≪さぁてさて、お次のご相談はと・・・ふむ。
ハンドルネーム『@短い尻尾』さんからじゃ!!
『丽花公主、いつも動画を見させていただいてます。
私もAC乗りの傭兵の端くれなのですが、あまり危険なことはせずに、
安全に稼ぎたいのに、何故かいつも危険な任務に呼び出されてしまいます。
ただ報酬が魅力的過ぎて危ないのは分かっていますが断り切れません。
どうすればこういう時、自分を抑えられるでしょうか。
丽花公主の知恵をお貸しください!』
ほうほう、言い方的に独立傭兵さんからのお便りかのう。
儂はずっと大豊一筋なので、細かいところは分からんが――≫
ウズラマ、何を見ているのです」

最近になり前よりも調子…というか安定性が低くなり、任される仕事が減って来てしまったウズラマは、
部屋で携帯端末から動画を面白そうに、すこし暇そうに見ているようだった。
部屋に入って来たエヴァレットにはステラも後ろに控えている。
こういう時横にいるのがエリカでないのは少し珍しかった。

そしてエヴァレットはずかずか進んでいきウズラマの端末の画面を見ると、溜息をついた。

「これは…。…これは大豊の動画です。アーキバスの社員が見るものではありません」
と言い放った。
そしてステラを指し、
「暇なのかもしれませんが、仕事が出来ないからといってそんな動画を見ない。
同じく暇そうなのを見張りに連れてきたので、仕事を進めなさい」と言った。
"暇そうなの"と言われたステラは苦笑するが。

「お姉様。アーキバスには、広報にこういうのってないのですか?最近流行ってるようですが。」
「こういうの…?広報にはアーキ坊やがいるじゃない。」
「いえ、そうではなく、こういった…」
と言い、端末を操作し、エヴァレットに画面を見せる。

端末には先程の大豊の「大丽花」や、そのルーツとなった、「ルリ☆ミコ」とやらが映っている。
大丽花はどう考えても不自然な尻尾や角を付けた破廉恥な衣装のコスプレ。
逆にルリ☆ミコとやらはきゃぴきゃぴした衣装に身をまとったいかにもアイドルな井出立ちだ。
どちらも、エヴァレットからしてみれば馬鹿らしい。

「そのようなもの、アーキバスにはありません」と言うが
「だったらお姉様!私達が、そういうのを――」
「却下します。監視役は連れてきました。仕事に戻りなさい。」
と言うと、ステラを置いて部屋から出て行ってしまった。

エヴァレットはウズラマがそういうものに気があるのはそのメイクの腕や好みからして
知っていたが、そんな社ぐるみでやるなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。
所詮は子供の思いつきなお遊びだ。
ふざけた大豊や個人でやる分ならあり得るが、アーキバスが?
そんなもの、どの大人も相手にしないだろう。たとえ私が承認をしたところで無駄だ。
エヴァレットはそう思考を処理すると、その案件は頭から忘れた。

「ううーー…。」
ウズラマはふくれっ面でエヴァレットが去ったドアの方を見ると、置いて行かれた
ステラを見て。
ステラちゃんなら分かるよね!?この!可愛さが!」
と迫った。

「う、ま、まぁ分かる分かる。可愛いよね。昔は見てたよ、こういうの」
と少し圧に押されながらも思った通り素直に返事をする。
「まぁーでもー…。エヴァレット…さんは、こういうのあまり興味がないんじゃない?
なんていうか、直接利益に繋がることが分かるか、もしくは上の人から言われなきゃ
あまり新しい不確定要素には手を出さないというか…。」
と付け加える。

「お姉様…、こういうところだけは鈍感なの…。エリカちゃんもそういうとこあるけど。
分かってくれるのはステラちゃんだけだよ。元男だけど分かってる。」
「(ま、まぁ分かってるとはちょっと違うけどね…?)」と思うが口にはしない。
ただウズラマがしたいということは分かる。

「まぁ…、それがやりたいなら一つ考えがないこともないけど」と言うと
「何!?何!?」とウズラマが即座に食いついた。

「まぁ、言われた仕事をとりあえず終わらせてよ。それが終わったら"ツテ"に連れて行ってあげる」と返した。


恐るべき集中力で一瞬で仕事を終わらせたウズラマステラに"ツテ"へと連れていかれていた。

「あら、ステラちゃんじゃない。どうしたの?」
ナチュラルに『ちゃん』付けで呼ばれるのは今突っ込むと余計な事で話が長くなりかねないので
諦めて本題を切り出す。

「ちょっとウズラマの為にお願いしたいことがありまして…。」
ヴァ―ジニアが自分に何故か甘い目があることを見越して頼みに来た。
ヴァ―ジニア自身が優しいのと甘いのとこういう新しいことがすきそうだと思ったのもあるが。
ウズラマを前に出して、その紹介をさせる。

「なるほど…。その『アイドル』をやりたいってことね?」
「は、はい!」
「面白そうじゃない」とヴァ―ジニアが笑って言うと、ウズラマもとても喜んだ。

「分かったわ。この事については、私からエヴァレットに申し上げしてあげる。」と言った。


「エヴァちゃん、ちょっとこっち来て」
『エヴァちゃん』という妙な呼称でヴァ―ジニアに呼び止められたので、怪訝な顔をしつつもそちらへ向かう。
「何の用です?」
「ねぇエヴァちゃん、貴女アイドルに興味がないの?」
「…あの子らから聞いたんですか?」溜息を飲み込んでエヴァレットは問い返す。
「そうね。あの子らから聞いたわ。貴女は馬鹿らしい考えだと思って捨てたのだろうけど意外と馬鹿にできないのよ?」
とヴァ―ジニアは語る。

「はい、これがここ最近の大豊の売り上げデータ。そして、こっちがその噂の『ルリ☆ミコ』ちゃんの推測収入」
と言い、二つの画面をPCに表示させる。
「これが大豊のよ。実際、『大豊娘娘』が出来てから、売り上げが大きく上がっているわ。
ルリ☆ミコ』ちゃんも個人としては馬鹿にならない収入を出してる。」
「しかし、広報係なら今の我が社にもいます」
「それってアーキ坊やのこと?あれ、可愛いけど対象がよく分からないのよね。
アイドルとかの可愛いなら男の人が食いつくだろうけど、あれって"家族向け"って感じじゃない。
家族がACのパーツ買わないわよ…」と言った。
今の所ヴァ―ジニアは全て正論で攻め立ててきている。
「…なら、私はどうすればいいのですか。私がいいと言ったところで上がと押しませんよ。」
「だいじょうぶよ。私が通すわ。貴女はとりあえず、ウズラマの好きなようにさせてあげなさい」
「…は…い…分かりました。」


<数日後>

ウズラマ…ヴァ―ジニアを通すのはやめなさい。迷惑がかかるでしょう」
ステラちゃんが…」
と言われエヴァレットにキッと睨まれるステラ
思わず竦みかけるが我慢。

「…まぁいいです。『好きにさせろ』とも言われましたし、好きにしなさい…。」
と言うと、エヴァレットは部屋から出――

<~♬>
ドアからチャイムの音が鳴った。

そのまま近くにいたエヴァレットがドアを開けると。
そこにダンボールを抱えたヴァ―ジニアがいた。

「ああ!ヴァ―ジニアさん!届いたんですね!!」
「バッチリよウズラマちゃん。丁度ステラちゃんとエヴァレットもいるのね。
エリカちゃんがいないのは残念だけど、丁度いいわ。」
と言った。

エヴァレットは「何ですか?その荷物は」と聞いた。
「ウズラマちゃんが頼んだアイドルの衣装よ。お金はステラちゃんが出してたわね。
安くはないけど、その分可愛いわよ」と答えが返ってきた。
ステラ…貴女そんなことによく金を落としましたね」
「い、いやぁ、協力してあげたくなっちゃって…」
するとウズラマが「じゃあ、着替えてくるからちょっと待ってて!」
と言ってダンボールを持って部屋の奥に引っ込んでいった。

「速く業務に戻りたいところなのだけど…」
とエヴァレットはごちるが、ヴァ―ジニアに
「何言ってるのよ。まだ貴女のやることは終わってないわよ。」
と言われた。
「?」

しばらくするとウズラマが出てきた。
アイドルらしいフリルのついたきゃぴきゃぴした衣装とミニスカートに身を包み、
いつもより眩しい笑顔をしている。

「どうです!?お姉様!私、輝いてますか!?」
と、お望みの服を着れて嬉しいのだろうワクワクがあふれ出る声で話すウズラマ

「え、ええ。確かにいつもよりはいい見た目かもしれませんね。…じゃあ、私は仕事に戻らせていただきますよ…」
とその場を後にしようとすると。
「え?お姉様は?」
と言われた。

「え?」エヴァレットは聞き返す。

「え? いや、その…お姉様。お姉様は試着しておかないのかな…って」

「は?」

硬直した後ステラに問い詰める。
「これはどういうことですかステラ。好きにしろとは言いましたが聞いてませんよ。
私は着ませんよ?」と怒気を含んだ声で。
「い、いやいや!知りません知りません!ウズラマが一人でやるんじゃないの!?」
ウズラマの方を向き直って聞くも。
「え?…あれ、エリカちゃんも含めたお姉様の所のAC乗り全員でやるって…」
「「はぁ!?」」
「ヴァ―ジニアさんが…」
「「はぁ!?!?」」
といきなり訳の分からない事態に巻き込まれたエヴァレットと監修、資金出しをしているだけあり
責任が向くのが嫌なステラがヴァ―ジニアの方を向くが、対する彼女は涼しい顔。

「ヴァ―ジニア、どういうことです。説明しなさい。」
とエヴァレットは問い詰めるが、ヴァ―ジニアは
「『ウズラマの好きなようにさせなさい』って言ったじゃない?そしたら彼女、
どうやらグループでやりたかったらしくてね。だから、エヴァレットにやってもらえるって言ってあげたわ」
「ヴァ―ジニア…私は私の仕事があるのですよ…。いくら貴女でも流石に…」
「問題ないわ。上の許可は取ってあるの」
と言うと、ヴァ―ジニアは懐から紙を取り出した。
そこには、『アーキバスルビコン支部における新規広報活動の許可』と言った文面が並んでいた。
かいつまんで言えば、
『エヴァレット本人を含むウズラマ、エリカ、ステラとかエヴァレットたちのとこで広報活動していいよ』
という許可証である。

たしかに、許可が降りたなら、これを理由に仕事を多少ならすっぽかしたりすることも出来てしまう。
エヴァレットは膝から崩れ落ちた。

ステラはその姿とその許可証を見つつ、
「な、なるほど…。大変だと思いますが、頑張ってくださいね…」と言いながら
そそくさと部屋を出ようとした。

しかしドアの前にヴァ―ジニアが立ちふさがる。
「あ、あの…私はこれで…」
「ウズラマちゃんが選んだ衣装、ステラちゃんのサイズもあるらしいわよ。」
最終更新:2023年12月28日 21:32