「蒼穹の絆2-5」
―姉/妹。友人?―
戦闘の翌日。一番、敵襲の可能性が低い時。皆、晴れやかな笑顔で生活している。休暇申請が前の晩に
ミーナ隊長に出され、余程の理由が無い限りは受理される。休息の時。
バルクホルン大尉も、ハルトマン中尉をロンドンに誘ってみたが、ハルトマンはやることがあるからと
土産の菓子だけ依頼して当直を選んだ。仕方なく、外出届をミーナに渡したバルクホルンは車止めに向かう。
俺がジープの運転席に座っていた。長ズボンのサービスユニフォームに皮ジャケットを着用。
車体に幌は付けられている。
バルクホルン「うん?どうした?ラスカル」
俺「俺も休日休業さ。運転手やるから、乗れよ?」
乗り込むとさっさと発進する。ロンドンへM20で。その接続までは田舎の舗装されていない田園地帯を
通る通称『ヒル・ロード』のワインディングロード。その道をジープでラスカルは吹っ飛ばす。
バルクホルンは緊張気味。エーリカのようなスピードマニアか?まあ、運を天に任すか。どうせ周りは
丘陵地。万が一があっても崖から転げ落ちたりはしない 筈。
俺「ロンドンは余り知らんから、トゥルーデの手伝いをするよ。観光気分も無いしさ。重い物は任せろよ?」
バ「私は普通の男より力があるぞ?」
俺「まあまあ。一般人の前で軍服着た美少女が尻尾とか出すのかよ。だろう?身動き取れなくなるぞ?
『キャァーッ!あのお方が501のエース!バルクホルン大尉よぉ~~~っ!!サインしてぇ♪』てな?」
バ「・・・・なるほど。それでは頼もう」
以前、現にそういう事態になったことがある。男女問わず、特に若い女の子には偶像なのだ。
あの時は往生した。サイン依頼が殺到、それに答えていると全身触りまくられた。
俺「非番のときくらい、軍服は脱ぎたいよ。まったく」
バ「ん?お前にもファンがいるのか?」
噴出す俺。
俺「んなわきゃーないよ。俺の胸のコイツで面倒なことになるんだわ。まったく!」
ピンッ!と名誉勲章の略綬を弾く俺。
バ「それが・・・どうかするのか?」
俺「トゥルーデの柏葉剣付鉄十字勲章とかは、上級者とかが敬礼しなくていいのか?」
バ「ああ・・・別に無いぞ?」
俺「そうかぁー。面倒が無くていいなぁ。俺の場合は、リベリオンの軍人全員が対象さ。メンドクセーんだ」
バ「そうなのか。相手が提督とか将軍でも?」
イェーガー大尉の慌てっぷりを思い出すバルクホルン。
俺「ヤー、フロイライン。外せるものなら外して隠しておきたいね。道路を横断していても立ち止まらなきゃ
ならんw。何度、車に轢かれそうになったことやらw!」
バルクホルンも噴出す。なるほど!それは面倒だ!
バ「付けていないとまずいのか?」
俺「ああ!大統領から授与されてすぐに警告されたよ。海兵隊司令閣下に!『ラスカル大尉!名誉勲章授与
おめでとう!君は合衆国海兵隊の誇りだ!国民の誇りだ!』ここまでは、まあしょうがないさ。でもな?」
バルクホルンも身を乗り出す。なかなか物まねが上手い。将軍達が好む、人差し指を振っての動作も
しっかり真似ている。
俺「こうきたわ。『君は今後、24時間365日!いいか?毎日だ!朝、目覚めて彼女にキスをするときも!
トイレで糞を垂れている時も!彼女とベッドで愛し合っているときにも!24時間だ!寝言にも気をつけろ!
誇りと自覚を忘れてはいかん!もし君がそれを忘れるようなことが起きたら!大尉を不名誉除隊処分として
社会的に抹殺する!忘れるなよ!ラスカル大尉!!』 ってさぁ。人をナンダと思ってやがる、クソッタレの
ハゲデブインポ親父が!」
笑い出すバルクホルン。一部に理解できない表現が有ったが、前後で大体想像は出来る。
バ「アハハハハ!大体、・・・想像できた。カールスラントでもそうさ。常に人の目を意識しないとな」
俺「おお!戦友!解ってくれたか!苦労するよな!」
ハンドル放り出してバルクホルンをハグするラスカル。
バ「おい!やめろ!危ないって!前を見ろおおおお!」
俺「あいよ、Dカップ♪ エクセレント張り具合♪」
バルクホルンのパンチをヒョイヒョイ避ける。
**
無事、ロンドンに到着。バルクホルンもかなり柔らかくなっている。
軍人も多数歩いている。確かに、リベリオンの軍人はラスカルに出会うと直立不動で敬礼をする。
ラスカルも丁寧に答礼する。時間がかかるわけだ、とバルクホルンは笑う。まあ、今日は気分がいい
から、とラスカル。なぜと問う彼女にこう答えた。
俺「うん?気がつかなかった?皆俺に顔を向けているけど、目は君を見ているよ。凄ぇ美人だなって!
似合いの恋人同士に見えるんだ。気分は最高!!」
そんなわけが無い!と言い張るバルクホルン。顔が赤い。
仲間から依頼されたものから買出しする。
お茶にお菓子に毛布に花の種エンジンオイルにロマーニャパスタ等など。
一番手こずったのが毛布。黒い毛布、肌触りがよくて暖かくて赤でネコのアップリケが付いたもの!と
某から細かいオーダーがある。
これが、どう探しても見つからない。そもそも、黒い毛布、という時点で厳しい。
ようやく見つかったのは、マークスアンドスペンサーとかいう百貨店。でも、アップリケなどは入って
いない。カシミアのよい物なのだが・・・。
バルクホルンは他のものにするか?と代替案をだしたが、先日助けてもらった、とラスカルが粘った。
俺「店員さん。すまないがお願いがある。大至急、この毛布のど真ん中に赤い糸でネコの刺繍を入れて欲しい。
当然、費用は特急料金で構わない。言い値で支払う。なんで、お針子さん総動員でASAPでお願いしたい。
お願いできるかな?」
この無茶なオーダーに、何とか応じてくれた責任者。彼の目はラスカルの胸の名誉勲章をチェックしていた。
ありがたや!これで万事オッケー!と、二人は待ち時間を使ってお菓子の買出しに移る。
これがまた大量。生菓子系から日持ちのよい物。多岐にわたり大量に買い込む。バルクホルンが苦笑い。
バ「隊全体のものもあるし。エーリカの専用もあるんだよ」
なるほど!とラスカルまでハッスルして買い込みまくる。ついでにタバコと酒も。ラスカルは、バルクホルン
の目を盗んで、あるものも仕入れる。
三往復して、ジープに荷を押し込む。後ろはもう見えない。ぎっしり状態。
毛布完成の時間まで、昼食をとって時間を潰す。二人して笑いながら楽しく食事。
毛布を受け取りにいくと、店長が自ら渡してくれた。同じものを二枚使って、二枚重ねにしてある。夏は
一枚を外して使えると。英雄から料金を貰うわけにはいかぬ、と言ってくれたが、ラスカルは丁重に礼を
のべつつ辞退した。なにせ、絹の刺繍の大きさが縦1フィート、幅半フィートの豪華版なのだ。有り難う、
無理を言ってすまなかった、とラスカルは礼を言って、毛布10枚分の金を渡した。
そのラスカルに温かい目を向けるバルクホルン。店員が見送ってくれた。
店主「有難うございました。お二人の御武運をお祈りします。お幸せに・・・・」
どーもどーも、と店を後にした二人。バルクホルンが不審そうに尋ねる。
バ「『お幸せに』って言っていたが・・・。あれは普通の儀礼の言葉なのか?」
俺「あれか。たぶんねー、俺たちが二人で使うもの、と思ったんだろうな」
バ「は??」
俺「俺たちを恋人か新婚だと思ったんだろうよ。あはははは」
確かに購入したのはキングサイズの大判毛布。
バ「・・・・・・なんと・・・・////////」
*
病院への道すがら、今までの経過をバルクホルンはラスカルに説明した。
俺「そうか・・・・昏睡が今も、か・・・・」
そのまま二人が黙っている間に、病院に到着。
ラスカルは車にいてくれれば、とバルクホルンが言うが、俺も見舞わせてくれ、と車を降りた。
階段を登り、病室へ。
俺は黙ってバルクホルンについていく。
病室では、幼さが顔に残る少女が眠っていた。
俺は少し離れたところで、二人を見守る。医師も来室して、経過を報告している。
まだ、前向きな変化は無いらしい。悪化しているわけでもないのが唯一の救いか。
バ「クリス・・・」
静かに呼びかけるが、返事は無い。瞼も閉じたまま。静かに、安らかに眠っている。
俺は暫くクリスの様子を見ていたが、看護婦に囁くと部屋を静かに出ていった。
バ「あれ?・・・・すみません、一緒に来た大尉は?」
一時間ほど経ってから、バルクホルンは俺がいないことに気付いた。
看護婦「はい。お連れの方は『ちょっと用事を思い出した。二時間ほどで戻る』と伝えて欲しい
と仰って部屋から出られました」
バ「そうですか。有難うございます」
きっと、買出しの忘れ物とか思い出したんだろう。もしかしたら、ガールフレンドかな?
まあ、いい。病室にいるのも気が滅入るだろう・・・。
クリスの顔を見ながら、左手のひらをそっと撫でる。
バ「お前が目覚めるとき、一緒にいてあげられたらいいんだけどね・・・」
いつか来るその日。私は戦場にいるだろう。済まない、クリス。でもお姉ちゃんは大丈夫だから。
心配しないでね。泣いたりしないでね・・・。すぐにストライカーで飛んでくるから・・・。
コトリ とドアが開いた。
バルクホルンは慌てて涙をふき取る。そうしてから振り向くと、俺がいた。
俺「すまない。待たせたね」
いや、大丈夫、といいかけたバルクホルンは、俺が抱えている物体をみて言葉を飲み込んだ。
バ「・・・・それは?」
俺「ああ。クリスちゃんのベッドの脇に置かせてもらおうと思って」
男でも一抱えする大きさの巨大ティディ・ベア。
俺「妹さんが目覚めたとき、トゥルーデがいないと寂しがるかと思ってな。これに挨拶書いとけよ」
俺がバルクホルンに銀のタグとカード、万年筆にサインペンを手渡した。
俺「それに書かれたお姉さんからのメッセージを読めば、クリスちゃんも寂しくないさ?すぐに
トゥルーデが吹っ飛んでくる間の繋ぎになる」
*
帰りの車内。グリニッジを過ぎた16時には日も暮れた。暗がりが増す東南へ車は走る。
やっとバルクホルンが顔を上げる。目が赤い。彼女の膝には、俺の皮ジャケットが掛けられて
いる。
バ「ラスカル。有難う」
俺「気にしないでくれよ。君の妹さんは俺にも妹みたいなもんだ。だろ?」
バ「うん・・・そうだ・・・ね」
俺「頑張ろう、な?」
俺の右手がシフトレバーから離れ、彼女の左手をしっかり握った。
俺「その日は必ず来る。絶対生き残れよ、トゥルーデ」
更に強く握り締める。そして、そっと手を離した。
レンズを覆ったヘッドライトが細い光芒を道に照射している。二人とも黙ったまま、道を見る。
バ「ありがとう。ラスカル・・・・落ち着いたよ」
俺「よかった。ちょっと車を止めて一服するか?」
道端に車を止め、後ろから魔法瓶を取り出す。コーヒーをカップに注いで彼女に渡す。
温いな、と笑いながらゆっくり飲む。冬の空には満天の星。
俺がジープに取り付けたドアを開けて、タバコに火をつける。ヒーターは全開。
俺「空を飛んで、
初めて解ったことがある。雨の日でも、雪の日でも。雲の上はいつも太陽がある。
人生もそうなんだろう、ってね」
俺「そう解ったら、余り自棄も、絶望も感じなくなった、かな・・・。前向きになったのは間違いないよ」
バ「うん・・・・わたしも、そう・・・思うよ」
ぽんぽん、と俺が彼女の肩を叩いた。タバコを消す。
俺「さ、行こうか。帰って熱いコーヒー飲もうや!」
魔法瓶を後ろに放り込んで、ギアを入れようとしたとき。
俺「トゥルーデ!」
彼女が俺にしがみ付いた。
バ「・・・・ちょっとだけ、お願い・・・・」
震える肩がしっかりと抱き締められた。
*****
なんとか、夕食前にフォーク・ストン近くの部隊に帰着。
買出し品を皆に手伝ってもらい搬入を終えた。
皆に土産を配る。一際大きな歓声が上がったのが毛布。
バルクホルン「やっぱり。エイラだったのかw。ラスカルに礼を言っとけよ。凄く苦労して手配して
くれたんだぞ?」
エイラ「有難うダナ!さすが秘密の共有者は違うナ!///」
何人かは『秘密とは何だ?』という顔をしたが、すぐにサーニャの笑顔を見て引き込まれる。
サーニャ「わぁ///・・・・ラスカルさん、バルクホルンさん、エイラ、有難う・・・」
胸にギュッと毛布を抱いて笑う姿に、皆さっきの事はどうでもよくなる。
俺「イッル。ほら、サルミアッキ。お前自分のもの何もリクエストしなかっただろ?」
エイラ「ワッ!ありがと!切らしちゃっていたんダ!有難う!」
ハルトマン「ねぇねぇ!らすかるぅ~」
目をキラキラさせてずっと傍に張り付くハルトマン。
俺「こっちがエーリカの分だっけ?バルクホルン? ほい、エーリカ。しっかり持てよ。このケーキは
食後にと。あと、これは皆に一箱づつね。チョコレート詰め合わせ」
わぁ!と喜びの声。バルクホルンも嬉しそう。何時買った?
季節外れのサンタクロース宜しく、紙袋を両手両脇に抱えて自室に向かうハルトマン。その姿に笑いが
起きる。
バルクホルン「また部屋がゴミだらけになりそうだが・・・・」
ペリーヌ「流石にお菓子とゴミは分別しているとおもいますけれどw?あ!お花の種有難うございます。
春になったら蒔きますわ!お花のほかにハーブまで!有難うございます」
その脇を食料酒瓶等の箱を抱えて厨房に行く俺。そのまま、小箱大箱を抱えて上階のミーナの部屋へ。
ミーナ「はい。どうぞ?」
俺「失礼します。先ほど戻りました。異常無し」
ミ「ええ。よかったわ。休日は楽しめました?俺さん」
俺「面白かったですよ。答礼で疲れましたw。で、これはミーナさんにお土産です」
執務机の横に木箱を2つ。机の上に平べったい大箱を置く。
俺「木箱はカールスラントのワインとブランデー。こちらはチョコレート」
ミ「まあ!有難うw」
本当に嬉しそうに笑うミーナの笑顔で、俺も微笑む。
俺「書類は夕食後に手伝いますよ。あ、食事の時間です」
ミ「はい。すぐに行きます」
俺「では食堂で」
ドアが閉まる。
ミ「・・・・・ありがとう、俺さん」
*
夕食後、皆は歓談室へ。俺はミーナ隊長の執務室に筆記用具・計算尺などを持って顔を出す。
バリバリと書類を片付けてしまって、紅茶で一服したのが21時半。
ミーナ「俺さんが手伝ってくれると、ほんと捗るわ。有難う」
俺「なんてことは無いんで気にしないで。明日は午前からちょくちょく手伝いますよ」
ミ「ええ・・・・任務に差し支えていません?」
俺「隊員が50%増しだと厳しいけど、いまの人数ならね。トゥルーデも
シャーリーも居てくれるし。坂本
少佐が戻ったらもっと手伝えるね」
ミ「あら。トゥルーデと仲良くなったのねw?」
俺「似た者同士ですわ。私はちゃらんぽらん、彼女は真面目、という鎧の差はありますけどね」
ミ「そうなんですかw(あなたもそう思うのね)」
俺「同じ人間ですよw?俺ってそんなに?あ、だよねえ!あはは」
ミ「・・(あなたは不思議なウィッチね。増幅より、今私が感じていることのほうが本当の固有魔法なんじゃ
ない?)・・・」
俺「さて。風呂の時間まで機銃弾作ろうかね。ミーナさんはお風呂でリラックス。シャワーだけじゃ駄目」
ミ「!ええ。でも私、シャワーのほうが」
俺「湯船に浸からないと・・・ちょっと失礼。肩がパンパンでしょ?」
断りを入れてから、ミーナの椅子の後ろに立ち肩を揉む。
俺「ありゃ。予想より酷いな。ガチガチじゃないか」
揉まれた当初はビクリとしたが、すぐに力を抜くミーナ。目を閉じて気持ちよさげに身を任す。
ドアがノックされた。ミーナはビクッとしたが、俺は知らん顔で揉んでいる。
ミーナ「はい。どうぞ?」
シャーリー「ミーナ中佐~!・・・おあっ!失礼ッ!」
ドアがばたんと閉じられた。
ミーナ「シャーリーさあん!いいのよ、入ってね!」
お邪魔しますよ、と頭が覗く。下にはルッキーニの頭。なにしてるのさ。
俺「あ、肩こり解しのマッサージ中だよ。ゴキバキさ」
シャーリー「ごめんな、わたし書類苦手でさ・・・」
ミーナ「いいのよ。で、ご用件は?シャーリーさん、ルッキーニさん?」
シャーリー「あ、風呂行こうよ!私もマッサージするからさ!」
ルッキーニ「あたしも!ミーナ隊長のオッパイもみもみって!ねえねえ!いこうよーっ!」
*
部屋着で日記に万年筆を滑らすバルクホルン。
ドアがノックされた。
バルクホルン「ハルトマンじゃないな、開いている」
俺「遅くにすまん。いいか?」
バ「ああ、こんな格好で済まない」
俺「寛いでいるところにすまん。あのさ、これ。プレゼント」
背中に回していた手を前に出す。二つの紙箱。
バ「・・・ありがとう。いいのか・・いいの?」
俺「ああ。まずこっちから開けてみて?」
室内用のガウン。暖かそうな生地と色。おそろいのスリッパ。
俺「似合うと思う。この部屋寒いだろ?風邪引くなよ。次はこっち」
銀製のフォトスタンド。柔らかで繊細な彫りが入っている。
俺「妹さんの写真、もっと飾れよ。寂しさが紛れるんじゃないかな?」
バ「ありがとう。使わせてもらうね」
いいって!と部屋を去る俺。
閉まったドアを見ていた彼女は、ガウンに腕を通す。サイズもぴったり。
机からアルバムを出し、二番目にお気に入りの写真を剥がして写真立てに入れた。
「ありがとう、俺・・・」
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最終更新:2013年02月02日 12:06