──無敵なのにやられたああああああああああ!!!!!!!!!!!!──


水をかけられ目が覚める。
「前を見ろ、お前の前には何が居る」

手足はおろか頭も拘束され身動き一つできない、目の前には機械の角と羽、尻尾を付けた少女が居た。
アンゴラだ、今日からお前の教育係になった、状況を説明してやろう」

目の前のモニターに詳細な画像が映し出されアンゴラが話し出す。
「お前は先日の全てのお客様の代金に加えて8番倉庫の修理費とダメになった倉庫の商品の補填費を支払う義務がある」

「そ、倉庫?何を根拠に・・・」

モニターに監視カメラの映像が映し出されれる、そこにはまぎれもなくポピーの姿があった。
『ぐへへへ、ハッスル1がこんなに、全部俺様のもんだー!』

「これが根拠、異論は?」

ポピーは沈黙する、ロップイヤーが決闘を仕掛けたのはこの費用を支払わせるためでもあった、相手が確実に勝てる相手だからこそすぐさま決闘を申し込んだのだ。

「ないようだな、現在お前はうちの店に多額の借金を負っている状態だ、返済が終わるまでうちで働いてもらう」
そう言いながらモニターには明細が表示される、普通に働いていたら何十年もかかる金額がそこには書かれていた。

「この金額だからな、当然傭兵にもなってもらう、逃げられないように特別な発信機付き首輪も用意した」

「通常なら店から5km離れたら気絶する出力の電気が流れるだけだが、お前のは動力を原子力電池にしてある、流し過ぎると電池が爆発して死ぬ、死ななくても永遠に苦しむだろうな」

目の前のモニターが爆発した場合の映像を映し出す。

一瞬でコーラル酔いが醒める、それはあまりにも恐ろしい映像だった。

「目を逸らすな、これがお前の可能性だ、こうなりたくなければ真面目に働くといい、今日からお前の名前はフレミッシュだ」

フレミッシュはあまりの恐怖に失禁した。

────そして月日は流れ────

「最近ポピーのやつ見ねぇな?」

「足を滑らせて落ち死んだんだろうさ!あいつはそういうやつだ!」

「「ハハハハハハハ!!」」

いつものように店は賑わっていた

「9番テーブルさんフィッシュアンドチップスお待ち!」
そこにはフレミッシュ、かつてのポピーの姿があった、彼は驚くほどの好青年になっていたのだ。

酒とコーラルの抜けた彼はとても真面目だった、今では厨房の責任者であり傭兵としても好調であった。

「ミッシュ、お疲れ」
閉店後、仕込みが終わったタイミングで声をかけられる。

「アンゴラ姐さん、お疲れ様です、その首輪は?」

「ラビット053を処分してきた所だ」

「あー十回も脱走してましたもんね」

ラビット、すぐにでも借金を返済できるような少額の者に10面ダイスで決められたナンバーと共に与えられる名前である、053は無銭飲食によって〈うさぎ〉となった。

「真面目に働いていれば1か月で返済して自由になれたのに、バカだけどかわいいやつでした」

「おかげで無加工で買い手がついたよ、手間が省けて助かる」

ふたりが階段を上りながら会話を続ける、PUBの2階は住み込みで働く者の居住スペースとなっているのだ。

「明日はオフだったな、傭兵業をするのか?」

「はい、もうすぐ完済ですからね」

「いいだろう、申請はこっちでしておく、アンゴラがおいしい仕事を用意してやろう」
いつも通りの任せろ、というサムズアップをアンゴラが行いフレミッシュも続く。

「明日を楽しみにしておけ」

そう言うとアンゴラは自室へ入った、フレミッシュは見送った後〈うさぎ小屋〉と呼ばれる債務者たちの共有スペースへと移動する、店員の自室とは階段を挟んで反対側にある大部屋でありプライバシーは欠片もないが衣食住が保証されているため下手なドーザーの住処より質がいい。

明日のためフレミッシュはすぐに布団に包まった、真下にはガレージがあり他の債務者の声もありうるさいが彼はもう慣れていた。


「そろそろ作戦領域だ、改めてミッションを確認する、今回の目標はBAWS製新型ACの輸送を護衛すること、間違っても盗むんじゃないぞ」

「盗みませんよ!いくら自分が昔乗ってたMTをベースにした機体だからって」

債務者の傭兵業務は必ずアンゴラが付き添う、いくら稼げる仕事であっても死んだら返済させることができなくなる、申請を済ませ彼女と共に働く限りは首輪も起動しない、二重の意味で安全装置なのである。

『あ、お待ちしてました!アンゴラさん』
若い男の声が聞こえる、依頼主側のMTが話しかけてきたのだ。

「待たせたな、輸送の人員はこれだけか?」
護衛のMT10機にカーゴを乗せた輸送車両、カーゴの中には護衛対象のACが入っているのだろう。

『はい、これより輸送を開始します、おおよそ1時間ほどで到着です』

「了解した、システムを戦闘モードへ、ミッション開始」

アンゴラとフレミッシュのACが戦闘モードへ切り替わる。

「カルーアフルドド、全兵装オンライン」

「スピリタスサーン!動作確認ヨシ!」

30分ほど移動しただろうか、敵影は全くない。

『ところでアンゴラさん、そちらの方は最近名を上げているという噂のフレミッシュさんですか?』

そうだ、といつもの抑揚の少ない声で答えるアンゴラ、フレミッシュは噂になってることを知り嬉しくなった。

『フレミッシュさんの戦闘データは今回の新型開発に大いに役立ってくれたんです、あの機体はうちの4脚MTをACに落とし込んだようなコンセプトでしたから』

フレミッシュは人に見られたら気持ち悪いといわれかねないほどに嬉しさが顔に出ていた。

『あのポピーとかいうドーザーとロップイヤーさんの戦闘データもです、射角はもちろんカメラが上方を捉えにくい問題もあらわになりましたから、そういえばポピーとやらはどうしてるんです?』

アンゴラは適当な嘘をつきポピーの事を流す、店員が皆うさぎの名前を与えられるのは過去を隠すためでもあるのだ。

ミッション開始から50分ほどたった、ミッション終了まであと少しだ。

『何事もなく終わりそうですね、お話できてよかったです』

「最後まで気を抜くな、事故はこういう時にこそ起こる」

アンゴラが気を引き締めろと言う、すぐさまフレミッシュがレーダーの感度を最大にし警戒を強める。

「所属不明機確認!7時の方向!」

『え?そんな馬鹿───』

狙撃、MTが1機大破する。

カルーアフルドドが護衛対象の前に立ち盾となる。

『キューーーキュッキュキュ!この無敵のラッピー様にレアドロを寄越すッキューーーーー!』
生きている世界を間違えているようなセリフを吐きながら所属不明機が突撃してくる

「なんだ?!あのひよこみたいなカラーリングのACは?」

「無敵同士親近感が沸くか?」

「黒歴史を見せられてる気分です!」

アンゴラはかすかにコーラルドラッグとフォトンを感じ取った、こいつはこの世界にいるべきではないとも。

「ミッシュ、迎撃始め、いつも通りお前が前だ」

了解と言いながらフレミッシュは脚部をホバーモードに変更する

「時限信管距離200、発射!」

両肩のソングバードが火を吹く、4脚MT時代の9連バズーカに変わる兵装として採用しており爆風による対空も視野に入っている。

『キュー?!』
爆風に飲まれスタッガーする所属不明機、そこにカルーアフルドドのプラズマキャノンが直撃する

スピリタスサーンがアサルトブーストで距離を詰める、両腕のガトリングガンの有効射程へ近づくためだ。

『舐めるなッキューーーーー!』
所属不明機が上空へ跳躍する、スピリタスサーンとの距離は丁度200、今ソングバードを撃てば確実に撃ち落とせるが。

フレミッシュは動けなかった、〈うさぎ狩り〉のトラウマによるものである、手足が固まり息が荒くなる、目の前に映るのはかつての恐ろしいシュガーエリルの姿。

何かがぶつかってきた衝撃で現実に引き戻される。

「前を見ろ、お前の前には何が居る」

カルーアフルドドが、アンゴラがブーストキックをしてきたのだ。

「アンゴラだ、お前を守る最強の盾だ」

カルーアフルドドがパルスプロテクションを展開し攻撃を防ぐ

「目を逸らすな、あいつはひよこだ、エリルじゃない、お前は何だ?フレミッシュだ、ポピーじゃない」

そうだ、あの時とは違う、彼は生まれ変わったのだ

「フレミッシュ、今日の晩御飯は焼き鳥と唐揚げどっちがいい」

「焼き鳥と────────ビールで!」
酒を飲むと言った、それは今日借金を完済するという意思表示である。

「いいだろう、狩りを始めるぞ!」
いつもより抑揚のある声でアンゴラが叫ぶ、スピリタスサーンが全ブースターを起動した跳躍を行う。

『そんなジャンプ撃ち落としてやrキュー?!』

アンゴラのプラズマキャノンが、リニアライフルが、バズーカがミサイルが立て続けに着弾する、カルーアフルドドの真骨頂はヘイトコントロールにある、目を離すと厄介だが集中すると僚機に痛手を負わせれる、このコンビネーションで数多くの敵を倒してきたのだ。

「上を取った!」
その隙にスピリタスサーンが有利な状況を確保する。

蹴りつけ体勢を崩させる

「これが俺達の力だあああああ!!!!!!!!」
両手のガトリングを至近距離から発射する、アンゴラの攻撃で壊れかけた装甲を貫きフレームを砕く。

ふたりのうさぎの勝利である。

「はぁ、はぁ、勝った、勝ったぞ」

「気を抜くのはまだ早い、今回のミッションは護衛だ、早く戻って送り届けろ」
いつもの抑揚の少ない声に戻りミッションを続けさせる、これで失敗したら大赤字、借金完済もできない。

「あ、はい!護衛を再開します!」

「私はこいつを処分してから行く、報酬はお前が総取りするといい」


アンゴラが素手で所属不明機のコクピットをこじ開ける、転送装置を起動しそこに気絶したパイロットを放り込む。

『こちらアンゴラ、迷い込んだ奴がいたからそっちに送り返しておいた、あのアークスの観測は続けておく、アンゴラアウト』


関連項目


投稿者 ユティス
最終更新:2024年06月18日 22:01