ベリウス地方の山岳地に位置するとある市街地にて
廃墟となった市街地に軍用の施設を建設し、軍事拠点が設けられている。ここはルビコンに進駐した星外企業・ベイラムがコーラル調査のために展開した中継拠点である。
ここでは今、ベイラムの駐留部隊が忙しく動き回って戦闘配備を整えている。貨物トラックがMT用の弾薬を輸送して各機体の武装に届け、屋外に設けられた仮設の整備場では雪が降る中MT及び重量四脚MTにパイロットが乗り込んで機体を起動する。
『A小隊に告ぐ。0300までに第一防衛ラインにつき、敵の観測を開始せよ。B及びC小隊は第二防衛ラインを固めること。』
拠点に放送が流れる。基地全体が慌ただしいのは偵察に出ていた部隊からの予想外の情報からだった。偵察曰く、ルビコンのレジスタンス組織『ルビコン解放戦線』が大部隊を擁してここを奪還するという情報を得たのだという。この市街地はつい最近ベイラムの部隊が制圧して獲得したばかりで、基地全体の防衛戦力は不足気味が否めなかった。
「ベイラムの上層部め・・・相手は四脚も含めて100近い機体を投入するというのに実際の規模を確認してからじゃないと増援は送らないだと?クソッタレが、あいつらは足し算もできんのか!!」
現地の指揮官が本部で毒づく。
そこに部下が報告を入れる。
「指揮官、偵察ヘリより報告です。目標はMT70体、重量四脚が30体、さらにヘリの護衛が含まれているとのことです。」
「・・・やはり本気でここを取り返す気だな。第一防衛ラインに伝えろ。連中を渓谷に誘導して第二防衛ラインで集中砲火を浴びせると。」
「了解です。」
すぐに部下が指示を飛ばす。本部のモニターでは各機の現在位置が地図に表示されている。市街地の外に広がる渓谷の両側の崖では重量MTが一機ずつ、そしてそれを援護するMTが数機ずつ配備して待っている。
本部に通信が入る。増援として待機しているベイラムの主力AC部隊、『レッドガン』からだ。
『オンタリオ、敵の襲撃は来たか?』
指揮官の名前を呼び捨てにする地響きのような声の持ち主はレッドガンの隊長にしてベイラムの『総長』と呼ばれる歴戦の猛将、G1ミシガンだ。彼はまた、『歩く地獄』というあだ名を頂戴している。
「まだ防衛ラインから接敵の報告は来ていない。」
『そうか、だが相手は貴様ら以上の物量で攻め落とすつもりだ。上層部を黙らせて一機だけ今から増援を送ることができた。あいつなら単独でも貴様らの部隊の50倍は強いはずだ。』
「それは誰だ?」
真夜中の冬山の上空を一機の輸送ヘリが高速で通過する。機体内のガレージには一機のACが収納され、出撃の時を待っている。
「敵はおよそ100・・・駐留戦力でどれほど削れるか、だな。」
ACのコックピットでモニターのブリーフィングを見ながら青年が呟く。
『MTは削れても、問題はBAWSの四脚ですね。奴らはレーザーブレードに盾持ちも混ざっていやがる。第一防衛ラインは陽動で、第二防衛ラインが本命ですが、どれほど持つことやら。』
ヘリのパイロットが通信越しに話す。
「だな。」
とはいえ、と青年は伸びをする。
「解放戦線はどんなに訓練を積んでいてもタクティクスではこちらに劣る。連中のうち一番強いやつを落とせばだいぶ楽にはなるだろうな。」
だがその発言に対して無線で爆発のような怒声が流れてくる。
『舐めた口を利くな
シナノ!!いつから貴様は戦術家になった?貴様の考えない突撃ぶりも大して変わらん。自殺の予定がないなら気を引き締めてかかれ!!』
キーンと耳鳴りがするのを抑えながら、シナノと呼ばれた青年は了解と返す。彼はレッドガンの隊員の一人であるが、唯一『番号』で呼ばれていない存在だった。
『調整が完了しましたシナノさん。しっかり整備はしてるとはいえ、あまり無茶はせんといてくださいよ!!』
ガレージの整備員が外から声をかける。ゴーサインのジェスチャーを確認してジェネレーターを起動する。内燃式の大容量型ジェネレーター『三台』は内燃機関の唸り声と共に出力を上げ、シナノの愛機『ライメイ・カイ』にエネルギーを供給する。機体各部のブースターから一瞬だけ黒い煙を噴かし、すぐに透明な排気に変化していく。
「武器を接続。FCS動作確認。ブースター稼働チェック・・・よし、いずれも良好。機体を出せ!」
その号令に従うようにして機体が回転し、後方にガイドレールを使って移動する。下部のハッチが開いて降下の準備が整う。
『メインシステム、戦闘モード起動』
COMが淡々と報告する。
赤のランプが点灯して機体とヘリの接続の操作権限がシナノに移行される。ランプがグリーンに変わると、青年はコックピット内のタッチパネルに表示されたボタンをタッチし、戦火に包まれた市街地へと降下していった。
『敵部隊、第二防衛ラインに到達!』
「第一防衛ラインはどうなってる?」
「第一防衛ラインはほとんどが壊滅・・・何かがおかしいです。あまりに進行が早すぎる!」
本部ではいささかの混乱と共に会話が忙しく飛び交う。
「ええい、本部の警備戦力も全て前線に出せ!ここで出し惜しみをして突破されたらどのみち終わりだ。レッドガンが到着するまでなんとしてでも持たせるんだ!!」
「指揮官、第二防衛ラインより報告!敵部隊の指揮を行っているのはACです。」
その言葉に指揮官が眉をひそめる。
「ACだと?そんなのはいつものことだ。BAWSのACなどMTといくらも変わらんだろう。」
「違うんです、あのACは・・・」
「違うだと?」
部下が慌てた様子で言葉を続ける。
「敵部隊の先頭に立っているのはエルカノのAC、機体構成によれば、パイロットは解放戦線の実質敵司令官、『ミドル・フラットウェル』です!!」
「敵は主にMTと重量四脚の構成・・・やはりベイラムならではの戦術だな。」
軽快な愛機『ツバサ』で敵の射撃を避け、グレネードとミサイルで吹き飛ばしていく。
「敵の防衛ラインを左右から挟む。正面はこちらが担当する。」
『了解です、師叔殿!!』
正面からフラットウェル率いる四脚MT部隊が突入し、左右からはMTによる挟撃が始まる。傍受しているベイラム部隊の無線では混乱が見られる。
『なんだ?左右からもMT部隊が!』
『挟み込まれているぞ、このままだと包囲される!』
『指揮官、このままだと火力で押し切られます!ここは退却して体勢を!!』
それに対し、指揮官らしき男が悔しげな様子で承諾する。
『・・・わかった。第二防衛部隊、市街地内防衛ラインに退がれ。そこが最終ラインだ、なんとか食い止めるんだ!!本部に置いている残りを向かわせる。』
だがその間にもフラットウェルらによって部隊は数を減らしていく。
「頃合いか・・・全部隊、市街地へ突入、このまま押し切るぞ!!」
『うおおおお!!』
市街地の入り口から部隊が怒涛の如く流れ込む。解放戦線側もすでに半分まで減っているが、ベイラム側は相当な損耗を負っていることは明らかだった。
「こちらも損害があまりにも大きいが・・・街の奪還はできそうか・・・」
『師叔殿、新たな反応です。ヘリが数機・・・うち一機は・・・レッドガンのACです!!』
「何だと?」
そこで通信が入る。レッドガンACのパイロットからだ。
『わざわざ解放戦線のトップがお出ましとはな。だがその選択、死ぬほど後悔することになるぞ?』
シナノの駆る四脚AC『ライメイ・カイ』が水飛沫と共に市街地に降り立つと、その後ろに本部から飛んできたMT部隊が降り立つ。少数ではあるが、いずれも本部の最終防衛のために温存された腕利きだ。
「よく聞け、お前たちは俺と同じく消耗品としてここに立っている。だが機体の替えは利いてもパイロットは一度死ねば戻ってこない。英雄気取りで無様に死ぬぐらいならさっさと脱出して帰ってこい。生き恥などと考えるな。」
『『了解です!!』』
「各機、突入せよ!」
『『うおおおおおお!!ライメイを援護しろ!!』』
雄叫びを上げる部下と共に全開のブーストで突撃する。真っ先に目の前に飛び込んできたMT群を瞬く間に蹴りで文字通り蹴散らし、四脚MTの放つミサイルの雨を左右のスラローム飛行で避けて間合いを詰める。その傍らで味方の四脚MTが敵の二足MTをカノン砲で吹き飛ばし、シナノの活路を作る。
『レッドガンが来たぞ。』
『これで反撃に移れる!!』
『彼を援護するぞ、損傷した機体は後方に下がらせろ!』
ベイラム部隊の正面突破を試みていたMT部隊はライメイのアサルトアーマーで一掃され、残った重量MTも損傷により進行が鈍くなる。
『レッドガンが出てきたか・・・全機撤退、こちらが殿を務める。』
フラットウェルの駆るツバサが追撃するベイラムのMTを蹴散らし、味方の退却を援護すると共にパルスプロテクションを展開して脱出したパイロットの回収を支援する。
そしてフラットウェルの前についにネイビーブルーに塗装された四脚ACが現れた。
「ミドル・フラットウェル・・・解放戦線のトップが直々に攻撃に来るとはな。」
一定の間合いを保った後、一気に距離を詰める。
「ならばここで出会ったのが好機・・・おたくを討ち取って、組織への打撃にさせてもらうぞ!!」
「あくまでも戦う気か・・・已むを得まい、参るぞ!」
ツバサもブーストで突進する。二機がぶつかるかどうかの距離に迫った瞬間、ライメイがわずかに右に逸れてすれ違いざまに蹴りを入れる。
「やはり只者ではないな、ならばこちらも本気で行く!」
ツバサはその軽量な特性を生かしてライメイのガトリングによる弾幕から逃げるようにしてアサルトブーストで飛行する。そのまま直角にターンすると、遠距離からミサイルとグレネードを発射して距離を詰める。そのまま蹴りを入れると見せかけて相手が発射した中型ミサイルの弾幕を障害物で交わし、一定の距離を保って右手、右肩のバーストマシンガン、バーストライフルをローテーションで交換して撃ち続ける。
「小賢しい動きを!!」
シナノも負けじとミサイルとグレネードを回避し、市街地のビルを障害物にして敵の銃撃による被弾を最小限にする。とはいえ、連続した被弾で徐々にACSは負荷が上昇している。
「ならばこれはどうだ?」
一度ジャンプしてビルの屋上に飛び乗り、そこに撃ち込まれたグレネードを避けてさらにジャンプするとアサルトブーストでツバサを追跡する。エネルギー容量で圧倒的に勝るライメイは速度こそ劣るがエネルギー切れで降下中のツバサとどんどん距離を縮める。
「ここらが間合いか」
ライメイが空中で左のコンテナ状の兵装を展開し、何か小型の散弾のようなものをツバサに被せるようにしてばら撒く。直後、一帯を爆発が包む。小型炸裂弾投射機『太陽守』だ。煙の中から細身の機体が現れてその場で鋭くターンし、地面に一度着地してから飛び上がる。距離を取られる前にライメイが空中でホバリングモードに移行し、好機と言わんばかりにガトリングで追撃する。
「ここで逃すわけないだろう?」
そう言ってライメイの右肩に搭載していた兵装の照準を合わせ、発射する。右肩に搭載していた大型のバズーカからは十字に配列された散弾が飛び出し、うちいくつかが離れようとするツバサを仕留める。
「機体が硬直した・・・ACSがやられたか!」
その一瞬の隙を逃さずにライメイは目の前に迫り、さらに追撃の蹴りを入れる。
「俺たちレッドガンの流儀を教えてやる。『泣きを入れたらもう一発』だ。」
もう一度太陽守を振ってツバサを爆炎に包む。
「機体が持たん・・・離脱する!!」
フラットウェルがついに離脱のため、ブーストを全開にするがシナノも見逃しはしない。
「逃すか!!」
だがその時、ライメイに大型のミサイルが直撃し、その場で硬直してしまう。
「な!?一気に持ってかれただと?」
見るとレーダーにヘリの反応がある。どうやら解放戦線の仲間がフラットウェルを迎えに来たようだ。
『そこのレッドガンのAC。決着は次回まで保留だ。』
「・・・言われるまでもねぇ。」
ようやく機体が制御を取り戻して着陸した時には、フラットウェルを回収したヘリは遠くへと飛び去っていた。
市街地の半分が戦闘で損害を受けた軍事拠点に追加の増援が来たのは敵部隊が去ってから数時間後のことだった。今度はレッドガンの番号持ちであるG4『ヴォルタ』、G5『イグアス』が合わせて同行している。
三機が市街地を囲む渓谷の崖に立って警戒をする。
『やれやれ派手にやったもんだな、シナノ?』
ヴォルタがため息気味に話す。
『しかしまあ、解放戦線のトップとかちあったとはまあ運がなかったもんだ。とはいえ、お前なら問題ではなかったか。』
ははは、と彼は笑い飛ばす。それが不快に感じたのか、イグアスが噛み付くようにして喋り出す。
『何が解放戦線の指揮官だ。レジスタンスのAC相手に手こずるなんざ、Sランクが泣くぜ、シナノさんよぉ?』
だがシナノはそれに対して怒りを見せず、無言を突き通す。
『おい無視かよ、舐めてんのかこの木っ端が?』
AC『ヘッドブリンガー』に乗った状態でイグアスがシナノの乗るライメイの前に立つ。ため息をつきながらシナノは面倒そうに返答する。
「・・・なんだ、メランダーのカスタムモデルを作ってもらいながら盾張って及び腰で鉄砲撃っててレジスタンスのACが倒せるのか?」
というか、とシナノは続ける。
「お前さん、フラットウェルよりランク下だろ?そんな贅沢な機体使っておきながらあんな財布事情のきつい機体に負けててよく言えたな。」
『て、テメェ!!』
シナノの言葉に激昂したイグアスがリニアライフルの照準をライメイに向ける。と、次の瞬間にはイグアスの乗るヘッドブリンガーは空中に浮き、対岸に飛ばされて地面に叩きつけられる。
『な!?テメェ・・・俺を格下だと思って舐めやがって!いいだろう・・・そこまで喧嘩を売るなら殺してやる!!』
すぐに立ち上がって空中に飛び上がり、シールドを展開してミサイルを発射する。そのままライメイの立つ崖に降り立つと、雪に覆われた地面を高速で滑走して射撃する。
『おい馬鹿野郎、喧嘩をおっ始めやがって・・・しらねぇぞ全く。』
ヴォルタは決着が一通り着くまで静観を決めることにした。
二機は持ち場を遥かに離れ、渓谷から遠くない場所にある広い平原に出た。
『ここならテメェを殺しても誤射と言えるな・・・分かってんだろうな?』
だがイグアスの言葉に対して返答はない。それがさらにイグアスの神経を逆撫でする。
『この野郎・・・まだ無口を決めるのか、どいつもこいつも俺を舐め腐りやがって!!』
シールドを格納して左手のサブマシンガンで追撃する。だがヘッドブリンガーよりも重装甲に設計されたライメイにはいくらも追撃にならない。右手のリニアライフルがチャージされた一撃を加えるがすでにロックオンを感知していたライメイはあっさりと避けてさらに距離を縮めてくる。だが完全に詰めきる前に再び太陽守を展開し、味方だろうと容赦無く炎で焼き上げる。爆発の衝撃で怯んだヘッドブリンガーにさらに蹴りが炸裂し、再び地面に転がされる。
『今のはラッキーパンチだ、いつでも当たると思うな・・・うがっ!!』
イグアスが喋っている間にも無言で拡散バズーカが撃ち込まれ、イグアスのACが吹き飛ばされる。身を起こして立ちあがろうとした瞬間、とどめに一撃、コアに蹴りが入ってヘッドブリンガーは機能を停止した。
『ちくしょう、動きやがれこのクソッタレが!!・・・こんなクソ野郎に負けてたまるかよ!!』
無線越しで明らかに狼狽した声が伝わってくる。だが一切の返事をせず、彼は静かにその様子を見ている。
『いい加減にしろテメェら!!クソ親父に殺されてぇのか。』
二人の間にタンク型のACが飛び入って着地した。緑色に塗装されたその機体はAC『キャノンヘッド』、G4ヴォルタの愛機だ。
『全く僚機同士で殺し合いしてただなんてベイラム上層部のゴミどもに知れたら全員まとめて獄入りだ。』
現地の連中も俺も黙ってやるからここら辺でやめておけ、という乱暴な彼にしては珍しい(?)忠告に従いシナノも戦闘態勢を解除した。イグアスはヴォルタに半ば脅される形で同意した。
ヘリで戻った三機のACを見ていたMT部隊の隊員が同僚に話す。
「イグアスのやつ、どうやらまた僚機に喧嘩ふっかけたみたいだな。」
「誰にだ?」
「相手はシナノさ。馬鹿なことしやがって。」
それを聞いた同僚はそりゃあそうだ、と納得する頷きを見せて一言付け加えた。
「あの『語らぬ鬼』はただのレッドガン隊員じゃねぇ。ありゃ筋金入りの兵士だよ。」
「この馬鹿者め!!貴様らまとめてMTの整備士に降格でもいいんだぞ!!!」
そう怒鳴るミシガンの前には鼻のあたりに大きな痣を拵えて鼻血を流す二人の隊員が立っている。シナノとイグアスだ。二人とも勝手に味方同士で実弾による戦闘を行ったとしてこうやって総長直々に鉄拳制裁を受けたのだ。
「貴様らを上層部に突きつけて営倉に叩き込んでもいいが、それよりもいい方法がある。二週間の間出撃禁止、貴様らにはその間宿舎の掃除を命じる!それも仲良く二人でな!!」
その言葉に二人は絶句する。
「「は、はああああああああああああ!?」」
それを見ていささかミシガンは愉快そうな笑みを浮かべる。
「そう決まれば愉快な掃除の始まりだ。さっさと持ち場につけ、役立たずども!!」
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最終更新:2023年11月26日 23:17