「や・・・やめろっ!強引にこじ開けるな!
そこは、私の大切な・・・!!」
「うるせぇな・・・よく見ないとわかんねぇだろうが。
オレだってこういうのは初めてなんだよ!」
「いやぁあああああ!!」
プシューーーッ・・・ガコン。
重い金属音と共に、ひしゃげたハッチがどうにか開く。

「まぁ・・・うん、予想はちょい外しちまったな。
腰椎フレームが丸ごとオシャカだ」
ジャンク屋の勘を頼りになるべく急所を外して
機能停止を狙ったつもりだったが、
封鎖機構製ACなどという変わり種が相手では
流石のヴァッシュも構造を把握しきれなかった。

「くっ、ルビコニアンから情けをかけられるなど、
これ以上ない屈辱だ・・・辱めを与えようというのなら、
せめて私自身にしろ!(脱)」
「・・・コーラルのキメすぎじゃねぇのか??」
荒野をゆくカーゴトレーラーに回収された執行機、アリオーン。
これ以上ない格別の収穫を得てウキウキ・・・とはいかなかった。

「レディ・アシュリー。君が危惧する事態は起こらない。
物理的に条件が整っていないからな」
「ヴィル?・・・余計なことは喋んな」
最大の懸念事項はそう、機体のおまけで拾った執行機の搭乗者。
『ミセリコルデ』アシュリー、などと大層な二つ名持ちのようだが、
このルビコンで『慈悲』なんぞ振り翳していては
いかな腕利きでも早晩に荒野に蹲る残骸に成り果てていただろう。

「ん?なんだ、君はもしかして女性なのか?これは失敬した。
      • いや、昨今性別など大した問題ではないか。
や、やはり貴様・・・///この下種め、ひと思いに殺せ!!」
なんというか・・・こう、浮世離れしている。
試作機のテストパイロットといえば聞こえはいいが、
要は実戦に出すにはおつむがお花畑だっただけではないのか。

いいとこのお嬢様かと思わせる雰囲気からして、
あまり粗略に扱っては後々自分のためにもなりそうにない。
何度目かのため息と共に、アシュリーへまとめた荷物を投げて寄越す。
「脱いだついでだ。それに着替えとけ。
流石に封鎖機構のパイロットスーツじゃ出歩けねぇ」
受け取ったジャケットとヴァッシュの顔を交互に見遣り、
アシュリーは戸惑いを隠せない。
「・・・どこに行くつもりだ?」
「さすがにこのトレーラーの物資だけじゃ修理しきれねぇからな。
ちょうど荷捌きに大豊文化圏に寄るから、そこで買い足しだ」

───

「ほう!ルビコニアンの街といっても別に
街灯がコーラル色で光ったりはしていないのだな。
昔父上に連れて行ってもらった中華街を思い出す街並みだ。
おい、ミールワームとやらの本物を見てみたいのだが、
どこで飼っているんだ?」
「そんなモンここにはいねぇよ!
オマエ、立場わかってんのか!?」
揃いのジャケット姿で並んで歩くヴァッシュとアシュリー。
傍から見れば二人組のよくいるジャンク屋・・・
にしては相方が些か浮いているか。

初めて見る風景に瞳を輝かせるアシュリーは
本当に自分の7つ上かと疑いたくなるほど危なっかしく、
今もふらふらと「風水薬房」と大書された
けばけばしい電光看板に引き寄せられている。
「そっちじゃねぇ!・・・おいおい、この店。
こっちに逃げ込んでやがったのかよ・・・」

「う〜ん、なんだ?この匂いは・・・む。思い出したぞ!
角煮まんだな!それに中華風フレンチトースト!
      • なぁ、ヴァッシュ。どうせこの後長くなるんだろう?
そろそろ・・・」
くいくい、と裾を引くアシュリーの物言いたいたげな視線を
わざとらしくかわしつつも、漂ってくる屋台飯の
うまそうな匂いは実際抗い難い。
「・・・まぁ、確かにな。よし、軽く腹ごしらえしていくか!」
よし!と飛び出すが早いか、立ち並ぶ屋台を次々に物色し始めた
アシュリーが、小柄な人影にうっかりぶつかってしまう。

「およよっ!?」
「っと、大丈夫か?おいバカ、ちったあ周りも見ろ!」
咄嗟に抱えた銀髪の少年の体の違和感に、
ヴァッシュはすぐに気がついた。
ずいぶんと年代物の義体だが、
どうやら整備そのものは行き届いている。
そして微かに漂う香水と煙草の匂い。
察するに、相応の実年齢と収入がある。
何より、背中のコネクタの感触は・・・間違いない。

「これは失礼した、少年。お詫びに何かご馳走しよう」
オレの金だろうが・・・というツッコミは敢えて堪え、
アシュリーの提案に首肯を返す。
「むぅ・・・当たられ損でもないようじゃし、まぁ良いか。
ならば・・・そうじゃな。
ここならまずは小籠包じゃ。蒸した後鉄板で焼いとるから、
底はカリカリ皮はもっちり、中から肉汁がジュワ〜〜〜!
どうじゃ、御主らも」
ごくり、と生唾を飲み込むアシュリーには、
敢えて確認を取るまでもないだろう。
「そうだな。じゃあ爺さんと俺たちの分で三人前だ」

一見少年とも少女ともつかず、しかして実態は老爺と
思しいなんとも不可思議な人物は、白毛と名乗った。
「むぐ・・・じゅる・・・ハフハフ・・・
うん、甘味噌も捨て難いがやはり胡麻辣油がマストじゃな。
で?フレームの修復資材じゃったか」
「ああ、爺さん、AC乗りだろ?ちょいとここらで
この・・・コレだ。高張力合金の複合素材なんだよ、
どこかで扱ってねぇか?」

次の一つを箸に摘んだまま、白毛が
ヴァッシュの差し出した端末を覗き込む。
うん、酒の匂いもするな。・・・まだ昼間だぞ?
「ははぁ・・・なるほど・・・うん、わからん!
いい加減歳じゃからな、忘れちまったのう」
「なんだよ!思わせぶりだなオイ!」
「・・・じゃが、世話んなっとる業者がおるでな、連絡してみよう。
鋼材なんかならスージーの奴が詳しいんじゃないかのう」

ガクッと脱力させられたヴァッシュが即座に顔を上げる。
弄ばれているのか、あるいは天然なのか。
「ありがてぇ、頼むぜ。
おっ、そーだ爺さん。ついでっちゃナンだが
うちの品揃えも見ていけよ、まけとくぜ?
ほら、コレなんか入荷したばっかの新商品だぜ。
他では取り扱ってない超レアモノでござ〜〜〜い!!」

「ふむ・・・パンドラズ・ボックス。
聞いたことのないブランド名じゃのう・・・
ふんふん?おお??よう分からんがこの、
じょうしょうすいりょく?10800??
こんな数字じゃったかのう・・・?」
「おお!そこに気付いたかぁ爺さん、さすがにAC乗りだな!
分かるだろ〜この破格のスペック!」

『QBリロード保証重量51400』
『保証重量を超過しての使用の場合、ジェネレータの
EN供給途絶の際には発火、爆発の恐れがございます』
との表記を端末を抱えた掌で巧みに隠しつつ。
どうやら仕留められそうなカモを前に
内心舌なめずりするヴァッシュだったが・・・
「ま、儂はアセンブルはやらんから買えんのじゃがの」
「ハナから冷やかしかよオイィ!!」

ともあれ、有益な情報を得たヴァッシュとアシュリーは
風変わりな相席者との昼餉を有意義に愉しむことができた。
まあ、ヴァッシュの分の小籠包は
アシュリーが綺麗に平らげていたのだが。




関連項目

投稿者 堕魅闇666世
最終更新:2023年11月26日 23:57