成層圏をいくつもの強襲艦が埋め尽くしている。その中を猛烈なGに耐えながら飛行し、通り過ぎ様に艦橋を破壊して撃沈していく。

「八隻、九隻・・・まだ来るか!!」

機体を急旋回させつつ最後の一隻を破壊し、ふと振り返る。そこには悲願を達成するための方舟、『ザイレム』が浮かんでいる。

「まだだ、まだザイレムを落とさせはしない!!」

だが一機のシルエットが自機に高速接近してくる。
その機体は




「!!!・・・夢、か・・・・いや、どっちが夢なんだろうな。」

顔に大きな裂傷が入った青年は目を覚ます。頬を大量の冷や汗が流れている。彼は輸送ヘリの操縦席でオートパイロットに任せて眠っていたのだった。
 頬の傷を撫でる。肉の不規則な盛り上がりに指が触れる度にあの動乱が脳をよぎる。思わず立ち上がり、生活スペースとしてもしようしている操縦室の端にある飲料貯蔵庫から酒瓶を取り出す。一気に煽るとまた席に座った。





 それは古い鉱山に位置する歴史あるグリッドの一つであり、現在では『頭取』と呼ばれる元独立傭兵が仕切るドーザー勢力による自由貿易が行われている。
 着目するべきは一対一のACによる決闘『アリーナ』であり、これによって勢力同士の武力抗争を回避することに成功しており、これを元にして秩序と経済が構築されている。
 もちろん、アリーナに参加しなくてもグリッド内でばら撒かれている仕事を拾うことでも資金を得ることはできる。というより、そのばら撒き依頼を探しにやってくる独立傭兵やドーザーも少なくなかった。
 若き独立傭兵”ラステッド”・ファングもまた仕事探しのためにグリッド051を訪ねた一人だった。




「しかし・・この人混みは一体なんなんだ・・・?」

疲れ切った表情の青年の目にはしかし、驚愕の色が浮かぶ。今まで見てきたグリッドは人が多いとはいえ、退廃的な雰囲気がいつも漂っていたのに対してここは今からどんどん発展していくかのような賑わい方を、エネルギッシュな雰囲気をしている。
 少し歩みを進めると巨大な電光掲示板が立っているのが目に入る。その表示内容にファングは怪訝な表情を見せる。

「・・・『アリーナ』だと?オールマインドのアレとは違うのか。」

掲示板の下には『挑戦者、求む』のボードを掲げた小太りの中年の男が立っている。近づくと相手はすぐに気づいた。

「お、そこのお兄さん興味あるかい?」

はあとため息をつきながらファングは口を開く。

「興味があるかと言えばある。あの傭兵支援システムの『アリーナ』とは違うのか?」

その問いにわかってないねぇと男は自信げに語り始める。

「ここのアリーナっていうのはだね、あんな支援システムなんかよりも遥かにいい見返りが来るのよ。何がいいかってね、コームの弾みもいいけどそれ以上にパーツももらえることもあるし、何より仕事が来るようになる。なんでかって?そりゃここのみんなが見ているからさ。強い奴と当たって勝てば認められる。あんたACパイロットでしょ?んでここきたばっかりでしょ?ならやっといたらいいよ。何も個人情報の登録は必要なしさ。名乗りさえすればあとはこちらがマッチを用意するから。」

と矢継ぎ早に言葉が飛んでくる。とりあえず報酬がもらえるとのことだったので参加申請をする。

「や、あんたならそう言ってくれると思ったよ。試合はこの奥にある整備場でやるから時間までに来てくれよ。」
それだけ聞くと踵を返してマーケットへ向かうことにした。




 マーケットで合成食のスープを平らげるとデバイスで受け取ったアリーナの情報を見る。相手はここ最近連戦連勝を重ねている賞金王だとか。ご丁寧にもACの写真が載せられている。

「へぇ、ベイラムのメランダーの脚部だけレッカーに換装して積載量を増やしたのか・・・平凡だが堅実なコンセプトだ。武装も長射程ショットガンにパルスブレード、二連グレネードと六連ミサイルと悪くない。」

どう攻略するかだな、と顎を撫でながら思考を巡らせる。
 その時、椅子に腰掛けるファングに声をかける者がいた。

「よう、テメェが対戦相手か?ヒョロっとしてて頼りねぇな。」

へへへと笑い声が聞こえる。振り向くと体格のいい男と、それに媚びへつらうような態度で部下が周りを囲んでいる。

「なんだなんだ、かまってちゃんか?ACの決闘じゃなくても身体次第で金払ってやってもいいんだぞ?」

下劣な笑いが再び起きる。だが青年は青色の瞳を細めるだけで動じずに答える。

「・・・おたくらが対戦相手か。その取り巻きは金もらってるヒモか?溜まりきってるものを吐き出すには困らなさそうな人数に思えるが違うのか?」

その言葉で一瞬周りの空気が凍る。

「なんだ、図星か?溜まっているからって赤の他人に当てつけは良くないぞ?」

「・・・お前、よくもまあぬけぬけと言えたな。」

ここで足腰立たなくしてもいいんだぞと恰幅のいい男は胸ぐらを掴もうとしたが、掴む寸前にファングが手首を取って体重を使って腕を捻る。青年の一回り二回りは大きい男は綺麗に回って通りに出ているテーブルの上に落とされ、卓を破壊して地面に叩きつけられた。

 ざわざわと人が集まる中、ファングは手をぱんぱんと払って地面に横たわる男を見下ろす。

「そのでかいガタイの割には随分体幹の使い方が下手くそだな。」

「何しやがるこのガキぃ!!」

と怒りを滲ませて腰から何かを出す。それは軍用の大型ナイフだった。だが青年は冷笑を浮かべて応じるようにして何かを取り出した。

「!テメェ、この卑怯者が!!」

「卑怯?いつからこれがストリートファイトだと?」

彼が手にしていたのはハンドガンだった。

「ハイエナみたいな子分引き連れて脅しをかけようなんて奴が卑怯云々を語るとは世も末だ。」

「舐めた口利きやがって!!」

そう言って飛びかかろうとした瞬間に発砲音が響き、男の頭の真横を銃弾が空気を切る音と共に通過する。

「これがおもちゃだとでも?言っただろ、これはストリートファイトじゃないと。」

「ちっ・・・アリーナは覚悟しろよな!!」

ようやく諦めがついたのか、ナイフをしまって毒付いて立ち去っていった。
 破壊されたテーブルの残骸を見てやれやれとファングが肩をすくめる。露天の店主の元に行って謝罪をした。

「悪いな、これはテーブル代込みだと思ってくれ。」

だが不思議なことに店主はコームでの弁償の申し出を断った。
「あの野郎はここ最近うちらの店ででかい顔してたからな、あんたが一発食らわせてくれるなら将来への投資だと思うことにするさ。」

はあ、と青年は腑に落ちない表情をしつつも礼を言ってマーケットを後にした。




 隠して駐機しているヘリから愛機のACを出す。グレーに塗装された細身のAC・ヒバナが起動して黄色のカメラアイに光が灯される。

「さて、決闘とやらがどんなものか見に行くとするか。」

ブーストを起動させ、指定された場所へと飛行していった。



 指定された整備場の前に降り立つと機体にスポットライトが当てられ、場内放送が入る。

『皆さん、アリーナのお時間が参りました。今日の試合は負け知らずの賞金王、「レッドパンチャー」とグリッドに来たばかりの挑戦者との戦いになります!さあさあ皆さん勝つ方にどんどん賭けていきましょう。』

もう一機にもライトが向けられる。そこにはあの画像にも出ていたACが立っている。

『さて、挑戦者にも名乗っていただきましょう。勝てば名誉ある勝者として、負ければ無様な敗者としてここに名を残すのですから。』

そこで通信が入る。場内の実況者からだ。

「・・・ファング。そう呼べばいい。」

『さあ挑戦者の名は「ファング」とのことです。今確認した感じだと彼に賭けている人は・・・あまりいないようですがいいですか?ちなみに改めて確認しておきますが、賭けで失ったお金の50%は報酬として勝者に入ることになりますからね?』

どうやら誰も青年が勝つことを期待していないようだ。

「まあいい、俺は金さえ入ればそれでいい。」

改めてシステムをチェックする。すると整備場前の巨大な扉が左右に割れて開き、中への通路が姿を見せる。

『間もなく試合の時間です。決闘者二名は会場にお入りください。』

場内アナウンスが二人を催促する。『レッドパンチャー』と名乗る相手に続いて中に入る。中は広々とした空間が広がっている。障害物のないここなら一対一で文句なしに勝負ができるということだろう。

『後悔するんじゃねぇぞ?』

オープン回線で相手が挑発してくる。

「その言葉、そのまま返してやるよ。さっさと終わらせよう。賭け金というボーナスがあるなら尚更な。」

『テメェ・・・』

歯軋りが聞こえるような声がするが気にしない。

『メインシステム、戦闘モード起動』

COMの無機質な音声が通達する。

 そしてしばらくの沈黙の後、場内アナウンスが告げた。

『決闘、始め!!』




 敵が突っ込んでくるのを確認するとこちらもアサルトブーストを起動して突っ込む。アーキバス製のジェネレータがフルパワーで稼働して技研製のブースターが青白の炎を吐く。相手のACは途中で突進を回避するためか横に滑走を始める。だがファングも機体を横に機敏に転換して相手に突っ込み、まずは一発蹴りをお見舞いする。たまらず敵はよろけるがすぐに体勢を立て直してショットガンを放つ。わずかに被弾するが問題ではない。

「見せてみろ、そのベイラムの改造機でどこまでやれるか。」

着地して大量の火花と共にスライドしながら機体の向きを変える。そのまま白と黒の二色に塗り分けられた二丁の大型リニアライフルの照準を合わせ、猛烈な弾幕を浴びせ始めた。



「ちっ、動きが速いなこいつ・・・」

愛機『マッドファイア』を駆るドーザーは汗を垂らしながら相手のリニアライフルの銃撃を回避する。ロックオンが完了すると肩のミサイルを発射するが、右へと左へと飛ぶようにして避ける動きでミサイルの効果が半減する。グレネードも同様にフェイントをかけて避けてくるので爆風の効果を殺している。かと思えば急に距離を詰めてきて蹴りを入れてくる。

「チキショウ、調子に乗るなよ!?」

左腕に装備するパルスブレードを出力最大にしてフルブーストで斬りかかる。距離を逆に詰められた敵機は斬られて爆発した・・・かのように思えた。

「な・・・あの機体はどこにいった?」

そこには真っ二つになって燃え上がる燃料タンクの貨車が転がっているだけで機体の残骸は無い。

「まさか・・・後ろに!!」

すぐに回避行動を取るが機体を大きな振動が襲う。爆発に巻き込まれたようで、コックピット内で警報が鳴り響く。
 カメラ映像に映ったものを見て理解する。

「拡散バズーカか。ふざけたもの使いやがって・・・!」

蹴りをお見舞いしてやろうとアサルトブーストで追撃するがその間にリニアライフルの被弾をどんどん受ける。そして蹴りの間合いまで詰めたと思った瞬間、二丁のライフルの銃撃を同時に受けてついに機体の動きが止まる。

「クソッタレ、動きやがれ!!」

だがステータスをモニタリングする画面には『ACS ABNORAML』と赤い文字で表示されている。
 そして画面に映る機体は左腕の白いライフルを何かと持ち替えた。そして新しく左腕に装備されたものを見てそれまで戦意に満ち溢れてた男の顔がみるみる蒼白になっていく。

「お、おいまさか・・・まっ待て、待ってくれ!!!」

だがその声が届くことはなかった。
 中重量二脚のACのどてっ腹にパイルバンカーがアッパーをする形で撃ち込まれ、機体は後ろへと吹っ飛んでいった。そしてそのまま多少の火花を散らすだけで動き出すことはなかった。



「これで撃破・・・か?」

するとそれまで試合が始まってから閉じていた隔壁が開き、外への通路が再び姿を見せた。

『おめでとうファング!君は輝きある最初の勝利を得た!!今回の勝者はなんと連勝王を破っての勝利となります!!彼に賭けていた方は、とんでもない額のコームが支払われることになるのでお楽しみあれ。』

するとコックピット内で青年の携帯デバイスに通知が入る。それは彼に約束通りの報酬が支払われたことを告げるものだったが、その額に目が開く。

「これは・・・例の賭け金の分か!?」

よほど相手側に賭けていたようで、相当なボーナスがファングにも支払われていた。これなら次の仕事のための軍資金にもなる。

「ふむ・・・悪くはないな。」

デバイスをしまうと、行きの時と同じくアサルトブーストを展開して通路を抜け、そのまま空に飛び去っていった。




 ヘリの操縦席で休んでいると携帯デバイスに通知が入る。匿名からの依頼だ。

「まさかこんなすぐに来るとはな。」

早速画面を開き、依頼内容を確認した。




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投稿者 d2seaevo

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最終更新:2023年11月27日 02:55