StrikeWitches IF:Chapter 2
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私の名前はオリーブ・クエイル。元リベリオン空軍爆撃部隊のウィッチで
現在は第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』のメンバーです。
突然の異動や、魔導銃の射撃手になったりやらで以前とは格段に目まぐるしい日々です。
不安に満ちてはいましたが、今はそれもだいぶ和らぎました。
しなければいけなかったにしろ、その日に始めて出会った女性に
舌を入れられるのはなかなか強烈な体験でした。
でもそのおかげで、面識の浅い人との付き合いが苦手な私でも
早くから心許せる友達が出来ました。
―――――
―ネウロイ初撃墜の翌日、食堂―
ミーナ「それにしても困ったわね……」
エーリカ「どうしたのミーナ」
ルッキーニ「体重でも増えたの?」
ミーナ「(ピキッ) 違うわ、オリーブさんの部屋よ」
エイラ「んぇ? この基地めちゃくちゃ広いじゃないか。部屋の一つや二つくらい」
ミーナ「ウィッチ隊のフロアは規定で他職員たちと区域を別にされてあるのよ。
だから確保できる部屋数も限られていて、この基地では2人1部屋になったのよ」
シャーリー「それで、オリーブの急な異動でどうしようかと」
オリーブ「私は単身できたので別に昨日寝た医療室でも……」
坂本「兵士を常に病室で寝させるわけにも行かないだろう。それに病人が2人3人と舞い込んだら
寝場所がなくなる」
坂本「そうだ、私の部屋は一人用の広さだが、オリーブ一人が入るには問題ないぞ」
ペリーヌ「!! そっ、そそそそれは!」
宮藤「私の部屋は3人だから、4人はちょっと狭いかもね……」
ミーナ「そうね……オリーブさんが特に要望がなければ、私が決めてしまうけどいいかしら」
エーリカ「はいはーい!」
ゲルト「どうしたハルトマン? 急に大きな声出して」
エーリカ脳内【オリーブが増える⇒『なんだか狭いなぁ』⇒ゴミを片付けよう⇒
よし片付いたぞ⇒めんどくさくない!⇒招致!】
エーリカ「オリーブうちの部屋! うちの部屋にきたらお菓子あげるから!」
ペリーヌ「まったく子供ですわ……」
サーニャ「お菓子……」
オリーブ「じゃあ……せっかく呼んでもらえているのでエーリカさんの部屋に」
ミーナ「オリーブさんがそれでいいなら……あ、でもエーリカの部屋は」
ゲルト「大丈夫だミーナ。ハルトマンには責任をもって今日一日掃除をしてもらう」
エーリカ「ええええっ! 私だけで!?」
ゲルト「当然だろう。私の腕の痺れもだいぶ治ってきたがカップを握るのが精一杯だ。
それにオリーブは昨日の戦闘で見た目以上に精神を損耗しているんだ。
こき使うわけには行かないだろう」
シャーリー「ほぉー、よく見えてますなぁ」
ルッキーニ「やだわ奥さん、お熱いこと」
ゲルト「なっ、何を言っているのだリベリアン」
シャーリー「まぁこれを見てみな」
シャーリーが投げ渡したのはロマーニャのとある地元新聞。
その一面を飾っていたのが
ミーナ「これは……」
エイラ「サーニャ、見ちゃダメだ」
サーニャ「えっ」
宮藤「バルクホルンさんと……」
リーネ「オリーブさんが……」
ペリーヌ「ひひっ卑猥ですわ!」
坂本「見事に真っ最中を撮られたな」
2人「(かぁぁぁ)」
ゲルト「なっなんなんだこれは! 民間人による戦闘状況の無許可撮影は禁止されてるはずだ!」
オリーブ「そうですよ! 私見られたい趣味はないですから!」
ルッキーニ「えっ」
オリーブ「えっ」
ミーナ「……しょうがないとは言え、濫りにこの写真が流通するのは良くないわね
措置のほうは厳重にと伝えておくわ」ニコニコ
オリーブ「(笑ってるのに超怖い!)」
―エーリカ・バルクホルンの部屋―
オリーブ「へぇ……」
ゲルト「くっ……本当はこんな見苦しいところ、見せる前に片付けさせたかったんだが」
オリーブ「いや、あんまり人を笑えないなって思っただけで……。
さすがにここまで行きませんが」
エーリカ「めんどくさいもん」
オリーブ「わかる」
ゲルト「お前ら……」
エーリカ「へぇ、結構掃除の手際は良いね」
オリーブ「これでも掃除は好きなんですよ。綺麗にしたままにする事が出来ないんですけど」
エーリカ「にゃははは! 私よりちょっとマシなだけじゃん!」
オリーブ「ほんとですよもう」
ゲルト「本当にお前らは……」
―なんとか片付け完了―
ゲルト「さて、ベッドも運び込んだしジークフリート線も書き変えたし、大方完了だな」
エーリカ「なんかモノがなさすぎて落ち着かない」
オリーブ「エーリカさんお菓子は」
エーリカ「ないよ」
オリーブ「えっ」
その後、オリーブたちは日の傾いた頃に自主訓練をさせられ
汗だくになったあとみなの風呂に合流するのであった。
エイラ「おっ、リーネまたまた大きくなったナ」
宮藤「おおゥ……!」
サーニャ「芳佳ちゃん……」
リーネ「やーめーてー!」
エーリカ「やっほーやってるねぇ」
エイラ「やっぱり悲しいまでに似合うつるぺたダナ」
エーリカ「なにをぉぉ!! あるよほらよく見てよ!」
宮藤「オウフ」
ゲルト「風呂でも落ち着かないとはな……毎日こんなのだが大丈夫かオリーブ」
オリーブ「賑わしいのはノイエの頃と変わりませんから、むしろこっちのほうが安心します」
宮藤「オリーブさんの……さすがリベリオンの血」
リーネ「(でも私には勝てないね)」
ルッキーニ「ぶしゃー!!」
オリーブ「うわぁっルッキーニさんいきなり湯の中からぅあうわっ!!」
―午後10時 ゲルト・ハルト・オリーブの部屋―
オリーブ「はぁ……触られすぎてまだ赤い」
エーリカ「クカー」
ゲルト「オリーブも早く寝たほうが良いぞ。最近のネウロイは出現規則が不規則だ。
確率上低いと言っても明日現れるかもしれない。そうでなくとも訓練だ」
オリーブ「はい……。その、一つ聞いておきたいんですけど」
ゲルト「なんだ?」
オリーブ「本当に、アレでよかったんでしょうか……」
ゲルト「魔導銃のことか?」
オリーブ「はい」
ゲルト「私は言ったとおりさ。ネウロイを撃滅する有用な手段が使えるなら
それに協力するのも惜しまないと言っただろう。
……これまで何人と人が死んでいくのを見たんだ。この戦争を終わらせられるなら……
ふぅ、寝付けに悪い話を出してしまったな。とにかく気にするな。おやすみ」
オリーブ「おやすみなさい……」
オリーブ『でもなぜか、嫌な予感がする……』
―翌朝、午前9時―
ウゥゥゥゥー
ミーナ「どうしたの!?」
管制職員「レーダー圏外からこちらにまっすぐ急速に接近する飛行体を確認しました!」
ミーナ「それネウロイなの?」
管制職員「いえ確認は取れていませんが、ウィッチの単機飛行と推測しても
これほどの速度を出せる人間は限られています」
ミーナ「どういうことなの……シャーリーはまだ基地内にいるし
戦闘機としてもこの速さは考えにくいわ。とにかくこちらにまっすぐ向かっているようね。
みんな迎撃態勢で出撃!」
―基地上空―
宮藤「バルクホルンさん、腕はもう治りました?」
ゲルト「ああ、おかげですっかり調子が戻った。これで思い切り戦闘も訓練も出来る」
坂本「おかしいな……ネウロイの反応などないぞ」
サーニャ「私も……ふぁぁ、ネウロイは……あっ」
エイラ「どうした? なにか見えるかサーニャ」
サーニャ「ジェット……」
ミーナ「…………、確かに聞こえるわ。この独特の轟音、どこかで……」
?「――――ぃぃッ!!」
宮藤「人の声だ」
ペリーヌ「こっちに来ますわ!」
シャーリー「みんな構えろ!!」
?「大尉―――――ッッ!!!」
ゲルト「あれは……」
全員が銃を下ろし、接近する飛行隊が通過するのを冷静に見切ると
飛んできたモノは目先数十メートル先で止まり、こちらへと振り返った。
ヘルマ「大尉! これはどういうことでありますか!!」
ゲルト「ヘルマじゃないか! その写真は……ぶッッ!」
エイラ「例の写真ダナ」
ヘルマ「あれ……なぜ皆さんそんな完全武装でお出迎えでありますか……?」
坂本「聞きたいのはこっちだ大ばか者」
―作戦室―
ミーナ「それで、どういう経緯でこちらに?」
ヘルマ「はい。私ヘルマ・レンナルツはカールスラント本土南方にて
ジェットストライカーの実地テストを連日行っておりましたが
先日こちらで使用された"魔導銃"の運用と管理の軍務報告を
司令部からふんだくっ……賜ってこちらに参りました」
坂本「(今言いかけたな)」
ペリーヌ「(ふんだくってって……)」
ゲルト「まぁしかし、本土の司令部は魔導銃に興味津々のようだな」
ミーナ「画期的な兵器の運用は、単純に興味を示す人が居るだけじゃなく
その危険性と過度の攻撃力による対国関係の緊張すら生むから、単純に興味だけではなさそうね」
エーリカ「それにしたって何でヘルマなんだろ……」
ヘルマ「なぜとはなんでありますか! ハルトマン中尉!今回もあなたの生活態度
しっかりと見させていただきますからね!」(キミ空参照)
エーリカ「(ニヨニヨ)ふっふーん。上等だよ。今から部屋見に来る?」
ヘルマ「くっ……どこから沸いてくる自信でありますか……」
ヘルマ「それはそうと、魔導銃の射撃手はどこにいるでありますか」
オリーブ「あの……」スー…
ヘルマ「大尉に近い鶉っぽい茶髪と真っ黒のスパッツ……
間違いない、この写真の大尉の相手でありますか!」
オリーブ「それは、そうなんですけど、でもその時は」
ヘルマ「ぐぬぬぬぬ……」
オリーブ「ひぃぃっ!!」
ゲルト「こらヘルマ、あんまりオリーブをいじめるな」
ヘルマ「くぅ……仕方ありません。今回はハルトマン中尉以上に、しっかりしぃぃっかり
チェックさせてもらいますからね! 良いですかオリーブ 軍 曹 。
私の名前はヘルマ・レンナルツ 曹 長 ですから、しっかり覚えるであります」
―基地内回廊―
オリーブ「なんだかもっとややこしい事になったなぁ……」
ゲルト「ヘルマは14歳だが、ジェットストライカーの開発実験に協力したり
戦闘実績もカールスラント空軍の上位に位置する優秀な将来のエースなんだ。
その、邪気にしないでというか、あまり悪く思わないでくれ。あれが性分なんだ」
オリーブ「親しいんですね、バルクホルンさんは」
ゲルト「出身は同じだし、性分も割りと似ているからな。会う機会も時間もあまりないが
あいつが作戦に同行してくれるならさらに安定した戦果を上げられる。
オリーブを不用意に危険な身にさらすことも少なくなる」
オリーブ「……ごめんなさい、あんまり私が暗いから、もしかして励ましてくれてました?
大丈夫ですよ! 私黙ってると怖いって言われたことはありますが
ここ数年キレて怒ったことなんか全然ないですから!」
ゲルト「ははっ、そりゃ本当に怒った時がもっと怖くなったな」
オリーブ「んもー! バルクホルンさんのいじわる!!」
ヘルマ「(中尉、あれは一体なんなんでありますか)」
エーリカ「(しつこいなぁヘルマ。そんなにトゥルーデ取られたのがくやしいの?)」
ヘルマ「(違うデあります!)」
エーリカ「(ヒソヒソ声で言葉裏返るとか慌て過ぎだって)」
ヘルマ「(そういう中尉はあの二人に何も思わないでありますか?)」
エーリカ「(んー……私は特に、仲良いのをどうかと思う趣味はないし
結構私に似てるところもあるからむしろ好感かもね)」
ヘルマ「(中尉に似てる……ますます目を離せなくなってしまったデ在ります!)」
エーリカ「(どーゆー意味よ……ま、聞くまでもないか……)」
この日の日中は訓練に終わり、夜は自由行動。それぞれが静かな時間を過ごし
つかの間の休息を味わっている時だった。
ヘルマ「私は当然カールスラント部屋であります」
ゲルト「すまないが、ちょっと今はこの状態でな……」
ヘルマ「ふむ、確かに中尉のスペースは片付いている。そして3つのベッド……やはり」
オリーブ「あ……どうも」
ヘルマ「オリーブ軍曹! あなたはリベリオン空軍所属じゃなかったで有りますか?」
エーリカ「別に所属軍で振られてるわけじゃないから良いじゃん。
そうなるとミーナもここにいないと変だし、シャーリーとルッキーニ部屋も北国2人部屋も変だよ」
ゲルト「まぁまぁ。別に良いだろう。不自由と思うかもしれないが私のスペースを使えば良い。
しかし問題なのは、この時間からベッドを運びこもうとなると面倒な所だな」
ヘルマ「そっ、それでありましたらその、大尉と……」
ウゥゥゥゥー
ゲルト「んなっ! こんな時になんだ!」
エーリカ「んもーバカネウロイ! 人の睡眠じゃますんな!」
ミーナ(アナウンス)『動ける人はすぐ集まって! サーニャさんが撃墜されたわ!』
シャーリー「くそっ! 哨戒中のサーニャを撃墜するなんてどんなネウロイだ!」
ルッキーニ「とにかく急がないと!!」
ゲルト「そうだな……今はすぐにでもサーニャを救出しなければ」
―上空―
ミーナ「敵ネウロイはここより北へ250キロ。アドリア海上に出現した球体型よ。
先にエイラさん、リーネさん、宮藤さんが出撃して全力でサーニャさんの救出に向かってるわ」
シャーリー「それにしてもおかしな話だ。サーニャは眠気もない正気バンバンで哨戒していたんだろ?
それが撃墜だなんて……」
ミーナ「サーニャさんからネウロイ発見の通信が入って、動きがないから距離を持って
しばらく見守ると通信の後、おそらくビームでストライカーの片方をやられて山中へ落ちたみたいよ」
ゲルト「あまり良い予感ではないが、今までのネウロイのビームは、もしかしたら
威力や殲滅力を高めるために、私達が見切れる精度と速度に落ちていたのかもしれない。
スナイピングするようにビームを放てるとしたら、明確に私達を撃墜するに常套だ」
ミーナ「とすると、下手に近づけないわね。『エイラさん、サーニャさんは見つかりました?』」
エイラ『イヤ……まだ……くそっ! どこだー! サーニャー!!』
坂本『気をつけろお前達! もしかしたらお前達もネウロイに狙撃されるかもしれない。
なるべく低空を飛ぶんだ。先頭はエイラ。もし狙撃ビームを察知したらすぐに回避、
宮藤たちはエイラの動きについて避けろ!』
エーリカ「おっりーぶっ、出番じゃないの?」
ミーナ「そうね。ここで頼りになるのはあなただわ。撃ち抜けなくてもネウロイの観察ができたら
出来るだけ情報をちょうだい」
ヘルマ「(勢いでついてきてしまったであります) 報告のために景気の良い一発をお願いするであります」
オリーブ「わかりました。よっと……見つけました。真ん丸いです……それで、1箇所だけ
六角形の装甲が赤いです。その部分が装甲の周りをキョロキョロ動いて……わっ!!」
ゲルト「どうした!」
エーリカ「たぶん狙撃だよ! みんなシールド!!」
赤い閃光はミーナのシールド左上にぶつかると、激しい衝撃を起こしながら空中に飛散した。
エーリカ「やっぱりスナイピングタイプだよ」
ゲルト「ここのところ厄介なタチのネウロイばかりだな。この狙撃、まるでオリーブの魔導銃を
真似したかのような行動だ」
ミーナ「オリーブさん、今度こそ落ち着いて照準を合わせて。
トゥルーデ、後ろに付いて射撃準備を」
オリーブ「よし……敵は動かない。よく狙って……狙って……」
ミーナ「……! また来るわ!」
オリーブ「行きます」
ゲルト「一旦やめ! シールド展開!」
この慌てた拍子、一瞬バルクホルンがオリーブから身を離した瞬間だった。
青い炎が夜空で鮮やかに炸裂する。流星のようなラインははるか上空へと突き抜けていく。
オリーブ「…………」
エーリカ「おおいオリーブぅ!!」
ゲルト「くそっ! 魔力がパッシブになってなかった! エーリカは銃をたのむ!」
エイラ『ミーナ隊長! サーニャが見つかった! 気絶してるけどミヤフジの処置で
目立った傷はなくなったから一旦大丈夫だけれドモ……』
ミーナ『全隊員へ、サーニャさんとオリーブさんの保護を最優先。基地に全速力で帰還します。
後方には常に注意を怠らないで!』
―空軍基地医療室―
エイラ「サーニャ、サーニャ! 私の声が聞こえるカ!」
サーニャ「エイ……ラ……」
エイラ「うっ……よ、よかった……目が覚めて……」
ゲルト「先生……オリーブの具合は……」
軍医(女)「正直かなり危険だわ……魔導銃のことに付いてはウルスラさんが概要書を
置いていっただけなのでまだあまり理解は出来てませんが
こんなに重度の魔力過飽和は見たことがありません。様子を見守ることしか……」
ゲルト「そんな……――くっ!」
シャーリー「おいちょっと待て」
医療室を飛び出そうとするバルクホルンの襟首を振り向きざまに掴み止めるシャーリー。
ゲルト「放せリベリアン! このっ!」
シャーリー「絶対放さない。お前今から再出撃するつもりだろ」
シャーリー「オリーブを、魔導銃の危険から逃すための役割を果たせなかった
そのやりきれない気持ちは解るけど、お前一人撃ち落されに行ってどうするんだ!!」
ゲルト「…………」
ヘルマ「大尉……」
ゲルト「……放してくれ。心配するな」
トゲが落ちたような声色に、シャーリーは腕から自然と力が抜ける。
目に見えて肩を落としたバルクホルンが独り、ゆっくりと医療室の扉を開け廊下に出た。
ゲルト「……まただ。また、私は……守りたい人を、暗い眠りにつかせてしまった……」
音もなく伝う涙が、一刻一刻と止まらぬ様に落ちていく。
たった一瞬のことだった。少し、あの小さな背中から手が離れた瞬間――
翌朝、ロマーニャ艦隊の潜水艦による斥候作戦が行われた。
アドリア海上に浮かぶ球体ネウロイは、海中の潜水艦には気付けないようであった。
斥候は日が沈みきるまで行われ。艦砲射撃も行われ戦闘データが回収された。
―再び夜、深夜0時 ロマーニャ艦隊潜水艦内―
ミーナ「作戦室でも説明したけれども、もう一度確認のため繰り返すわ。
敵ネウロイは、不動型拠点占拠ネウロイ。攻撃性質は超広範囲照準による狙撃よ。
ただその狙撃も、夜になると精度が鈍るとの報告があるわ。おそらく、サーニャさんが
ストライカーの損傷だけで助かったのもその可能性が高い。なので今回は
真夜中の現時刻より潜水艦から急発進し電撃戦を仕掛けます。
相手の照準は一つで、高速移動物体はなかなか捉えられない事が艦砲射撃による斥候で判った事よ。
――それでも、少しでも余計な距離をとったり、空中で機動を止めたら撃たれると思って良いわ。
みんな準備は良いわね」
ウィッチーズ「はいっ!!」
ミーナ「目標海上に到着……行くわよ!」
―基地、医療室内―
ヘルマ「みんな行ってしまったであります」
オリーブ「……っは」
ヘルマ「目が覚めたでありますか」
オリーブ「ヘル……マさん……?」
ヘルマ「ヘルマ曹長でありますよオリーブ軍曹。……まぁそれはいいです。
体は大丈夫ですか?」
オリーブ「うん……ちょっと目の前がクラクラするけど、他は全然」
ヘルマ「嘘をついてはいけないのでありますオリーブ軍曹」
オリーブ「えっ……」
ヘルマ「私はジェットストライカーの実験パイロットなのですよ?
試作やら開発中やらの実情や、それを被験するパイロットの事にも精通してるで有ります」
オリーブ「そう……なんだ」
ヘルマ「オリーブさん、手が震えるのはもう少しだけの辛抱です。
背中に黄色い斑点が出ても安心してください。これも数日で自然と消えます。
ひざに力が入らないときは、例え廊下でも座って。吐き気を催したら眠たくなくても寝る」
オリーブ「どうしてそこまで、知ってるんですか……?」
ヘルマ「魔力の過飽和は魔学兵器開発において重要なチェックプロセスであります。
そのためにわざと体の魔力を過飽和にする実験もあるんです」
オリーブ「大変、みたいですね」
ヘルマ「お互い様であります。 ? サーニャさん、起きていましたか?」
サーニャ「みんな……戦ってる」
ヘルマ「そうだ……潜水艦がインカム通信を受信しているならこっちの通信機まで戦況を……!」
ヘルマは医療室を飛び出し、作戦室にある通信機器に呼びかける。
ヘルマ『こちらロマーニャ空軍基地駐留のヘルマ曹長であります。インカム通信を受信していましたら
こちらのほうにも記録の転送をお願いするで有ります!』
艦内通信員『了解! こちらの方より転送いたしますが直接返信は打てません。
ウィッチ隊に指示がある場合は一度こちらに連絡を』
ヘルマ『分かってます! 早くインカム通信を!』
――しばらくの雑音の後、よく聞き覚えのある声が聞こえる。
ゲルト『くっそぉおおおおお!!』
エーリカ『なんなのー! こいつも前のネウロイみたいに硬い!』
ルッキーニ『装甲ライフルも利かないよー……』
シャーリー『これだけ目に見えて強度が高いと、ルッキーニをぶん投げるわけにも行かない……』
宮藤『ライフルの弾がなくなっちゃう!!』
エイラ『くっそおおお! よくもサーニャをおぉぉおお!!!』
ヘルマ「やっぱりみんな戦ってる……」
ゲルト『でも……でも勝たなきゃいけないんだ!』
ヘルマ「大尉……!」
ゲルト『オリーブには頼れないんだ! 私の力で……あいつを取り返す!!』
ヘルマ「…………」
―医療室―
ヘルマ「オリーブ軍曹。手の震えと意識はどうでありますか」
オリーブ「意識はだいぶ戻ってきました。でも手の震えは完全に治まったとは……」
ヘルマ「ではちょっと、そのままの体勢でいてください」
オリーブ「へっ……」
ヘルマは小さな体を乗り出して、オリーブの肩に絡まるようにして唇と唇を重ねた。
ヘルマ「んっ……ふぅ……んちゅ」
オリーブ「ふぅ……っん……」
ヘルマ「……これで契約完了です」
オリーブ「も、もしかして」
ヘルマ「私が魔力共有の契約者になったというだけであります。
魔導銃がまだ撃てるなら、今戦っているみんなを助けられるのはあなただけです」
オリーブ「……もちろんじゃないですか。行きましょう!」
サーニャ「あの……私も。方向見当と、照準修正には協力できると思います」
ヘルマ「わかりました。では私はサーニャさんを抱えて飛びます。オリーブさんは
基地上空からネウロイを狙撃できるように準備してください」
――私は、みんなにオリーブが復活したことを知らせないと
―基地より、アドリア海方面へ数キロだけ近づいた上空―
ヘルマ「オリーブ軍曹、敵が見えるでありますか?」
サーニャ「ネウロイは健在です……そしてみんなも」
オリーブ「まだ戦ってる。超至近距離に迫ってネウロイを翻弄してるけど
また装甲の強いタイプのネウロイみたい」
ヘルマ「じゃあみなさんを助けるために、早く撃たないと!」
サーニャ「待ってください。このままネウロイを狙い撃つのは簡単かもしれませんが
もし外したらこちらを狙撃することも考えて……私は今ストライカーつけてないから
シールドが展開できない、ヘルマさんもオリーブさんも、たぶん射撃直後は反応できない」
オリーブ「一撃必殺ってことね……。 ? これはコア検出モード……」
魔道銃のコンソールに手を触れると、スコープの投影像が拡大から目に悪いネオン色のラインに変わる。
オリーブ「うわっ! ちょっと視にくくなったけど……これなら確実にコアを照準に狙える」
ヘルマ「準備は万端でありますよオリーブ軍曹」
オリーブ「みんな……もうすこし、もう少し離れて……今だッ!!」
青い光と機械的ではない轟音が再び夜空に閃光を撃つ。
一直線の先には、白い噴煙を上げて散り行くネウロイが肉眼で望めた。
ヘルマ「やりました! あの爆発なら確実に墜ちてます!」
オリーブ「やった……あれっ、まだ検出モードがON状態……まだコアが残ってる!」
コア検出スコープに投影されたのはただ赤いネオン色に光るネウロイの心臓。
動きは分からないものの、次の瞬間寒気と共に、無意識に照準が合わせられた気がした。
ゲルト「させるかぁぁぁあああッ!!!」
そして、オリーブが瞬きした次にはスコープは真っ暗になっていた。
現場では白い破片となって飛散するネウロイの亡骸が。そして、ようやく極限緊張を解いた
ウィッチたちの安堵の表情があった。
―午前4時、空軍基地―
ミーナ「アレだけの緊張と格闘だったからかしら。みんな戻るなり寝ちゃったわね」
坂本「私も……あまり酷使できない量の魔法力を使い果たした……正直立っているのもツライ」
ミーナ「美緒ったら、ネウロイを撃滅した後、潜水艦に乗って帰る時も一番に寝ていたわね」
坂本「まるで遠足に疲れた子供に言ってるみたいだな。……まったくとんだ遠足だったな」
ミーナ「そうね。これから、今までのようにその日のうちに片付けられるネウロイではなく
もっと強力な敵が現れていくかもしれない。でもそんな日々も長くは続けられないわ」
坂本「また何か作戦案が上層部から来てるのか?」
ミーナ「ええ……でも、本当にやるかはわからないし、あまり詳しい説明もされなかったわ。
今は、出来ることを私達の範囲でやるだけよ」
坂本「そうか。では私も休むとしよう。おやすみミーナ」
ミーナ「ええ、おやすみなさい」
―バルクホルン・ハルトマン・オリーブの部屋のはず―
オリーブ「狭いですヘルマさん……なにも私のベッドに入らなくても」
ヘルマ「大尉のベッドは畏れ多いであります……エーリカさんの所は朝起きたら何されるかわかりません」
オリーブ「そんな……うっ、そこ触っ」
ヘルマ「上官を床に寝させるつも……りで……あります……か……」
オリーブ「あ……寝ちゃった」
ヘルマ「(すー……)」
オリーブ「……私がお礼、言わないといけないのにね……」
ふと目を窓の外に遣れば、もう空にはだんだんと明かりが掛かり始めていた。
―その日の午前10時―
宮藤「朝ごはん出来ました……よー……」
エイラ「やッパリみんな眠てーみたいダナ」
サーニャ「(コクリコクリ)」
エーリカ「もう絶対真夜中の作戦はヤだな……そうだ。
ひとつだけ、わっかんない事があるんだけど」
リーネ「どうしたんですかエーリカさん」
エーリカ「いや、オリーブの魔導銃を撃つのに魔力共有のパートナーが必要なんでしょ?
でもトゥルーデはネウロイが浮いてる場所に居たのになんで撃てたかなぁって」
「!」
オリーブ・ヘルマ「(ギクッ)」
エーリカ「……まー、どうでもいっか」
―――――
魔導銃に関しての情報はようやく軍規格で整理され、正しい情報として世界に知られるようになった。
強力なネウロイを2度も撃墜したおかげで、オリーブの働き元であるノイエカールスラント以外からも
顔を知っている人から知らない人までたくさんの手紙が届いていた。
ただ手紙は、オリーブの活躍を称えるばかりのものではなかった。
最終更新:2013年01月31日 15:30