人生には、行き止まりが存在する。
 それはきっと、ほんの少しの運の差で変わるものだ。
 だから、このゴミ共の道は、ここで行き止まりとなるのだろう。

 「コード5送信。 襲撃には成功している。 ああ、そうだ、後は増援を頼む」

 『テメエはイカレ野郎の――』

 聞くに堪えない、耳障りなノイズを消すために、虫を潰すように、パルスブレードが振り下ろされた。
 じい、という金属が焼き斬られる音が響き、途切れる音声。それで一人目は終わりだった。
 両断されたACが崩れ落ちて、雑多な音を鳴らす。

 それに一瞬だけ気を配った後、偽の情報に釣られたゴミを急襲したパイロット――
 ――エバーアフターは周囲を見渡した。

 見渡す限りの、敵、敵、敵。
 わざわざ、偽の依頼を用意してまで、かつての企業の行き止まり――ウォッチポイントアルファ付近まで、
 出向いてきたのだ。
 その甲斐があったというものだ。

 いきなり襲撃された連中の動揺は、見てるだけでも伝わる。
 惑星封鎖機構の飼い犬やらイカレ野郎やら、そして自らの名前を呼ぶ声。
 そのどれもが、恐怖で上ずってる状態で聞こえるのであれば、尚更だ。

 エバーアフターは、そんな取り留めのない思考を巡らせながら、自らが駆る鉄の巨人を、
 アルティメイタムを、ドーザーの大量のMTと、雇われのAC3機――既に2機に減っているが――に向けた。

 奇襲には成功して、AC3機のうちの1機は潰した。
 それで、寄せ集めにも等しいドーザーの連中はともかく、独立傭兵共はどうだろうか。
 恐怖に怯えているだろうか。それとも抵抗の意思を固めただろうか。

 「考えるまでもなかろうな」

 武器を、両機ともに構える。
 1機は四脚型。もう1機は中量2脚。
 どちらとも、腕のいい傭兵だとは聞いていた。  

 全員がゴミならば大した苦労もなかったのだが、腕の立つ傭兵がいるとなれば、連中も勢いづく。
 殲滅するのであれば、当然それがデメリットであり、手間を掛けて相手取ることになる。
 それは好ましくないし――何より、見せしめにもならない。

 触れてはならざるもの。
 調べてはならぬもの。

 度を過ぎた戦争を巻き起こすようなものを、呼び起こしかねないものを欲する愚か者に対しては、
 徹底的な弾圧というものが必要だ。
 二度と争いを起こさぬようには、それくらいの苛烈さがちょうどいい。

 「恐怖というものは、重要だ」

 呟く。
 そうでなくてはならない。
 殲滅自体は、己でも出来る。保険も用意してある。万が一自分がここで野垂れ死にしたとしても、
 惑星封鎖機構には報告済みだ。
 どちらにせよ、このゴミ共は自分に全員殺されるか、
 惑星封鎖機構の増援によって殲滅されるかのどちらにしか過ぎない。

 『たった一機で、しかも不意打ちでこっちの雇ったACを1機しか落とせねえやつが、
  のこのこ現れてどうする気だ、あぁ!?』

 案の定、こちらが攻勢を見せぬ事に、勢いが戻ってきたらしいドーザーの一人から吼えられたが、
 それはどうでもいい。
 思考は別の事を考えている。最もいい見せしめの方法とは何か。
 そればかりに頭を使う。

 ここの連中が、探していたのは、不相応なもの。
 かつての最悪の遺産――技研の兵器。

 そんなものが、再び世に出るなど――まして信念も理念もない、ドーザー共に渡るなど論外である。
 二度とそのような気が起きぬよう、ここで、皆殺しにする。
 それも、ただの皆殺しではない。
 圧倒的な、力の差というものを見せてつける必要がある。

 それには、余程自分よりも適任であるものがいて、わざわざ手間を掛けて、情報を共有した。

 そして、『それ』は、来る。

 『殺せ!! 俺たちを舐めた事を後悔して、あとで溶鉱炉に突っ込んでブチ殺――』

 その言葉を言わせぬとばかりに、けたたましく、アラート音が鳴り響いた。
 巡航用モードからありえぬ速度で突っ込んでくる機体。
 独立傭兵のAC2機が、即座に反応したが、もう既に、それの間合いだった。

 咄嗟に銃口を構えようとして――銃ごと、それの全体重と速度が合わさった蹴りで、壁へと吹き飛ばされる。
 嫌な音を立てながら、機体が軋む。
 崩した姿勢を戻そうと動き出す前に、蒼い炎のように煌めいたレーザーランスが、
 容赦なくコクピットを抉り貫いた。

 たった、十数秒での出来事だ。

 もう一人が、その傭兵の名を、機体名を聞いた途端に、発狂したような声を上げた。
 咄嗟に後方にクイックブーストを吹かし、距離を取ろうとするが遅い。
 軽量逆関節機の馬鹿げた脚力が、地面を蹴り飛ばし、砂煙を上げて、間合いを詰めた。
 恐怖に怯えた絶叫が響き、ありったけの火力を、それに叩き込もうと、出来の悪いオーケストラのように、
 噛み合わぬ、不快な音を鳴らしながら、ミサイルの発射音と、ライフルの弾丸が地面を抉り取る音が響く。

 そのどれもが、やってきたそれに届くことは無い。
 一発も捕らえる事無く、幽鬼のようにすり抜けていき、距離を詰められる。
 最期の抵抗と言わんばかりに、ばちりと弾けるようにパルスアーマーが展開された音がしたが、
 瞬く間に、パルスガンによって、その盾は剥がされていく。

 悲鳴が上がる。
 それでも、最期の抵抗とばかりに、幽鬼のコア目掛けて、ライフルを撃とうとしていたが、
 その前にレーザーランスが、実った果実を収穫するようにコクピットを貫き、
 じゅっと音がした後に静かになった。

 その音を満足げに聞いたかのように、ゆっくりとレーザーランスを突き刺した腕を戻して、逆関節の獣は、
 次はこちらを見る。

 「到着時間が、少し遅れたな」

 『ごめんね、ちょっと野暮用を済ませていたから』

 「構わない。 お前は依頼を果たしてくれた。
  それだけで十分だ」

 『そう言われると気が楽になるよ、同業者くん。
  僕の方も平和へとまた一歩近づけたら嬉しい限りさ』

 実に機嫌が良さそうに目の前の軽量逆関節を駆る化け物――《バウンダー・ブギーマン》は答えた。 
 同業者の根絶を常に語るこの異端の傭兵は、エバーアフターにとっては好ましい相手である。
 いずれ、自分もその対象になることは承知の上で、依頼を持ちかけるぐらいには。

 それなりの手練れであるAC2機を瞬時に粉砕するのは重要だった。
 己でも排除は出来ただろうが、ここまで有無を言わせずに始末することは不可能だ。

 『さて、ここから先は?』

 「お前が手間でなければ、付き合え。
  増額交渉に役立つ」

 『はいはい、利口な同業者くん。
  いいよいいよ、付き合うともさ』

 怪物と、鉄の巨人が、哀れな犠牲者の方へと向き直る。
 その後、断末魔の合唱が、爆発音と焼き斬られる音で消えていく。




 静寂が訪れるまでにかかった時間は、極めて短いものだった。



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小説 にべお
最終更新:2024年03月12日 21:44