「さぁてさて、お次のご相談はと・・・ふむ。
ハンドルネーム『@るーちゃん』さんからじゃ!!
『丽花公主、いつも配信楽しく拝見してます!
私もAC乗りとして配信活動をしているんですけど、
最近危うく正体がバレそうになって、
すっごく危なかったことがあったんです。
その時は、初めて見てもらう整備士さんだったから、
姿を見られないように抜け出すのが大変だったのです。
なんとかこう、機体の整備はしてもらいつつ、
身バレを防ぐ上手いやり方を教えてもらえたら
とっても助かっちゃいます!!』
うんうん、可愛らしいお便りじゃな。
読んでて妾も少し若返った気がするわい。
ふぅ〜む。その辺、妾の場合初めから
大豊のお抱えじゃから、正体バレがどうとか
気にしたことは無かったのう」
月光:おお!?ってことは白大人やでぃんたんは
公主の正体を知ってるってコトぉ!?
「じゃな。おい白毛、バラしてはいかんぞえ?」
「心配せんでも口が裂けても話さんわい。
できたら綺麗さっぱり忘れてしまいたいのぉ・・・」
ろびん【彼ピ募集中】:おおっ??忘れたいけど
忘れられないくらいのインパクトがあるの??
紫丁香【大豊娘娘】:それは間違いないネ!
でもトップシークレットだから何も言えないヨ〜!
クッコロ:うむ。やはり公主は謎に包まれた存在であるべきだ。
「おっとっと、脱線はそこまでじゃ。相談に戻るぞえ。
大事なのは、正体を隠しつつ機体の整備も
スムーズに受けられること、じゃな?」
@るーちゃん【配信活動中!】:そうですそうです!
機体の整備はお願いしたいけど、その時誰にも正体を
見られずに格納庫を離れられるようにしたいんです!
「ふむふむ・・・ならば、ACに搭載されておる
自動操縦機能を活用してはどうじゃ?
試合が終わってすぐは、整備に回される前に
控えのハンガーに回収されるじゃろう。
お主はそこで機体を離れ、あとはオートパイロットで
トレーラーに移動すれば格納庫まで運べるはずじゃ。
ちとマクロを組むのが手間かも知れんが、自動操縦の
パターンを複数用意しておけば、機体を離れる
タイミングも増やせると思うぞえ?」
@るーちゃん:えっ・・・そんなことできるんですか!?
そっかぁ・・・うん!そういうことにします!!
じゃあ、ちゃんとそういう動きも練習しないと。
ありがとうございます公主、相談してよかったですっ!!
月光:逆にオートパイロットを知らなかったことが
びっくりだよ!今まで全部の操作を
マニュアルでやってたってコト??ヤバくね??
「うむ・・・ハンガー内での姿勢安定や降着姿勢などは
精密さが要求されるからの。それらを
手動でこなせるほどの操作技術があるなら
きっと相当な腕前じゃな!いつか是非
アリーナで手合わせしてみたいものじゃ!!
ろびん【彼ピ募集中】:あーーーっ!あいつ知ってる!
メガフロートをぶった斬ったサムライロボだよぉ!!
クッコロ:ち、父上・・・!?
月光:コロちゃん??正体バレしちゃうから
そのコメすぐ消しなさい!!
───
「仕方がないのぉ。妾がきっちり退治してくれようぞ!」
大豊製超重タンク型AC、『天牢』ベースの愛機、
大豊轟を操るベテランパイロット、大黒が気炎を吐く。
「ちょいちょい。大黒、口調が戻っておらんぞ」
相方が未だに配信モードで・・・
大豊広報チーム、『大豊娘娘』のリーダーたる
『
大丽花』として喋っているのを白毛が指摘する。
「おお?そうかそうか!すまんな!!
どうも最近、この喋り方が楽しくなっちまってなァ!
うはははははははは!!」
「・・・知りとうなかったのぉ〜〜〜・・・」
野太いダミ声で豪快に笑い飛ばす大黒には、
白毛の嘆息は聞こえてはいなかった。
呑気なやりとりとは裏腹に、状況は切迫している。
ウォッチポイント・アルファ突破を焦ったベイラムは、
上層のネペンテスで多くの戦力を喪失したばかりか、
中層においても惑星封鎖機構およびウォッチポイントの
防衛機構により多大な損害を被った。
その撤退を支援する殿軍として駆り出されたのが、
白毛たち大豊AC部隊の戦力である。
そして今。白毛たちが対峙している旧式HC、
『グラディアートル』こそが、ベイラム軍に
決定的な痛打を与えた、最大の脅威に他ならないのだ。
「久しいの、アシュレイ。これで何度目じゃろうかのう」
互いに、長らく前線に立ち続けた古兵同士。
戦場で幾度となく干戈を交える中で、
好敵手としての奇妙な友情すら感じている間柄だ。
「お前さんはよう働いた。おかげさんで、
この戦はベイラムの負けじゃ。儂等はもう撤退する。
のう。お互い、せっかくここまで生き延びたんじゃ。
これ以上、血を流すこともなかろうて」
ACの倍近い巨躯、それすら超える長大な巨剣を
八双に構えたグラディアートルは、
石のように身を強張らせたまま、
白毛の乗機、正黄旗GⅡを睨みつけている。
「・・・それはできぬ」
娘の裏切りを、親の情に絆されて見逃した。
それは、惑星封鎖機構に忠義を捧げた
今日までの自分に対する、看過できぬ背任だ。
本来ならば腹を切って詫びねばならぬところを、
捨てる命ならばせめて有効に活用せねばとの一心で
ウォッチポイント・アルファの防衛に参陣したのだ。
死兵である。
企業軍の勢いはもはや止められぬとしても。
せめてその流れを、この命の続く限りは押し留める。
この使命に、撤退の二文字はない。
「最後の敵手がそなたであったこと、感謝する」
「要らぬ。儂にはまだまだ、
楽しみたいことが山積みじゃからの!」
グラディアートルの踏み込みと、
正黄旗GⅡのバックジャンプは同時だった。
振り抜かれた横薙ぎの一閃を飛び越した敵機が
放つガトリングガンの弾幕をあえて受け止めながら、
グラディアートルは猛然と加速する。
振り抜いた勢いで回転し、背部のシールドに弾幕を
凌ぎつつ、抱え上げるように振り翳した
レーザーブレードを大上段から叩きつける。
大豊製重量級AC、『天槍』の機動性では、
その間合いから逃れる術はない。
しかしこの老兵は、それでもアシュレイとの
死闘を幾度も切り抜けてきた。
予め起動していたアサルトブーストで
あえて懐に飛び込むことで刃をかわす。
振り下ろす腕にぶちかましを仕掛け、
怯んだ肘を蹴り飛ばしてすかさず追撃のバズーカを2連発。
宿敵の手管を知り尽くした反撃に対し、
応じるアシュレイもまたさるもの。
肘への衝撃に逆らわず、姿勢を落として
ホバー機動を活かした滑らかな水平機動で
バズーカをかわすや、再び袈裟懸けに打ちかかる。
太刀筋を読んで斬撃を潜り抜けた正黄旗GⅡが
ガトリングガンの弾幕で反撃に転じる。
「相変わらず、いい目をしている」
機敏とは言えぬ重装機で、よくもかわして見せるものだ。
しかし・・・やはり。
かつての切れ味はすでに、鳴りを潜めている。
反応速度だけではない。戦闘技能だけではない。
初めて白毛に対峙した時のような
研ぎ澄まされた無機質な殺気が、
今の彼からは感じられないのだ。
「俺には、不退転の覚悟がある」
リロードの完了したバズーカに即座に切り替え、撃ち放つ。
それは過たずグラディアートルの巨体を捉え、
盛大な爆風が巻き起こる・・・が。
「今のお前では、止められぬ」
展開したパルススクトゥムにダメージを受け流し、
至近に踏み込んだアシュレイが放つ、渾身の刺突。
『応報剣』の真骨頂たるカウンターの一撃が、
正黄旗GⅡを真っ直ぐに捉える。
それでもなお、仕留め切れなかったのは
やはり白毛にも、身に染み付いた戦士の業が
未だ残っていたからなのだろう。
左半身に身を捩り、鋒を楔形の肩部装甲に受け流す。
左腕とコア上面の装甲を犠牲に
致命傷はかわしたが、被害は甚大だ。
「じゃろうなぁ・・・儂独りではの」
そこでようやく気づく。
白毛と共に戦場に立ち続けてきたあの機体が、
今の今までに沈黙を守っていたことに。
「待ってたぜェ!この瞬間をよォオオ!!」
怒号と共に背後から迫る、総毛立つほどの圧力。
轟音と共に驀進する漆黒の超重量級タンクAC
大豊轟が、持てる火力の全てを解き放つ。
「どっせェエエい!!」
反撃の号砲は、両腕のグレネードキャノン。
アサルトブーストの加速を乗せた
強烈な衝撃がグラディアートルを直撃する。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァアアアア!!」
追い打ちをかけるのは、両肩に搭載されたオートキャノン。
本来ならばライフルで放つサイズの大口径弾を、
4門の砲口から鶴瓶撃ちにぶち撒ける瞬間火力の怪物だ。
勢いを取り戻した白毛も残る右手でガトリングガンを
構えて加勢に加わり、大豊が誇る重量級速射火器の
猛威がグラディアートルの巨体を火花に包む。
「相手に取って不足なし・・・なればこそ」
猛烈な勢いで損壊し、赤熱していく装甲を庇うように
展開したパルススクトゥムも、凄まじすぎる火力により
瞬く間に決壊し、蒼い爆炎を伴い弾け飛ぶ。
「この一命を賭して、討ち破るに相応しい・・・!!」
猛る炎を切り裂いて。振り抜かれた渾身の一撃が奔る。
「ッ・・・大将!!」
咄嗟に踏み出した大豊轟が、傷ついた正黄旗GⅡを庇って
飛翔する斬光を受け止める。
研ぎ澄まされた渾身の一撃は切れ味凄まじく、
漆黒の胴体に深々と爪痕を刻む、が・・・
「我が秘剣、耐え切るか・・・素晴らしい堅牢ぶりよ」
大豊が掲げる理念、『樹大枝細』の中核はコアである。
そしてこの天牢は、その理念の徹底から生まれた、
重装甲ACの最高到達点である。
「おうともさ・・・まだまだいけるぜェ、大将ォ!!」
コアにまで及んだ強烈な衝撃に、
自らも血に塗れながらなお、大黒は獰猛に吠え猛る。
互いに傷つきながらも、むしろ一層激しく
戦意を漲らせ睨み合う両者はもはや、
どちらかが燃え尽きるまで止まるまい。
───と、思われたが。
「オイオイオイ!とっくに盛り上がってんじゃねぇかよ!!」
対峙する両雄の頭上で天井が崩落する。
「だが、間に合った。私が言った通りだろう、ヴァッシュ」
降り立ったのは群青と白亜の2機のAC。
ガルブレイヴとアリオーンが、因縁の敵に再び相対する。
「久しぶりだなぁ爺さん!あとは俺たちに任せてもらうぜ」
よもや、大豊文化圏の屋台で知り合った奇妙な少年が
大豊AC部隊の重鎮であったとは思わなかったが、
これも因縁というものか。
「はて??どこかで会うたかのう?」
「オイィィィィイイイイ!?」
当の白毛自身は、忘れてしまっていたようだが。
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最終更新:2023年12月22日 01:32