女子会をしましょう、と誰が言い出したのかは今となっては定かではない。
 そしてその女子会がなぜかパジャマパーティーのような形式になったのについても、誰が発案者なのかは定かではない。
 重要なのは、ベイラム勢の女性パイロットたちが一様にスヘルデの部屋にパジャマで集合していることだった。ベッドの面積が足りないので、部屋にクッションとシーツを敷いてほぼ全面を寝床にし、そこに五人の女性が思い思いに座っている。


「……それで、こういうのって何をするの?」


 なぜかパイロットスーツ持参のスカマンドロスが言った。パジャマといったのに彼女は色気のないスポーツブラにボクサーパンツ姿だった。
 女子会会場になぜか選ばれたスヘルデは面食らって「パジャマは?」と聞いたのだが、彼女はさらっと「これだけど」と言ってそのまま部屋に入ってきたのだった。
 曰く、スクランブルがあってもこの格好ならすぐに出撃できる、とのことだった。それを聞いていたメタウロが首肯した後に首をひねって、そのまま何も言わずにまた首肯しだしたのは見ものだった。


「な、なにをするんだろうな」


 無地のピンク色の毛布持参のアードは胡坐をかきながらなぜかもじもじしながら言った。灰色のもこもこしたパーカーにズボンという出で立ちはパッと見、面白みのない恰好だが、そのパーカーのフードには熊の耳を模した飾りがついている。なんとも可愛らしい。
 持参の毛布も曰く「これがないと眠れねえ」という、子供のころから使っている代物だった。それを聞いていたメタウロはすごくにこにこと生き生きしていた。


「とりあえずー、女子会といえば恋バナじゃないかしら!」


 長い脚をぺたんと折りたたんで座るササンドラは、両手を合わせながら笑顔で言った。彼女は暫定的に紺色のローブのようなものを纏っているが、それはスヘルデの袖付き毛布だ。
 女子会会場になぜか選ばれたスヘルデが彼女を部屋に迎え入れた時はバスローブを着ていたのだが、面子が揃った途端に脚長お嬢様はローブを脱ぎ始めたのだ。下は何も着ていなかった。メタウロが「おやまあ」と言い、アードは赤面して飛び上がり、スカマンドロスは特に反応を見せず、対面のスヘルデは袖付き毛布を反射でぶん投げた。
 なので、暫定的にササンドラは袖付き毛布を着込んだ状態になっている。


「恋バナする面子なの、これ」


 体育座りしながらロバの縫い包みを抱くスヘルデは唇を尖らせながら言った。彼女は女子会の趣旨に忠実な星柄のネイビーブルーのパジャマを着ている。社内売店で自分のサイズが売っていないため私物だ。
 ちなみに女子会会場が彼女の部屋に決まったのは、ササンドラとメタウロの下見によって五人の中で一番女子力が高い部屋をしているからだった。第二候補はササンドラの部屋だったが、部屋の一角に鎮座するガンロッカーが女子力ポイントの減点対象となったのだ。メタウロは自分の部屋はよくないよといった通り、部屋がちぐはぐのパズルのようだったため候補から外れている。


「良いね恋バナ。でも絶賛恋進行中って人はあんまりいなさそうだから、思い切って初体験が何歳だったかとかどうかな?」


 足を後ろにぺったりと座り、黒のネグリジェを着込んだメタウロがにこにこと楽しそうに言った。スヘルデよりも小柄な彼女はもちろん社内売店でサイズが売っているわけもなく、彼女のネグリジェは友人からの貰い物を自分のサイズに切り詰めたものなのだそうだ。
 女子会だからと初体験が何歳だったかという話題をぶっこんだ彼女だったが、他のメンツはそれを咎めるでもなくそれぞれ「うーん」と少し考えこみ始める。


「初体験……?」


 アード以外は。


「私はハイスクールの時。……それ以外は忘れた。あまり楽しくなかった」


 スヘルデがあっさりと言うと、アードは目を丸くした。


「お前、したの?」

「したけど、楽しくなかった」

「えぇ……マジか。マジか」


 なぜだか顔を赤くして小さくなるアードに視線が集まる。
 おやおやおや、とメタウロが悪戯小僧のような顔をしてアードの肩をがしっと掴む。


「アードさぁん、僕はアードさんのお話が聞きたいなぁ」

「ば、ばば、馬鹿野郎! アタシが話すことなんてなんもねえよ!!」

「何もないってことはつまり、今も〝ある〟ってことですかぁ?」

「そういう恥ずかしいことは言っちゃだめだろうが馬鹿野郎ぉ!!」


 おもちゃを見つけたガキのような顔をするメタウロにアードが怒鳴り、


「あらあら。これは初々しくて美味しい反応ね」


 ササンドラはササンドラであらあらまあまあとなぜか楽しげである。
 一方のスヘルデとスカマンドロスは、さらっと開陳したエピソードで二人とも喋りあっている。


「私もスヘルデとだいたい同じね。それらしい経験は積んだけど、言われてるほどあまり楽しくなかったわ」

「なんというか……私はただ疲れるだけだった。いろいろ面倒だったし」

「別のことで体を動かしてた方が発散できるわよね」

「なによりスケジュール寄せなきゃいけないのが面倒くさい」


 そうして、スヘルデとスカマンドロスが喋りあっている横では、変わらずメタウロがアードに飛びき、さらに追及をはじめ、


「あらあらぁ~」


 そんなカオスな状態を眺めているササンドラはなぜか楽しげである。
 この第一回女子会はメタウロの追及にアードは暴れ始め、スヘルデとスカマンドロスが銃器談議に花を咲かせ、ササンドラはスヘルデの後ろに回って頭を撫でながらカオスを眺め楽しんだ。
 そしていざ寝ようとするとササンドラはおもむろに紺色の袖付き毛布を脱ぎ去ろうとしたので、スヘルデが飛び掛かってそれを阻止した。
 第二回女子会が開かれるのかは、定かではない―――。



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最終更新:2024年01月28日 20:37