「オイオイオイ!?ウソだろ??
封鎖機構と企業の喧嘩はもう終わっちまったのか??」
「ああ。封鎖機構は最終的に技研の遺産まで持ち出したが、
それさえも企業連合軍とRaDが結成した討伐隊に敗れ、
惑星封鎖機構軍は星外への退去を余儀なくされた。
今は、アシュレイ・ゴッドウィンを含めた幾たりかが
殿軍として残っているに過ぎず、彼らは企業が発見した
集積コーラルへの道、ウォッチポイント・アルファに残って
最後の阻止作戦を展開している」
意識をようやく取り戻してみれば、完全に浦島太郎状態。
だが、ヴィルの説明で状況を把握した
ヴァッシュの決断は早かった。

「なら、俺たちも・・・行くしかねーな、
ウォッチポイント・アルファに」
目を丸くするアシュリーに、
ヴァッシュは不敵に口角を釣り上げる。
「企業軍の激しい衝突に、前人未踏の灰かぶりの遺構。
トレジャーハンターの血が騒ぐってモンだ。
それに・・・」
歯を剥き出しにしたヴァッシュが獰猛に笑う。
「オメーの親父さんにも、お礼参りしとかねーとな!」
懲りる気配のない相棒に、アシュリーも呆れたように笑う。
「全く・・・仕方のないやつだな、君は」

握りしめた拳をワナワナと震わせるヴァッシュの背後には、
憎しみの炎が燃え盛っている。
「なんつったってオレが必死こいて集めたお宝が全部・・・
全部ッッッ!!持っていかれちまってんだからなァ・・・!」
とっておきのムーンライトだけは
マイ・タイに譲っていたことがせめてもの幸いだろうか。

「くそぅ・・・せめて、必死こいてパーツ集めた
ユニオン製1/20ガルブレイヴだけでも・・・!」
「おお!それなら安心しろ。
ほら見ろ。私がきちんと組み立てておいてやったぞ!!」
デデン!!

目の前に置かれたソレは確かに間違いなく、
ジュブナイル・ユニオン製マスターピースモデル、
1/20スケールミュージアムモデルシリーズのパーツで
構成されていた。のだが・・・

合わせ目消しも塗装もない。それはまぁいいでしょう。
バリが全く処理されておらず、
噛み合わせがガタガタなのも許しましょう。
だが、君はこのレアキットを、説明書を見ずに組み立てた!
なんで上腕と大腿部が入れ替わってるんだ!?
ミサイルがケツから生えてるのはなんで?
無理やりねじ込んだから穴が割れて広がってるじゃねぇか!
コックピットハッチがギチギチで閉まらん!
そこから立ち上がってバンザイしてる搭乗者フィギュアの
額には油性ペンで『❤️』マークが描いてある。
足を切り詰めて短足にしてあるのはなんの嫌味なんだ?
例によってI13は脱落してて行方不明!!
そのポーズはなんだ?盆踊りでも踊ってんのか??

「全然違うじゃねぇかよオイィィィイイイイ!!」
頭を抱えて仰け反り絶叫を発するヴァッシュの狂態に
アシュリーはちょっとついていけない。
胡乱げな表情の頭上には『?』が浮かんでいる。

「そんなことより、ヴァッシュ」
「そんなことよりィ!?」

「君は・・・その。彼女と・・・コーラ君との、その、
コーラルを介した感応現象によって封鎖機構が
施術した思考制御を解除したではないか。
あの時、やはりその・・・所謂思念体として、
キラキラしたカラフルな宇宙空間で
一糸纏わぬ姿になって触れ合う的な、
破廉恥なアレがあったのか??」

羞恥に朱く染まったアシュリーにつられてか、
応えるヴァッシュの声も少し上擦る。
「は・・・ハァ?ねぇが??なんの話だよ///」
「怪しい」
目を泳がせるヴァッシュの瞳の奥に真意を
見つけ出さんと、テーブルに身を乗り出した
アシュリーがヴァッシュの頭をアイアンクローで
捕捉し、真っ直ぐに覗き込んでくる。
「近い近い近い!よせって!?オイ??やめろ!!」

プシューッ!

ここぞとばかりにカーゴトレーラーの扉が開く。

「・・・あらあらぁ??お邪魔だったかしらァん??」
「あっちゃぁ・・・こりゃ、賭けはピーさんが優勢だなぁ」
フリーズしたアシュリーとヴァッシュを
生暖かく見守るのは、独立傭兵団『ラカージュ』の
実質的リーダー、ピーファウルと電気店の主人、福原恭介。

我に帰った2人がわざとらしく距離を取り、
照れ隠しのようにつっけんどんな口調で問い返す。
「賭け??なんの話だよ」
「おっと!気にしないでくれ。
それよりヴァッシュくん、機体の調整。
ようやく仕上がったよ!自分の目で確かめて見ないかい?」
恭介の言葉に、ヴァッシュが思わず立ち上がる。
「おおっ!?待ってたぜぇおっちゃん!!」
「・・・僕はまだおじさんじゃないよ」

アリーナ興行が盛んなここグリッド051には、
ファイター向けの貸しガレージが幾つもある。
その中の一つに、新たな姿に生まれ変わった
ガルブレイヴが主を待ち受けていた。

「おお・・・!コイツはイカすぜッ!!」
高速近接戦を主体とするコンセプトはそのままに、
武装構成やフレームを全面的に見直した。
特にヴァッシュの体質に合わせ採用された
技研製のコーラルジェネレーターは
優れた出力を発揮する。
「君から預かっていた技研製のレアパーツも
バッチリ修繕して組み込んであるぞ!
いやぁ、ちゃんと引き渡しできてよかったよ」
恭介も、クライアントの反応に満足げである。

「ある程度の長期戦にもこれなら対応できそうねェ。
アタシのアドバイスもバッチリ活かされてるじゃない?
なかなかイケてるわ!
モ・チ・ロ・ン!ヤルわよねぇ??」
ゴキゴキと指を鳴らすピーファウルに、
ヴァッシュも負けじと挑戦的な視線を返す。
「あったりめぇだぜ!
そのためにピーさんにも声をかけたんだからな!!」

───

「ほらほらァ!ヌルいわよォヴァッシュちゃァん!!
アタシより先にブラオちゃんを落とすんでしょォ!?
日和った動きしてんじゃないわよッ!!」
ピーファウルの愛機、Peacockが軽量逆関節型の
機動性をフルに活かし、テストフィールドを駆け巡る。

孔雀の尾羽の如く優雅に広がる散布型ミサイルポッドから
立て続けに放たれるミサイル群が新生ガルブレイヴを
しつこく追い立てるが、スタミナにはまだ余裕がある。

ブースターの燃費向上とジェネレーター容量の増加で、
運動量は旧型よりさらに向上している。
エネルギーを燃やし切ることで再充填をはかる
コーラルジェネレーターのクセに強さだけは
扱いを考えておく必要があるだろうか。

「ヘッ!そんじゃそろそろ、仕掛けさせてもらうぜ!」
反撃のガトリング弾幕展開とともにアサルトブーストに突入。
Peacockの高速機動を捉えて、ボレーガンをぶっ放す。

「やっとヤル気になったようねェ。
似たもの同士、アツいセッションを楽しませて頂戴ッ!!」
衝撃蓄積に優れた軽火器とブレードを装備した高速機。
ピーファウルの戦闘スタイルを参考に改良した
ガルブレイヴが近しい機体構成になっているのは
理の必然であり、故にここから先は
操縦者の力量が明暗を分かつ。

「っと!俺ばっか見てるとヤケドするぜ?」
回避機動の合間に戦場に展開していた
レーザータレットを一斉起動、タイミングをずらした
レーザー弾幕でピーファウルに休む暇を与えない。

「へぇ?なかなか面白いじゃない。
そんじゃ、こっちも遠慮しないわよッ!!」
しかし、敵もさるもの。
全方位から迸るレーザー光は標的を捉えるに至らず、
ピーファウルが刻むステップを鮮やかに飾り立てるのみ。

曲芸じみた前転宙返りから叩き込むパルスブレードの一撃が、
横薙ぎに払われたレーザーダガーとかち合い、
眩い火花を散らして弾き合う。

「そうでなきゃ困るぜ!
オレは、もっともっと強くなって
アシュレイのジジィにリベンジするんだからな!!」
放出したミサイルと同時にアサルトブーストで飛び込み、
ブーストキックを狙う動きはピーファウルと完全に同期し、
激突した二機の蹴撃が互いを大きく跳ね飛ばす。

「フゥン・・・どうしても勝ちたい相手がいるってワケ?
いーじゃない、オトコノコって感じ!嫌いじゃないわッ!!」
ジェネレーター再充填を図る一拍の後、
再度踏み込んだ両者がまた嵐のように交錯する。

「格闘戦の達人である父上に、あくまで近接戦で挑むか。
君も頑固だな、ヴァッシュ」
慣らし運転の域を軽く飛び越えた真剣勝負を
固唾を飲んで見守るアシュリーの背に、
素っ頓狂な程に明るい声が浴びせられる。

「おーっとぉ、始まってたかぁ〜〜〜!
ま、後で動画を見るとして・・・
どうだい、ヴァッシュくんの体の方は!?」
周囲の注目もなんのその。
もはや人間かどうかも疑わしい
異形のシルエットを白衣に包んだ、
怪しさの権化のような人物がアシュリーに歩み寄る。

「ああ、おかげさまで全快している。
貴方に関する評判を聞いた時は不安もあったが・・・
ヴァッシュに施された処置を回復できる手腕を
持つものは他にいない。頼んで正解だった」
自らの体さえも魔改造を繰り返す異形の闇医者、
通称クアック・アダー。
狂人オーネスト・ブルートゥ亡き後、
わざわざその住処に居座っていると言えば
およそまともな人物ではないことは推して知れよう。

「うふふふ!
コーラルブラッドの血液サンプルが手に入るなら
喜んで誠実にお仕事させて頂くよっ!
これでも僕、報酬さえちゃんともらえば
いぃ仕事するんだぜ〜〜〜?
それに彼、素材のままで十分にオモシロいからね。
まだしばらくはバニラの状態で観察させておくれよ?」
「そうだな。ヴァッシュは今の、ありのままの姿が1番だ」
ツッコミ待ちのつもりの発言を綺麗にスルーされ、
流石のアダーも些か肩透かし気味である。

「あ、人工心臓には面白い仕掛けを仕込んどいたからさ!
イザって時はぜひ使って見てくれよな!
お礼は実動データでいいぜ〜〜〜?」
にまにまと悪戯を仕掛けた子供のような笑顔を浮かべる
アダーに、アシュリーは思わず苦笑いで応じる。
「そうならないことを祈るよ。
そのためにも・・・私も迷いを捨てて、
自分の選択を父上にぶつけるつもりだ」

逆襲の準備は万端。

あとはいざ、決戦の地、
ウォッチポイント・アルファに飛び込むだけだ。



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投稿者 堕魅闇666世
最終更新:2023年12月24日 08:51
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