「コード15。優先執行対象『パンドラ』を捕捉。排除執行する」
唐突な宣告に真っ先に反応したのはサーカスだった。
その優れた索敵性能と照準精度を活かし、
いち早く迫り来る脅威を迎え討つ───

「それはさせん」
一閃、駆け抜けた斬光が瀕死のキャントラフサーカスを
今度こそ完全に仕留める。
「随伴機排除執行。対象を包囲せよ。
バルテウスをも退けた相手だ、陣形を絶対に崩すな」
後続のエクドロモイ2機に先行し、高速突撃の余勢を駆って
身を翻した執行機は、ヴァッシュも知らない新型だった。

「アダプタブル・キャバルリー・・・噂のACって奴か?
嬉しいねぇ!封鎖機構製AC、お手並み拝見と行こうかァ!」
追手の出現にも動じる気配はなく、むしろ歓迎するような
弾んだ声音で執行機『アリオーン』に正対するパンドラ。

「九死に一生・・・ってか?
やれやれ、惑星封鎖機構とやり合おうだなんて
正気の沙汰じゃねぇぜ」
絶体絶命の窮地から一転。
あっさりと見逃されたヴァッシュの頭上を、
見慣れた機影が間近に過ぎる。

「ハッ!だらしないねぇ坊や、ビビっちまったのかい?」
シンダー・カーラがヴァッシュの及び腰を蹴り飛ばす。
「撒ける相手じゃないよ。睨まれたら最後、やるかやられるかさ」
ヴィルが寄越した補給シェルパが着陸し、内蔵した物資を解放する。
「ボスと俺に策がある。あとはお前次第だ、ヴァッシュ」
そこに詰め込まれたカーラとチャティの『秘策』を前に、
ヴァッシュも思わず破顔する。

「さぁ、行きな。封鎖機構のお仕着せ野郎どもに、
RaDのケンカってヤツを見せつけてやろうじゃないか!!」

「ふむ・・・よく動く。流石に一筋縄では行かないか」
エクドロモイ2機とアリオーンが形成する包囲網の真ん中で、
パンドラの乗機、ウォッチャーが跳ね回る。
死角を突き、タイミングを合わせての畳み掛けるような
波状攻勢さえも、その機動を捉えるには至らない。

「ハハハハッ!ウォルターの猟犬どもの方が
よっぽどよく躾けられてたぜ?もうちょっと頑張りなァ!」
水際だった回避機動に比べ、その反撃は明らかに手加減されている。
マタドールのようにエクドロモイの斬撃をすり抜け、
振り向きざまの鋭い蹴りを叩き込んだかと思えば、
足が止まった相手を放置して次の相手に纏わりつく。

「侮られたものだ・・・退がれ。私が仕掛ける」
エクドロモイ2機が引き下がった直後、
アリオーンがブースターを展開。
両肩の包囲ミサイル放出と同時に吶喊する。
左手のレーザーレイピアに込められたエネルギーが
紫電を奔らせ、まっすぐにパンドラへと迫る。

「・・・おっと。逃げ出さなかったのは褒めてやるぜ、ルーキー」
割り込んだ機影が繰り出す拳が、アリオーンの鋒を跳ね除ける。
「オーケィ、勇気ある少年には一番ウマそうな獲物をプレゼントだ」
補給を終え、参戦したガルブレイヴにアリオーンを任せて
パンドラはエクドロモイに襲いかかる。

「げぇ。面倒を押し付けやがったな・・・!?」
などと、嘆く暇もあらばこそ。
アリオーン本体の突撃に遅れて飛来した大量の包囲ミサイル群が
ガルブレイヴを取り囲む。
跳躍からの前クイック、弾道を跨ぎ越す格好でやり過ごした
ヴァッシュに、すでに切り返したアリオーンが迫り来る。

いかにも貧弱な短銃から放たれる、想定外の重い一撃。
牽制射撃と侮ったヴァッシュは、その衝撃力で体勢を大きく崩す。
「───そこだ」
冷徹に機を捕えたアリオーンのレーザーレイピア、
その驟雨の如き連撃がガルヴレイヴを責め苛む。

ACSが回復する頃には、敵機ははるか後方。
そして散布されたミサイルが追跡を許さない。
「ヒットアンドアウェイの一瞬に火力を集中する構成だな。
四脚型といっても奴の足周りは地上での水平跳躍に特化している。
いわゆる昆虫型の四脚と混同して本質を見誤るな」
ヴィルが敵機の特性を分析するが、それだけでは状況は打開できない。

ならばこちらも、次の一手を打つまでだ。

「そろそろリペアも底をついただろう。・・・これで終わらせる」
幾たび目かのアリオーンの突撃を前に、ガルブレイヴは動かない。
勝機を見出せず諦めたか。降伏するというならば命までは取るまい
      • などと、逡巡したことが彼女の過ちだった。

その背を抉る、複合エネルギーライフルの最大照射。
「なるほど。いい仕上がりだ、ボス。
開所での迎撃戦ならいい選択肢になるだろう」
落ち着き払ったチャティの声は、戦場のはるか後方、
擱座したはずの《笑えない》サーカスから。
「不意打ちとは・・・貴様!戦士としての誉は無いのか!?」
続けて降り注ぐミサイルを潜り抜ける
アリオーンから響いた声に、ヴァッシュの方が呆れ返る。
「オイオイ・・・本気で言ってんのか?」

破損したサーカスを補給物資で復旧するとともに、
本来の主たるチャティを搭載。
最高の後方支援機と連携し、ガルブレイヴの反撃が始まる。

パルスアーマー展開、アサルトブースト起動、レーザースパイク充填。
迫るミサイルの暴風圏を、パルス障壁に命を預けて突き破る。
凌ぎきれぬ弾幕の幾たりかが装甲を穿つが、もはや退路はない。

迫り来るガルブレイヴ、迎え討つハイインパクトハンドガン。
決定的なストッピングパワーを発揮するはずだった一撃はしかし、
ガルブレイヴが左手に展開した光の壁に受け止められる。

「猪め・・・軽量二脚でやることかッ!?」
補給ついでに換装したパルスナックル、そこに漲るパルス障壁が
アリオーンを直撃し、その突撃がついに止まる。
「───だから、刺さるんだろうが」
研ぎ澄ませたゼロ距離レーザーの一撃が、過たずその腹を撃ち抜いた。

───

「イェア!やるじゃないかルーキー!見直したぜ?
どうだい、せっかくだからさっきの勝負の続きでも───」
「いや、やらねぇよ!?オレはムダな戦闘は避ける主義なんだよ」
易々とエクドロモイ2機を食い散らかしたパンドラが、
まだまだ物足りないとばかりにヴァッシュに絡む。

「・・・さて。じゃあ聞かせて貰おうか。
よりによってこのあたしの玩具を盗もうだなんて・・・
覚悟はできてんだろうねぇ、パンドラ??」
抑えた声音に凄みが滲むカーラの言葉で、パンドラの態度が一変する。
「・・・おっと、いけないな。これ以上一緒に居てはまた
君たちを無用な戦闘に巻き込んでしまう。
この十字架は俺一人で背負わせて貰おうか・・・
じゃあな!また遊ぼうぜ、ルーキー!!」
などと。いかにもそれらしい言い訳を捲し立てたパンドラが
そそくさと飛び去っていくのを尻目に。

「・・・この執行機。止めは刺さないのか?」
ヴィルの問いに、ヴァッシュはため息混じりに肩をすくめる。
「無用な殺しは御免だな。それに・・・見たとこ、いいご身分だ。
うまくすりゃ、身代金でもうひと稼ぎできるかもしれねぇだろ?」
停止したアリオーン、解放されたそのコックピットを見つめ、
ヴァッシュはトラブルの予感に頭を抱えるのだった。




関連項目

投稿者 堕魅闇666世
最終更新:2024年01月25日 02:17