました





~医務室~

女医「はい、診察終了」

私の不調をペリーヌさんが坂本さんに知らせてくれたらしく、私は検診のため医務室に向かわされました

坂本「で、結果は?」

女医「健康そのものね」

そうだろう、なんてったって私は産まれてから一度も風邪をひいた事ない優良健康児ですから!!

ゲルト「ならばますます問題だな!」

バルクホルンさん!!いたんですか!?

坂本「ば、バルクホルン!いつの間に・・・」

芳佳「全然気づきませんでした」

坂本さんにも気配を察知させないとは・・・

ゲルト「そんな事は置いておいて、体でもストライカーでもないとすると宮藤の不調の原因はなんなんだ?」

坂本「ストライカーの方も問題は無かったのか・・・」

「お手上げだ」と言わんばかりのバルクホルンさんと対象的に、坂本さんは何かを考え込んでいます

何か心当たりがあるんでしょうか?

ゲルト「とりあえず宮藤は不調の原因が不明な以上、訓練も含め飛行を禁ずる」

芳佳「そんな!困ります!!」

だって!私まで飛べなくなったら・・・俺さんが帰って来た時に・・・

きっと・・・きっと・・・悲しむから・・・

ゲルト「ダメだ、上官命令だ」

芳佳「坂本さん!」

懇願するかのように、思わず坂本さんの名前を呼んでしまった

しかし、坂本さんは黙って首を左右に振るだけでした





~同日 夜~

箒を持って、滑走路に立つ

使い魔の尻尾と耳を発現させ、箒に魔力を込める

しかし

飛ぶ寸前になって箒が弾けとんでしまった

芳佳「お父さん・・・私・・・いろんな物失くしちゃったよ・・・」

自然と目から涙がでてきた

お父さんが私にくれた翼も

お父さんが私のために雇ってくれた強くて優しい人も

私・・・まとめて失くしちゃったみたい

でも、まだ諦めないよ!こんな私でもできる事はきっとまだあるはずなんだ!


『私にできる事』

『その力を多くの人を守るために』


私は、絶対に諦めません!!




~翌日 501基地 ブリーフィングルーム~

大変な事になりました、大がかりなネウロイへの反攻作戦のためにロマーニャへ向かっていた扶桑の戦艦“大和”が事故を起こし爆発・炎上・・・多数の怪我人をだしてしまったそうです・・・

大丈夫かな・・・

ミーナ「そこで、緊急の救助要請が私達の基地にもありました」

芳佳「私が先行して、治癒魔法で治療します!」

ミーナ「でも宮藤さんは今・・・」

芳佳「飛ぶくらいなら大丈夫です!やります!いえ・・・やらしてください!!」

そう、私にできる事を・・・

リーネ「私もついていきます!包帯くらいなら私にも巻けますから」

芳佳「リーネちゃん・・・」

ありがとう

坂本「ふむ、なら二人に行ってもらおう」

ミーナ「美緒!!」

坂本「大丈夫さ、リーネもついてる」

坂本「それに・・・大和には確か震電が・・・」 ボソッ


坂本「後は・・・俺か・・・」

ミーナ「?」




~アドリア海 海上 大和~

大和へとたどたどしい不安定な飛行で、なんとか到着した私達は大和の医務室へと案内されました

乗組員「501の宮藤軍曹とリネット曹長ですね!?こちらです!!」

廊下にも軽傷の乗組員達が溢れかえっている、酷い・・・

医務室へと入った私達を出迎えたのは、形容するなれば阿鼻叫喚の地獄絵図

痛みに苦しむ人達の呻き声、治療の痛みに耐える人達の悲鳴・・・

芳佳「一番怪我の酷い人からこちらへ!!急いでください!!」

私にできる事!この人達を一刻も早く救わなければ!!

俺さん!私は自分のできる事を精一杯ガンバルよ!!

私、信じてるから・・・俺さんが、私の元へと帰ってきてくれるって

使い魔の耳と尻尾を出現させ、私は治療を開始する

そう、私のこの治癒の力はすべての痛みに苦しむ人達のためにあるんだ





~501基地 付近 森林~

坂本「ここにいたのか・・・探したぞ、俺」

この男が守るべき主君を見捨てて逃げ出すような男ではないのは解かっていた

しかし・・・魔力の許容量を上げるために修業をするとは・・・

坂本「滝に打たれて瞑想する事で魔力許容量は上がるものなのか?」

滝から離れ、俺が近づいてくる

俺「いや、肉体の成長に比例して上がるものだ・・・」

俺「それでも、じっとしてなどいられない、少しでも可能性があるのなら・・・俺は!」

強い言葉とは裏腹に、その目には迷いが見える

俺「坂本は知っていたのか?姫の魔力が増大し続けている事を」

坂本「恥ずかしながら、気付いたのはつい昨日だ・・・お前の一件が無ければきっと気付けていなかったな」

坂本「宮藤は今苦しんでいるよ、今のストライカーが宮藤の魔力を受け止められなくて飛べなくなった事にな」


あぁ・・・そんな顔をするな、お前が宮藤の側にいた所で救えたわけではないんだぞ


坂本「宮藤は今、事故で傷ついた大和の乗組員達を救うためにアドリア海海上の大和へと向かっているよ」

坂本「“その力をより多くの人のために”な・・・お前は・・・」


坂本「お前の力は誰の為にあるんだ?」


俺は苦虫を噛み潰したような顔をする

俺「勝手な事ばかりいいやがって」

俺「力が無ければ何も守れないんだ!俺に!俺に力なんて物は無い!!」


坂本「ある!!」


ふっ、「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」と言うのはまさしくこういう物なのだろう

私はこいつのために持ってきた脇差を腰から抜き、俺に放る

俺「なんだ・・・これ・・・烈風丸の・・・脇差か?」

坂本「こいつは烈風丸を作った時に同時に作った脇差でな・・・私は使わないから、お前にやろう」

俺「そうか!烈風丸は魔力を吸う妖刀・・・こいつが同じ妖刀ならば・・・」

合点がはやいではないか

坂本「そう、お前の許容量以上の魔力はこいつに吸わせてしまえばいい」

坂本「もう一度問おう、お前の力は誰の為にあるんだ?」

俺「俺は・・・」

俺「俺の力は・・・」

迷いの無い、いい目だ

俺「俺の力は姫のためにある!彼女を守るために!悲しみから救いだすために!その涙を拭ってやるために!!」

そう、キスでもしてやりたいほどに

俺「な、なんだ!?坂本!顔が近いぞ!!」


そして、唇を重ね・・・魔力を授ける


俺「ぷはっ!お前・・・まさか・・・俺が姫の元へと行けるように・・・」

坂本「お前の成すべき事を成して来い、可愛い後輩のためだ、キスの一回や二回安いものさ」

坂本「それに大和には宮藤の苦しみを解決するストライカーがある・・・お前の手で、あいつに渡してやれ」

俺は、静かに頷き基地へと歩を進める

坂本「宮藤を頼んだぞ」

俺「恩に切る」

そして、俺は私のほうへ振り返り・・・


少し微笑んで


俺「姫の事は守るさ、あんたが俺にくれた力でな!!」






《次回予告》
~1950年 とある基地 上空~

ま、今となってはこれもいい思い出なんだよねぇ~

あの時は正直どうなることやら・・・って感じだったのに

あ、そういえば震電にはあの後はじめて会ったんだよね

芳佳「お父さんが作ってくれて、俺さんが私に渡してくれた翼」

5年経った今でもまだ私の事を守ってくれている

ふふっ

しかしあの時の俺さんの登場の仕方ったら

芳佳「かっこよかったな」

次回 第9話『誓ったはずです、あなたの涙を拭うと』~2人でならできる事~
最終更新:2013年01月31日 15:08