「蒼穹の絆4-6」

―ガリア―



 夜間警戒班が2組に増強された。日中は荒天でネウロイの襲来がなかったため、連中が天候の
 治まっている夜半に強襲をかける恐れを危惧したためだ。俺とシャーリー、そしてサーニャとエイ
 ラがその任に付いた。他隊員は準警急態勢についている。

 沿岸沿いは、ブリタニア防空隊のウィッチと通常部隊に任せ、俺たちはガリア沿岸沿いを飛行して
 いる。我々は高高度で囮兼示威行動、サーニャ達は低高度で探知を目的とした。新月で月明かりは
 ない。とてもきな臭い。

 いつもは軽口を叩き合う俺たちも、黙々と索敵中。

サーニャ「チャーリーセクター。西進する小型飛行物体20を探知。速度5-0-0、高度・・・」

 シャーリーと顔を見合わせる。暗いけど、表情は何とか見える。二人して肩をすくめて御終い。
 俺たちには遠すぎる。防空隊、頼むぞ。頑張れ。

 眼下には、黒々とガリアの大地、そして波打ち際は白く、他はかすかに光る海面が続いている。
 ノルマンディ近くまで来ちまった。折り返そう。インカムが受信のみなので、大声で意思疎通。

俺「折り返そう!」

シャーリー「了解!」

 二機で仲良くターン。今度は俺が海側か。また、黙々と飛ぶ。背中に刺した小型の懐中電灯が
 二人の印。翼端灯は消している。まあ、互いの体から発する微かな燐光はあるけれど。

サーニャ「アラート。エコーセクター、西進する大型2、中型1を探知。高度8」

 うぇ!俺達の受け持ちじゃないの。インカムを送受信とし、軽く爪で2回弾く。

サーニャ「はい。受領を確認。気をつけてください」

 よし。俺たちが次にするのは足止めだ。インカムをきる合図をしあう。よし、切った。彼女も
 自分の首をかききるサインを返す。
 思い切り接近。

俺「ヤバイぞ!」

シャーリー「参ったな!こっちはとりあえず二人だぜ!」

俺「『遠隔点火』で手間を減らそう!サーニャ達が合流するまで!」

シャーリー「大丈夫か!」

俺「やるしかない!とりあえず、敵を確認しよう!」

 シャーリーが大きく頷いて返す。インカムを送受信に。短く送るんだぞ。

俺「サーニャ!目標への最短コース指示を!」

サーニャ「右へ25度。高度差マイナス3、速度そのまま4分後!こちら7分!」

俺「ログ。花火!」

 また受信に。時間差があるから安全距離だな。

俺「高度を4下げよう!識別消して。オケ!手を繋いでいくぞ!」

 見えた。くそ、真上になるまで見えなかったか。確かに3.中型だけ先行している。くそ。一撃では
 無理っぽいな。ありゃ、撃ってくるぞ! ほら来た!

俺「後ろの二機を一度にやれる!俺から十分はなれて!眼を保護するんだぞ!衝撃波もな!」

シャーリー「気をつけるんだぞ!」

 シャーリーの手を握り返し、離す。俺は上昇しつつ反転。数を数える。15カウントでいいか?
 インカムを送受信に。

俺「花火15カウント!」

 撃ってくる奴等から目を逸らさず、回避しつつ距離を置く。用意。

俺「レディ! マーク!」

 眼を覆う。くそ!それでも眩しい!熱い!確認しないと。衝撃波が来る前に敵を見る。
 よし、大型二機撃墜! うお!飛び込みで失敗して腹を打ったような痛みだ。くそ!きつい!

俺「シャーリー!聞こえるか!おい!」
・・・・・
俺「シャーリー!応答しろ!」
シャーリー「俺!無事だな!おい!」

俺「異常なし!中型を追うぞ! こちら二機撃墜。中型を追う!」

サーニャ「了解。まもなく合流します」
シャーリー「右から近づく。注意!」

 来た。爆発の残照で赤く照らされている。

シャーリー「心配したよ。さ、残りに掛かろう」

俺「ありがと。爆発の跡を避けよう」

サーニャ「敵、そちらに向かっています!11時方向に注意!来る!」

 二人で揃ってダイブを始める。撃って来るぞ、あそこからか。畜生!
 翼端灯をつける。危険だが、彼女がはぐれたらいかん。

俺「シャーリー!俺が誘導する!追従して!」

シャーリー「了解!」

 脳裏に浮かぶイメージをトレースして避ける。なんとか潜りぬけた。野郎、次はこっちの番だ!
 ぴったり付いてくるシャーリーを護りつつ、後ろ上方に位置。

俺「シャーリー!俺を追い越さないように注意して!行くぞ!」

シャーリー「了解!」

 意識を更に集中。フル加速をかける。シャーリーのP-51Dには敵わないが、猛然と加速して突っ込
 んで・・・・撃て!12.7ミリとシャーリーの7.62ミリを叩きつける。コア出て来い!

 駄目だ。次の航過を準備しよう。射撃時間は短くなるが、真横を叩く?足止めしなくては。
 弾がちょっと不安。交換してしまおう。

シャーリー「分散して多重攻撃しよう!」

俺「大丈夫か?心配だ!弾箱交換中!」

シャーリー「あたしは一度も撃墜喰らったことないラッキーウィッチなの!大丈夫さ!」

俺「解った。おれは左翼を叩く。シャーリーは?」

シャーリー「直上攻撃!」

俺「ログ!合図はシャーリーが!」

シャーリー「ログ!弾は大丈夫か!」

俺「終わった!いいぞ!」

シャーリー「用意・・・・ゴー!」

 角度を計算して突っ込む。撃ち始めた赤い斑点で今はよく居場所が解る。くそ、撃ちまくりやがる。
 見ていろ、この野郎!
 攻撃開始!おおよその目安をつけた場所に攻撃を集中する。視野が狭まってきた。同航に切り替えて
 撃ち続ける。シールド!崩壊するなよ!こうなると予知もくそも――

シャーリー「あ!」

俺「どうした!おい!」

シャーリー「右ユニット被弾。強制排除する!」

俺「支援に向かう!しっかり!」

シャーリー「すまない!リリース完了。片肺にて北へ退避中」

 ダイブ!銃は撃ちつくしたか。捨てちまえ!

 あそこ!一気に接近し、シャーリーに肩を貸して敵から離れる。

俺「遅くなって済まん!怪我は?」

シャーリー「怪我はない!ごめんよ!」

 そんな顔するな!
 無茶苦茶な機動をしつつ退避。サーニャ達はまだか?あ!あのクソ!こっちに回頭してやがる。
 止めを刺すつもりか!

俺「サーニャ!会合予定は?」

サーニャ「あと2分弱!頑張ってください」
エイラ「あと少しダ!あと少し!」

 俺が攻撃したら、奴は俺に付いて来ないか?いや、不確実すぎる。彼女は飛ぶのがやっとだ。
 殺られる。彼女が。くそ!

俺「シャーリー。状況はとてもヤバイ」

シャーリー「私一人で退避できるよ。俺は行って」

俺「断る!」

シャーリー「でもそれじゃあ二人とも――」

俺「二人で生き延びる。上手くいったら、な!先に謝る。済まん!」

シャーリー「点火か?いいよ」

 彼女の顔が見えるまで、顔を寄せた。いいのか? 彼女が頭をぶつけてきた。

シャーリー「構わない。やって」

 よし。二度目だが・・・生き延びさせなきゃ。この人を。

俺「サーニャ!エイラ!花火だ!用意」

 絶対成功させるぞ。絶対!

ケーニヒ<それでこそオスだ!私が見込んだお前だ!護れ!戦え!>

俺「マーク!」

 彼女を体で庇う。瞑った目に光が染み込む。やったぞ!

 熱と衝撃波が身体を殴りつけてきた。シャーリー、耐えてくれ!

――――

 意識が戻った。枯れた森の中にいる。まだ夜か。

 彼女は!
 ああ。俺に抱き付いている。彼女が俺を降ろしてくれたんだな。

俺「シャーリー?大丈夫か?」

 震えている彼女の背中を擦る。背中に激痛が走り、思わず身を捩ってしまった。

俺「おい・・・シャーリー?怪我はないか?シャーリー?」

シャーリー「お 俺―ぐっ――だいじょうぶ――――か?」

 ああ。あれだ。すまん。本当に済まん・・・。

俺「ちょっと背中が強張っているくらいだ。大丈夫だ。お前は?」

シャーリー「よか―うぅ―たよ。  あたし――も!」

 ブルブルと身を震わせる。意味ある言葉を出すだけでも大変だろうに。

俺「よかった。酷い目にあわせてごめん」

 震えながら頭を振る彼女。歯を食いしばっているらしい。

俺「一旦ここを離れるぞ。俺が抱いていく」

 敵地だ。ここに居るのは危ない。彼女の左足のユニットをリリース。俺のは動くか?・・・駄目だな。
 強制リリース。
 彼女を両手で抱く。背中の痛みは無視しろ。彼女はもっと辛いんだ!俺のせいで!

 100メートルほど離れた窪地に潜む。インカムは二人とも無くしてしまった。
 シャツを脱ぎ、横たえた彼女にジャケットと共に着させる。暖かくしたらどうだろう?

シャーリー「なあ、お願いが――― う」

俺「どこか痛いのか?言ってくれ」

 気丈な子だ。震えながら耐えている。なんと声を掛けりゃいい?本当に済まない!

シャーリー「ごめん―――震え―が。抱き締めてく――!」

 強く抱きしめる。これでいいか?彼女が上になって力一杯しがみついた。震えの波がはっきり解る。
 どうだ?少しは楽になるのか?済まん、済まん!

 彼女は俺のTシャツをかみ締めている。少しずつ、彼女の腰が動き出した。
 こんな状況なのに、それに反応する俺が情けない。恥を知れ!バカ男!!

俺「済まん。シャーリー・・・」

シャーリー「ごめん!体がいうこ――んっ!言うことを聞かな――ごめんっ!アアッ!」

 彼女が大きく震える。俺の太腿に激しく腰を摺りつけている。俺には・・・抱きしめるしか出来ない。
 Tシャツを離した彼女の口から垂れた唾液がTシャツに広がっている。

シャーリー「もっと早――ああ! んっ! こんな――言って―アッ!ごめん!ンンン!」

 動きを止めた彼女が・・・泣いている。ぼろぼろ涙を零している。

俺「シャーリーが謝る必要なんて無い。俺が悪いんだ。済まん・・・」

シャーリー「あ また―――あああ。まだ―駄目―おれ  俺!」

 彼女が俺の胸に手を突いて、身体を引き剥がした。腰と脚が更に密着。また激しく動き出した。
 豊かな金髪が揺れる。両の眼から涙が伝わり落ちる。
 俺も泣けてきた。おい、ケーニヒ。罪な能力を与えてくれたもんだ。彼女のこんな姿――

シャーリー「あ あたし―いいから!気に――あっあっ――なっていたから!うぉぁ!」

 え?       なんて?

シャーリー「俺!俺!」

 俺の肩に噛み付いてくぐもった叫びを上げる彼女。痛みは一瞬しか感じなかった。 

――

 彼女の震えが収まってきた。俺は彼女を抱きしめ続けている。混乱したまま。
 空が明るくなってきた。

シャーリー「ごめん」

俺「シャーリーが謝る必要なんて無い。済まなかった」

シャーリー「もうちょっと・・・このまま抱いていてくれる?」

 答えずに抱きしめ直す。彼女のウサギ耳が頬に当たる。

――

シャーリー「有難う。そろそろ・・・」

俺「うん。移動しなくちゃな」

 背中に廻していた手を解く。彼女は顔を俯けている。そっとして置こう。

 背中を向けて、拳銃を確認。予備マガジンが6本。銃には7発プラス薬室の一発。50発。

俺「シャーリー。いいか?」

シャーリー「ああ」

 振り向くと、横座りした彼女が微笑んでいた。おい、俺。目線を下げるなよ。

俺「拳銃は?」

シャーリー「36発。大事に使おう。さ、行こうよ」

俺「ちょっと待った」

 彼女に一度ジャケットとシャツを脱いでもらう。
 俺のシャツを引き裂いて彼女の足の裏を保護する。余った袖で、彼女の脚を覆う。膝より下しか
 覆えないが・・・これで少しは楽だろう。

シャーリー「有難う。お前のは?」

俺「俺はいい。さて、西に行こうや」

シャーリー「ありがと。あ、ジャケット返すよ。着て。寒いよ。 それでユニットは?」

俺「あっちだ。破壊していこう」

 拳銃を構えて、ゆっくり移動。程なく到着。動かされた形跡は無い。
 整備ハッチを開け、ポケットから燃焼材を取り出す。ユニット三本を纏めてから、二人合わせて
 四つの燃焼材を放り込む。すぐにテルミットが燃え出した。これで、溶解した金属ゴミになる。
 シャーリーが悔しそうな顔をする。俺もそうだろう。

俺「俺が先に行く。シャーリーは25位の距離を置いて付いてきて?」

シャーリー「うん、解った。頼むよ、海兵隊!」

俺「ふふっ。そうさ、陸軍は後から来い!」

 くすくすと二人で笑う。よし、二人とも冷静だ。

 海岸まで出ればいい。昨日の飛行コースを思い出しても、余り深くは内陸部に入っていない。

 途中、小川を渡る羽目になる。つめてぇ。まあ、深くないからいいや。

シャーリー「ちょっとタンマ!シャツまで濡れちゃった。絞りたいんだ」

俺「ああ。ほら、これで体拭けよ」

 ハンカチを渡す。乾いていてよかった。

シャーリー「あたし先に脱ぐから、お前が先に拭いていてよ」

俺「俺はいいから。ほれ!」

 後ろを見ずに左手を伸ばす。両手で手を握られてビクッとした。

シャーリー「ありがとう」
・・・・・
シャーリー「オッケー!ズボンも洗濯できたぜ!」

 横に来た彼女の満足そうな顔を見て吹き出した。彼女も気にしていたんだろうな。
 少し顔を赤らめた彼女が、絞ってきちんと畳んだハンカチを返して寄越す。

俺「よし、行こうぜ。そのうち乾くさ!いい天気だし!」

―――

 海岸線に到達。断崖絶壁か。やれやれ。

俺「さて。北に移動する?ここで待ってみる?」

シャーリー「501基地は、もちょっと北だよね?」

俺「ああ、北よりだろ?」

シャーリー「少しでも基地に近づいてみようよ。で、暗くなる前に海岸に下りて、焚き火で合図
 したらどうだろう?」

俺「そうしよう。んじゃ、右に行くべ」

シャーリー「遮るものも無いから、一緒に居ていいだろ?」

俺「そうだね。二つの動く点より、一つのほうが目立たないかも」

―――

俺「シャーリー!止まれ!敵複数!右だ!」

 崖を下っている最中に、敵が現れやがった。くそ!こんなときに!

シャーリー「確認した。どうする?」

俺「そっちにいく。動かないで待ってて!」

 できるだけ動きを見せないようにして、少し上に居る彼女のところに戻る。

俺「気付かれないことを祈るしかない。確り岩に捕まって!」

 俺は拳銃を抜く。畜生、弾倉交換も出来ねえぞ。あ、そか。弾倉を一つ咥える。
 敵が近づいてきた。彼女を俺の体で覆う。岩に押し付ける。彼女が震えているのに気付いた。鼓動も
 伝わってくる。

俺「シャーリー。リラックスして。ほら、リラックス」

 気休めにもならねえな。でも、俺も何か言っていないと怖いんだ。

シャーリー「なあ、俺。今のうちに言っておきたいことが―」

俺「バカ。そういうことをいう奴は死ぬぞ!教わらなかったか!やめろ!」

シャーリー「いいさ。お前と一緒だもの」

 え?

シャーリー「あたしね、俺のこと好き。それだけ言いたかった」

 バクバクしていた心臓が止まった。 

シャーリー「・・・迷惑だっ――」

俺「そういうことは俺から言う!帰ってから、な」

 彼女の体の震えが止まった。彼女は今、どんな表情をしているんだろう。

俺「だから、一緒に帰ろう。ナ?」

 彼女がこっくり頷いてくれた。

ケーニヒ<おや。やっと正直になったのか>

 茶々入れてる場合か!敵の飛行音が真後ろなんだよ!
 あっ!止まりやがった!くそ!

 振り向きざまにGIコルトの引き金を絞る。くそ!やらせるか!一匹!
 弾倉が尽きた!
 俺だぞ!相手は!

 飛び降りながら弾倉を交換。スライド、リリース!よし!着地の前に射撃再開。
 墜ちろ!このチビ! こっちだ!こっち!!こっちを撃ってろ!

 肩を掠めた。弾倉を用意して切れ目無く撃ちまくる。二匹!あと一匹!
 あ!シャーリー!撃つな!気付かれる!

 斜め上からの射線がネウロイを砕いた。なんだ?
 シャーリーが飛び降りてきた。俺の真上に。

シャーリー「やったよ!救助隊だ!やったよ!」

――

 飛行中のユンカース輸送機に、二人掛りで運んでもらう。シャーリーも一緒。
 ほっと息をつく。顔を見合わせて笑い転げる。やったな!おい!

 ミーナ中佐とバルクホルン大尉も同乗。周りを皆が取り囲んでエスコートしてくれているそうだ。

俺「助かりました。有難う。ところで、水かコーヒーありませんかね?喉がからからで」

 バルクホルン大尉が笑いながら魔法瓶のコーヒーを渡してくれた。ありがとう。
 彼女に渡す。ほれ、先に飲んで。

ミーナ「あら。紳士ね。トゥルーデ、もう一杯・・・あ、大丈夫ね」
 「おかえりなさい、シャーリーさん、俺さん。帰ったら手当てしますから、あと少し我慢してね?」

俺「ん?肩は火傷程度で・・・あれ?」

 急に背中が強張った。動けない。なんだ?なんだか凄く痛いんだが?息するのもきつい。

シャーリー「あ!お前衝撃波を全部遮ってくれて!中佐、急いで基地へ!手当てしないと!」

バルクホルン「もっと早く言え! おい!全速で!!基地の医務隊にも連絡を!」

ミーナ「無理したのね。シャーリーさんを護る為に・・・」

 俺が脂汗を垂らす横で、彼女が赤らむ。モルヒネくれ、モルヒネ。これちょっとヤバイ。

――

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最終更新:2013年02月02日 12:18