長文だよ!時間を用意してね!
ほんへ
傭兵部隊『フィーチグリッチ』を指揮する
ヒーデンは、通信越しに改めて確認をする。
「…ということで、今回の依頼は、ベイラムの襲撃からダム施設を守ればいい。ということですね?サリエリさん。」
「ああ、そうだ…。そういうことだ。しかし、正直…失礼を承知して尋ねるが、君たちの戦力、アテになるのかね?」
と、V.Oサリエリは不安げに尋ねる。
「敵勢力は解放戦線ではなくベイラムだ。ランクCやD程度の戦力で…。」
ヒーデンはモニターは繋がってないので相手には見えないまゆをひそめ、
「あのですね…確かに私たちはランクは低いですが、今までも対価に見合う戦果を、色々な勢力に与えてきました。それはあなた方も知っている筈です。
それに、アリーナのランクなんてのは協働が想定に入れられてない。
私たちの実力を示すことにはなりません。」
「あ、ああ…。それは分かっているのだが…。
この任務はアーキバス本社から、我が社の現状最高戦力とされる、V.Oリヒター殿からの推薦で回されて来た任務だ。失敗するわけにはいかない。」
「気負い過ぎですよ。こんな戦略的価値の低いところ、トップランカーが来ることはないでしょう。では、事前の打ち合わせの通り、期日になったら向かいます。では」
と言って通信を切った。
「あぁぁぁ疲れたぁぁぁ…」と言って椅子に背中を盛大に預ける。
その声を聞いてドアの外で待っていた人物が部屋に入ってくる。
「お疲れ様、父さん。」と声をかけたのは、
ヒーデンの養女の一人、で、『フィークグリッチ』の主力である、ネーナだった。
「あぁ……二人は?」
「機体の確認。」
「ああ~…疲れた…。解放戦線とかドーザー、個人からの依頼なら適当な対応でも割と何とかなるけど、企業からの依頼はちゃんとしないといけないからな~…」
と本音をぼろぼろこぼす。
「ところで父さん、仕事の時以外は体のボイスチェンジャー切ってって…」
「……この身体の本来の声はいつまで聞いても慣れないんだよ…。」
そうして作戦当日。
現場のダム施設には、既にアーキバスのMT部隊、サリエリのAC「ダナイード」、
ヒーデンのAC「ドレスアップ」が待機していた。
「敵の情報は?」
「
ヒーデンか。少しくらい、コクピットから降りたらどうだ?ずっと中にいたら気が滅入るぞ」
「ご忠告どうも。ただ、これが俺のやり方なんで。」
「はぁ……そんなだから、あなたの部隊は悪い噂が絶えないのだ…。私は流石にそうではないと信じてるが。」
「そりゃ結構。…んで、相手の戦力は?」
「ああ…。ベイラムのACが二機確認されている。二脚タイプだそうだ。ベイラムの二脚ACの情報はこんなところだ」
「えーと何々…?ランクS…はこんなとこに派遣されるとは思えないから、っぱここはBランクの二人かね。」
「私もそう思う。どうだ?」
その"どうだ?"の意味を、
ヒーデンは直ぐに理解した。
「うちの娘はよくやってくれますよ。」
お互いがお互いの部隊を視認できる距離に到達した。
ベイラムの側は
「そうみたいですね。ここからは隠れる遮蔽もないです。敵ACは二機…いや、『フィーチグリッチ』ならもう一機いる筈かと。」と
スヘルデ。
「派手に暴れて時間を稼ぐのと、目的を逸らすのが目的だ。敵の砲撃は気にしない。足を止めたら敵の思う壺だ。真っ直ぐひるまず行く。それが一番敵の嫌がる戦法な筈だ。」
「…私があなたの部下のMT乗りじゃなくてよかったですよ」とどこまで本気か分からない軽口をつぶやいた。
『来るぞ!』
アーキバスの、外周を偵察していた誰かが通信で叫んだ
こちらも機体を起動させるとともに、通信機で呼びかける。
『任せて!』『準備は出来てるわ!』と言った自信ありげな声が通信から返って来る。
すると、サリエリからも通信が入る。
「
ヒーデン!敵のACを二機発見した。私と君で"それ"を止める!分かるな?」
「了解だ、こういう戦闘じゃMTはおまけ、勝ったACの方が勝ちに近づくからな」
「そういうことだ。向かうぞ!」
と言うとサリエリと
ヒーデンの「ダナイード」「ドレスアップ」はABを起動させ、MT部隊より前の前線に向かった。
「ああ、こちらでも補足した。ここは俺が抑える。お前はダムへ迎え。」と
トンレサップは返した。
「分かった。強行突破してでもダムを狙う"フリ"をしておきます。前線の耐えは任せますよ。」
トンレサップは一人、足並みを揃えて進軍するベイラムMT部隊の戦闘に構える。
「こちらに来るのは…アーキバスの方か。時間稼ぎはスヘルデの方が方が向いてるがな。今回は機動力が必要だから仕方あるまい。…さて、V.Oサリエリ…Aランクの力を見せくれ」
と、
トンレサップはやる気を出すかのように一人呟くと、接近するACに向かって突撃した。
「来たッ…!」
サリエリもABを使って接近していたため、両機の距離は急激に縮まる。
お互いが互いの機体の横を高速で通り過ぎる。
「(この機体は…、
トンレサップ、AC『フルモンティ』…!ランクは下だが、木星戦争にまで参加してる古参兵だ…侮れんぞ…!)」
と一瞬で思考をしながら、クイックターンで機体を振り向かせ、牽制としてプラズマミサイルとライフルを同時に発射する。
トンレサップは空中からの自由落下で苦も無く牽制を避け、アサルトライフルを反撃としてばら撒く。
一方
スヘルデは前線を突破し、ダムに近づいてきていた。
「ここからでも狙撃は出来るけど……先に狙うのはこっちじゃないわね」
と言うと、リニアライフルを構え、チャージを始める。
「前線を止めてるのは…アイツか。」
と言うと、ダムの上から砲撃支援をしてる三機の内一機に狙いを付ける。
他の二機は重装甲のACと四脚MTだ。
ワンショットで確実にやれて敵の戦力を削げる。そういった考えで彼女はスコープ越しに、そのMTへとしっかりと銃口を合わせ、そのトリガーを…
「!!」
その先程まで彼女がいた空間を、レーザーダガ―が切り裂く。
「くっ…恐ろしい反応速度だな…!」
「この機体…あなたが『フィーチグリッチ』隊長、
ヒーデンですね…」
「ああ、今回の仕事はダムの防衛なんでな。お前風に言えば、『お前の時間を削らせてもらう』ってとこだ…!」
と言うと同時に左手の武器をハンガーと交換し、ダガ―を避けられたとはいえ至近距離から両腕のマシンガンを連射する。
「この距離は好きじゃないねぇ…」と言い、
スヘルデは後退をしながら肩部の高誘導ミサイルを発射する。
「面倒なものを…!」
「いいでしょう?敵に近づかれた時に役に立つのよ」
誘導ミサイルの誘導を振り切ったところで、
ヒーデンは右肩の武装を展開した。
「三連装のマシンガンだ…いくらベイラムのBランクとはいえ、どこまで耐えられる…!?」
と言うと同時に、両腕のマシンガン、肩のオービットを乱射しつつABで距離を詰めた。
「思い切りが良すぎるわ…。ここまで動けてDランクなんて嘘でしょ…?」
と
スヘルデは呆れと感嘆が入り混じった声でつぶやく。
「あいにく、火力が足りてないんでね…支援がなけりゃあさ…!」
と言いつつ突進した彼はキックを繰り出すが、それは虚しく空を切る。
「確かに、シミュレート以上に無謀な戦い方ね。でも、死ぬわよ」
とその隙にミサイルを撃ち込む。
ヒーデンはミサイルに対しあえてABで突っ込み、被弾を最小限に抑えまた一回二機は距離を開く。
「(このままここで時間を稼ぐ…そうすればアイツらがMTを全滅させといてくれる…!)」
「(このままここで時間を稼いで、"時間"を待つ。作戦の目的をバレないようにしないとね)」
お互いに"時間を稼ぐこと"を目的としていたが、
ヒーデンはベイラムの真意を勘づいてはいなかった。
こちらの戦局も膠着していた。
中距離の射撃戦ならば機体構成的はサリエリに分があるのだが、流石に老兵の隙の無さで、サリエリは効果的なダメージを与えられずにいた。
「(このまま戦い続けてもジり貧か…ならば…!)」
今まで中距離での戦闘だったが、サリエリが急激に距離を詰めた。
「覚悟を決めたか…!!」
トンレサップは片方の拡散バズーカを迎撃に撃ち込むが、難なく躱される。
しかし、本命はもう一発だ。回避運動後の硬直、至近距離に
トンレサップはもう一発のバズーカを撃ち込む。
―しかし。
それを見越していたサリエリはパルスアーマーを展開した。
「なっ…」
「これで…!!終わりだっ!!!!」
バズーカをアーマーで受け止め、チャージしたブレードで射撃硬直中の
トンレサップに切り込む。
繰り出されたブレードは、ギリギリで機体を逸らした
トンレサップの機体の左腕パーツとバズーカを中ほどから切り裂いた。
「くっ…浅かったか…?」
コア拡張機能の放熱をしつつ、決して敵機からは目を離さず、距離をまた取る。
今の彼はこれ以上ないほど戦いに集中していた。
―それが仇だった。
視界外から飛んでくる砲弾。
彼がそれに気づくのは直前で、爆風をモロに食らいつつ、ギリギリで直撃は避けたが、大きなダメージだった。
「ぐっ…!?敵増援…!?」
脚を止めることなく距離を取り、敵の姿を確認する。
確認できた敵機は。
「嘘…だろ…?」
そこに確認できたのは、二機のAC。
ヒーデンは戦闘をしつつも、味方が戦っている方の戦場で、爆発が起きたことをしっかりと捉えた。
あそこにいたのはレーザー武器が主体のサリエリとベイラムのな筈だ。
しかしあれは二機の戦闘の爆発規模ではない。増援か?
嫌な予感を感じた彼は部下に通信を送る。
「敵のMTはあとどれくらいだ!?」
『もう多くはないわ!時間の問題!』
「そうか、じゃあ
レーナは前線へ迎え!あっちで気になる事がある、サリエリを確認しろ!だが絶対に無茶はするな!!!」
『り…了解!』
慎重過ぎるほど慎重過ぎる
ヒーデンは、自分以外のリスクをなるべく減らそうとする。
なので自分の娘たちを絶対に前には出さなかったが、今回は『前線を見て来い』との指示が入った。
それだけで前線で何か不測の事態が起こってるであろうことが容易に想像が付く。
ABで急いで前線に到達する。
ACやMTの砲撃に晒されたベイラムMTはともかく、アーキバスのMT部隊まで壊滅していた。
「サリエリさんはどこに……敵反応!」
敵反応を検知しそこに顔を出す。
そこでは、一機の
アーキバスACと三機のベイラムAC(内一機中破)がにらみ合いをしていた。
「俺としたことが、アーキバスの若造一人落とせないとは…」
「気にするな。お前が倒せる相手だったら俺が出張った意味がないだろう。それに主目的の敵の目を逸らすのは出来てる。こっちに気付いてる奴はいないだろう。お前は後退しろ。」
ベイラムのルビコンにおける最高戦力、マッケンジーはそう返す。
「一機来ましたよ」
「君は…『フィーチグリッチ』のか…!よく来てくれた。」
サリエリはそう言うが、続けて
「だが…、ここは後退しろ。」
と言った。
「何故です…?この二人を相手に勝てるとでも?」
「違う、だからこそ後退してほしい。敵はSランクの特級ランカーだ。横にいるおまけは大したことないが、アイツだけは別格だ!
正直…私達では敵わないだろう。これは依頼を頼んだアーキバスの責任でもある。私が引き付けてるうちに撤退してくれ。」
と言った。
「おい!!誰がおまけだっ!?」
とヤンキーは叫ぶがそれはその場にいる全員にスルーされ。
「はぁ…。そんなこと気にしてちゃ傭兵稼業はやってけませんよ」
「金の分はきっちり働きますよ」
「君……。分かったが、絶対に無茶はしないでくれ。君の所の隊長が、悲しむだろう。」
「分かってるます。」
と言うと、二人は戦闘を開始した。
「ほう、逃げずに向かってくるとは、度胸あんじゃねぇか。ただ、そういうのは蛮勇って言うんだぜ?」
「おらおら!!アーキバスの優男と独立傭兵の野良犬風情が!!一瞬で終わらせてやるよぉ!!!」
と
ヴァフシュは言うが誰も特段反応は示さない。彼はこの中では蚊帳の外だったが、本人はそれに気付いてなかった。
「私がこちらを抑える!君は数を減らしてくれ!!」
とサリエリは
レーナに通信を送ると、果敢にマッケンジーに対して攻撃を始めた。
「ほぅ、この俺に恐れずに挑んでくるとは、とんだ根性だ。温いだけの男ではなさそうだな」
と言うと機体を逸らしその攻撃を最小限の動きで回避し、中距離からハンドガンを牽制に数発撃ちこむ。
「その程度…!」
威力がそこまで出ない距離だったのは分かり切っていたので敢えて避けず、敵を見据え、攻撃を続行する。
プラズマライフルを放ち、ミサイルを放ち、回避運動を取った先にキャノンを撃ち込む。そういった想定だった。
とにかく手数で攻め、反撃の隙を与えず、撃破しようとしている。
しかし、それが焦りに繋がった。
まずマッケンジーはライフルを避ける。サリエリはそれを見越してミサイルを放ち、キャノンのチャージを開始する。
―しかし、
マッケンジーはミサイルを避けなかった。
ミサイルを避けた先に撃つ予定だったサリエリのキャノンは、ミサイルをモロに喰らいつつもマッケンジーに易々と回避された。
「なっ…!?」
「見え見えの牽制だな…」
と言うと彼はハンガーから取り出したバズーカを構えると、キャノン発射の硬直中のサリエリに向けて容赦なく引き金を引いた。
続けて、左腕に持ったハンドガンでACSへの負荷を途切れずかけ続け、また持ち替えた右腕のショットガンを構え、まだ動けないサリエリに向かって撃ち込んだ。
流石のサリエリの機体も、ACSが限界を迎え、スタッガーする。
そこにマッケンジーは手慣れた動作で左腕にパイルバンカーを持ち替え、一息に距離を詰める。
「くっ……ここまでが……ッ!?」
機体はどうにも反応せず、撃鉄を今まさに引こうとしているパイルバンカーが目の前に…
と、その杭が放たれる直前。
マッケンジーのマスターキーは突然攻撃をやめ、後ろへ退いた。
と、その時。
真横から先程までマスターキーが存在したサリエリの目前を、極めて高出力なレーザーとプラズマが通過した。
「……!?…援軍か…!?」
続けて、そのレーザーの光の元から、一機のACがABで急接近してきた。
通信機から聞こえてきたこの声。これは―
「貴方は、V.Oリヒター!?何故ここに!?」
『アイツがここにいるからだ。…まさかこんな辺境の地に最高戦力が派遣されてくるとは思わなかったよ。』と、マッケンジーを見据えて言った。
「それにしてはやけに来るのが速かったじゃねぇか。俺が出たのを確認してから来たら間に合わないだろ?」とマッケンジーは聞いた。
『最初、こんな辺境のダム施設にACを二機も投入してくる時点で不安になってね。今になって気付いたさ。ベイラムの目的はダム施設じゃなかった。』
「え…じゃあ何を…?」
とサリエリは聞いたが。
『サリエリ。君の命だよ』とリヒターは返した。
『大方、ダムを襲撃するフリをして陽動をし、前線でいつの間にかサリエリを撃墜する。そういう手筈だった。…だろ?』
「よくわかってんじゃねぇか。」とマッケンジーは返した。
『だがしかし、間に合った。間に合わなかったら、こちらの推薦でアーキバスがACを一機失うことになっていた。危ないところだったよ。』と言う。
「今日はお前一人なのか?」とマッケンジーが聞くと。
『いや、今日は皆大好きイレヴンも来る。どうする?こちらもSランクのランカーが来て、易々とこっそり彼」を落とせなかった時点で君たちの作戦は失敗だと思うが?』と言った。
「…はっはっはっ…!よくわかってるじゃねぇか。…
ヴァフシュ!撤退だ!」
「ええっ!?ここからが俺の真骨頂だってのに…」
「ボロボロじゃねぇか。」正直
ヴァフシュは乱入が無ければ、
レーナに撃墜されていたであろう。
「じゃあな。勢いはよかったぜ、アーキバスの隊長さん!」そう言ってベイラムの最高戦力は去って行った。
戦局は膠着し、こういった戦局が得意な
スヘルデはともかく、
ヒーデンは流石に疲弊が見え始めていたが…それを変える出来事が起きた。
『こちら
V.Vイレヴン!現着した!!敵はどこだ?』と、少年か少女か分からないほど幼いソプラノボイスでオープン回線で通信をまき散らす一機のACがやって来た。
傭兵部隊の指揮官として物事の情報は調べてある
ヒーデンも、シミュレーション大好き
スヘルデも、その名前には心当たりがあった。
リヒターを超える才能を持ちうる戦士と。
「こちらアーキバスに雇われた傭兵だ!敵ACはここにいるぞ!……どうだ?あんたほどの人ならイレヴンも知ってるだろ?」と
ヒーデンが勝ち誇った口調で言い、
「うっ……流石にこれ以上は無理か…。あちらはどうなって…撤退!?」
と言うが、急に
スヘルデも動きを変え、撤退を始めた。
「急に逃げる…何かあったか?あっ」
とそこにイレヴンが到着した。
『敵はどこ?』
「あっちだ!あっち!」と言う言葉と共に、アイスブレーカは去ったACを追いかけて行った。
『イレヴン!深追いはするな!』
と通信を受けしばらく追跡していたらしいイレヴンが戻って来た頃。
『すまなかったな。君にこの仕事を推薦したのは、気負い過ぎているようだったから、半分休暇のプレゼントのつもりだったんだが。』とリヒターはサリエリに言った。
そして『傭兵の方も、情報以上の敵と戦わせてしまったな。手当は弾むよう本部に掛け合っておくよ。』と言った。
「まぁ、これくらいは傭兵稼業じゃある事ですから」
と
ヒーデンは言ったが、Sランク傭兵が絡む任務など二度とごめんだと思った。
一人も犠牲が出なかったのは奇跡だと思った。
最終更新:2023年11月26日 23:32