「おぉーーーっとォ跳んだァ!大豊自慢の新製品、
重量逆関節脚部『天跳』のパワーが大豊龍の
巨重を軽々天へと跳ね上げるぅ!!
パンタレイの高速突進をひらりとかわしたマタドール!
ここで反撃の炸薬投射が炸裂だァァ!!」
目指すは、アーレア海を越えた先。
ウォッチポイント・デルタで爆ぜたコーラルが集う中央氷原だ。
コーラル争奪戦の焦点を追いかければ、
ジャンク屋稼業も大きな利益が期待できるだろう。
とはいえ、ルビコンの中央に鎮座する大海を越えるには
相応の準備が欠かせない。
大陸間弾道カーゴランチャーで海上をカッ飛んで
1番乗りを果たしたバカもいるらしいが、それはそれ。
ヴィルを積んだトレーラーも一緒に輸送できる船便となると、
どうしてもすぐには手配できない。
そこで時間潰しがてらやってきたのが、ここ
グリッド051だ。
RaDにも比肩する大規模ドーザー勢力、ALTが牛耳る
この古参グリッドは、AC戦闘競技、『アリーナ』の本場。
当然のようにAC用パーツの需要は高く、
ヴァッシュにとっても上得意先の一つである。
「グリッド086の皆も楽しそうに呑んでいたな・・・
コーラルというのはそんなに美味いのか?」
アリーナ観戦がてら、コーラルコークを呷るヴァッシュを
興味深げに見つめるアシュリー。
「やめとけやめとけ。あのオッサンみてぇになっちまうぞ」
バツが悪そうに目を逸らし、アテに買った
ワームエッグフライ(コンポタ味)を差し出しつつ、
マグを掴んだ手でモニターを指し示す。
「ぉぉお!見えます!揺蕩い!跳ねて!たわわに揺れる!
これぞまさしく、我らが求めた叡智の果実だ!!」
「お客さん、セクハラアルね!大豊娘娘はお触り厳禁ヨ!!」
着地際を狙い、ここぞとばかり仕掛ける爆発物の鶴瓶撃ち。
先読みでアサルトブーストを起動した
紫丁香がこれをすり抜け、
堂に入ったカンフーキックでカウンターを叩き込む。
「オイィ?頼むぜパンタのオッサン!
同郷の誼でアンタに賭けてんだからよーーーッ!!」
周囲の観客と一緒にヤジを飛ばす姿が
すでにオッサン臭いヴァッシュであった。
「うむ。確かに些かユニークだな・・・君は、平気そうだが」
「まーガキの頃から飲んでるからな。慣れちまってんだろ」
一度は体勢を崩しかけたパンタレイだが、
高速タンクの機動性を活かし即座に離脱。
「もう少し!もう少しでそこへ参ります我が師プラトン!
おや・・・輪を描く我が師が並んで二人・・・
これぞまさしくツープラトン!おお!太陽あれ!!」
大豊龍がばら撒く弾幕を振り切り、クラスターミサイルを発射。
「アイヤー!?こんなデリバリー頼んでないアルよ〜〜〜!!」
たまらず再び跳躍を図るその瞬間。
挙動を見切ったパンタレイのグレネードとバズーカが
大豊龍を直撃し、致命的な隙を晒す。
「ああ!今こそイデアの種が弾けます!!
黒く歪んでぇ〜ま、ぁ、っかぁ〜〜〜に燃ぉえぇるぅぅ・・・
バンザァァァァァァイ!!」
全速力で突っ込んできたタンクの全重量を傾けた
ブーストチャージが炸裂。完全に交通事故である。
「どひゃぁ〜〜〜っ!?ざ、再見〜〜〜!!」
たまらず吹き飛ぶ大豊龍。ゲームセットだ。
賭けに勝ったもの、負けたもの。
推しの敗北に嘆くもの、悲鳴をありがたく拝聴するもの、
あるいは単純にバカ騒ぎがしたいだけのもの。
悲喜交々のざわめきが入り乱れる。
「ッしゃァァァアアア!
ヒュゥーーーッ!ハジケてるぜぇオッさァん!!」
客席に立ち上がり、渾身のガッツポーズを決める。
喜びのままに勝利の舞を披露しそうになったところで、
アシュリーの冷ややかな視線に気づいたヴァッシュは徐に着席する。
「ンンッ・・・けどま、やっぱこう・・・所詮プロレスなんだよな。
あの姉ちゃんなんか、大豊の客寄せパンダだろ?
俺らみたいに命懸けで本物の戦場に出てる
AC乗りに比べりゃ緊張感がねぇよな、うん」
照れ隠しを捲し立てるヴァッシュの背後に、
剣呑な気配を纏う人影が歩み寄る。
「ふぅん・・・?坊や、なかなか言ってくれるじゃない」
じろりと鋭い視線を投げかける褐色の美女、
その隣には・・・何やら、見覚えのある美青年が。
「おい、よせよベラ・・・!」
「いいえ。黙ってられないわ、フランツ。
いい?貴方には分からないかも知れないけどね。
ここのファイターだってアリーナに人生を掛けてるの。
アリーナ登録もせず野外で乗り回してるだけのコとは
トレーニングの質が違うんだから!」
間違いない。アリーナの上位ランカー、
F・ブラオだ。
目の前の女性は、相方の生業を侮辱されて怒る
恋人といったところだろうか。
「おお?言ってくれるじゃねぇかよ。
こちとら、遊びでやってんじゃねぇんだよ!
比べられちゃたまんねーな!!」
ややまずい雲行きになっている自覚はあるが、
ヴァッシュとて彼女の言い草は聞き捨てならない。
バチバチと火花を散らす二人にするりと割り込んだ老婆、
レディ・ゴーラウンドが、面白い玩具を見つけたとばかりに
両者に好奇の視線を送る。
「おやおや。面白いことになってるじゃないか。
どうだい坊や。スポーツACバトルに命を掛けた男の戦い、
肌で感じてみないかい??」
───
「ハァイ!とぉ、いうわけでェ!
レディ・ゴーラウンドプレゼンツ!
スゥぺシャルエキシビジョンマッチィ!開幕だァ!!」
グリッド051の最上層に設えられた摺鉢上のステージ、
その外縁に4機のACが並び立つ。
「今回のルールはァ、サラダボウル・ランブルッ!!
2on2、ウィズミニオンのタッグ・マッチ・バトルだッ!!」
これは・・・やっちまったかも知れん。
今更ながらに、ヴァッシュは後悔しつつあった。
しかし背後は上空2000mの断崖、もう逃げも隠れもできない。
「おお!興行バトルでこんな大掛かりなステージを用意するのか!
ルビコニアンの娯楽への情熱は大したものだな・・・!」
隣で呑気に状況を面白がっているアシュリーが少し羨ましい。
「さァ、イカれたチャレンジャーの紹介だっ!!
あぁおコ〜ナ〜、吹く風まかせの風来坊!自称トレジャーハンター、
ヴァァァスティアンッ!ヴァァァッシュゥウウウウウウウウ!!!」
Boooooo!!
よりによってアリーナのニューヒーロー、ブラオを侮辱したと
知れ渡っているヴァッシュへのファンの心象は、すでに最悪。
ハナから完全にアウェーである。
「世にも珍かなる白馬の姫騎士!い〜ぃ声で啼いてくれよなぁ?
ミセリコルデッッッ!アァァシュリィイイイイイイイ!!!」
なんだかすんごく不名誉な紹介をされているらしい。
ギャラリーから湧き起こる失笑の渦に、
どうにかその雰囲気だけは察したアシュリーの表情が暗転、
頬を膨らませてぶんむくれる。
「彼らは私のことを誤解しているようだ。訂正が必要だな。
やぁやぁ!遠からぬ者は音に聞けィ!
我こそは、誉も高きわく・・・ぶむっ」
「オイバカやめろ!オマエ、封鎖機構の一員だなんて
バラしてタダで済むと思ってんのか!?!?」
頭を小突かれたアリオーンがガルブレイヴを睨みつける。
すでにチームワークに不安が漂う挑戦者をさておき。
「あぁかコ〜ナ〜、帰ってきた!
オーーーォォォルドォレジェェェンドッッッ!!
かつての栄光、再び掴め!みなさんご存知、
ビィィィィッグゥ!!ジョォォォォォォォォォォォオオオオ!!!」
対するは、かつてアリーナの頂点に君臨した最強のリターナー。
「オイオイ、人選がガチ過ぎんだろ・・・
こりゃバァ様、相当お冠だぞ」
とはいえ、グリッド051はヴァッシュにとっても得難い稼ぎ場だ。
みすみすかませ犬を演じて面目を潰すわけにはいかない。
そして、いよいよ登場する真打に、
観客席の盛り上がりが最高潮に達する。
「無改造のハンデ?知ったこっちゃねぇ!
今日も最高のマニューバ、期待してるぜッ!群青の稲妻ッ・・・
フラァァァァンツゥ!ブラァァァァァオオオオオゥッッッ!!!」
Fooooooooooooooooooooo!!!
割れんばかりの歓声が、その人気を何よりも雄弁に物語る。
これほどの期待を背負ってなお、ブラオの愛機、
シュトゥットガルトはまっすぐにガルブレイヴを見据えている。
そこには、相手への侮蔑や驕慢は一切感じられない。
ただひたすらに、己の持てる最高のパフォーマンスを
発揮すべく、敵手の分析に全神経を傾けている。
「オーケィ、オーーーーディエンス!タイム、ハズ、カンム!!
その目にバッチリ焼き付けな!
レッツ!ショォォォォォウ・・・ダウンッッッ!!」
響き渡るブザーに、輻輳するエグゾースト。
フィールドを震わせる轟音が大気をどよめかせる。
「さて、と。私はあちらのナイトを預からせてもらおうか」
「了解です!お気遣い感謝いたします、ミスター!!」
戦場に飛び込むと同時に二手に分かれた
BIGジョーとブラオは、
それぞれアシュリーとヴァッシュに正対する。
「ははは、ミスターは止してくれよブラオ君。
過去の栄光は所詮過去でしかない。
今の私は、君と同じチャレンジャーだよ」
落ち着き払った言葉に同じく、その機動制御も的確そのもの。
間合いを詰めてくるアリオーンとの速度差を即座に理解した
元チャンプの愛機、キンシャサが腰を落として迎撃体制を取る。
迎撃のミサイルとマシンガンの弾幕を
伸びやかなステップで交わしたアリオーンが放つ
ハンドガンをジャストガードで捌き、
無理に引き離そうとせず敵機の捕捉に神経を注ぐ。
積極的とは言えないキンシャサの対応に焦れたアリオーンが
一気に踏み込み、主兵装たるビームレイピアを発振させる・・・
───悪寒。
即座に打ち込みを諦め、軌道修正を図ったアリオーンの脇を、
爆炎と共に撃ち込まれた鉄杭が掠め、左肩の装甲を粉砕する。
完璧なタイミングのカウンターパイルだ。
「いい反応だな。少なくとも、勝負にはなりそうだ」
側面を見せたアリオーンに抜け目なく追撃を加えつつ、
キンシャサはフィールドの外縁へ。
「そう来るか・・・なるほど、戦巧者だ」
こちらの得手とするヒットアンドアウェイを封じる
エリアギリギリのポジショニング。
接敵して初手に『解』へと辿り着く、その洞察力たるや。
レジェンドの二つ名は、伊達ではない。
「すまんヴァッシュ。そちらの援護は・・・できそうにない」
父との立ち合いを彷彿とさせるような、静かな強者の気を
正面から受け止め、アシュリーの頬を冷や汗が伝う。
「ヘッ!ハナから期待してねぇ・・・よッ!!」
ガルブレイヴとシュトゥットガルトの激突は、
相棒のそれとは対照的な様相を呈していた。
「荒削りだが、いい反応だね!
君はきっと、いいファイターになれるぞ!」
二丁拳銃から次々に放たれるレーザーを掻い潜り、
アサルトブーストで猛追するガルブレイヴ。
「そりゃつまり、今はまだ追いつけねぇってことか?」
最高速度ならこちらにいくらか分がある。
なんとしても、俺の間合いに捕まえる・・・!
「甘く見られたもんだなァ、オイ!!」
最後の一歩を詰めるレーザーブレードの打ち込みは、
素早く抜き放たれたレーザーダガーに阻まれる。
まだだ。続けざまのレーザースパイク、
これも、レーザーダガーの2撃目が打ち払う。
「っく・・・!」
3撃目に合わせる手札は・・・こちらにはない。
止むを得ず退いたヴァッシュへ、
反転攻勢を仕掛けたブラオが跳躍する。
右肩の連装グレネードが動き、警告音が響く。
回避は・・・できなかった。
「ALULAと20Cなら、そろそろ息切れだろう?」
コイツ。機体の駆動音だけでこっちの内装を当てやがった!?
まともに食らった爆撃で、視界が炎に包まれる。
すかさず叩き込まれたブーストキックで、
ガルブレイヴがついに膝を付き・・・
「───そこだッ!!」
間髪入れず振り抜かれたレーザーダガーが、コアを捉える。
───痛打だが、まだ致命傷ではない。
これが、上位ランカーの実力か。
膨大な知識と弛まぬ研鑽に裏打ちされた、洗練された攻め筋だ。
だが。荒野を駆ける野良犬とても、一片のプライドはある。
遅ればせながらシュトゥットガルトを襲うミサイルが
作った時間を活かし、間合いをとったところで
アナウンスが会場に響く。
「ここでお楽しみのサプライズだァ!
本日のミニオンのぉ、エェントリィイイイイイイイ!!」
ステージへと投げ込まれる、巨大な回転体は全部で5機。
───そうだ。これを待っていた。
「ヘリアンサス型だと・・・!?
興行試合の余興のためにこんなものまで用意するのか!?」
半球状のステージを高速で駆け巡る歯車状の破砕機が、
アリオーン目掛け殺到する。
水平機動に特化した獣脚型には厳しい乱入者だ。
回避に専念するアシュリーを、安全地帯であるステージ外縁に
陣取ったBIGジョーがカモ撃ちにする。
「ヘッ!C兵器の相手は初めてかぁ、兄ちゃん!!」
次々に襲いかかるヘリアンサス型の突進と、
すれ違いざまの火炎放射にミサイル弾幕。
戦いの流れをかき乱すには十分すぎる増援だが、
ヴァッシュにとっては知らぬ相手ではない。
技研の遺構にも分け入るトレジャーハンターなら、
C兵器の対処は必修科目だ。
落ち着き払って高度を取った上で、タイミングを図り
ミサイルを放出。弱点である爆破属性による
ダメージがヘリアンサス型の中心軸を貫き、
転倒したところをすかさずブレードで一閃。
手早く窮地を切り抜けたガルブレイヴが
シュトゥットガルトに再び照準を定める。
四方から迫る回転刃に退避ままならぬブラオに、
追いついたヴァッシュがレーザーショットガンを乱射。
ばら撒くミサイルと合わせ、インファイト特化武装ならではの
パワーでダメージ差を巻き返す。
「なるほど・・・!これが君の戦い方か。面白い・・・!!」
張り付いたガルブレイヴを引き離すべく、
アサルトブーストで交差する。
負けじと追随するガルブレイヴが放ったミサイルの前に
割り込んだヘリアンサス型がまた一機爆散したタイミングで、
シュトゥットガルトがクイックターン。
追手に放たれたグレネードに、ヴァッシュも即座に反応。
背後から迫る破砕機が流れ弾に突っ込んで自爆する。
「ヘッ、もう見切っちまいやがった。可愛げがねぇな!!」
「そちらこそ、いい反応じゃないか。
直撃させるつもりだったんだけどね!!」
爆炎を背に、旋回戦に突入した2機の軽量二脚が
目にも止まらぬ高速銃撃戦へと移行する。
「このままではジリ貧か。ならば・・・!!」
意を決したアシュリーが、迫るヘリアンサス型を
自慢の後ろ脚で蹴り飛ばして走り出す。
フィールド端に陣取るキンシャサ目掛け、
後先考えぬ全速力で突貫する。
「破れかぶれか。だが、勢いだけでは崩せんぞ・・・!」
落ち着き払い迎え討つBIGジョー、
抜き放たれたレーザーレイピアをジャストガードで凌いで、
必殺のカウンターパイルを叩き込む。
過たず、深々と突き刺さるパイルが左肩を爆砕する。
それでも。アリオーンは止まらない。
「この距離ならば、シールドは使えまい!!」
「ぬぅ・・・!?」
ゼロ距離で撃ち込まれるハンドガンにキンシャサが怯み、
遅れて殺到した包囲型ミサイルの一斉攻撃が2体を包む。
自身も爆風に巻き込まれることさえ厭わず、
4本足の馬力に任せて叩き込む渾身のぶちかましが、
遂にキンシャサを場外へと弾き飛ばした。
言わずもがな・・・アリオーンも諸共に。
「・・・胸を借りさせていただき、感謝する。
これほどの使い手と手合わせできたこと、光栄に思う」
「こちらこそ、久しぶりに驚かせてもらったよ。
やはり若さゆえの向こう見ずな勢いってのもいいもんだ」
転落防止ネットに仲良く捕まった
アリオーンとキンシャサが見つめるステージの上で、
残る二人の激戦もまた、終局を迎えようとしていた。
周囲を駆け巡るヘリアンサス型はもはや、
二人の視界には入っていない。
デトネイティングミサイルの爆炎を掻い潜り、
高機動ミサイルの下を潜り抜け、深く踏み込んだ
シュトゥットガルトがレーザーを乱射する。
応じたガルブレイヴが側背へ切り込みながら撃ち返す。
初めは、生意気な素人の制裁ショーを
楽しむつもりだった観客たちが。
「こっ・・・こいつァとんだサプライズだッ!
無名のルーキー、
ヴァスティアン・ヴァッシュ!
フランツ・ブラオの超絶マニューバに食い下がっているゥ!!
お前らァ!瞬きしてるヒマなんかねェぞッッッ!!!」
今や、目の前で繰り広げられる死闘に熱狂していた。
「たまんねぇな、その動き!
触っただけでキレちまいそうだぜ!」
「君こそ、どこでそんな機動を身につけたんだ?
あとでじっくり聞かせてもらうぜ!!」
互いにすでにAPはレッドゾーン、次の一撃が勝敗を分つだろう。
無粋なヘリアンサス型が睨み合う両者に割り込むが。
「「邪、魔、だッッッ!!」」
両側から叩き込まれたブーストキックが打ち砕く。
爆炎の向こうに、ブラオは、ヴァッシュは、
討つべき好敵手の姿をはっきりと捉えていた。
「「ぉああああアアアアアアッッッ!!!」」
放たれる咆哮が一つに重なり、抜き放たれる終の一刀。
レーザーダガーとレーザーブレード、同時に閃いた
渾身の一撃が交錯し・・・
アリーナは、割れんばかりの喝采に包まれた。
───
「ま・・・参りましたぁ〜〜〜っ!」
見事にぶった斬られた機体から転がり出たヴァッシュが、
完璧なフォームのローリング土下座でブラオの前に滑り込む。
互いにフルチャージの斬撃、となればより早い方が勝つのは道理。
惜敗などでは断じてない。
双方が積み上げた体力差、そしてそこから導かれる
こちらの手札まで、全て読み切った上でブラオは決着に臨んだ。
歴然たる知識と度胸、そして技術の差が導いた必然の結末だった。
「オレはこれまで、ヤバくなったら
いつでもケツ捲って逃げればよかった。
だけど・・・アリーナには逃げ場なんかないもんな」
傍に屈み込んだブラオの恋人、ベラがヴァッシュの肩に手を添える。
「分かってもらえたならいいの。
さっきはキツい言い方になってごめんなさいね。
でも、フランツとの勝負は楽しかったでしょう?」
顔を上げたヴァッシュが深く頷く。
「ああ。ブラオの動きは、見惚れるくらい綺麗だった。
他の余分な感情抜きで、ただ闘いたいから闘う。
それがこんなに清々しいなんて知らなかったよ。
だからさ・・・またいつか、オレと戦ってくれねぇか?」
「ああ、もちろんだ。だけど、俺だって今のままじゃないぜ。
まだまだ目指す高みはずっと先だ。君に追いつけるかな?」
「ヘッ、言ってろ・・・約束だぜ!!」
差し伸べられた手を固く握り、
立ち上がったヴァッシュがブラオの前に並び立つ。
甘いマスクに引けを取らぬ紳士的な対応に、
観衆から再びの喝采が巻き起こる。
このバトルをセッティングし、莫大な配当金を回収した
マッチメイカー、レディ・ゴーラウンドが
この一件で最大の利益を挙げたことは・・・
あえて言うまでもないだろう。
関連項目
最終更新:2023年12月12日 06:38