正月短編 『あけましておめでとうございます』~私のために、鐘は鳴る~


~1944年 12月23日 扶桑皇国 横須賀第四中学校~

みなさんお久しぶりです、宮藤芳佳です!

女生徒「芳佳ちゃん、またね~」

今日は2学期の終業式、学び舎とはしばしのお別れですね

芳佳「うん!3学期にね!」

2学期が終わりと言うと、実感するのはやっぱり「1年の終わり」ですね
特に今年は私にとっては激動の1年となりました

ウィッチとして戦場を駆け、お父さんとの約束“その力を多くの人のために”戦った先に
私はかけがえの無い仲間達と共にガリア解放を成し遂げました

今年あった数ある出会いは、私にとってとても大切な物です

私を応援してくれた赤城の方々

上述の通り、かけがえの無い仲間『ストライクウィチーズ』のみんな

そして・・・

俺「姫、お疲れ様でした、お荷物お持ちいたします」

いきなり音も無く現れ私の前に跪いたのは、明らかに堅気の雰囲気を持っていない眼光の鋭い少年

芳佳「いや、これくらい大丈夫だから・・・だから・・・恥ずかしいからもうヤメテ・・・」

そう、この少年こそが私の「大切な出会い」の最後の一人

時代錯誤の扶桑忍者

そして、私のちょっと気になるお相手です





~帰り道~

しんしんと雪が横須賀の街に降る中、私と俺さんは傘を差しながら肩を並べて歩きます

芳佳「今年も寒いね~」

俺「そうですね、寒いのは正直苦手です」

お!以外な発見!なんででしょうね?こういう何気ない会話の中に見える彼の一面に私はいつも興味津々なんです

学生A「ゥオラーッ!!」

学生B「てめぇどこ中だコラ!」

家までの帰り道で私達の行く手を遮るかのように、第四中の生徒と他校の生徒が殴り合いの喧嘩をしています

はぁー・・・またですか・・・

芳佳「俺さん!お願いします」

俺「はっ!!」

私の命令と共に、忠実な影は喧嘩中の2人に飛びかかり

音も無く、手刀の一撃で気絶させます

芳佳「いつもありがとう、俺さん」

お礼を述べて、殴り合いの結果怪我を負っている2人へ治癒魔法をかけて治療を開始する

こうして喧嘩を俺さんに鎮圧してもらい、私が治療をするのは今週に入ってもう実に5回目です

俺「やはりあまり治安が良くありませんね」

芳佳「うん」

というのも理由があり、私の通っている横須賀第四中学校の番長『横須賀の狂犬』が隣の学校『横須賀第三中学校』と抗争状態にあるからなんです・・・

俺「まったく、相変わらずこの国は平和ボケしていますね」

芳佳「本当にいい迷惑だね」

はぁ・・・

今世界はあんなにも大変な事になっているのにね・・・




~12月30日 宮藤診療所~

どうやら、あれから抗争はなお激化したようで、毎日診療所に私と同じくらいの年のツッパリ達が次々と怪我して運ばれてきます

芳佳「はぁ・・・」

やっと全ての治療が終わり、少し休憩

私もお母さんとおばあちゃんのお手伝いで治癒魔法を利用した診察をしているんです

俺「姫、お疲れ様です」

俺さんがお茶を淹れて持ってきてくれる、うん気がきくね

芳佳「うわぁ、ありがと~」

二人で縁側に座って、雪の積もる庭を眺めながらお茶を啜ります、これぞ扶桑って感じだね

芳佳「そう言えば、俺さんは大晦日はどうするの?やっぱり家族と過ごすの?」

俺「いえ、平常通り姫の護衛をさせていただきます・・・それに・・・」

芳佳「それに?」

俺「俺には家族などおりませんので、誰かと年を越すという概念は持ち合わせておりません」

また、新たな彼の一面を知った

こんな時、俺さんは少し寂しそうな顔をするんです

芳佳「じゃあ!今年は私と一緒だから、誰かと年を越すのは初めてだね!!」

俺さんがキョトンとした表情をしています

俺「あ、いやだから俺はあくまで護衛であって・・・」

芳佳「一緒に除夜の鐘聞こうよ、この街の鐘はね山の上のお寺で突くんだけど、すっごい澄んで綺麗な音が鳴るんだよ!お父さんもこの鐘の音が大好きだったんだ!!」

芳佳「私も大好き!毎年楽しみにしてるんだ!だから・・・俺さんにも聞いて欲しい」

俺「は、はぁ・・・」

まだ驚いた顔してる、ふふふ

芳佳「そうだ!年越し蕎麦も食べようね!」

さて!明日が俄然楽しみになってきたよ!!






~12月31日 宮藤診療所~

今日は1944年最後の日、年の暮大晦日です

みんながゆく年に想いを馳せ、来る年に希望を持つ素敵な日に、今日もまた学生服のツッパリ達は次々と治療にやってきます

芳佳「はい!もう大丈夫ですよ!ダメですよ、喧嘩なんかしちゃ!!」

そう言って注意を促すものも、ツッパリ達はバツの悪そうな顔をするばかりでまた怪我してやってくる、もう!

芳佳「次の方どうぞー!」

私の声に反応し、入ってきたのは同級生の男の子でした

同級生「悪いな、宮藤・・・」

芳佳「また怪我して!せっかくの大晦日なんだから、除夜の鐘でも聞きながらノンビリすればいいのに」

同級生「あぁー・・・多分今年は鐘、鳴らねぇぞ」

芳佳「え!なんで!?」

そんな!せっかく俺さんが初めて誰かと一緒にすごす大晦日なのに!

同級生「うちの番長『横須賀の狂犬』が言ってたんだ、今日の日付変更時間・・・大晦日に第3中の奴らと決着つけるって・・・」

芳佳「で・・・場所が・・・」

お寺って事ですね、なんでよりによって

同級生「お互いに100人くらい集めて戦争するんだってよ!俺も呼ばれてる」

芳佳「100人・・・合計で200人か・・・」

そすがにそんな数、私にはどうする事もできない


聞いて欲しかったな・・・除夜の鐘の音・・・






~同時刻 屋根裏~

戦いに向かう準備を始めよう

姫に悲しみを与える者はすべて俺が排除する

それが俺に与えられた任務であり、使命だ

戦いに赴くと姫に伝えれば、きっと止められる

つまり魔力供給は受けられない

200対1の闘い・・・いくら相手が素人とはいえ、楽な戦いではなさそうだ

しかし、俺は天駆忍者・・・姫の為なら不可能を可能にしなければならない

俺「ただ・・・」

そう、これだけが心残りだ

俺「一緒に過ごすという約束、守れません」

姫との約束を破る事になってしまう・・・が

俺と過ごす約束よりも、姫が1年間待っていたという鐘の音

一郎様との思い出の鐘の音

こちらを優先するべきだろうから




~同日 夜 23時頃 山の上にあるお寺~

狂犬「遅い!!舎弟共はなにしてやがんだ!!半分しかきてねぇーじゃねぇか!!」

俺は人呼んで「横須賀の狂犬」横須賀産まれのド演歌育ち

悪そうな奴はだいたい舎弟、悪そうな奴とだいたい同じ

今日は因縁の3中のヤロー共との決着をつける日!

お互い総力をぶつけ決着をつける日だってのに、舎弟共は集まりやがらねぇ

まさかあいつら逃げたんじゃないだろうな!!

雪の降る寺の境内で俺は寒さを我慢して待ってるのによぉ!

舎弟「そ、それがここに集合する途中に何者かの襲撃にあったみたいで!!次々に連絡が取れなくなってんすよ!!まるで俺達がバラバラの所を狙ってるみたいに!!」

狂犬「何者かってのはどいつだ!!3中のクソ共か?いやあいつらにそんな頭はねぇ!!それに・・・静かすぎねぇか!?」

そう、静かすぎるのだ不自然なほどに

大晦日の夜は静かな物だ

しかし、今ここには3中の頭の弱い筋金入りのツッパリ共役100人が向かっているはずなのだ

今すぐにも抗争を始められ程に頭に血が上っている、悪ガキ100人が・・・くるはずなのに

静かなのだ

おかしい!正常ではない!

なにか、危険な物が迫っていると喧嘩で鍛えた野生の勘とでもいうべき直感が告げる

この場所に居座るべきではないと、告げる

「ぐわぁ」

「ぶっ!」

寺の入り口、麓の街から神社につながる階段の付近にいた舎弟が、信じられない高さまで悲鳴をあげながら吹き飛ぶ

狂犬「な!何事だ!!」

あきらかな異常事態に、俺の脳は正常な判断を放棄したようだ

階段を上って現れたのは、俺とさほど年の変わらない眼光の異様に鋭い少年

その少年がおかしいのは、この街に住んでいるのに、この日にこの寺まで一人で現れた事とか・・・

そいつに絡んだ舎弟共が、掌底の一撃で吹き飛ばされ、手刀の一閃で昏倒させられた事とかよりも・・・

その目的・・・

俺「鐘を鳴らすために、まかりとおる」

俺「大切な人のためなんだ」






俺「邪魔するなら容赦はせんぞ!」






狂犬「な、なに言ってやがんだ!こっちは50人いんだぞ!!そんな勝手な事させてたまるかよ!!」

「鐘くらい鳴らさせてやればいい」なんて思うのはきっとパンピー共だ、俺達ツッパリが守ら無ければいけないたった一つの物は“メンツ”

いきなりふらっと現れた小僧がちょっと強ぇーからって「はい、どうぞ」と道を譲ったとあればもう俺達は2度とツッパリとは名乗れねェ!

俺「そうか・・・」

呟いた瞬間、小僧の姿がまるで霧のように消え・・・

「うわぁー」

「ひぇー」

寺の境内四方にあらかじめ設置してあったのであろうか?

爆発と煙幕が凄い勢いでまき上がる

これでは何が起こっているか把握できない

「ぐはっ!」

「ぎゃっ」

再び悲鳴が響く、どれもこれも聞き慣れた舎弟共の声

狂犬「なんだよ・・・こいつ一体なんなんだよ・・・」

悲鳴が次々と響く中、ようやく煙が晴れる

その先に転がっていたのは20名程の気を失っている舎弟達

これを・・・これだけの数をこの煙幕を張っていた、たった数秒でやりやがったのか?

俺「どうやら、残っているのはお前1人みたいだな?」

ちっ!残りの30人は逃げやがったな!

まぁ当然だろう、この小僧だってパニックにさせて集団の利を損なわせる事が目的だったのだろう事は俺にだって解かる

狂犬「くっくっく・・・はっはっはっ!俺の・・・俺達の完敗だ!ここにこねぇ3中のクソヤロー共もどうせお前がやったんだろ!?」

俺の前に佇む小僧は、否定も肯定もしない

狂犬「だがな!やられっぱなしで終わるわけにはいかねぇんだよ!!」

俺は懐からドスをだす、もちろん喧嘩には使いやしねぇが、箔つけるためにな!持ち歩いてんのよ!!

狂犬「てめぇの目的は鐘鳴らす事なんだろう?」

ゆっくり、鐘のある場所へ警戒しながら歩いていく

そして、鐘を突くための木の棒を吊るす縄を手にしたドスで切る

狂犬「これで鐘を突く事はできねぇな!!」

狂犬「もう年越しまで1分もねぇ!!てめぇも目的を果たせねぇんだから!おあいこだよな!!」

俺は勝ち誇っていた、あの小僧は当然悔しそうな顔をしていると信じて疑わなかったさ

しかし

あの小僧は

俺「なんの問題も無い、頭を使えば鳴らす方法はいくらでもある」

そう言って俺の前に立っていた



迷いなど、微塵も感じさせない瞳をして






~同時刻 宮藤診療所~

芳佳「俺さん、どこいっちゃったんだろう?」

いけない、思わず独り言が出てしまった

私は目前に迫った年越しに向け、年越し蕎麦を茹でています

芳佳「散々な年越しになっちゃったなぁ・・・」

こうなるはずじゃなかったのに、本当は俺さんと一緒にこたつ入ってミカン食べたり

一緒にお蕎麦食べたり・・・

一緒に除夜の鐘聞いたり・・・

そういうふうにすごすはずだったのに・・・

芳佳「どこ行っちゃったんだよ・・・」




ばーか






~年越し30秒前 山の上にあるお寺~

俺「忍法、金剛縛り」

そう小僧が耳を疑うような言葉を発した瞬間、俺の身体が一本の棒のように硬直する

狂犬「な、なにしやがった!!動けねぇ!!」


年明け10秒前


そんな俺の言葉を無視して、小僧は俺を肩に担ぐ


5秒前


俺の頭を鐘の方向に向けて、まるで・・・・


4秒前


まるで、俺の頭で鐘を突くかのように・・・


3秒前


狂犬「え!!??頭を使うってそういう意味っすか!!??」


2秒前


またも小僧は俺の言葉を無視しておもいきり振りかぶり・・・


1秒前・・・


俺「姫に・・・届けぇぇ―――――ッ!!!!」







『ゴ――――ン!!!!!!』

『ゴ―――ン・・・』

『ゴ――ン・・』






~1955年1月1日 0時00分 宮藤診療所~

『ゴ――――ン・・・・』

芳佳「え!?鐘・・・鳴ってる・・・」

なんで?だって今年はあそこで横須賀中のツッパリ達が集まってそれどころじゃないはずなのに・・・

芳佳「あ!!」

そこで私は思いだす、私が困った時いつも、いつだって無理してでも助けてくれる人を・・・

私の望みを、どんな無茶だって叶えてくれる人を・・・

今、ここにいない私の待ち人を・・・

芳佳「私が・・・除夜の鐘を・・・楽しみって言ったからだ・・・」




~宮藤診療所 玄関前~

雪がしんしんと降る中、私は傘をさして彼を待つ

私の為に、鐘を鳴らしてくれた、お節介な優しい忍者を

家から真っ直ぐ続く道の先に、見慣れた少年が歩いてくるのを見つける

思わず、彼の方へ駆けだしてしまう、持っていた傘すら放り投げて

芳佳「俺さん、おかえり」

俺「あ・・・はい・・・」

俺さんの吐く息は白く、手にとってしまった彼の指はとても冷たく、震えている

芳佳「こんなになるまで・・・」

芳佳「どこ行ってたの?」

俺「ちょっと、散歩を・・・」

芳佳「こんなに寒いのに?肩にそうやって雪が積もるまで外にいたの?」

俺「っ!?・・・・はい」

なんという強情な男なんでしょう!?

こっちには丸わかりだってのに・・・

芳佳「私はね・・・俺さんと一緒に大晦日すごしたかったんだよ」

俺「すいません」

芳佳「約束破った罰として、明日・・・あ、もう今日か・・・一日私と一緒に遊んでね!」

芳佳「初詣行って、甘酒飲んで、おせちとお雑煮食べて、書き初めして・・・一杯!一杯!!遊ぼうね!!」

俺「はい」

少し、驚いた表情をして家に入っていく俺さんに、後ろから私は声をかける



芳佳「俺さん!!」

俺「はい?」

芳佳「鐘!ありがとう!!とっても嬉しかった!!」

そう、あの鐘は・・・間違い無く私のために鳴った鐘だった

彼が・・・私のために・・・

また驚いた顔をして・・・イタズラがばれた子供のような顔に変わって・・・最後は少し照れくさそうに、彼ははにかむ

それを見て、なんだか私は・・・少しドキっとして・・・

それを誤魔化すように・・・私は・・・



芳佳「あけまして、おめでとう!!」



こう告げて、彼に微笑みかけます

うん、終わってみれば

とっても素敵な年越しになりました


きっとこの日を、私は忘れないでしょう

胸に芽生え始めた感情の名前もまだ知らないまま

私はそう思ったのでした
最終更新:2013年01月31日 15:09