「蒼穹の絆4-2」

―ティーガー―


 その晩の食事は、俺が作成することになった。リベリオン国籍だが、生まれはブリタニア領の
 インド帝国なのだそうだ。シャーリーとルッキーニ、それにリーネが興味深々で見物中。

ルッキーニ「インドって、マハラジャとかいるんでしょ?アラビアンナイトみたいな!」

俺「うん。州に一人とか。土豪だね。金持ちだよ。その子供と友達だった」

シャーリー「牧師の子供とマハラジャの子供が友達?そりゃまたどうして?」

俺「親が、その子の教育も面倒を見ていたんだよ。後数年したらブリタニアの大学に来るか、もし
 かしたら全寮制の高校とかでもう来ているかもしれないね、こっちに」

リーネ「あ!そういう生徒さんがいるって、兄から聞いたことがあります」

ルッキーニ「俺、大学は?」

俺「休学したんだ、リベリオンの大学ね。中学はリベリオン、高校はインド。なんだか良く解らんナ」

 皆笑う。複雑だ。

リーネ「俺さんの使い魔、あれは虎ですか?すごい綺麗な縞々でしたけど」

俺「うん。ベンガル虎。子供の頃から仲良くてさ。あいつが死ぬとき、俺にくっ付いたの」

ルッキーニ「え!人を食べちゃうんじゃないの?虎でしょ?シャーリー、怖いよー」

俺「いや、あいつは土地の守り神だったんだ」

シャーリー「大丈夫だよ、ルッキーニ」

リーネ「仲がよかったって・・・野生ですよね?」

俺「うん。飼い主は見当たらなかったナ。首輪もなかったよ」

 皆笑う。リーネとルッキーニの笑いは少し引き攣っているが。

俺「大丈夫だよ。俺とは10年以上の付き合いだったから。尻尾触ってみる?手触りいいんだ」

 くねくねと動く尻尾を展開。早速三人がそれと遊びだす。

リーネ「うゎぁ。初めて触っちゃった。しなやかで柔らかい」
ルッキーニ「ツンツン・・・噛み付かないよね。あ、気持ちいい。暖かい~」
シャーリー「ルッキーニだって黒豹だろ?同じようなものじゃないか。あははは」
ルッキーニ「ねぇねぇ、俺ー。あとで虎耳も触らせて~♪」

リーネ「どうやって知り合ったんですか?」

俺「野山でキャンプしていたら、朝方俺と一緒に寝ていたんだ。それが付き合いの始まり。コブラの
 捕まえ方とか教えてもらってさ~」

ルッキーニ・リーネ「「毒ヘビのコブラ?!」」

 二人がシャーリーを見る。リベリアンって皆そんなにワイルドなの?
 見られたシャーリーは困惑顔で顔を横に振る。普通じゃないから、コイツは。一緒にしないで。

俺「よし!カレー出来上がり!次はチキンだ!なあ、みんなでこれにカレー粉を軽く振ってよ。その
 あと小麦粉も軽くね!」

―――

俺「辛いのが好きな人は?そのほかの人には普通の辛さで渡すよ」

 辛目を希望したのは、ミーナ中佐・坂本少佐・ペリーヌの三名。

ミーナ「では、いただきましょう」

坂本「ほう?結構さらさらしているんだな?海軍のとかなり違う」

俺「ああ、ブリタニア風だと粘性がありますね。インドのは、こんなもんです。どうですか?辛さは」

坂本「うん・・・余り大したことがないな」

ペリーヌ「まだまだ大丈夫ですわ」

ミーナ「おいしい♪」

 俺が意味深な笑いを浮かべる。ルッキーニはチキンが気に入ったらしい。

ルッキーニ「このチキン、パリパリジューシーで美味しい!カレーも美味しい!」

坂本「うぉ!!!・・・・」

ペリーヌ「グフッ・・からぃ・・み、水・・・」

ミーナ「丁度いい辛さね♪おいしい♪」

 三口目辺りで顔が真っ赤になった坂本少佐とペリーヌ。俺がにんまり笑う。

俺「後から来たりもしますね。なれるとそれが病み付きになりますよ。扶桑の米、美味しいナ!」

バルクホルン「美味しいな、ハルトマン!」

ハルトマン「うんうん。野菜も美味ひい!ジャガイモ最高!」

シャーリー・ルッキーニ「「普通の!おっかわりー!」」

――――

俺「俺に何か用かナ?」

整備長「ああ。用がなけりゃ、そんなむさいツラしたのを呼ぶわけがない」

俺「あはは。そりゃこっちも同じだ。こんなしけたツラ見るよりも美人の顔を見ていたほうが
 なんぼかいい」

防衛班長「それが気に喰わねえ。俺たちの女神をなんだと思ってやがる!いってみろ!」

俺「ふむ?普通の女性。それが気に食わないなら戦乙女。容姿端麗なセクシーダイナマイツ。ほれ、
 ちゃんと複数形にしたぜ?ついでに言えば、ここにいるアホより頭も性格も良いしナ」

整備兵1「てめえ・・・」

俺「バスタードなんて汚い言葉使うなよ。マスタードにしろ。ホットドックには必要不可欠だぜ?」

整備兵2「班長。こいつやっぱり!」

防衛班員「班長!袋にしましょう。でケエ口叩けなくしてやらなきゃ気が収まらねえ!」

俺「やっかみじゃないのか?俺は空で戦える。お前等は残念ながら・・・・しょうがないじゃないか」

「「「「「「「「「「「「「貴様!一番気にしていることを!」」」」」」」」」」」」」」

?「やっちまえ!連帯責任だ!」
?「おう!重営倉でも軍刑務所でも!」
?「かまうこたぁねえ!」

俺「よっしゃ、お祭りだ!かかってこいや!雑魚共が!」

 休憩所の窓から人間二人が射出され、窓ガラスと共に地面に転がる。起き上がった二人は、頭を
 振ってから怒号と共に窓から部屋に戻っていった。10分ほど騒乱が続いたが、そのうち静まる。

 壊れたドアから一人が出てきた。脚のふらついた数名が追いかけようとするが、振り返った男に
 制圧される。憲兵が静かに腕を取るが、男は抵抗はしない。

――――

坂本「気性が荒いと聞いていたが、普通のストライカーパイロットだな。安心した!ハッハッハ!」

リーネ「落ち着いた方ですね。言葉遣いも普通ですし」

エイラ「でも男が一緒に寝泊りするって、やっぱり・・・サーニャはどう思う?」

サーニャ「・・・笑顔が・・・」

エイラ「うん?」

サーニャ「楽しそうに笑う人」

ハルトマン「ああ、眼でも笑うね、俺」

サーニャ「うん。いい人だと思う・・・」

ペリーヌ「ヒマワリのような笑い方をしますね。回りも明るくなります」

シャーリー「破天荒だよ、あいつ。インドの高校卒業して、リベリオンの大学に入るときも無茶な
 冒険してるし」

ルッキーニ「普通じゃないよねー!びっくりしちゃった」

バルクホルン「どんな無茶だ?」

シャーリー「インド北方のマスーリから、自転車でヨーロッパまで横断したんだと!」

「「「「「「自転車ぁ?」」」」」」

シャーリー「遺跡とか見て回りたかったんだってさ」

ペリーヌ「何千キロあるんですか?何万かしら?」
坂本「ほお、根性がある!」
ハルトマン「うわーーーー。途中砂漠とかあるよ?」
バルクホルン「信じられん。治安だって・・・なあ?」

リーネ「野性味のある人ですけど、ロマンティックですね」

坂本「そんな奴だから、海兵隊でもやっていけるのかもしれないな。いや、面白い!」

シャーリー「ロマンティックで野生的なアホかな?嫌いじゃないや」

ルッキーニ「シャーリーみたいなおっぱい無いけど、あたし俺好き!トラだし!」

バルクホルン「・・・・ティーガー、か」

ハルトマン「冷静なティーガーだね」

リーネ「タイガーって、普通は好戦的で諦めの悪い・・・狂戦士・・・」

――――

ミーナ「それで?乱闘の理由は?」

 俺中尉と整備及び防衛班長の三人が、憲兵に引っ立てられてミーナ中佐の執務室に連れてこられた。
 俺はボタンが飛んだシャツとみみず腫れ、爪で皮膚を削られた傷等が目立つ肌程度だが、残り二人
 はかなりのあざと鼻血、そして唇も切れている。

俺「えー。私の特技はレスリングでして」

ミーナ「特技がどうしました?」

俺「彼らに実演して欲しいと頼まれて、最初は1対1でしたがすぐに決着が付いてしまいました。
 それで、何人まで対抗出来るか、という興味深い提案から、結果は全員で試してみたわけです」

 ミーナは残り二人と憲兵隊軍曹を見る。軍曹は笑いを堪えている。二人は、直立不動のまま。

ミーナ「なるほど。実演ですか。軍曹、あなたはどう見ますか?現場を知るのはあなただけです」

軍曹「はっ!派手すぎる実演であった様子です!私が勘違いをしてしまうくらいに!」

 ミーナは内心舌打ちをする。俺中尉の話に乗っかったわね。まあ、良いでしょう。

ミーナ「解りました。変な場所で発散しないようにしてください。三人とも意味を理解しましたか?」

「「「はっ!」」」

ミーナ「では、不問に付します。損害は皆で補填してください。下がっていいわよ」

 四人が揃って敬礼をし出て行く。ドアが閉まった。やれやれ。海兵隊の一面か。20数名相手に乱闘
 して、勝って、そしてケロリとしているってのは・・・凄いんだろう。

 ドアの外で起こった笑い声に苦笑いする。まあ、禍根は残らないみたいね。

―――――

俺「リーネ~。なんか食うものあるかナ?」

リーネ「あ、俺さん。何か作―きゃあああっ!」

俺「わっわっわっ!どうした!ゴキブリか!」

リーネ「俺さん?ですか?」

俺「うん。私だよ?」

リーネ「ごめんなさい!絆創膏だらけで、吃驚しちゃったんです・・・」

俺「あ、ゴメン。ちょっと運動会をね。で、なにか食うものあ―――」

バルクホルン「どおしたあああああッ!リーネ!」

リーネ・俺「・・・」

バルクホルン「俺中尉!おまえその格好は?」

俺「あ、ちょっと格闘技の実演講習会を開いてね。熱が双方はいりすぎて。あはは」

バルクホルン「爪の痕じゃないか。殴り合いが格闘技か?勝ったか?」

俺「楽勝」

バルクホルン「ならば、まあ、いい。で、リーネ?今の悲鳴は?」

リーネ「あの・・・俺さんの顔を見て吃驚しちゃって・・・ごめんなさい」

バルクホルン「無理もないな。で、お前等ここで何――」

ハルトマン・エイラ・サーニャ「どうしたの?」「わっ!ひでぇ顔!」「きゃ!」

 頭をかきつつ説明する俺とリーネ。

ハルトマン「やっぱりティーガーだね。で、何か食べるも―」

バルクホルン「なんでもない!静まれ!」

 手を上げて制止する先には、シャーリーとルッキーニ。

シャーリー「何かあったの?ねえ、リーネ、小腹減っちゃってさ。何かある?俺、何処で暴れ
 たんだ?駄目だよ」

ルッキーニ「シュピー。トラぁ、暴れちゃ駄目!」

俺「皆、済まん。お詫びにスパゲッティでも作るよ。15分・・20分くらいか、待っててくれるか?」

 皆から歓声が上がった。缶詰のソースではいまいちと、それにホールトマト、調味料を加えて
 ソースから作り直し。人数が多いからと、部屋から持ってきた銃剣でジャクジャク缶を開けて
 鍋で煮込む。

バルクホルン「俺。銃剣を缶きりの代わりにするのは感心しないな。官給品だぞ?」

俺「ネウロイ相手じゃ、ねえ。便利だからいいじゃない。缶きりよりずっと早いし」

ハルトマン「さすが海兵隊」

俺「褒められているのかな?うーん?」

 寸胴鍋でお湯を一気に沸かし、塩をぶち込んでパスタを茹でる。リーネはパルメザンチーズを
 すりおろししてくれる。皆、椅子に座って談笑しつつ待つ。

 坂本も顔を出し、ミーナを連れて戻ってきた。ミーナと眼が合うと、照れくさそうに俺が笑う。

俺「はい。お待たせ。サレルノ風俺アレンジだよ。沢山召し上がれ!チーズ多めに振ってね」

ミーナ「有難う。俺さんは特にお腹がすいたでしょう。殴り合いの喧嘩 いえ、格闘技をした後で
 すものね。沢山食べてください。あ、私が作ったわけじゃなかったわね」

坂本「喧嘩も格闘技だろうな」

 皆笑う。ミーナから、絆創膏の由来と武勇伝は皆が聞いた。

ルッキーニ「わぁ!ママンのパスタとちょっと違うけど、すっごく美味しー!」
ハルトマン「おお!このソースの濃は!」

 ニコニコ笑いながら、ルッキーニを見る俺。
 ルッキーニの反応を見てから、フォークを取ったのは坂本とペリーヌだった。

―――――――

坂本「やぁっ!」

 左上段から一気に白刃を振り下ろす。柄を絞るようにしてぴたりと止める。

坂本「はぁっ!」

 ピッと返した白刃を真横に払う。
 正眼に戻し、切っ先に意識を集中。首筋に汗が伝うが全く気付かない。

 起床ラッパが基地に響き渡った。ふっと丹田に溜めていた気を消す。殺気が消えた。
 静かに刀を鞘に納める。深呼吸。冷えた朝の空気をまた感じる。

 射撃場から大口径ライフルの速射音が響いてきた。リズムに乗って8回。少し間をおいてまた
 繰り返される。

坂本「俺中尉か。あいつは毎日ちゃんとやるな」

 朝の自己トレーニングは、坂本と多少時間が異なるが俺の内容を知っている。3キロを結構な
 スピードを保って走り、その後起床ラッパが鳴るまで筋力トレーニング。ラッパが鳴った後は
 音を出してヨシとして射撃練習。

坂本「どれ。ちょっと覗いてみるか」

 射撃場に近づくにつれ、音は腹にこたえる響きとなる。途中で魔力を展開し、耳のダメージを
 防いだ。

 俺が腹ばいになってライフルを構えている。周囲は硝煙のにおいと焦げた匂いが漂っている。
 坂本が魔眼で標的を覗く。300ヤードで全弾10点圏の中央に着弾しているのがわかる。

 暫くすると、俺が射撃を止めた。ストックから薄く煙が立ち上っている。銃身と接した部分が
 焦げたのか。

坂本「おはよう。俺中尉。毎朝熱心だな」

俺「おはようございます。少佐。少佐もそうでしょうが」

 イヤマフを外した俺が笑う。

坂本「お互い様か。ところでそれは・・・歩兵用の小銃か?」

俺「ええ。リベリオンのM1ガランドです。我々海兵隊もこれが主力ライフルでしてね」

坂本「しかし、お前はウィッチだ。もっと大口径のM2重機関銃を使っているじゃないか」

俺「ええ。でも、何時魔力を喪うのか解りません。航空適性も怪我などで失くすかも。その時は
 只の海兵隊員に戻って戦いますから」

坂本「其処までするのか?」

俺「海兵隊は将軍からコックまで、全員がライフルマンなんですよ。銃を撃てるなら戦い続けます」

坂本「ウィッチやパイロットも?」

俺「当然そうです。年に一度のテストにパスしないと、首ですから」

坂本「将軍も?」

俺「撃っているところは見たことありますよ。ベタ金が戦闘服を着てね。結果はどうか知りません。
 もしかしたら、二三人首になったかな?」

 二人で笑う。将軍が首になったら!

坂本「何時まで続くんだ?」

俺「棺おけに入るまでです。ジーサマになっても、海兵隊賛歌を耳にしたら安楽椅子から飛び上が
 って直立不動、歌いだします。それが海兵魂です。常に忠実であれ、退役しても心の軍服は脱ぎ
 ません」

 礼を言って、射撃場を後にする。

坂本<将軍からコックまで・・・か。なるほど、シャーリーが『合衆国の誇り』というわけだ。いや、
 凄い・・・。私も・・・かく有りたいものだ。男も、ああであって欲しいものだ>


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最終更新:2013年02月02日 12:17