「蒼穹の絆2-7」
―激情の嵐―
月明かりの夜。俺が散歩に繰り出した。軽く呑んだ体にはキンと冷えた夜風が気持ちいい。あとは、
風呂上りに本式に呑んで寝るとしよう。ネウロイも昨日墜したし。静かに寝れるさ。
ぶらぶらとジャケットのポケットに手を突っ込んで歩く。ここでは、この格好でも誰にも文句は
言われない。気楽でいいな・・・。月明かりと雪でライトもいらないし・・・。海岸沿いを歩いて端にある
岩場まで来た。
灯りが岩を照らしているのに気付く。誰かが懐中電灯で照らしているのか?
興味を持って、歩いていく。整備か防衛隊が夜釣りでもしているんだろう。寒いのにご苦労なこった。
*
なぜ・・・。俺が言った言葉を信じたのに!重くも軽くも彼女云々は無いといったのに!
なぜ、俺は皆に好意の・・・いや、ガールハントをするときのように軽い言葉を掛けるんだ?
私はテントで見たあの目を信じた。言葉を信じた。なのにアイツは誰にでも誘いを掛ける!
誰にでも甘い言葉を囁くじゃないか!チンピラ!嘘つき!裏切り者!
・・・・・落ち着こう。落ち着くんだ!ゲルトルード・・・。深呼吸をしろ。軍人たるもの、激情に飲み込
まれて大局を見失うようでは失格だ。冷静に分析し、相手の出方を読み、対処するのだ。
・・・・
まだ、年端も行かぬ年頃を相手に・・・まともな大人として対応させよう。どう考えても、犯罪だ。
恋に年の差など、というのは大人同士が言うことだ!私の大事な妹・・・ちがう、仲間には手を出さ
せない!同じ年頃の男の子と手を繋いだ位しか経験の無いまだ子供に!キスだって無いんだぞ!
それを!私だってまだキスなんてしたことが無いんだ!!アイツは一体何を考えているんだ!
いや、落ち着け・・・。冷静になれ。平常心だ。
・・・
どうしても女が欲しいなら、坂本少佐は19歳だ。ミーナは17、私も17。15歳だが胸は20歳以上の
シャーリーは、まあ、年相応より落ち着いている!こっちを狙えよ!バカ!タイプの違う適齢期
が三人、否シャーリーを入れれば四人も!皆美人だぞ?お前の目玉は飾りか!何の不足がある!
より取り見取りじゃないか!
サーニャは13、ルッキーニも13!リネットとペリーヌは14だぞ!見た目だって子供じゃないか!
15だけど見た目が子供なフラウ!エイラも15か・・・まあ微妙だ。精神年齢と肉体年齢のバランス
は大事だろうが!!!!!それなのにお前は!盛りのついた野良狸か!クソ種馬!原始脳!
もしかして!お前はロリータコンプレックスとやらなのか? 幼女に毛の生えた年頃でないと
興味が沸かないのか!それでサーニャとか!俺!そこまで変態だったのか!カールスラントの
男どもがビールを飲むとき、ブーツの格好をしたジョッキで呑むのは『女の小便を飲みたいと
言う変態願望の現われ』とどこかで聞いたことがある!お前もそういう変態なのか!あれを聞いた
ときは、絶対カールスラント人とは結婚しないと心に決めたんだぞ!私は変態は絶対にお断りだ!
ゲッツ!!(注:俺のケツをなめろ=冗談じゃねえ!等の意)
ドイツもコイツも男はロリコン変態ばかりか!ああああ!どうしたらこの隊を守れるんだ!!
性犯罪者の予備軍として軍刑務所に拘置させる手段はないものか・・・!手遅れになる前に!
いかん!何を考えているんだ!落ち着け!深呼吸だ!
・・・・・
いいか。寒空に出たのは冷たい空気に当たって落ち着く為だぞ?ゲルトルード。頭を冷やせ・・。
歩いていれば、いい智恵も出て来るさ・・・。落ち着いて考えるんだ・・・。
大声で喚けたら・・・さっぱりするだろうな。俺の襟首掴んで吊るし上げながら・・・
そうだ。もう一度俺の考えを確かめよう。1対1で。邪魔されない状態で。今度は酒は飲まないで。
冷静に、俺の出方を分析しよう・・・。これから行こうか!今ならテントだろう。ミーナの書類仕事
は夕方で終わったはずだから!よし!
・・・でも、一晩たってもっと落ち着いたほうがいいんじゃないか? やっぱり、私は今、昂ぶって
いる・・・な。俺が馬鹿なら、別に構わないけど・・・あの時の印象が本当ならば・・・傷つける言葉を
ぶつけてしまうかもしれない。
・・・・そうしよう。一晩経ってから。冷静になってからだ。よし、今夜は静かにしよう。風呂で
ささくれ立った気持ちを静めよう・・・。
あ?ここは何処だ?
ああ、径から外れて歩いていたのか。あっちが海岸だな。一度浜に出て、それで帰ろう。
*
バン!ミーナが両手で机を叩く。
ミーナ「バルクホルン大尉!状況を説明しなさい!聞こえないの!何時まで黙ってるの!」
ミーナの執務室。机の前には項垂れたバルクホルンが立っている。
ミーナの脇には、真剣な表情をしたシャーリー。机の上には、バルクホルンの拳銃が置かれている。
黙ったまま、床を見ている。身動き一つしない。
ミ「・・・・ねえ、トゥルーデ。一体何が起きたの?」
シャーリー「なあ、バルクホルン。ルッキーニは意識が戻っていない。ラスカルも同じだ。お前が話して
くれないと状況が全く解らないんだ。皆も心配している。頼む、話してくれよ」
バルクホルン「・・・・・・・・」
ミ「トゥルーデ・・・」
バ「・・・・る ルッキーニは?」
ミ「命に別状は無いわ。それより、俺大尉の怪我よ。右側頭部の頭蓋骨が骨折。脳挫傷。首にも頚骨の・・・・」
ミーナの声が力なく途切れる。バルクホルンが聞いていないことに気付いたからだ。
ミ「話してくれないの?トゥルーデ」
バ「・・・・・」
ミ「話す気になるか、二人の意識が戻って事情を聞けるまで。バルクホルン大尉、殺人未遂の容疑者として
あなたに自室謹慎を命じます。生理的処理のほかは外出は一切禁じます。事実上の重営倉と考えなさい。
それを破った場合は、脱走と看做し対処します。何か異議は?」
バ「・・・・・・ない・・・・・」
ミ「シャーリーさん、バルクホルン大尉を自室まで。鍵をかけて戻ってきてください。拳銃は?」
シャーリーがびくりとする。最悪だ。隊長は本気だ。
シ「いや、今は携帯していないんだ。いらな―」
ミ「ではこれをお使いなさい」
シャーリーを遮り、机の引き出しからワルサーの小型拳銃を取り出した。スライドを少し引いて
薬室を確認。鍵と共に渡す。躊躇いを見せながらシャーリーが受け取った。
バ「必要ない。 名誉にかけて・・・誓う」
ミ「名誉が残っているなら、話しなさい!」
バ「・・・・・」
ミ「・・・・・・・・では、お願いするわ、イェーガー大尉」
拳銃を降ろしたまま、促すシャーリー。素直に従うバルクホルン。
見送るミーナの目は暗い。
*
エイラ「大尉がルッキーニをのすわけが無いヨ。理由が無い。ラスカルがのされたと考えるのが妥当ダロ」
ペリーヌ「まさかと思いますが、ラスカルさんがルッキーニさんに乱暴しようとして抵抗されて・・・ でもまさか・・・・違いますわよね・・・」
リーネ「まさか・・・・ラスカルさんはそんな人じゃ・・・・無いと思います・・・」
サーニャ「・・・私、ラスカルさんを信じます・・・・。バルクホルンさんも信じます・・・・」
5人とも頭を抱える。バルクホルンが喋れば、まだ少しは解るのだが・・・。シャーリーはミーナと相談中。いてくれたら、新しい糸口を見つけてくれそうなのに。
ハルトマン「トゥルーデとラスカルの二人だけだったら、まだ解るんだ。ほら、ナンパな発言する度に反応していたからさ?サーニャの時だって、顔が引き攣っていたし」
エイラ「あ!あの時ダナ!そういえばそうだった!バルクホルンはラスカルに惚れていたのカ?なら解るゾ!」
ハルトマン「ううん。違う。私達を自分の『妹』としてみているから、トゥルーデ。いい加減な男が私達に近寄るのを徹底警戒しているんだよ」
ペリーヌ「・・・・そういえば、いつも私達を見守っておられるような・・・・」
リーネ「ですね・・・」
ハルトマン「そういうわけ。でも、そこまでブチ切れるほどトゥルーデが怒ったって・・・?」
ペリーヌ「わたくし、二番機として言わせていただけるなら。俺さんは態度はどうにもですが、行動は立派な方です。そう思っていつも後ろを飛んでいます」
サーニャ「二人とも、人を理由無く傷つけたりしない人だと思う・・・」
*
ハルトマン「ミーナ。いい?」
ミーナ「ええ。フラウ。いいわよ」
深夜の司令官室。やつれた顔でミーナが座っている。ハルトマンが、いつもの元気は無く入ってきた。
ハ「トゥルーデ、何も喋らないの?」
ミ「ええ・・・」
ハ「そう・・・・。 お願いがあるんだけど?」
ミ「なあに?フラウ。トゥルーデを今自由には出来ないわよ?」
ハ「ううん。そうじゃないよ。トゥルーデの食事、私に運ばせてもらえないかな?」
ミ「ええ。いいけれど・・・」
ハ「もしかしたら、私には話してくれるかも、と思うんだ」
ミーナ、怒らないで・・・。解ってよ。付き合い長いんだから・・・。
ミ「ええ。いいわ。お願いします」
ハ「!ありがとう、ミーナ」
*
ハルトマン「シャーリー。入っていい?」
シャーリー「うん。静かにな?」
ルッキーニの病室。俺は別の部屋。
ベッドでルッキーニが横たわっている。頭に巻かれた包帯が痛々しい。輸血も受けている。
ハ「どうなの?」
シ「うん。脳震盪で失神しただけ、だってお医者さんが言っていた。ちょっと頭からの出血が多かった
らしくてさ、輸血もしている。まあ、頭はレントゲンも撮ったっていうから、まあ、大丈夫だろう」
ハルトマンはシャーリーの顔を見る。口で言うほど楽観的な表情ではない。心配している。
ハ「早く気が付いてくれるといいね」
シ「ありがとう、ハルトマン」
ハ「ねえ。シャーリー。今夜、ルッキーニはラスカルに誘われたとかで出て行ったの?」
シ「・・・いいや。ラスカルから借りた本、海生動物の図鑑を食後読んでいて、気が付いたら居なくなって
いた。私はモーターサイクルの雑誌を読んでいて・・・。いつも一緒だから、探しに行こう、と思ったら・・・。
一体何がどうなったんだろう・・・」
ハ「そう。・・・ちょっと彼女の部屋、見せてもらっていいかな?気になることがあるんだ」
シ「ああ。いいよ」
ハ「お茶と何か持ってくるね。あと、毛布も」
シ「ありがとう、済まないね」
*****
ルッキーニの部屋の電気をつける。
乱雑だけれども、自分の部屋と比べれば片付いている。
目的のものを探すが、見当たらない。ふむ。ここには無いみたい。
他は?
あ。懐中電灯も無い。非常用として一本支給されている。定位置に置くことになっているのに。
どこかに転がっているのかな? 無いな。
ふんむ?
シャーリーの部屋で懐中電灯を拝借。自分の部屋のは、どこに転がり込んだかわかんない。
海生動物図鑑、そして懐中電灯。夜は動物が活発に動く時間。ふんふん。何処を探そうか。
海生動物が目的だろうから、海岸だ。砂浜には生物居るかな? いるだろうけれど、水に足を突っ込ま
ないと・・・。ルッキーニは冷たいのは苦手だし。
あっちの奥に岩場があったけ。磯なら濡れずにヤドカリとか・・・其処かな?行ってみよう。
懐中電灯で、岩場の隙間などを覗き込みながら進む。あ、なにかボンヤリ光ってる?
ハルトマン「あ。 有った・・・・・」
電池切れ間近の懐中電灯の光だった。周囲を照らす。忘れ潮の水溜りに漬かった図鑑。少し離れた場所に
転がっている虫取り籠。そして、血溜り。かなりの出血が岩のくぼみに溜まっている。
暫くそれ等を見ていたが、ふと気付く。いっけない。潮が満ちてきている!
ミーナを伴ってすぐに戻ってきた。ミーナも懐中電灯持参。
ミーナ「あ!酷いわね・・・。血がこんなに溜って・・・」
ハルトマン「うん。ミーナ。ここが事故現場だよ。ルッキーニは岩場に居る海の生物を獲りたくなって
ここにやって来た。でも、コケで足を滑らせて転倒、頭を強打してのびちゃった。だから、血がこんな
に溜まってる」
ミ「其処に懐中電灯の光に気付いた俺さんが・・・?」
ハ「多分そう。私も、あの光、弱くなっていたけどあの光で気付いた」
スッと消えかかった懐中電灯を照らし出す。籠と図鑑、そして血溜まりを順序良く照らす。
ハ「で、急いでラスカルが」
散らばった褐色のボタンを照らす。
ハ「自分の服を脱ぎ捨てて、Tシャツで包帯を作って」
ミ「脱いだ服でルッキーニさんを包んで、医務室に運ぼうとして・・・・」
ミーナ、凄く安心した顔をした・・・。おや?もしかして・・・。今はいいか。
ハ「偶然、それを見たトゥルーデが。ルッキーニをレイプしたって勘違いして、一撃で葬った」
誰もが口にしなかった一言を吐く。
ミ「あ!それであの時!ルッキーニさんの様子を私に聞いたのよ。それまでダンマリしていたのに!
ああ、あの時、そんな心配は要らないっていえばよかった・・・」
二人で頷きあう。うん。レイプされたのかと聞きたかったんだ。でも、自分の口からはっきり聞く
ことは、周囲にも知れ渡る。ルッキーニの今後に・・・それでダンマリか。
なんだよ・・・と二人で其処にへたり込む。酷い偶然が重なったもの。誤解だったんだ。
ハ「ミーナ、これからどうする?」
ミ「あっ!そうね。まず・・・現在時刻確認。0210時。いいかしら?」
ハルトマンも自分の時計で確認。
ミ「万が一のときの確認資料なの。覚えておいてね。 あと、本とか回収しましょう。大体でいい
から、配置も覚えておきましょう!」
いつものミーナに戻った。よかった・・・。
司令官室に戻りながら、色々考える。
ミ「まずはトゥルーデね!自分の殻に閉じこもっちゃった。どうしましょう」
ドアを閉めた瞬間、ハルトマンに問い掛ける。
ハ「頑固だからねえ、トゥルーデは・・・。ねえ、お風呂で考えようよ、冷えちゃった!」
ミ「そうね。潮も被っちゃったし」
風呂場は当然として誰も居ない。衣服で確認できる。
二人で温まりながら相談。
ハ「私から引き出して、その上で真実を話すよ。そのほうがトゥルーデの性格だと受け入れやすいと
思うんだ」
ミ「そうね・・・・。うん。そうして貰える?私は静かにしているわ」
ハ「あとは、ルッキーニが目覚めれば証言も取れるし。あとは私たちの補正証言で、でしょ?」
ミ「ええ。そうよ。法務官にでもなるつもり?フラウw」
ようやく、二人の顔に笑みが戻った。
ミーナの背中をハルトマンが流しつつ、ポツリと呟く。
ハ「ねえ、ミーナ?私ね、ラスカルのことが好きなんだ」
それまで機嫌よく前側を洗っていたミーナが硬直。わかりやすいな、とほくそ笑む悪魔。
ハ「ねえ?ミーナも好きなんでしょ??解ってるよ?」
ミ「え!・・・どうしてそう思うの?」
ぎこちない笑みが鏡越しに私を見てる。バレバレじゃんw。
ハ「だって、さっきラスカルのレイプ疑惑が消えたときさ、すっごく安心していたでしょ?あれは
責任問題とか犯罪問題ではないという安堵とは違うよ。でしょ?ほら。古い友人には話していい
んじゃない?」
背中を流し続けながら、鏡越しに微笑んであげる。大丈夫、話しちゃおうよ。
ミ「うん・・・。軍医から聞いてはいたけど、未遂って事もあると思って。状況がはっきりしないから
私は黙っていたのよ。でも、内心は・・・もしそうだったら、って。怒りがね・・・。行動は軽いけれど、
もっとしっかりした人だと思っていたから・・・」
「一人になって、なんかおかしいって思ったの。なぜ、こんなに怒っているのだろうって。じっくり
考えると、あの人を信じていた私への怒りなの。それは・・・つまり・・・」
ハ「彼を好き・・それ以上の気持ちになっていたことに気付いた、んだ」
ミ「うん・・・。きっとそう」
顔が真っ赤だ。純だよ、ミーナは。
ミ「今は自己嫌悪よ・・。何もわからないのに疑い始めていた・・・」
そんなに・・・。負けてる、わたし。私はほっとしただけだった・・・。
ハ「そうか!よしよし!なら、これからはライバルだね!」
ミ「フラウ!あなたも本気で?」
ハ「うん!これだけ私のハートを熱くした男はいまだかつていない!上玉見っけた!!」
ミ「え・・・でも・・・」
ハ「ライバルがいたほうがいいんだよ?ラスカルが気持ちを決めるまでは!恋のライバルが
いてこそ女は輝くのだ!わっはっはぁ!」
ミ「はぁ~・・・。フラウ、私、もう負けちゃいそう」
むぅ。弱気になった。駄目だよ。どれ。
ハ「やったぁ!残るはトゥルーデだけだ!攻めるぞぉ!電撃戦ぢゃあ!」
ミ「ええ?トゥルーデも?そうなの?」
オメメまんまる。可愛いなあ~♪
ハ「でなきゃ、ああまで一撃にチカラを込める?それまでは結構仲良くやっていたんだよ?」
ミ「あ・・・なるほど」
ハ「そうだよ~。ライバル3人。三つ巴のラスカル争奪戦だ!あ、ミーナ止めるんだっけ?」
ミ「・・・・ううん。自分の気持ちが有る限り、頑張るわ!」
ハ「そうこなくっちゃぁ!女をお互いに磨きあいましょーー!」
タオルでわき腹に集中攻撃。笑い転げるミーナ。よしよし!・・・・本命はこの二人だろうなぁ。
*********************************************************************************************下10
翌朝。
リーネ達が心配して、豪華版の食事を用意しようとしたけれど。甘いね。大騒ぎ引き起こした張本人
には、バタートースト二枚とスープ、あとは薄いコーヒーだけでいいの。ふふん。エネルギーになりゃ
いいって本人が言うんだからいいの。まあ、バターはタップリ塗ってあげよう。ジャムも塗っとく?
ヨシ出来た。深刻そうな顔をして、食堂を後にする。寝ていないからそんな顔は自然とできる。後ろ
からは声一つ聞こえてこない。うーん、シリアスな展開です。この後をお楽しみにw。
鍵を開けて黙ってはいる。入り際、来た方向をちらりと見る。何か動いたw。
ベッドに腰掛けて、床を見ている。寝ていないな。ベッドが乱れていない。ずっと考えていたんだ。
ハルトマン「メシ。食べて。すぐ下げるから」
勤めて冷淡に話す。コーヒーにも手を伸ばさない。返事くらいしなよ。
ハ「ルッキーニ、レイプされたんだってね」
これまた平坦に話す。
バルクホルン「!!!!! 皆知っているのか?」
キッと私の顔を睨む。黙ってみていると、涙が溢れ出した。
バ「私が・・・もっと早く見つけてやれば・・・!」
ハ「事後だったから、元凶の俺を殺そうとした」
バ「解らない・・・気付いたときには終わっていたんだ・・・」
やれやれ。
ハ「このっ!バカタレのシスコン!どあほう!」
腹にチカラを込めて思い切り怒鳴る。
トゥルーデがビクンとした。私を見直した目が見開かれている。
バ「シスコン?・・・私?」
ハ「トゥルーデ!あんたがやったのは!人命救助の邪魔をしただけ!危うくルッキーニまで殺す
ところだった!そしてもう一人を殺すところだった!」
バ「いや、私は」
ハ「黙っていなさい!シスコン!いい?ルッキーニは!は岩場で転倒して!怪我をして!
人事不省になっていた!それをラスカルが偶然見つけた!解る!?」
ハ「急いで自分の服で応急手当をして!医務室に運んでいる俺を!」
ハ「シスコンに狂ったバカが殺そうとしたんだよ!」
どう?少しは奥に隠れた頑固ハートに届いたか?
ハ「トゥルーデ!あんたどのくらい呆然としていたのさ!答えなさい!」
バ「・・・解らない。何も・・覚えていない。気付いたときは・・・」
号泣しだした。ああ、もう。
ハ「岩場には1リットル近くの血が溜まっていたよ。人間の血液は成人で4リットルちょっと」
ハ「1リットルってのは、危険領域なの!トゥルーデが邪魔した。貴重な時間を!」
肩を震わせて泣いている。そろそろお仕舞いにしよう。私だって辛いんだ。
ハ「ラスカルがしっかり応急手当をしてくれていたから。トゥルーデも我に返るのが早かった
んだと思う。ともかくルッキーニは助かった。本当によかったよ」
ハ「事故現場は私とミーナで見つけた。あんなところでは、見つけてもらった事すら奇跡よ。
ラスカルが見つけなければ、いまごろルッキーニは死んでいた。気温も低い、海の水も
増していたんだもの」
ハ「トゥルーデ。あなたの思い込みが全てを台無しにしてしまうところだったの」
バ「・・・・・・・・・」
ハ「トゥルーデが、サーニャやリーネ、ペリーヌ・・・私達を妹のように思ってくれていることは
よく解っているよ? 有難う。でもね、あなたは思い込みが激しすぎるの」
ハ「トゥルーデの気持ちはとても嬉しい。でも、その気持ちが暴走したら・・・酷い事になる」
ハ「もっと、大きな気持ちで私たちを守って」
ハ「そうしていてくれたら、今回の事も。ラスカルを誰何すれば解ったことでしょ?」
じっとトゥルーデが答えるのを待つ。ちゃんと聞いてくれた?トゥルーデ・・。
バ「・・・・・・ああ。確かにそうだ。そうすべきだった。それなのに・・・」
ハ「うん。誰でも失敗はあるよ、トゥルーデ」
「お願い。もう泣かないで。・・・・これからも私たちを見守ってね。お姉ちゃん」
トゥルーデの脇に座り、思い切り抱きついた。私も涙が出てきて止まらない。
言い方、きつ過ぎたよね。ごめん、トゥルーデ・・・。わかってよ・・・。ごめん。
*
ドアの外では、シャーリーとミーナ以外の隊員がへばりついて内部に聞き耳を立てている。
最初は全員蒼白。怒鳴り声が聞こえだしたときは皆縮こまった。
今は、みな安堵して涙ぐんでいる。
*
ハルトマンはトゥルーデが落ち着くのを待って、彼女を風呂に送り届けた。リーネに頼んで、
トゥルーデが馬鹿なことをしないよう、見守ってもらうことにする。そして、ミーナの部屋に向かう。
いきさつを話し、ミーナも安堵。少し時間が経てば、トゥルーデは元に戻るわね。あとは俺さん
がどう動くか・・・。
ハルトマンが次に向かったのが病室のシャーリー。
勤めて冷静に、経過を話す。すぐにシャーリーも納得した。彼女もほっとしている。
部屋を辞そうとしたとき、ルッキーニがパッチリ目を開いた。痛み止めが効いているようで
シャーリーに笑顔で話しかける。シャーリーの問いにもしっかり返答する。軍医も安心している。
一安心。ミーナに私から伝えるよ、お大事にね、と手を振って退出。
途中、食堂によってみんなに報告。やっと笑顔が戻った。
あとは、俺の回復を待つだけとなった。
海兵隊だから心配要らないよ、と皆互いに言い合う。
***
シャーリー「で、ラスカルが目覚めたらどうする?普通にいけば、隊内での暴行傷害罪。同国人相手なら
まだしも、下手すりゃリベリオン政府が乗り出すぞ?バルクホルン、強制送還だろ?」
ミーナ「ええ。そうなのよ。軍籍剥奪かも・・・」
シ「頭痛いなー」
ミーナ「一生、眠り続けるとか、記憶喪失とかになってくれないかしらね」
シ「あw ひでぇww。何か考えているね?その顔は。悪い顔をしてるw」
ミ「うん。そうなのよ。色々考えたんだけど、俺さんに正直に事情を話して、黙ってもらおうかと
思うの」
シ「やっぱり、それしかないかなぁ」
ミ「でしょう?私からお願いしてみるわ」
シ「ああ。ところで、あの拳銃だけど。本当に撃たせる積もりだったのか?奴が逃げたりした時」
笑い出すミーナ。なんだ?という顔のシャーリーに、引き出しから取り出した拳銃を投げ渡す。
シ「おい!危ないって!」
ミ「ううん。絶対安全。だって、弾を薬室に入れてないものw」
シ「え?だって、中佐は確かめたじゃないか。スライド引っ張って!」
ミ「ふりよ、ふり。ああやったら皆信じるでしょ?見て御覧なさいw」
シャーリーが弾倉を抜く。これはフル装填されている。そのまま、思い切りスライドを引くが。
薬室から弾ははじき出されなかった。なるほど。
シ「バルクホルンも知らなかった?」
ミ「ええ。カールスラントの軍規では、前線では装填しろとなっているから。そう思い込んでいるわ、
トゥルーデw。 あなたも騙してごめんなさい」
悪いお人や、と笑うシャーリー。前と同様にしたことを明らかにして、ミーナに銃を返す。
ミ「この部屋の中では、必要ないもの。それに、装填した銃が机にあるって怖いわよ?
カッとなってぶっ放したりしたら大変w」
けらけらと笑うミーナを呆れ顔で見るシャーリー。自制心に限界を感じてるの?ミーナ。
気をつけよう。怒らせないことだ。
*****
その昼。ようやく俺が目覚めた。
付き添いはハルトマン。
ハルトマン「ラスカル? わかる?」
俺「よぉ、フロイライン。今日も綺麗だね。お目覚めのキスは?」
ほっとしつつ、念を押す。
ハルトマン「この指何本?」
三本。
俺「ん?・・・13本w」
このw。
俺「ルッキーニは?大丈夫?間に合った?」
ハルトマン「うん!有難うね。横の部屋にいるよ。シャーリーが付き添ってる」
やっぱり、まともな人だった、と胸を撫で下ろす。
俺「よかった! でさ、俺は何でここにいて、そして頭がグァングァン痛いんだ?」
正直に話すハルトマン。
俺「そうか・・・誤解させてしまったか。すまん事をした。彼女は悪くない。俺の責任だ」
ハルトマン「そう、証言してもらえるかな・・・」
俺「それだと、罪が軽減されるだけだ。任せておけ。ミーナさんを呼んでくれるか?」
数分後、ミーナと軍医が来た。
俺「どうも。またご迷惑をかけてしまった。すみません」
ミーナ「いいえ。お加減大丈夫?」
俺「ええ。ミーナさんの笑顔で元気になりました」
ミーナ「無理はしないでくださいね。それで・・この事故の件なんですけど」
俺「はい。経過は次の通り。風呂前にウィスキーをシコタマ呑んで、外の風に当たろう
と散歩に行きました。岩場で懐中電灯の光を発見。確認したところ、ルッキーニさんが
頭部から出血して倒れていました。急いで応急手当をし、抱いて運んだのですが酔って
いたため転倒、私は頭を何かにぶつけました。必死に運んでいるとき、誰かが見つけて
くれまして、其処で失神。気付いたらここに居ました。以上です。」
ミーナ「・・・・・・・・・」
じっとミーナが俺の顔を見つめる。
俺「酒量は今後注意します。申し訳ありません。マァム」
軍医「ま、程ほどにね。海兵隊には酒は大事だろうけど。でも、ルッキーニ少尉を救助して下さって
ありがとう。見事な応急手当でした。いろいろ、危なかったんです。礼をいいます。後でウィスキー
差し入れますからw。いい奴があるんですよ。あ!ただし、酔っ払っての入浴は厳禁ですよ?当然
飲み始めるのは退院後、ですw。ああ、後で一応レントゲン撮りましょうね」
俺と軍医が握手。ミーナはまだ黙っている。
軍医が出て行くのを待って、ミーナが口を開いた。
ミーナ「よろしいの?さっきの話で」
俺「真実はこれ一つです」
ミ「・・・センパー・ファイw?」
俺「仲間への忠誠は絶対です」
ミ「ありがとう。では、軍医さんにもサインしてもらってこれでお仕舞いにします。早くよくなってね。
俺さん」
俺「2日で治しますよ」
ミ「無理しては駄目です。軍医さんの許可が出てからですよw」
俺「イェス マァム!」
ミ「はい。結構ですw。私はそろそろ。あ、元気になったら、この前のお酒、ご一緒してくださる?」
俺「生きる希望が湧いて来ました。モリモリとw」
二人で笑うが、しかめっ面になった俺をミーナが心配する。ちゃっかり手を握って。
*
その夕方。バルクホルンが沈痛な面持ちで病室を訪れた。
俺を見舞いに来ていたリーネとサーニャ、そしてエイラが気を利かせて退室する。
バルクホルン「済まなかった。私が勘違いをして・・・とんでもないことをしてしまった」
俺「いや。違う。私が勘違いさせるような行動をとった。それがそもそもの誤りだ。トゥルーデ。君は
悪くない。気にしないでくれよ」
バ「でも!」
俺「座って?よく話しを聴いてくれ。
俺が逆の立場だったら?そう考えるとね。トゥルーデ、君の怒りもよくわかる。私も仲間が大事だ。
今までも、今もね。一番の原因は、俺の軽口だ。済まなかった。
だから、いいんだ。この話はこれでお仕舞い!ほら、握手?」
バ「・・・・」
俺「よし!これで元通り。で、トゥルーデ。一つお願いがある。聞いてくれる?嫌なら、そう言って
くれればいい」
バ「どんな話?」
俺「うん。ずうずうしい話だ。えとな、リベリアンには、海兵隊のイメージが出来上がっているんだ。
海兵隊=こういう姿 って奴ね」
バ「うん」
俺「で、そのスタイルというのが。喧嘩っ早い。大酒のみ。態度がでかい。女性に積極的。女子供には
優しい。まあ、こんなところ」
バ「ラスカルそのものw?」
俺「だろう?俺は立派なマリンコーなのさ。俺もこのスタイルの中で生きるのが普通になってしまった。
なので、口先だけは今までどおり・・・若干遠慮はするけれども、その路線で生活させて欲しいんだ。
そうでないと、どうもやり難い。皆に平等に接するなら、勘違いは起こらないと思うんだがな。あ、
君たちの側だ。あいつはだれにでも~、誰が本気にするかボケ~、となる筈なんだ。
どうだろう、トゥルーデ。まだ心配するか?駄目かな?」
バ「口先だけ?実行はしない?」
俺「うん。まあ、口説くとしてもトゥルーデやミーナくらいの年頃だろう、常識で。立派な社会人だ。
それ以下だと本来なら学生だろ?いかんよ、そりゃ。判断力がまだ、さ。
うん。真剣に恋をするなら、君たちの年頃を相手に選ぶ。二人でお互いの年季があけるまで、静かに
待つさ。傍にいてくれるなら、セックスはいつでもよく思えるさ」
バ「お前なあ・・・/// 。 えーと、その常識はラスカルの常識w?世間の常識w?」
俺「どっちでも!15くらいだと、少し年の離れた妹分だろう?普通」
バ「そうだよね」
俺「どうだろうね?監督者さん」
バ「・・・・お互いが、真面目な意味で好き合うならいいんじゃないか?な?」
俺「は?」
バ「だから!遊びとかいい加減な気持ちでは困るがな!本気で愛し合うなら邪魔はできないだろう、と
な・・・考えるようになったのさ」
俺「なにやら心境の変化もあったのかもしれないが・・・経過は聞かないよ。えーと。なので、口先で
今後もですね」
バ「任すよ、ラスカルの常識に。もし、私の常識を超えそうだったらその時は」
俺「いいよ。また蹴るなり殴るなりしてくれればいい」
バ「頭グリグリぐらいにしておく。でも、先に言葉で言うから」
俺「ところで、これはどうやったんだ?」
バ「私も・・・気が付いたら終わっていたんで。本当にすまん」
俺「いいんだ。で、無意識で?一撃だったはずだぞ?うへぇ~海兵隊になれよw」
バ「いやいや、ご遠慮するよ。変態になってしまうと知ったしw」
俺「あはは。戦う変態だぞ?社会的認知もされてるのにw。多分、回し蹴りかなあ?凄いもんだ」
ドアに寄りかかったハルトマンが微笑む。よかった。仲直りできたね。
で、私の年でも真剣ならヨシとトゥルーデも言ったし。ふふふ。馬力あげるぞぉ!ゴールは
まだ先。今はミーナとトゥルーデが半馬身有利ってだけ!
*
俺が退院するまでに、二度の攻撃があった。俺はベッドで切歯扼腕するが、新装備のスーパー
バズーカの威力もあって難なく撃墜した。皆がその話しをしに行くと、ぜひその場面に立ち会い
たかった、一緒に戦いたかったと悔しがる俺。けが人は寝ていろ、と冷やかされて怒る。が、笑い
がすぐに取って代わった。
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最終更新:2013年02月02日 12:07