「蒼穹の絆3-10」

―小悪魔策動―

ミーナ「トゥルーデ、急に呼んでごめんなさいね?」

バルクホルン「構わないよ、ミーナ。用は何だ?」

ミーナ「ええとね。最初に断っておくけど、落ち着いてね?」

バルクホルン「私はいつも冷静だ。早く言ってくれ」

ミーナ「俺さんに手紙が届いたの」

バルクホルン「珍しいな、初めてだろう?手紙が来るなんて」

ミーナ「そうね、身寄りのない人だから。それが女性からなのよ」

バルクホルン「・・・・どこの?」

ミーナ「ロマーニャ海軍。ハイジ・ドゥランド・デラペンネ中尉」

バルクホルン「!」

ミーナ「司令官権限で、検閲することもできるけれど・・・」

バルクホルン「」

ミーナ「どうする?」

バルクホルン「いや。彼に読んでもらおうと思う。私の前で」

ミーナ「私は俺さんを信じているわ、トゥルーデ」

バルクホルン「ああ。きっと大丈夫だ」

*


バルクホルン「お前を決して疑うわけではないが・・・私の気持ちを察して貰いたい」

俺「ああ。よく解る。済まない。彼女は先のマルタ偵察のとき、行きに手伝ってくれたウィッチ
 だよ。特殊潜航艇のパイロット。俺が声に出して読もうか?」

 思い切り安堵の表情を浮かべるトゥルーデ。すまん。心配かけてしまったな。

バルクホルン「いや・・・やっぱり止す。お前を疑った自分が恥ずかしい」

俺「いいや。普通そうだと思う。逆の立場だったら俺もな。じゃあ、読むから」

 返事を待たず、ポケットから折りたたみナイフを出して封を切る。彼女が息を呑むのが解る。
 大丈夫だよ。やましいことなど欠片もない。
 折りたたまれた紙を開く。

 うーん。

バルクホルン「・・・・どうした?」

俺「こりゃ、ちょっと読めない」

バルクホルン「お前・・・まさか!」

俺「待った!違う!イタリ・・・ロマーニャ語で書かれているんでチンプンカンプンなの!」

 一瞬高まった緊張が緩んだ。やれやれ。なんて書いてあるんだか。彼女に手紙を渡す。読める?

バルクホルン「私も読めない」

俺「参ったね」

 二人で苦笑い。

俺「あ!ルッキーニ君なら読めるぞ!読んで貰おう」

*


 談話室でシャーリー君と一緒にいるルッキーニ君を見つけた。事情を話し、読んでもらう。
 手にはペンとメモ帳。一応返事は書かないとな。

ルッキーニ「ねえ。いいの?声に出して読んで?」

 なぜトゥルーデをちらと見る?構わん、読んでくれ。

ルッキーニ「いいなら行くよ!」

 メモ準備ヨシ!翻訳よろしく!

ルッキーニ「愛しの俺。あなたに出会えた事を神に感謝しています。あなたの声を思い出して枕を
 濡らす毎日です。ベッドで触れたあなたの厚い胸を思い出して、毎日溜息を漏らす私です。どうか
 早く私を抱き締めて。愛の言葉を耳元で囁いて。あなたは私のアポロンで――――」

 なんだそりゃ!
 固まっている俺の顎にショックが走る。暗黒が訪れた。

*


俺「・・・・あれ?俺どうしたの?」

 眼が覚めた。なんで、床に寝ているんだろう。
 なぜ、トゥルーデが泣きそうな顔で俺を・・・膝枕?どうしたんだっけ?なんだか頭がぽわーんと。
 膝枕あったけー。柔らかい。あれ。彼女が冷やしたタオルを顎に当てている。冷たくて暖かくて
 柔らかい。

バルクホルン「ごめん・・・」

ミーナ「ああ、良かった!気付いたわ!」
シャーリー「あ!生きてた!いやぁ一撃だったな!」
ハルトマン「トゥルーデったら・・・見事にのしたよね」
坂本「気付いたか?色男!はっはっは!」
リーネ「大丈夫ですか?芳佳ちゃん!濡れタオルもっと!」
エイラ「女難の運気ってのは、これカ!」

俺「あーっ!なんだよあの手紙!」

 思い出したぞ!誤解されるじゃないか!       あ。誤解されたんだ。

ルッキーニ「だから読んでいいのかって聞いたんじゃん。ウヂュー・・・・大丈夫?」

シャーリー「ルッキーニのせいじゃないよ。あの色男が悪いの」
俺「事実無根だ!ベッドから俺は飛び出したぞ!抱き締めてなんかいないから!」

 周りが爆笑する。笑わないのはトゥルーデだけ。ん???

ミーナ「大丈夫よ、誤解は手紙の後ろのほうを読めば解けたから」

俺「は? まあ、それならいいですけど。なんて書いてあったんで?」

皆がトゥルーデを見る。ああ、手紙を持ってるわ。

バルクホルン「ええと。要約すると。私の誘いを一切蹴ったのは俺が初めてだったって。そんな俺に
 恋心を抱いたけど、恋人しか眼にないあなただから諦めるって。そう書いてあったそうだ」

 ほっとため息を漏らす。なんちゅう手紙書くんじゃ、あの小悪魔。

ミーナ「困った子ね。ロマーニャの女性は情熱的だというけれど」

 皆がルッキーニ君を見る。

ルッキーニ「だって~。ロマーニャの女の子は恋していないと死んじゃうもーん」

シャーリー「おやおや。ルッキーニは誰に恋しているんだい?」

ルッキーニ「シャーリー!大っ好きーーーーーーーーー!」

ハルトマン「確信犯だね。トゥルーデと俺の間にちょっと騒ぎを起こして、更に結びつきを強くして
 やろうとしたんでしょ」

エイラ「そういうやり方もあるのカ!」
サーニャ「・・・・やめなさい、エイラ」
ペリーヌ「親切といっていいのかどうなのか・・・」
坂本「見事な策謀だな!はっはっは!」
ペリーヌ「全く見事です!参謀になれるかも!」
宮藤「笑い事じゃないです!」
リーネ「男女の恋って・・・難しいですね」

バルクホルン「殴り斃して済まなかった。大丈夫?痛む?」

俺「いいよ。誤解が解けたならそれでいい。痛くないよ。居心地いいし。な、ぷう?」

 俺と一緒になって、トゥルーデの腿に必死に顎を乗せているぷうがいた。

ミーナ「あらあら、ぷうまで」
シャーリー「居心地よさそうだね、確かに!」
ルッキーニ「シャーリーの太腿のほうが、あたしは好きー!!」

 全員大笑い。やっとトゥルーデも笑ってくれた。


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最終更新:2013年02月02日 12:15