「いらっしゃいませー!お好き席にどうぞー」
明るく通りのいい声が店内に響く。

「ご注文はお決まりでしょうか、1リットルタワービアとフィッシュアンドチップスですね、承りました」
抑揚の少ない店員が注文を取っている。

「ウォッカグランベリーです、ごゆっくりどうぞ」
カウンターにて男性とも女性とも取れる声でマスターが酒を提供している。

 ここはPUB[Watership Down]、様々なものが集う酒場である

「すごくいい雰囲気のお店ですね~先輩」

「だろう、ワシのお気に入りなんだ、今日は奢りだ!ジャンジャン飲めよ!」

「はい!ありがとうございます!」

今日も新しい客がやって来た、ここではドーザーも独立傭兵も、星外企業の者でさえ等しく客である。


「「カンパーイ!」」

「おいしい!お酒も料理もルビコンとは思えない!」

「だろう、値は張るが質は一級品なのさ、噂じゃ星外から取り寄せているらしい」

「え?先輩お財布大丈夫なんですか?やっぱり自分も出した方が」

「いい、いい!気にするな、ボーナスも入ったばっかりだからな!」

なんてことない会話、このPUBではよくあることだ。


「よーし、ワシが店員たちの事を教えてやろう、まずはワシらを迎えてくれたお嬢ちゃんだ」
彼女が笑顔で手を振る、バニー服を着込んだこの店の看板娘にしてアリーナのマスコット的存在。

「あの子はロップイヤー!俺たちのアイドル!店の名前も店員の名前も全部あの子が考えたそうだ」

「あっちの小さな子はアンゴラちゃん、冷たく見えるが仕事は完璧、仕入れもあの子の担当らしい」

「カウンターにいるのがマスターのウンドワートさん、昔は凄腕の傭兵だったって話だ」

ロップイヤー、アンゴラ、マスター〈ウンドワート〉、基本的にこの3人がこの店を経営している、
あとはフロアや厨房のスタッフだが彼らはすぐいなくなる、知っておく必要はないだろう。


「ロップ君、8番倉庫からハッスル1を取ってきてくれるかい」

「はーい、わかりましたー」
そう言うと彼女は裏口を抜けガレージへ移動した、自身の作業用ACシュガーエリルへと乗り込み動作確認を行う。

「よし!シュガーエリル、運搬作業に行ってきまーす!」
8番倉庫は店から最も離れている、作業用ACを持つ彼女の担当である。

「8番倉庫に到ちゃーあれ?荒らされてますね、ハッスル1なんて全部盗られてます」
無いものは仕方がない、監視カメラのデータだけ持って帰還した。


「ただいま帰りましたー」

「ああ?!ハッスル1が無いってのはどういう事だ!!」
ドーザーの怒号が店内に響く、よくある客は神様だと思っているタイプだ。

「あらー久々に来ましたねーこういう人」

「ん、お帰り、対応変わってあげて」

「はーい、アンゴラさん、監視カメラの映像確認しておいてください」
任せろと言いたげなサムズアップと共に受け取りアンゴラは仕事に戻る。

「申し訳ありませんお客様、現在在庫を全て切らしておりまして」

「ああ!?っといい女じゃねぇか、おいお前、俺様に抱かれろ、そうすりゃ今日の事は許してやるよ」

 マスターの眉が少しだけ動く

 店内が殺気立つ

 多くの者が隠し持っている武器に手をかける

「お客様、アリーナで決闘をしましょう、ここではもめ事はアリーナで解決するのが流儀です」

「あ?この無敵のポピー様と殺りあおうってのか?」

「あなたが勝った時は私を好きにして構いません、代わりに私が勝ったら本日お越しいただいた全てのお客様の代金をあなたに支払っていただきます」

「上等だ、体洗って待ってな!」
そう言うとドーザーは店から出て行った。


「大変なことになりましたね先輩、あの子大丈夫でしょうか」

「ふふふ、黙って見ているといい」

PUBに設置された中継テレビに彼女が映る。

「みなさーん!本日は私のショーにお越しいただきありがとうございますー!」
シュガーエリルのコクピットから身を乗り出し手を振るロップイヤー、対するドーザーは4脚MTに乗り込んでいる。

「4脚MT、しかも9連バズーカのハイエンドモデルじゃないですか、下手なACよりも強いですよ」

「始まるぞ、〈うさぎ狩り〉が」

両者準備が整う、開戦のカウントダウンが始まる。

「先手必勝ー!!!!」
9連バズーカが発射される。

「消えた?!いったいどこに・・・ロックアラート?!上か!」
空を見上げる、そこにあるのはレーザーの雨、9連バズーカに命中し破壊される。

「畜生!やりやがったなぁ!!」
両手のガトリングで上空のシュガーエリルを撃つ、だが彼女はもうそこにはいない。

「くそ!狙いが追い付かねぇ」
MTにターゲットアシストは存在しない、また頭上の相手に対して有効打を与えられない、勝敗は始まる前から決まっていた。

「こなくそおおおおおおおおおお!」
MTが脚部ブースターを起動し跳躍する。

「俺は無敵のー!」
あっさりと蹴り落された。

「無敵のポピー様なのに!」
地面に叩きつけられ両腕のガトリングも破壊される。

「無敵なのにやられたああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

「みなさーん!今日はありがとうございましたー!この瞬間より私の勝利を記念しPUB[Watership Down]にて全品無料セールを開催しまーす!ご来店をお待ちしておりまーす!」

シュガーエリルのコクピットから身を乗り出し宣伝を行う、もちろん代金は今敗北したドーザーが支払う、これが〈うさぎ狩り〉なのだ。

「よっしぁー!マスター!若いのに一番高いのを!」

「すごい・・・あんな一方的に4脚MTを倒せるなんて」

ロップイヤーアンゴラはウンドワートからACの使い方を学んだのだ、MT程度敵にもならない。


「んーポピーの花言葉は慰め、妄想、夢想家ですっけ、ドーザーにぴったりですね」

「かわいかったですよ、〈うさぎさん〉」

この日店は過去最高の売り上げをたたき出し、うさぎとなった彼は多額の借金を負った。

 ここはPUB[Watership Down]、哀れなうさぎが借金を返済し終わるまで捉われる檻である






関連項目


投稿者 ユティス
最終更新:2024年06月18日 22:01