「ああ、そう、ACには違いないんだが、違うんだ。
ACと一口に言っても我々のACに込められた意図は
所謂ACとは違っていて、一見ACのようであったとしても
我々のACはあくまでACなんだ」
「説明ヘタクソすぎんだろ」

「ああ、いいよ。十分だ。
ミズ・アシュリー、ちゃんと伝わっているとも」
身振り手振りを交えて愛機アリオーンの設計コンセプトを
説明・・・説明?するアシュリーを、
あくまで鷹揚に受け流す義足の女性の名はインレ。
ルビコンにおける兵器や強化人間などの戦争商材を
手広く取り扱う死の商人であり、通信機一つで情勢を
自在に掻き乱す悪辣なハクティビストとしての顔も持つ。

傍に立つ仮面の用心棒、ガラルドーの剣呑な気配も含め、
うかうかと敵に回せば命がいくつあっても足りない
危険な交渉相手だが、提示する商品さえ有用であれば、
彼女以上に高値をつけてくれる上客はいない。

アーマードコアの規格に準拠した執行機、という興味深い
ネタを換金するならばうってつけの相手、なのだが・・・
「値を付けるにはデータが足りませんねぇ」
インレからの回答はにべもない。
「あらあら、なんとまぁ。鳴物入りで投入された新型が、
初陣でどこの馬の骨とも知れない
登録外のACに撃破されてしまうとはね。
その機体、本当に使えるのですか?」
穏やかな口調に反してその内容に手心はない。

「むぐぐ・・・うくっ、グスッ、ひぐっ・・・ズビビッ」
赤面してプルプル震えるアシュリーを見かねて、
当事者であるヴァッシュが助け舟を出す。
「少なくとも、オレにとっては十分に手強い相手だったぜ。
チャティの援護なしならまぁ、負けてたな」
パァァァァ・・・とあからさまな喜びのオーラを放ち
振り返るアシュリーとは視線を合わせないように努める。

「でしたらそれを、証明していただきましょうか。
激化するコーラル争奪戦の渦中で実戦データを積み上げるには、
ノーサイドの勢力であるRaDは都合がよろしい。
暫くアリオーンを預けましょう。
そこで挙げた実績に応じて設計データを
適正に買い取らせていただきますから、
頑張ってその価値を証明してくださいね?」
にこり、と完璧な微笑みと共に叩きつけられた無茶振りに、
ようやく厄介払いできると思っていた
ヴァッシュはガックリと肩を落とす。

「そういうことなら坊や、早速ちょうどいい仕事があるよ。
ジャンカー・コヨーティスのバカどもが
ケンカをふっかけてきやがった。
返り討ちにするから、あんたとそこのお嬢ちゃんも手伝いな」
通信に割り込んだカーラの言葉に
ポンと手を打ち、インレも頷きを返す。
「それは幸先がよろしい。活躍、期待していますよ?
封鎖機構のエリートパイロットさん?」
「うむ、受けて立つ!
お父様直伝の太刀捌き、とくとご照覧あれ!」

───

「君が依頼主が言っていた増援か。
噂の独立傭兵レイヴンがグリッド086に殴り込みをかけたと
聞きつけ馳せ参じてみたが、すれ違いだったかな」
「ビジターなら中でハッキングデバイスの掃除当番だ。
お前たちはこれ以上の増援が内部へ侵入しないように
ここで食い止めてくれ」
チャティの指示に、独立傭兵ラッシュの左右へ並び立った
ガルブレイヴとアリオーンが頷きを返す。
「任せろ!ケチなゴロツキどもにオレらの
ねぐらを荒らされてたまるかってんだ!」
気炎を吐くヴァッシュたちの前に次々に押し寄せる
MTの大群には、RaD製品であるパンチャーやキッカー、
ダンゴムシのように転がるトイボックスなども混じっている。

「守るべき入り口は複数ある。正面は引き受けるから、
足の速い機体には迂回する敵の対応をお願いしようか」
「オーケー、そんじゃオレは上だ!アシュリーは下層を頼むぜ!」
「よかろう、承った!!」
独立傭兵にしては連携を心得たラッシュの指示に応じて、
ガルブレイヴが飛翔し、アリオーンが足場から跳び降りる。

「チマチマした奴らの相手は苦手なんだがな・・・!」
慣れ親しんだグリッドの地形を飛石伝いに駆け上がり、
上層から迫るヘリ編隊に追いついたガルブレイヴが
レーザーショットガンとミサイルで迎撃を図るが、
射程や発射弾数の都合もあり、効率的とは言い難い。

「めんどくせぇ、まとめて潰す!!」
抜き放った最大出力ブレードの回転斬撃で編隊丸ごと切り捨てる。
その眼下では、メインストリートを埋め尽くす
敵機を向こうに回し、ラッシュの愛機ルーンが孤軍奮闘している。

「野に降ったとても元レッドガンだ。
この程度の戦力で押し切れるとは思うなよ?」
マルチロックミサイルと回転の速いバズーカをばら撒きつつ
猛然と敵陣に飛び込んだルーンの左腕、
炸薬投射機構が展開し前面を爆炎で薙ぎ払う。
広域を焼き尽くす爆発物のオンパレードを
辛くも生き延びた四脚MTも、炎を突き破って肉薄した
ルーンの重量級のブーストキックで上半身を粉砕された。

「なるほど、これがAランク傭兵の実力か・・・
だが私とても、戦士としての矜持がある!!」
山岳を駆けるカモシカのようにグリッドの起伏を捉え跳ね回る
アリオーンの後には放出された包囲型ミサイルが続き、
冴え渡るレイピア捌きと合わせ、側背を狙う寄せ手を打ち払う。

ラッシュの判断は奏功し、それぞれの活躍の場を得た
3機の働きで防衛線は安定しつつあった・・・のだが。
突如、戦場に爆音で響き渡るクラシックの音色。
シュトラウス一世『ラデッキー行進曲』のライヴ音源だ。
「これはこれは、宴もたけなわ。
こちらも出し惜しみをしては失礼というものです。
さぁ。我々の心尽くしの贈り物、
お受け取りください、ご友人の皆さん!!」
場違いなほどに朗らかな声が広域放送で戦場にこだまする。
それと共に、騒々しい駆動音と共にメインストリートを
埋め尽くす巨体が噴煙の彼方から猛然と迫り来る。

グリッド建造に用いられるマスビルダーの巨大アームに
回転ノコギリを取り付けた狂気の解体重機。
悪趣味なグラフィティと野蛮な武装に彩られた御輿の上、
歓迎の意を表して両手を広げるディープイエローのACは・・・
「ヴァッシュ。遠慮はいらないよ───殺せ」
「ガッテンだ、姐さん」
オーネスト・ブルートゥ。
RaDから奪った多大な資産と人員、
そしてとっておきの秘密道具を手土産に
ジャンカー・コヨーティスの頭目に収まった裏切り者。

「おや、少年!君も居合わせていたとは、なんという幸運だ!
さぁ、踊りましょう!ああ・・・今日は素晴らしい日だ。
ミルクトゥースも喜びに震えています」
重機から飛び出した専用機が上空から火炎を撒き散らし
ガルブレイヴに襲いかかる。

「紳士的な人物ではないか。彼もああ言っていることだし、
少し冷静に話し合ってみてはどうだ?」
アシュリーの能天気な発言に、ヴァッシュが思わず脱力する。
「おいおい・・・騙されんな!コイツの言ってることは
全部デタラメだ!チョーシいい事抜かして懐に入って、
中から何もかも無茶苦茶にするクソ野郎なんだよ!!」
まだ駆け出しだったヴァッシュが必死でかき集めたガラクタを
素敵な宝物だと褒めてくれた男が、
その宝物を丸ごとちょろまかしたのだ。
カーラのみならず、ヴァッシュもまたこの男には
恨み辛みが山ほどある。

「おや、それほどまでに私のことを
強く想っていただけているとは。素敵だ・・・!
私にも、その真心に応えさせてください!!」
拡散バズーカと拡散ミサイルを立て続けに放ち
回避を強要したうえで、撒き散らす火炎を目眩しに肉薄。
至近に迫ったミルクトゥースの左腕で、
連装チェーンソーが唸りを上げる。

咄嗟に振るうブレードで迎撃を図るが、
それまでの殺気が嘘のように身を翻したかと思うと、
無骨な躯体に不釣り合いなほどの優雅な挙動で
グリッドの足場に着地する。
業腹だが、狂人であると同時に腕利きなのもまた事実だ。
「素晴らしい・・・情熱的なステップです。
さぁ、貴方もご一緒に!
スロー、スロー、クイッククイック、スロー・・・」
怒りに任せたヴァッシュの追撃を滑らかな足捌きでいなし、
火炎放射がじりじりとガルブレイヴの
システムに負荷を蓄積させていく。

「相手のペースに乗るな。その二枚舌も奴の武器だぞ」
迫り来る巨大双腕重機のグリッドへの強引な侵入を阻むべく
奮闘しつつも、ヴァッシュへの気遣いを見せるラッシュ
その落ち着きに感嘆しつつ、アシュリーもまた
巨大重機阻止のために奔走するが・・・

「ここまでの大型目標、アリオーンも想定外だ・・・!」
元はと言えばあくまでも建機、足場の至る所に
ロケット砲を取り付けて粗雑に武装化されてはいるが、
装甲は皆無。
撃てば撃っただけ破損は進行するが、なにしろ相手は
グリッドそのものを建造するために用意された代物、
規模が桁違いである。

「まずいな・・・ルーンの火力でも解体しきれん。
ヴァッシュ君!そいつには構うな!!
この質量がグリッドにぶつかればタダでは済まないぞ!!」
「・・・クソッ!」
何ならこの重機もRaDからの盗品だ。
整備に駆り出されたこともあるから構造は熟知している。
狙うなら天面。メインエンジンの排気口から
高熱を流し込めばあっという間にドカンだ。

「おや、少年!一緒に踊ってはいただけないのですか?」
背を向けアサルトブーストに移行したガルブレイヴを、
同じくアサルトブーストで追随するミルクトゥース。
火炎放射と拡散ミサイルが背後から迫る中、
次々に立ち塞がる構造物をすり抜けての全力疾走。
寿命が縮みそうな最悪のスリルで冷や汗に塗れながらも、
どうにか双腕重機の至近に迫る。

「なるほど、これは・・・
素敵な花火を添えて差し上げなくては!」
ヴァッシュが目指すゴールを見てとったブルートゥが
拡散バズーカを発射。
見事に目標地点に置かれた爆撃がガルブレイヴを直撃、
高熱でイカれたACSがついに悲鳴を上げる。
「さぁ、クライマックスですよ!
息を合わせて・・・アン!ドゥ!」
「───トロワ!!・・・で、よかったのか?」

騒々しく騒ぎ立てる回転刃を打ち払ったのはアリオーン。
「ステージは終幕だ。ご退場願おうか!」
駆けつけたルーンのブーストキックがミルクトゥースを直撃。
「おおっ!これは・・素晴らしい贈り物だ!!
ありがとう・・・ありがとう!!」
グリッドの外まで景気良くブッ飛んだブルートゥの
朗らかな哄笑が、長く尾を引き地表へと遠ざかっていく。

「ハァ・・・やれやれ。さぁ、片付けるぞ!」
「応よ!!」「承知!!」
3機のACが持てる火力の全てを排気口に叩き込む。
止めとばかり撒き散らされたエクスプロシブスロワーが
エンジンの内部で炸裂、全身から炎を噴き上がる。

今まさに終演を迎えたオーケストラ。
沸き立つ喝采に応え、巨大重機が盛大に爆散した。

グリッド内のハッキングも阻止されたらしく、
コヨーティスの襲撃はひとまずこれで幕引きのようだ。
「おやおや、こりゃ景気のいいキャンプファイヤーだ。
いい仕事だね、マーセナリー。
ブルートゥの顔面にブチ込んだ一発は最高に笑えたよ。
さぁ、今夜はこの炎を囲んで祝宴だ!支度を始めな!!」
カーラのご機嫌な声を受け、思わずヴァッシュも顔が綻ぶ。

「流石だな。頼りにさせてもらったぜ。
ラッシュ、だったか?
共闘のよしみだ、整備くらいは手伝わせてくれよな」
「ああ。傭兵でもない、企業にも所属していない
AC乗りにも使い手はいるものだ。
次もぜひ味方同士でありたいものだな」
互いの左拳を打ち合わせ、健闘を讃えあう二機の足元には
すでに酔いが回ったドーザーたちが参集し、
英雄たちに万雷の喝采を送っていた。




関連項目

投稿者 堕魅闇666世
最終更新:2023年11月27日 00:45