「蒼穹の絆1-7」




その後の夕食の席で、みなが揃って着席したとき。

バ「加藤少尉 起立!」

香「あ、ハイ!」

 なに?なにが始まるの?とざわめく室内。

バ「テーブルの上座に行ってくれ」と指示。香代子もそれに従う。

 バルクホルンも歩いていき、ミーナの横に立った。

バ「ミーナ中佐、起立してくれるか」

 不審顔でミーナも立ち上がる。

バ「本日の戦闘で、新たなエースが生まれた。加藤香代子少尉。累積撃墜6!おめでとう!」

 パッと香代子の顔が輝いた。
 それね、とミーナも微笑む。テーブルで拍手が生じた。

バ「これは、所属部隊からのお祝いだ。私の中古で済まないが受け取ってくれるか?」

 取り出したのは鉄十字勲章。ミーナがそれを受け取る。香代子は真っ赤になってアワアワ言っている。

ミ「おめでとう。加藤香代子少尉」

 感激した面持ちで頭を下げ、リボンを止めてもらう香代子。
 顔を上げると、一段と激しい拍手で部屋は満たされた。ミーナとバルクホルンの二人と握手を交わし、
 キチッとした敬礼で皆に応える。

「ブラボーーーーーーッ」とルッキーニ。ヤンヤの称賛の言葉がそれに続いた。

 勲章に両手を当てて、嬉しそうにお礼を言う香代子。紅潮した笑顔に温かい目を注ぐ俺。
 その彼を目を留めたミーナの微笑が深まった。

バ「続いて皆に報告。特別義勇航空戦闘第5011部隊が本日設立された。番号から解ると思うが、この501
 統合戦闘航空団に属する部隊だ。この部隊のマークが決まったので、皆に披露する。隊員は、俺少将と
 加藤少尉の二名。共にエースだ。では」

 壁に立てかけられていたベニア板を持ってくる。それに描かれていたのは、髑髏の下に交差した♂マーク。
 髑髏の額?にあるのは、501の箒の印。

 また、みんなから歓声と拍手が起きた。


―食事の後―バルクホルン視点


食事が終わり、皆コーヒー/紅茶を談話室で楽しむ。私は紅茶を選んだ。心身ともに安らぐ夜には
紅茶がいい。警急任務のときだけはコーヒーだが。
ふと、思いついて少将の横に腰掛ける。少将の向う側は(少しの距離を置いているが)ミーナが座っている。

バ「俺さん、ちょっとお聞きしたいんですがよろしいですか?」

俺「はい。構いませんよ、トゥルーデ君。気楽に話してください」

 ミーナがクスリと笑う。解っているんだが・・・なあ?

バ「ええ・・・。了解。スピットに乗っているときのコールサイン、マリアですか。あれは?」

 俺が、ちょっとバツが悪そうにミーナを意識したのがわかる。おや?

俺「昔から、使っていたので。もう21年ですかね。染み付いてしまっていました・・・」

 ある意味、答えになっていない。ぎこちなさは感じるが、拒否ではないだろう・・・。

バ「どのような意味合いでお付けになったんですか?女性的なコールは珍しいでしょう」

ミ「トゥルーデ・・・余り詮索みたいなことは・・・」

バ「・・・すまなかった。今の質問は無かったことにしてください」

 しまった・・・。やってしまった、な。話題を変えよう。すまなかった・・・。

バ「戦闘機動ですが、何手先を考えているんですか?射撃時間も短く、すぐに変針していましたね」

 ミーナが、話題考えなさいよ、という顔をしているけど。いいじゃないか。

俺「ああ。エーと・・・4手、位かな?」

 ほお?ミーナも身を乗り出してきた。

俺「相手が人間、我々人類だったらもっと苦労するでしょう。とっぴな思いつきの行動をしますから」

ミ「ネウロイは?」

俺「戦術は、下の下ですね。それでも、昔に比べると複雑なことをするようになりました。でも、単純です」

バ「そうですか?」

俺「基本は、数と武装のごり押しですよ。最近、ようやく陽動だの、時間差攻撃だのをやりだしていますが」

 ああ、そうなのか。少し軍学校でも習ったな。過去のことなので余り身を入れて覚えなかったけども。

坂「要するに、バカの一つ覚え?」

 坂本少佐も参加してきた。

俺「それに近いですねw。今日の攻撃もそう。私が敵側なら、間にもう一つ小型編隊を組み込みます」

ミ「そして私たちを足止めして、時間差で大型を首都に突入させた?」

俺「敵の目的はそれですからね。ウィッチ隊と殴り合いが目的ではないでしょう」

 ああ!とみなが頷く。

俺「また、用兵もそうです。ウィッチ隊は彼らにとっては邪魔な存在。でも、彼らは一つ有利なことがある
 のに、それを生かそうとしていない」

バ「・・・戦力差 かな?」

俺「ええ。ウィッチ隊は数に限りがあります。甚だ・・・」

ミ「縦深戦力・・・が不足ね」

 ああ、人数が少なすぎる。確かにそうだ・・。一方、奴らは・・・底なしの兵力があるらしい。どこから出して
 くるのやら・・・。

坂「攻撃を小出しにしているから今は何とかなっているな、ふむ」

俺「敵がそれに気付かないことを祈るばかりですよ・・・・。まったく別の発想の攻撃もありえる」

 重い空気が周りを包む。一大攻勢をかけられたら・・・突破される。

ミ「空戦でも?」

 話題の転換は、さすが気配りのミーナだ。

俺「ちょこまかと動き回る、広範囲な攻撃指向。この二点は通常機で戦闘戦闘するのに不利。なので、
 相手に機動を読まれないように。ストライカーユニットの機動力が羨ましい」

バ「通常機のそれと比べると、我々の動きはネウロイに近いですね、ホバーも出来る」

俺「ええ。なので、ムチャクチャに機動して照準を狂わすしかないんです。飛行学校で教わった優等生の
 それの逆です」

バ「射撃はどうなんですか?あの射撃は一体?」

俺「格闘中に相手の癖を知ります。それが解ったら、ここに飛ぶだろうと判断して一連射」

 簡単にいってくれる。

バ「機動中だと、発射時の加重で弾道も大きく影響されますね。それも?」

俺「ええ。プラスGだと下方に。マイナスGだと上へ。それは実験して覚えます」

 なるほど。それで最初の夜に撃ちまくっていたのか。でも、機位をひねりまくっているから判断が大変
 だろう・・・。

俺「数値で表せないのですが、まあ、経験に基づくヤマカンですね」

坂「スピットファイアの7.7ミリでは非力ではありませんか?」

俺「銃の丁数で威力相殺できます。出来たらM2の12.7、リベリオンのアレが欲しいですね」

シ「ああ、あれかぁ。あれを同じくらい搭載して?」

俺「ええ。搭載は・・6挺位が限界かもしれませんが、あの弾道は魅力的です。落差が少ない。弾頭重量も
 7.7の4倍近く。装弾数は多い。使えると思いますよ?」 (※弾頭重量についての資料がなく、通常弾での計算です)

坂「でも、アレは確か爆裂弾頭は使えませんが」

俺「ウィッチ隊と違って、一発が与える打撃は少ないですからね。ならば、敵が修復し終わらないスピード
 で、トトトンと当ててコアの破壊を目指します。99式の爆裂弾は、一発の威力は凄いのですが続けて
 当てるのは我々には難しいんですよ。携行弾数も少ないですし。この銃と弾薬は、ウィッチーズ隊の
 使い方に適するでしょう」

坂「ああ、発射速度も弾速も遅めですね。その割りに弾頭が重いのでションベン弾になるし」

 ミーナが顔を赤くした。そのくらいの表現で軍人が赤くなってどうする。しかし、実に合理的に考えて
 いるな。魔力がない分をどう補うかよく考えている。実に合理的だ。

シ「効果的な練習は?」

俺「最初にクレー射撃を覚えることです。偏差射撃の基本です。あとは、自分でアクロバット飛行中に
 実験して、覚えていくことでしょう、かね?」

シ「でも、クレーって後ろから撃ちかけるのばっかりだろ?それなら皆わかってるよ?」

俺「ああ、それはトラップです。スキート射撃ってのがありましてね、これは半円の弧に置かれた射台から
 左右に飛ぶクレーを位置を変えつつ撃つので・・」

シ「ほー。真横からも撃つわけ?」

俺「そうです。戦闘機の射撃訓練では、真横はやりませんよね」

シ「なるほど!」

ミ「・・・一連射して、すぐに位置を変えるのね?結果を見届けたくなりません?」

俺「それを見届けようとすると落とされますね。外れても、次のチャンスがある、と軽く考えるべきです」

坂「俺さんと同じやり方をしたら、ロンドン防空隊のスピット隊も戦果を上げることができますか?」

俺「うーん・・・。二機編隊で、お互いに気心が知れたチームなら・・・」

 ああ、あの動きに僚機がついていくのは至難の業だ。

俺「一番よいのは、あくまでも時間稼ぎに主眼を置くことでしょう。撃墜できずとも、自分も落とされない。
 落とされたら、お仕舞いです。高速での一撃離脱、またそれを繰り返す」

 皆、同意。そうだ。生きて還り、また出撃することだ。

ミ「時間を稼いでおいて、適宜ウィッチ隊が始末する、わけですね」

俺「そう。それしかない。取り囲まれてしまったら、単機に別れ、闇雲に機動して撃たれないことだけ考える。
 それでも、その間敵の数機は引き付けられる。ウィッチ隊の負担も減る」

 ふむ・・・。消極的とも取られるが、現実には最良だろうな・・・。通常機パイロット達の損耗を思い出して
 私は溜息をついた。惨いとしか言いようが無い。

坂「その時間稼ぎ戦法は、既に上申されたので?」

俺「ええ。防衛航空隊にも伝達されたのですが。余り効果は・・・」

シ「出なかったんだ?」

俺「パイロットの気質、でしょう」

バ「闘争心に何か問題?」

 闘争心が無い戦闘機パイロットなぞいない。私たちもそうだが、敵愾心の塊だ。彼らも勇猛果敢だぞ?

俺「男の、・・・本能ですよ」

 益々解らない。

ミ「・・・・ウィッチを守ろうとして・・・無理をしたの?」

俺「ええ。きっとそうです」

 俺が顔を伏せた。

俺「恋も知らない、本当なら青春を謳歌すべき乙女たちが血を流している。それなのに、自分は」

 シン・・・と静まる。

俺「その乙女を守るべきが『男』。それなのに、役に立たないと・・・。悩んで・・・」

俺「『男』の『矜持』が保てない。騎士道、武士道、でも同じです。戦闘中にそれで無理をして・・・」

俺「男は、女性の出来ないことをやるべきだと。女性にしか出来ないこと、とはなんでしょう」

ミ「・・・子供を産み、そして育てる・・・」

俺「・・・男は、その女性を守るべき、家族を守るべきと考えるものです・・・」

俺「役に立とうと、少しでも、役に・・・と。傍観者でいられない。だから、体当たりしても敵を屠るものも
 出てくる」

 ああ・・・・そういう噂は耳にしたことがある。勇敢だと思ったが、今、そのパイロットの気持ちを思うと
 複雑な気持ちがうまれる。
 少将が顔を伏せているのは、泣いているからだろうか・・・。

ミ「私たち、沢山の人に護られているのね・・・」

俺「その言葉、皆が喜びます。皆・・・満足して眠れます・・・」

 スピットで上空から強襲をかけた二人の姿を思い出した。彼も、その一人なんだ・・・。私達を護るため。

香「俺さん、今日は特に気合が入っていましたよ。必死に追従しましたもん。少しは僚機に心を
 配って欲しいもんですわw!」

 加藤少尉がミーナの肩に手を触れながら言う。哀しい空気が押し流された。

俺「すまんすまん。もう、鶏も鷹に育ったと思ったんだよ。少し早かったかな?」

ハ「コケコッコー!w」
ル「ココケコー!w」

 爆笑。

ハ「俺さん、ミーナだけ護ろうとしていたのw? ひっどーい!か弱い私を護ってくれたって感激して
 いたのにーぃw!」

 ミーナが真っ赤になる。廻りもひどいだの信じていたのにとブーイング連呼。お前らなあ・・・?
 まあ。私も実は興味があるw。

俺「いやいや!区別はしていませんよ!あの状況では無理でしょう?」

 ほんとにーー? どうだかなぁ、と冷やかしの声が大量に発生した。ふむふむ。まあ、本音はな?

香「背中に目がついている俺さんに、それは無いでしょうww ちがったかなーw?」

サ「・・・一番先に撃墜されたのは、確かミーナ中佐を狙っていた敵機でした・・・」

 止めを刺される。少将も顔が赤い。

香「私が皆さんを護ります!任せておいて!」

 ワーイ!と皆が喜ぶ。完全に仲間になったな。さて、そろそろ少将を助けるか。

バ「あの時、一番危なかったのがミーナと横にいたハルトマンそしてサーニャ達だ。助かったよ」 

 これでよし、と。

エ「エー!私には当たらないぞー!」

 そんなに口を尖らすなw。

バ「その分、ミーナとハルトマンに攻撃が集中するぞ?やりにくい相手より、だろう?」

エ「あ、そッカー!サーニャには指一本触れさせないんダ!安心しなよ、サーニャ?」

 こっちは通常運転だな、いつもそうだが。

ハ「エイラまで!私は誰が護ってくれるんだー!ああ!白馬に乗った王子さまはどこー!」

 一生騒いでいろ。

エ「ササササーーーーーーーニャ!わわわわたた・・・!」

 リトビャク少尉に手を握られて興奮したのか。・・・やれやれ。ビシッと決めぬか!まったく・・・w。

ペ「ハルトマンさんの場合、白馬、ではなくて『じゃがいも』に乗った王子様かもww」

ハ「ブハーーーーーーー!でも、それなら食べれるし♪」

 全員爆笑。

 おや。ミーナが少将との距離を縮めた?膝が近いぞ。ふふ・・・w。いいもんだな・・・。

シ「なぁ、ミーナ隊長。クレー射撃の練習をしたいんだけど」

ミ「ええ、シールドを使うことも少なくなるかも。そうすれば疲労も減るわ。本部に要請します」

 小型機に対しての無駄弾も減らせそうだな、ふむ。

シ「やったぁ!有難う、ミーナ!」

 新しいものに抵抗感を示さないのがイェーガー大尉のよいところだな。ふむ?私もやってみよう。



―夜間の散歩―ミーナ視点

クレー射撃の機材の件で、俺さんのテントにお邪魔することにした。お話したいし・・・。
まずは、要件を済ませてしまいましょう。
俺さん、手早くメモに書き記しながら要点を説明してくれる。でも、横顔に見とれてしまう。
声に酔ってしまいそう・・・。

来客だわ?

芳・リ「「こんばんはー!お夜食お持ちしました!」」

 あらあら、いつも元気な二人だわ。お盆を私の前におく。あら?二人前?わたしも?

芳「えへへー。坂本さんが二人分もっていきなさい、って」

 美緒ったら///。私がここに来ることは知っていたわね。有難う、美緒。

リ「仕事のお話ですか。大変ですね」

 ええ。クレー射撃の準備で相談をしにきたのよ。

芳「私も教えてもらいたいなぁー。射撃、へたっぴだから・・・」

リ「あ、私も・・・。狙撃しか出来ないって、今後困ると思うので・・・」

 大丈夫よ、しっかり教えてもらえるわよ?ねえ?俺さん?

俺「ああ。しっかりしごくからw。頑張ってくださいよ!」

 はーい、と元気に答えた二人は戻っていった。様子を見にきたのかしらね・・・。

 これで、よし、と。
 二人でお夜食のサンドイッチをいただく。俺さんがコンロでお湯を沸かし、ココアを作ってくれた。
 熱いココアを啜りながら、取り留めの無い会話を楽しむ。

 と、俺さんが居住まいを正して話し出した。

俺「先ほどのコールサインの件で、話しておきたい」

 心のどこかで、覚悟していたし。彼の全てを受け入れる覚悟は・・・もう出来ています。

俺「あのコールは、昔の恋人の・・・・名前です」

 やっぱりそうでしたか、私が微笑むと意外そうな顔をした。大丈夫です。想像はつきましたから。

俺「もうしわけない」

 深深と頭を垂れた。いいのですよ。あなたの気持ちはよくわかります。それに、そのほうが人間らしいと
 思います。綺麗ごとではないです。そう、心から思います。
 その人のことを本当に愛しておられたんですね。

俺「あなたから聞かれるのを待つ、とも思ったんですが。自分から話す事を選びました」

 よろしければ、その方の事、少しお話いただけません?  
   あなたのことを全て知りたいのです。

俺「ええ。それでは・・・。
 出あったのは、1922年のベルリンでした。射撃場に、父親と一緒に訪れていたんです。実を言うと、彼女
 のことをそのときは余り記憶していません。その父親と口論してしまいました。人種問題、です」

 ああ・・・・カールスラント人は結構保守的ですから・・・。分け隔ての無い、建前が出来たのも最近ですね・・・。

俺「次の出会いは、1923年、扶桑大使館の夜宴会でした。私は駆け出しの駐在武官補として。彼女は来賓の
 令嬢として。先の父親も一緒だったのですが、制服姿の私を見ても思い出せなかったようでした」

 クスッと笑ってしまう。確かに、軍服、それも士官の礼服は魔法だし。

俺「私は父親には気付いたのですが。その娘さんとは知らずにダンスをそのお嬢さんに申し込みました。
 それが切欠です」

 ああ、青年将校と令嬢。私も昔、憧れました。大人の世界でした。

俺「恋に落ちました。でも、結局は人種を理由に親御さんに反対されました。政治的立場にある方だったので
 わが国もカールスラントとの関係悪化を恐れ、私を移動させたのです。リベリオンに・・・・」

 ・・・・・・連絡はつかなかったのですか?

俺「何度も手紙は出しました。仲の良かったほかの大使館の武官に中継を頼んだりもしましたが、返事は・・」

 そうですか・・・。

俺「私は最後の賭けにでました。辞表を出し、彼女の故郷へ行ったんです。途中で電話をし、彼女に
 伝えました。私は国を捨てる。一緒になってほしい、と」

 ・・・・・・・・・・・うまくいかなくて、私には僥倖です・・・。

俺「ポズナニアの野原で待ちましたが。彼女の手紙だけが届けられました。こう書かれていました。
 『私のために国を捨ててはいけません。あなたに出来ること。それを間違えないで下さい。』」

 ・・・あなたに出来ること・・・

俺「『あなたについていこうとも考えましたが、改めました。遠い空を見てあなたを想います。
 さようなら』と」

 ・・・・・・・辛い・・・・

俺「私はそれからずっと・・・彼女を追い詰めてしまったのかと、後悔して過ごしました。彼女の消息は不明
 です」

 そうでしたか。あの・・・・よろしかったらその方のお名前を・・・・お聞きしても?   

俺「マリー・・・・マリアンナ・ディートリンデ           」

 名前を聞いた瞬間、その後の言葉は耳に入らなくなった。もしかして!

 何年生まれの方・・・なの?

俺「・・・・1906年3月13日」怪訝な顔をして答える彼。

 涙が堪えきれない。止まらない。ああ・・・・
 俺さんが慌てている。大丈夫、落ち着くまで、ちょっと・・・ちょっと待って・・・・。

ミ「あの・・・俺さん」

俺「済まない!いうべきではなかった!」

ミ「ううん・・・・。大丈夫よ・・・・。 お話しするわ。
 その人のことはよく知っています。5年前に戦闘に巻き込まれて・・・天に召されました」

 俺さんが絶句。ごめんなさい。でも、そうなの・・・。俺さんの手を包み込む。震えている・・・。

ミ「その人は、貴方の事を何度か口にしたことがあります。そのときの彼女は、とても幸せそうでした。
 私にも、幸せで大切な思い出を語っているのが解りました。・・・・・・・
 こういわれたことをよく覚えています。『『一番大好きな人と結婚できない』といわれるけど、私も
 そうだった。でも、あなたがいるから私は幸せ。ミーナ、あなたは一番好きな人と一緒になりなさい』と。
 そう私に言うときの彼女は、遠くを見て微笑んでいました。
 あなたがあの人の一番大事な人だった・・・・」

俺「!」

 大きく震えた手をしっかりと握り締める。指が冷たい・・・。

ミ「私の・・・母です・・・・。私と同じ誕生日・・なんですよ・・・。ヴィルケは父側の姓です・・・」

 また、涙が零れてきた。ああ、お母さん・・・。

 泣き止んだ私は、改めて彼を見る。うちのめされた表情をしている。

ミ「俺さん・・・お散歩、しましょう?」

 そっと手を引くと、彼も立ち上がってくれた。ほっとする。

 二人、横に並んで月夜の径を歩く。彼からの言葉を待つけど・・・何も言ってくれない。

 たちどまり、彼を見る。顔色はまだ少し悪い・・・。ねえ、ちゃんと聞いてね?

ミ「俺さん・・・私、ね。凄く幸せなの」

俺「・・・・・」

ミ「母を愛してくださって、ありがとう」

俺「・・・・・・・」

 おねがい、困った顔をしないで・・・。

ミ「私も、いえ、私は。・・・・私はあなたを愛しています!だから・・・遠くに行かないで・・・下さい・・・」

 震えが声に出てしまう。聞いている?ねえ!俺さん!

俺「・・・・・全てを知っても・・・それでも、愛して・・・くれる?」

 彼の声も震えている・・・。

ミ「ええ・・・。私が好きになったのは貴方です・・・」

俺「ミーナさん・・・」

ミ「母のこと、忘れないでね・・・。それだけ、お願いします」

俺「いい・・・のか?・・・・」

 そんな、苦しそうに言わないで。お願い・・・。

ミ「忘れたら、お母さんが哀しみます!私の大好きなお母さんだもの。哀しませないで!  ね?」

ミ「私にも、救いなのよ・・・わかって・・・お願い」

 そっと抱きしめられた。肩に顔を埋める。安堵が身体を包み込む。

俺「愛してる・・・ミーナ・・・」

 ええ。私も・・・。



 帰りたくない。部屋の一人ぼっちのベットには行きたくない。
 俺さんは、戻りなさい、っていうけれど・・・ 嫌。

 俺さんを引っ張って、執務部の奥へ。寒々しい野戦用ベッドがあるだけ。
 まだ言っている彼の唇を、私の唇で塞ぐ。お願い、私の我侭を聞いてください・・・。

 彼がやっと静かになった。キスしながら制服のボタンを外す。彼のボタンが外れるに連れ、私の動機が
 高まる。
 脱がしたものをベッド脇に置き、静かに彼の前に立つ。お願いします・・・。自分からは恥ずかしい・・。

 彼の手がボタンを外していく。また高まる鼓動。そっと脱がせてくれた。シャツも・・・。抱きあう。
 彼のベルトのバックルがおなかに当たって少し痛い。それを察してくれたのか、ズボンを脱ぐ彼。
 月明かりが照らすテントの中、私も下着を取り去ってもらう。

 月明かりが照らすテントの中で、二人抱き会う。暖かい。動悸は激しいけれど安心する。
 ひょい、と彼が私を抱き上げた。驚いて思わず声が出てしまうけれど、彼は微笑んでいる。
 思わず、首に抱きついてキス。
 キスしたまま、彼がベットに私を運んでくれた。
 優しく降ろされると、急に恥ずかしくなって胸を腕で覆う。あまり、見ないで・・・。

 そっと私の横に身を横たえる彼。毛布が身体を覆った。目を開くと、すぐ前に彼がいる。
 腕を彼に回して引き寄せた。キスで答えてくれる。溜息が思わず漏れる。
 キスしていた彼が、そっと身体を離して私の目を覗き込んだ。貴方にお任せします・・。
 信頼しているから・・・・。

 目を瞑り、愛撫に身を任せる。痺れるような不思議な感覚が身体を駆け巡る。息が乱れる。
 ずっと前からこの日のことを想像していた。想像していたより優しい。嬉しい。そして暖かい。
 私の手は彼を求めて彷徨う。触れていないと不安・・・触れていると安心できる。
 彼の手、唇が触れる場所に集中して・・・
 彼の唇が下がっていく・・・恥ずかしい、でも、期待してしまう。
 思わず拒否の言葉が出てしまった。彼、悲しむかしら・・・
 謝ろうとしたら、キスで唇をふさがれる。優しいキス。そっと髪の毛を梳く指。
 身体の力がそれで抜けた。

 貴方に御任せします・・・。また、ゆっくりと愛撫が下がっていく。
 思わず、身体が跳ねる。なに?今のは??テントに映る月光と木々の陰が目に入る。
 また! そこで、何も考えられなくなった。目をぎゅっと閉じる。快感に身を委ねる。
 ああ、あなた!もっと!もっと愛して・・・!彼の髪の毛を掻き毟りながら、私は高まっていく・・・。



 目が覚めた。彼の胸に顔を乗せたまま眠ってしまったのね。まだ、夜。
 そっと顔を起こすと、眠っている彼の顔が見える。彼の腕が私を抱いてくれている。安らげる・・・。

 胸に頬を当てて、彼の鼓動を感じながら。手で彼の身体をまさぐる。そっと・・・そっと・・・。
 さっきのことを思い出すと、身体の芯が熱くなった。体に余韻が残っている。
 ああ・・・・。あんなに私を苛めるなんて。ひどい人。
 でも、愛しい人。胸に痛みを覚えた。あなたが愛しくてたまらない・・・。

 最後までしてもいい。私は彼にお願いした。堪らなくそうしたかった。魂が叫んでいた。
 でも、かれは首を振った。
 「それをしたら、あなたに今出来ることを奪ってしまう」といって。思いやりが嬉しかった。
 でも、彼を感じたくて、もう一度お願いしたら、少しだけ、彼を感じさせてくれた・・・・。
 ありがとう。あなたは本当に優しい・・・。私に後悔させまいと・・・。有難う。

 まさぐっていた手が触れた。あら、さっきはあんなに逞しかったのに。そっと確かめる。大胆な自分に
 顔が赤くなる。でも、いいわよね? 貴方も私の全てを知ったのだし。
 フフッと笑うと、彼が身じろぎした。起きちゃったかな? 大丈夫みたい。
 彼に触れていると、安心する。そっと手を添えて、鼓動を聞いていよう・・・。

 警報、鳴らないで・・・。




 眠りから醒めかけたとき、額にキスされて一気に目が覚めた。
 でも、目を開けるのが怖い。夢だったら・・・寂しすぎる。 
 そのまま、腕で抱き締めてみる。ああ、夢じゃなかった・・・・。そっと目を開けると、彼が笑っている。
 なんだか、とても恥ずかしい。

俺「おはよう。ミーナ」

ミ「おはよう、あなた・・」こそばゆい、それでいて幸せな言葉。外はまだ暗い。

 もう一度、ちゃんとキスを交わす。先にベッドから出てもらった。毛布を巻きつけて彼の支度を見る。
 逞しい身体。愛しい身体。

俺「コーヒー淹れるよ」

 ありがとう、と背中にいう。私も支度を。


 彼の元にいくと、湯気の立つコーヒーが用意されていた。二人で初めて飲む朝のコーヒー。微笑んで
 しまう。不思議な感じがするものね。

俺「ミーナ。好きな花は、なに?」

 思わず戸惑う。急にどうしたの?

俺「ふふ。ちょっと、ね?」

ミ「そうね・・・誕生日の花はチコリなんだけど・・・花言葉がね、気にいらないの」

俺「参考に? どういう意味なの?」

ミ「笑わないでね? 待ちぼうけ なのよ」

 二人で声を殺して笑う。やっぱり笑ったわねw?

ミ「笑わないでっていったのにw。もう。・・・えーと、薔薇が好き。お母さんも好きだった」

俺「ああ。覚えている。 それでは、よし!新しいコールが今決まった」

ミ「フライトコール?」

俺「ああ。『Rosen』フライトだ。これにしよう!」

 彼にキス。コーヒーの味のするキス。

朝のトレーニングをする彼と、テントの前で別れた。ちょっとぐずったら、キスしてくれた。



 美緒が走ってきた。何か言われるかしら?

坂「おっ!不良隊長!おはよう!!」

ミ「おはよう。美緒。 不良ってなによw?」

坂「朝帰りだろ?顔がにやけているぞww?」

 思わず顔に触ってしまう。え??

坂「ひっかかりやすいなあ!ほどほどに、な!」

 もう!というまもなく、高笑いしながら走っていっちゃった・・・。私の顔、何処か変なのかしら。


 キリッとした姿勢で官舎に入る。心の緩みが姿勢に出ていたのよ、きっとそう。
 そこでルッキーニさんを起こしにいくシャーリーさんとであった。

ミ「おはよう。シャーリーさん。ルッキーニさんを探しにいくの?」

シ「あれ?おはよう!早いね!」

 なにをそんなにじろじろと・・・

シ「あああっ!その顔!そのセクシーボディは! ミーナ!やっちゃったのか!」

 なにいいだすのよっ!

ミ「まさかっ!今も処女ですっ!」

シ「ぶっ!あはははは!」

ミ「・・・なにがおかしいんですか?」

シ「冗談だって!冗談!もう、わかりやすいんだから・・・ ああ、苦しい」

ミ「もう!からかわないで!」

シ「ごめん、ごめん。ねえ、ミーナ。こうしようよ。こういう・・・状況のときは、さ?」

 こういう状況って・・・余り突っ込めないわねw 怒れないわw。

シ「チャーチルサインでいこうよ。ほら、Vサイン」

 ビクトリーのV?? 思わず出してしまう。これが?

シ「そうそう。隊長の場合は、バージンのV!!それが出なくなったら、経験したと!」

ミ「しゃぁりぃさあん!」

 脱兎の如く逃げられてしまった。ハア・・・・。

 ぷりぷりしながら、部屋に戻って着替えをする。目ざとい子が多いから、気をつけないと。
 隊の風紀を乱してはいけないわ・・・いけないわ、そう。
 姿見で服装確認。よし!隙はない!
 鏡に近づいて、顔を多角度から見てみる。 どこもかわってないわよ、ねえ?

 経験したら、誰にもばれちゃうのかしら・・・??///////


この後、幹部たちとミーナの間で交わすVサインが一般隊員にも流行した。
 ミーナは、腰の辺りで恥ずかしそうに出す。
 坂本とシャーリーは、胸の前で出して左右に振りながら笑う。
 バルクホルンは、ビシッと胸の前に腕を突き出してまじめな顔をする。
 一般隊員は意味はともあれ、Vである。
 俺は・・・・一人仲間はずれ。

1-7終
最終更新:2013年02月02日 12:02