『決まった時間に目が覚め、決まったタスクをこなし、決まった性能を維持し続ける。』
ヴァ―ジニアはそういった、"変わりのない日々"を過ごしてきた。
しかし、ヴァ―ジニア自身が変わらなければ周りが何も変わらないわけではない。
例えば、あそこを走ってるMTパイロットのあの子。
そこを歩いてるちょっと前に話をした輸送ヘリ操縦士のあの子。
ヴァ―ジニアがひと眠りしている間に戦死して、他の子に入れ替わるのかもしれない。
そんな「いつ誰がいなくなるか分からない戦場」でも、ヴァ―ジニアは自分のスタンスを変えずに生きてきた。
そして変わらないヴァ―ジニアの日々で、また"周り"が変わった。
調査書を見て一番、ヴァ―ジニアは笑いながらこう口にした。
「ウチ、どんどん面白い人が増えるわね。」
「…面白い…ですか?こんなよく分からない独立傭兵が」
エヴァレットは少し顔をしかめてそう返した。
「面白いじゃない。元々男なのに、こんな女の子。いいわね、私好みの顔よ。」
「は、はぁ…」
「何~?エヴァレット、そんなピリピリすることないのよ。貴女がアーキバスの為に頑張ってるってことは、私が一番よく知ってるから」と続ける。
「…いや…まぁ、本社との直接のパイプは必要だと思ったのですが、このような人が回されてくるとは…」ため息交じりの声でエヴァレットは言う。
「別にいいじゃない。悪い子じゃなければ」エヴァレットは、楽しそうにそう返した。
ウズラマは調整の時間で暇なので、廊下をアテもなく歩いていると前から人がやってきた。
褐色で銀髪の長身な美女だ。こちらに向かって軽く礼をして、こちらを見つめてくる。
確か名前は…
「ど、どうも…
ヴァ―ジニアさん…ですよね?挨拶をしてませんでした。新しくエヴァレットさんのとこに配属されました、
ステラと申します。」
「どうも。貴女のことは聞いてるわ。今空いてる?」
「え…今…?…はい、大丈夫ですが…」
いきなりの予定の確認にたじろぐ
ステラ。
一緒に仕事をしてる人は忘れてしまうが、本来彼女はSランクという雲の上の存在なので、フレンドリーに接されることの方が少ないと思われがちなのだ。
「そう、それはよかったわ。今からお茶でもしようと思ってたところなの。付き合ってくれない?」
「え…お、お茶?」
「ええ、お茶よ。お茶だけじゃなくて茶菓子もあるわ。」
「い、いやそういう話じゃなくて…」
いきなり上司の、しかもSランクの女性に『お茶』に誘われるなどと予想もできず、多少うろたえるも
「…ま、まぁ…いいです…けど」と言った。
ヴァ―ジニアは嬉しそうに「そ」と言うと、「じゃあ、こっちよ」と言うや否や、
ステラの手を掴んだ
「っ…」
いきなり不意打ち気味に手を掴まれ、顔を赤くするが、彼女は特段気にする様子もなく引っ張っていく。
「ここよ。」
「えっ…ここって…ヴァ―ジニアさんの私室じゃ…?」
「私は会社に重宝されてるらしくてねぇ、大きい部屋なんだけど、一人じゃ持て余しちゃって。」
とヴァ―ジニアは言うと、
ステラを連れたまま、部屋に入る。
部屋の中は綺麗に整えられていて、彼女の几帳面さの部分を感じる。
「そこに座ってて。」と、ヴァ―ジニアは部屋に机を挟んで向かい合わせに置かれた椅子のソファーの方を指さす。
「あ、はい…。」なすがままに椅子に座るが、直後に自分が女性の部屋に招待されてるという事実を認識し身を固くする。
部屋の中をしばらく観察していると、ヴァ―ジニアがおぼんに茶や茶菓子を乗っけて運んできた。
あまり落ち着けなかったので動きたかったので、椅子から立ち上がり、
「あ、運びます…!」と近づいたが
「いいわよ、これくらい。」と言い気にせずに机の上までヴァ―ジニアは自分で運んだ。
「ほら、愉快なお茶会の始まりよ。そこに座って。」
と、ヴァ―ジニアは先程勧めたソファーの一角を促す。
「あ…じゃあ…はい…」と言われるがままにソファーの端に座る。
するとそのソファーの
ステラのすぐ横にヴァ―ジニアが座った。
「…ッ!?…え、ええっ!?ちょっ、ヴァ―ジニアさん!?」
「…?どうしたの?はやく飲まないとお茶が冷めちゃうわよ」
「い、いや、そうじゃななくて…あっちに座るんじゃないんですか!?」
ステラは赤くなった顔をヴァ―ジニアの方から逸らしながら言った。
「近い方が仲良くなれていいじゃない。お互いにしっかり話し合って、触れ合って。
"女の子同士"ね」
「…いや、その…、ヴァ―ジニアさん…、調査書…見たんですよね…!?なら私の出自だって…」
「あら、気にすることないわよ。今は女の子じゃない。誰が何と言おうと。」
と言うと、彼女は両手でそっぽを向く
ステラの頬を優しくつかみ、自分の顔の方に向けさせた。
「ちょっ…!」
「うん…いい顔じゃない。」
ステラよりも20cmほども上背のあるヴァ―ジニアは直ぐ近くの
ステラを見下ろし、そう言った。
そしておもむろに、
ステラの頭を撫で始める。
「ちょっ!?急に何するんですか!?」
「あら、ごめんなさい。ちょうどいい高さにあったものだから。」と言いつつ撫でるのはやめない。
「いい撫で心地じゃない。髪の毛のケアとかしてるの?」
「い、いや…してない…ですけど…」
「へー、それでこの艶やかなのね。凄いじゃない」
「い、いや…はい…」
「お化粧とか…、そういうのとかしたらもっと可愛くなるわ」
「い、いやっ!!メイクとかそういうのは…いいです!!」
「あらそう、残念。」
ステラがどこまで取り乱そうとヴァ―ジニアは飄々とした態度で返す。
「まぁ、何はともかく。」
と言うとお茶菓子を一口齧ったあと、ヴァージニアはまた
ステラの頭に手をかけ
「ようこそ、アーキバスへ。歓迎するわ。」
そう言うと、
ステラの頭を自分のお腹まで運んでよしよしとまた頭を撫で始めた。
ステラはただ、ヴァ―ジニアという人の人となり、真意がよく分からず、なすがままにいじられるだけだった。
最終更新:2023年12月25日 14:30