「行くよ、ステラちゃん!」
「あいあーい…」
前を飛んでいく特殊タンク型ACの後ろを、ブーストを吹かしながら追いかけていく。
目標は、旧アーキバス基地跡地。
少し前に起きた解放戦線の反抗作戦によって破壊された施設の一つだが、最近になって残骸漁りが行われているらしい。そのデータが持ってかれる前に潰せと。

作戦にアサインされたのは、ウズラマV.N ステラだった。
元来これはそこまで重要な作戦ではないが、その基地に残されていたデータは重要なものではないとはいえ基地の配置などのデータなどあまり敵の手に渡るべきでないものが残されていた。
しかしこの作戦は、それ以外にあるもう一つの目的を持っていた。

それは、そこそこの実力を持つとは判断されてたが、単独での作戦遂行に難を抱えていたウズラマ。
その司令塔、補佐の役割として新しく配属されたステラが使えるか。
それを判断するための作戦だった。

「見つけたよ!敵戦力は……MTが12機、おっきいの(四脚型MT)が2機、あと…ACがいるみたい。」
高性能な頭部を付けているウズラマが、遠距離から識別した敵戦力を報告する。
「…こんな端っこにしては数が多いな…。まぁ、いいか。行くよ…」
目標地点上空辺りまで到達したので、ブーストを切り自由落下に移る。
今回の作戦は高高度からの奇襲だ。
そして、ACの戦闘モードに火を付けた。


独立傭兵ジョージ.Nは、懇意にしているファーロンからの依頼でこの作戦を受けた。
自身に特段の戦闘力がない事は自覚していたため、選ぶ依頼は身の丈にあったものを厳選していたが、今回はファーロンからだったというのでこの依頼を受けた。
しかし何だか胡散臭い。
廃施設からデータを回収するのを護衛するといった任務だが、どうにも物々しい。

戦場なので物々しいのは当然なのかもしれないが、たかだか廃工場からのデータ回収とは思えないほど、自分以外の戦力が充実しているのだ。
特に四脚が二体もいることには驚いた。
ファーロンはルビコンには自社戦力を持たない筈だが、これはどういう繋がりなのだろうか。

そんなことを考えていた時。
上空からの所属不明機接近警報が機内に響いた。

「…!?」
反射的に機体を移動させる。

と、一筋の光が上空から降り注ぎ――爆発した。

「な、何だ!?あの機体――AC!?」
機体の姿勢を整えつつ、相手の方を向き、視界にとらえる。基本はできている。
今の爆発でMTの2機がやられた。

「ウズラマ、MTを…。私は…、生きのいい方をやる。」
ステラは機動力に優れる自機が敵ACの相手をし、その間に火力に優れるウズラマにそれ以外の敵機を排除してもらう算段で挑んだ。

「クソッ…、何だあの機体は…!?見たことねぇ…!」
「それはどうも、最近だからね」と言うと挨拶代わりに右腕の高出力ライフルが発射される。
「うおっ…!?」
流石に牽制もなにもなしに撃った一発は回避される。
「女…!?」
と聞こえてきた声に反応しつつも反撃として、ジョージも手に装備したミサイルを交互に発射する。
回避を難しくするための、常套だが有効である戦術だが。

ステラの機体はABを点火し、連続で横にQBを繰り返しつつ距離を大回りに大きく取る事で弾を回避した。
「速ぇ…っ!」
「"女"…ね、…まぁそうだけど…」
と言うと同時に、右肩の装備から、ドローンを射出した。
ドローンはただでさえ扱える人の少ない特殊な装備であるため、低ランクのしがない独立傭兵なジョージにとっては初めて見る武装だった。

「なっ、ミサイルか…!?ファーロンのじゃない…!」
と言いながら、横に大きく動く。
流石に全身の武装をミサイルで固めるだけはああるミサイルマニア。
ミサイルの回避の軌道としては完璧な避け方の順序だった。
ミサイルだったならば。

しかし射出された物体は機体の周りで動きを止め、そこからレーザーを発射した。
「何っ!?」
QBで切り返す準備はしていたので反射的なクイックブーストで最初の数発は避けたが、完全にそっち(ドローン)に気を取られた。
ステラは背後のハンガーから、これまた低ランクランカーには接点の無い光波ブレードを取り出した。

とりあえずの連続クイックブーストで致命傷をなんとか避けてるジョージだが、ステラの機体の動きにまで気を配れなかった。
そしてチャージされ横一列の光の波がジョージを襲う。

ドローンを回避した視界にはいっぱいの光波。
機体はそれをモロに受けた。両断こそされなかったが、かなりの痛手とACS負荷の蓄積だ。

「―畜生……、なんだってんだよ一体―!」

それでも距離を撮り続け、ミサイルを発射する。
しかし、ミサイルというものは避け方さえ覚えれば避けれないことはなく、特殊なモデルでなければ機体に致命傷を与える威力もない。
敵機は止まらず、接近してくる。
光波ブレードはハンドガンと持ち替えられている。

その機体は、最新型の双身レーザーライフルをしっかり捉え、発射する。
その射撃はコアを捉え、彼の死を一歩近づける。

「―ワケわかんねぇ機体がいきなり現れて、殺されるのか―!?」
それでも彼は死への恐怖を抱きつつ、必死の抵抗をやめない。

しかしABを点火し距離を詰めた機体は、左腕のハンドガンを機体に向け乱射する。
「―クソ、やってらんねぇよ……やってらんねぇ……―」
そして遂に、光波の直撃で溜まったACS負荷が限界に達した。
機体が止まる。

そして敵機もその機体の前で静止し―
「ごめんね、これも仕事だから―。」
チャージをしたレーザーライフルをコアに突きつけ
「―……あぁ、せめて……最期に母ちゃんの……ミートパイ……また……」
その引き金を引いた。



「ウズラマ、そっちの首尾はどう?」
正直、先進開発局のパーツを使ったウズラマの機体が苦戦するような相手ではないのだが、彼女の不安定さもあり、フォローは欠かさない。
「やったよ!ねこさんのおともだちがたくさんふえた!おはながちっちゃったけどしかたないよね!」

ステラは大きく溜息をつく。
今でも慣れたとは言わない…が、割り切りこそしたが、やはりこれは聞いていて悲しくなる。
生身よりACの時の方が壊れている気がするのは、気のせいだろうか。
始めにあった時はエヴァレットが『戦闘時には発生しない』と言っていたが、数日前からこうなようだ。
とりあえずウズラマの方の敵影をスキャンする。
既に四脚は両方とも、MTも半数以を撃墜している。
流石にタンクの重火力だ。

ウズラマの様子には問題しかないが、任務に問題はないだろう。
今回の任務も、結果は大成功だ。

レポートの様子をまとめて、エヴァレットにウズラマの調整の予約を入れておかなければ…

+ ファーロン上層部の通信
ファーロン・ダイナミクスの上層部の通信ログ
通常の社内回線ではなく、暗号化された回線だ。

『何…?データ回収に向かった解放戦線の部隊が
全滅…?
彼は…

…そうか、いくらウチと解放戦線の関係がバレる
訳にはいかないとはいえ、彼には申し訳ないことを
した…。

…ああ、遺族には最大限の謝意と補償をしてやれ』

登場キャラクター

最終更新:2023年12月27日 20:30