「ええ・・・なんスかそれ。
オレの仕事じゃありませんよ、姐さん」
「おや。仕事を選り好みしようだなんて、
坊やも随分と偉くなったもんじゃないか」

荒野をゆくハンガートレーラーには大きくRaDのエンブレム。
カーゴスペースにはかき集められた雑多なジャンク
───ジャンク屋ヴァスティアン・ヴァッシュ曰く『お宝』───
が山と積み上げられている。

「あたしが手塩にかけたチャティ用の新型機を盗んだバカがいる。
見つけ次第ぶちのめす・・・のは無理だとしても、
少なくとも機体だけは回収したい」
ボスであるシンダー・カーラの依頼は、荒事の専門家ではない
ヴァッシュには些か荷が重いものではあったが。

「なに、あたしだってタダで頼もうってワケじゃない。
盗まれた試作機、《笑えない(キャントラフ)》サーカスらしき機影が
ボナ・デア砂丘で技研のC兵器相手にドンパチしてるって
情報があってね・・・この意味がわかるかい」
示された座標とともに送られた画像は逆光で見づらかったが、
だからこそはっきりとわかる違和感があった。
「なんだこりゃ・・・コーラルの・・・光?」
「その通りだ。どうやら犯人は、盗んだ俺の機体に
コーラルジェネレータを積んだらしい」

技研の遺産たるC兵器群と同じく、
コーラルを動力源に用いる禁忌の動力炉。
レアパーツを求め東奔西走するヴァッシュですら
滅多にお目にかかれない特上のお宝だ。
「機体表面までコーラルが漏出、侵食する
というケースは聞いたことがない。
加えて、当該機体はチャティ用に構築されている以上
人間は扱えない筈だ・・・自立稼働しているものと推測される」
トレーラーを操る相棒、ヴィルヴェルヴィントも
AI仲間であるチャティの災難には無関心ではいられないらしい。

「へぇ・・・面白くなってきたじゃんかよ」
とんでもないレアケースだ。
コーラルの特性を探る上で瞠目すべき資料価値がある。
解析データにどれほどの値が付くか、想像もできない。
「いいぜ、ボス。他ならぬチャティのためにもこのオレ、
ヴァスティアン・ヴァッシュ様がひと肌脱いでやらぁ!」

      • などと、威勢よく請け負ってはみたものの。

「だぁ〜〜〜ッ!?畜生!最悪だ!隠れる場所がねぇ!!」
息切れしそうなジェネレータに鞭を打ち、
アサルトブーストで荒野を駆ける愛機、ガルブレイヴ。
その背後を追うようにミサイルの豪雨が降り注ぐ。

「射程長すぎんだろ!?これじゃ近づけねぇよ!!」
垂直発射ミサイルとクラスターミサイルによる絨毯爆撃を
どうにか凌ぎ、レッドゾーンに踏み込んだエネルギーを
回復させるため着地したその鼻先を、極太の複合レーザーが掠める。
「キャントラフサーカスはAIならではの高精度エイムで
遠距離から敵機を封殺する移動砲台さ。足を止めたら風穴が空くよ」
声も上げられず青ざめるヴァッシュに、
解説するカーラが何処か自慢げだ。

「スキャン範囲と射程距離、照準精度を活かすために
開所を戦場に選び、死角を潰すために高台に陣取っているな。
いい選択だ。俺もそうする」
「AIにはAIの強みがある。自立制御AC開発に一石を投じる設計だ」
「とはいえ、この射程と精度は設計時の想定を超えている」
「あるいは、コーラルの侵食が機能に干渉しているのか。
興味深い現象だ」
冷静に状況を分析するチャティとヴィル。
平板な発声だが、どこか歓談しているような和やかな雰囲気がある。

「ッたく、他人事かよアンタら・・・!」
こちとら本業は死体漁り、荒事はできれば避けたいのが本音だ。
普段ならばケツを捲って逃げ出すところだが・・・
「ま・・・手強いヤツほど、高値が付くんだよなぁ!!」
再び降り注ぐミサイル爆撃目掛け、アサルトブーストで突入する。
パルスアーマーの防護を恃み、強引にミサイルの旋回半径の内側へ。



サーカスの迎撃が、レーザー狙撃からプラズマ弾幕へと切り替わる。
「逃、が、す、か・・・よッ!!」
左右への切り返しで交わしながら
デトネイティングミサイルと高機動ミサイルを放出。

後退する標的をミサイルが直撃、爆炎に呑まれ退き足が止まった一瞬。
ヴァッシュの脳深部コーラル管理デバイスに鋭い不協和音が突き抜ける。
「ッ・・・!?」
冷や汗が吹き出すほどの不穏な気配に、
咄嗟に切り返したすぐ脇を、デトネイティングバズーカがすり抜ける。

「・・・ハッ!お返しだッ!!」
加速を乗せた蹴撃が上半身を直撃。いかなタンク型といえど
これには耐えられず、ついにその動きが止まる。
───もらった。
必殺の好機に、ガルブレイヴ左腕のレーザーブレードが展開。
最大出力でブン回す2連撃がサーカスの胴体に二条の傷を刻む。
「・・・かァらのォ!!」
斬撃の合間に充填したレーザーショットガンのエネルギーを解放、
一点に収束された短射程レーザーがゼロ距離から胸を穿つ。

ガルブレイヴ必殺のコンビネーションだ。これなら・・・
「ハッハァ!ツメが甘いんじゃねぇの〜?ルーキー!!」
底抜けに明るく、だからこそ酷薄に響くその声とともに、
重い衝撃がヴァッシュを襲う。
「緊急防護機構・・・ターミナルアーマーだ。
ヴァッシュ、まだヤツは死んでいない」
「っく・・・そーゆーのはさぁ、先に言えって・・・!!」
タンク型ACのブーストチャージをモロに喰らってもんどり打った
ガルブレイヴのコアを、上空から来襲した漆黒の機影が踏み躙る。

      • 耳鳴りが酷い。
頭痛に喘ぐヴァッシュの目前に、銃口が突きつけられる。
「お疲れさん。なかなかの見世物だったが・・・ここまでだ。
こんな楽しいオモチャ、壊しちゃ勿体ないだろォ!?」





関連項目

投稿者 堕魅闇666世
最終更新:2023年11月26日 23:40
添付ファイル