一口にミールワームと言っても、その実態は多岐に分かれる。

「チンタラ走りやがって、マヌケなドンガメどもがよォ・・・」
例えば、今現在もバジャーリガーを追撃している
ルビコニアンソルジャーワームは鋭い脚と頭部の甲殻、
そしてその中央の開口部からの強酸発射機能を備えた
兵士階級の個体だ。
「どんだけ群れようが、アタシにゃ追いつけねぇよ!」
高速後退の合間にも、前方からの酸の放射と
後方からの障害物を器用に交わしつつ反撃の
ビーム散弾を放つが、いかんせん数が多い。

「いいよ〜そのままそのまま!引きつけといてくれ!!」
ソルジャーをバジャーリガーが引きつけているうちに、
シュトラウスが素早く別方面から敵群に接近し、
両腕のグレネードとミサイルを一斉発射。
広間に犇くルビコニアンコモンワームをまとめて焼き払う。

範囲攻撃により起こる爆炎を耐えてなお突き進んでくるのは
強固な甲殻と強力な爪を備えたルビコニアンシェルワームだ。
「お前さんの相手はこちらだ」
側面から懐に潜り込んだディアーチルがレーザーランスで
甲殻を穿ち、的確に急所を貫いて絶命させる。

「こちらグレイクレイン
ミルクワームを匿った部屋を発見した!」
ラカージュの一員として新たな名を得たアシュリーが
施設内を駆け巡り、目標としていた群を発見する。
「オッケー!お手柄ねッ!そんじゃ、トレーラーを回すから
周辺の敵を排除して頂戴!!」
「うむ、そうしたいところなのだが」
ご機嫌なピーファウルの指示に応じる
グレイクレインだが、その声には緊張が走っていた。

「これは・・・何と表現していいのか。
タコといえばタコだが、タコは口が縦に裂けてはいないし
体がクラゲのように発光したりもしない。
増してや体から爆発物を詰め込んだ肉塊を
発射したりもしないだろう。これはその・・・なんだ?」
それ以前に、タコは全高70mもの巨体に成長することはない。
「あらあらァ、そいつが件のクイーンねェ。
ガルちゃん!出番よ、助けておやんなさい!!」

ピーファウルの言葉を受けて、
群青の機影が廃棄プラント内を駆け抜ける。
「合点だ!うまく逃げろよ、アシュリー!!」
ヴァッシュ自身の手製のパーツを多数組み込んで
新たに生まれ変わった愛機、アジャイル・ガルブレイヴが
クイーンワームの前に躍り出る。

「想像以上にエグい見た目してんなオイ・・・
夢に出てきそうだぜ」
フジツボ上の噴射口から次々に放たれる
溶解液がまさに雨霰と降り注ぐが、
大型のホイールに換装された足回りを活かした
高速スラローム走行でガルブレイヴは弾幕を掻い潜る。

壁面をスーパーボールのように跳ね回る爆裂弾は目眩しだ。
当たることはないと割り切って迫る触手の回避に専念する。
しなやかにうねる先端部は硬質化しており、
ACの装甲でも直撃すれば貫通は免れない。

クイーンの全身に備わる小さな複眼は
ガルブレイヴを正確に捉え、小刻みに動きを変える
無数の触手が迫り来るが、標的の運動性能は
クイーンの予測を超えていた。

胸部と背部に増設されたアジャイル・フェアリングが
ヴァッシュのコーラルブラッドを介した直接制御で
推力方向を変化させ、空中での急激な方向転換を可能とする。
加えて、纏わりつく触手群を脚部ホイールから展開した
回転鋸状のブレード、ラッシングレイザーで次々に切り刻む。

「まずは取り巻きどもからだ・・・!!」
両手のグレネードガンと両背部のタレットを一斉射。
全方位に展開する弾幕で取り巻きの
ソルジャーワームを次々に駆逐する。

その機動性と火力を脅威だと認識したのか。
クイーンがその本性を露わにする。
本体を縦に走る顎部の切れ目が左右に開き、
その内部が露出する。
「うぇぇ・・・マジか??」
内部にびっしりと生え揃った牙が一斉に発射される。
それ自体が複眼を備え、発火性の体液を推進力に代えて
ガルブレイヴをしつこく追尾する。

いわば、生体ミサイルというべき牙の弾幕だ。
開かれた口腔の奥には、もはや見慣れた
禍々しい赤光が満ち、クイーンを怪物に
至らしめた力の源が何であったのかを
如実に物語っている。
「コイツも、コーラルが産み出した怪物か」
ならば・・・それを焼き払うのは自分の役目だ。

「ヴィル。『イグニッション』ゲットセット」
「・・・予め警告しておくぞ、ヴァッシュ。
過剰なイグニッションの使用は君の
『ステージ』進行を加速させる。
身体負荷も伴って増大していく、慎重に判断しろ」
思いがけず起動を渋るヴィルに、
忙しなく回避機動を取り続ける
ヴァッシュが苛立たしげに反駁する。
「知った事かよ。それでコーラルの暴走が
止められるってんなら安いモンだぜ」

「・・・レディ」
返す言葉を失ったのか、セットアップを告げる
ヴィルの言葉に、ヴァッシュもまた応じて
心臓に手を添える。
「『ブラスト』・・・っ!?」
起動の瞬間。予想外の衝撃がガルブレイヴを撥ね飛ばす。

「馬鹿者が・・・!己の命を安売りするな!!」
背後から襲い掛かり、勢いを乗せたブーストキックを
叩き込んだのはアリオーンだ。
「オイオイ・・・!止めるにしても方法があんだろ!」
「言ったって聞かなかっただろう!
ヴィルだってお前を心配しているのにあの態度だ!!
近頃の君のやり方は腹に据えかねる。
そろそろきちんと話をせねばならん。
そもそもだな・・・!」
柳眉を逆立てて怒り狂うアシュリーだが。

「いや・・・その話!今じゃねぇとダメか!?!?」
アリオーンもガルブレイヴも、すでにクイーンの
触手に完全に捕縛されている。
「うっ!?しまった!!ぐぬぬ・・・
このままでは私の穴という穴の貞操が・・・
ふ、ふむ・・・!?」
若干の期待が声の端々に滲んでいる気もするが、
ここは全力で気にしないようにする。

予想以上の膂力がACの躯体をも厳重に拘束し、
高まる圧力に次第に機体が軋みを上げ始める。
「ちょっとォ!公衆の面前で随分と
マニアックなイチャつき方してんじゃないのッ!!」
割り込んだピーファウルが振るう
パルスブレードの残光が、機体に絡みついた触手を
切り裂いてヴァッシュとアシュリーを解放する。

「あーた達がヨロシクやってる間にブツはあらかた回収したわ!
さぁ、引き上げるわよ!エリー、また会いましょうねッ!!」
最後の一言は、どうやら背後の
クイーンワームに向けたものらしい。
「エリー・・・地球で長く王国を統治した伝説の女王、
エリザベスに因んだ命名か」
「何でそういうとこだけ妙に理解が早いんだよ」

縛られ損はごめんだとばかり、自分を拘束していた
触手を小脇に抱えた2体のACが、地下プラントを脱出する。

───

「コトの発端はRMFの依頼ね。
ウォッチポイント・デルタの爆発事故がきっかけで
コーラル支脈の一部が動いて、それが
地下のミールワームプラントを直撃して・・・
そのせいで異常進化した個体がエリザベスちゃんね」
「コーラルの過剰摂取と共に、何かしらの
遺伝情報への干渉があったのだろうな。
差し詰め、ルビコンのゴジ○といったところか」
ふむふむ、と訳知り顔で頷くアシュリーだが、
多分その例えは伝わらないと思う。

「ただねぇ・・・ほらコレ。
まずは身を以て知るのが1番ね」
目の前でジュウジュウと心地よい音を立てて
焼けたタコ(タコじゃないが)焼きの一つを
ピーファウルは串に刺し、アシュリーに差し出す。
横で若干引き気味になっているヴァッシュをよそに、
素直にパクリと頬張ったアシュリーだが。

「アッ、アツゥイ!!ハフ、ハフハフ・・・」
外はカリっと、中はフワッと。
完璧な焼き加減の生地が口の中にとろりと溢れ出し、
その熱さにアシュリーは涙目になる。
「んぐ・・・こ、これは」
どうにか咀嚼し、飲み込むと共に口の中に広がる旨み。
エリンギのような食感の触手のブツ切りを噛みちぎると、
魚介を思わせる滋味が染み出し、
生地の昆布出汁と渾然一体になる。

「う、旨い・・・」
なるほど。こうきたか・・・
サクッ、フワッ、そしてムッチリ。
一粒に込められた食感の多重奏と
共に広がるダシの風味のハーモニー。
ソースなしでこの旨さ、ポテンシャルは底無しだ。

「でっしょォ!?見た目のエグさが一口で吹っ飛ぶのよ。
こんなのが次々に生えてくるんだもん、
殺しちゃうなんてとんでもないワ!
エリーさえ元気なら、1ヶ月もあれば
今回狩ったぶんくらいは復活してるから、
また収穫に行けば無限にミールワームを回収できるってワケ。
コッチで回収したワームはRMFに卸して加工すれば
食材になるし、ただ退治するよりよっぽど美味しいでしょ?」
上機嫌で説明するピーファウルの周囲では、
他のラカージュのメンバー達も忙しく立ち回り、
拠点の休憩室は宴会場と化していた。

「さぁ、ここからが歓迎会の本番だぜ!
お前さんもほれ。俺のオススメはソルジャーの刺身だ!」
先ほど狩ったばかりのソルジャーワームを
透けるほどの薄造りでスライスし、軽く酢で締めた後に
藻塩を振りかけたシンプルな調理法だ。
「・・・マジか?生でイっちまうのか??」
「おうよ!新鮮でなきゃできない捌き方だぜ?」
直接手で摘んで頬張るシュトラウスの満足げな表情に、
ごくりと唾を飲み込んだヴァッシュも恐る恐る先輩に倣う。

「・・・凄ぇ・・・溶けて全部旨味になった」
脂身が綺麗なサシで入った新鮮な赤身がスッと解け、
酢の爽やかな酸味と豊かな旨みが口いっぱいに広がる。
「だろー!?これがまたコーラに合うんだよなぁ!」
そこは酒じゃないのかよ、というツッコミは
喉の奥に押し留め、ヴァッシュもお気に入りの
コーラルコークでシュトラウスと乾杯を交わす。

山盛りのタコ焼きを貪り食うアシュリーの隣に立った
ディアーチルが指先で小刻みにその肩を叩く。
「なに・・・『私のオススメはこの鍋だ』・・・」
モールス信号を解読したアシュリーが、差し出された
取り皿を受け取り、早速中身を味わう。

ほう・・・これは。
クラブワームの剥き身が繊維状にほぐれて、
シメのインスタント麺と絡み合っている。
香りたつガラベースのスープも含め、
この味は大豊経済圏から取り寄せた本場の味だ。
野菜代わりに刻んだ白菜ともやしのキムチが入っていて
そのシャキシャキ食感とピリ辛風味が
ほのかに甘い剥き身の味わいをさらに引き立てる。
うォォん!今の私は甘みと辛みで駆動する永久機関だッ!!

夢中になってかきこむアシュリーに、
ディアーチルも満足げに頷く。
ついでに差し出したウォッカが・・・
後に大惨事を引き起こすのだが。
アシュリーの名誉のため、ここでは割愛する。

「ほら、あーたはこれ」
差し出されたワームミルクの乳酸菌飲料を受け取り、
ヴァッシュは持参しているコーラルを溶かし込む。
「コーラル無しじゃ生きていけない体だってのに、
コーラルを焼き払おうだなんて。矛盾した生き方じゃないの」
隣に腰掛けたピーファウルの言葉に、
ヴァッシュはむっつりと押し黙る。

「シンダー・カーラの・・・オーバーシアーの遺志を
引き継いでるつもりかもしれないけどね。
ソレってホントにあの人が望んだ事なのかしら?」
賑やかな宴席を見守るピーファウルの視線に
誘われるように、ヴァッシュも新たに得た
仲間達の姿を見遣る。

「けどよ・・・コーラルがある限り、
アイツはいつ意識を乗っ取られるかわかんねぇんだぜ。
やるしかねぇじゃねぇかよ」
やおら服を脱ぎ出したアシュリーを、
バジャーリガーが必死で押さえ込んでいるが・・・
なにやらむしろアシュリーの方から
絡みついているようにも見える。
いつになく活き活きした彼女の姿を、
ヴァッシュは遠い目で見守る。
え?それでいいのか君は・・・?

「ふぅん・・・惚れた1人の女のために
この星を丸ごと焼き払うつもりかしら?
いいわね、ロックだわ。好きよ、そういうの」
ウィンクを送るピーファウルから、
ヴァッシュは気まずげに視線を逸らす。
「そんなんじゃねぇよ」
そう、断じてそんなものではない。
コーラルが人類に仇なすならば、共存などは叶うまい。
それなくしては生きられぬ自分もまた、
この世界に留まるべき存在ではないのだ。

俯くヴァッシュの後頭部に、
暖かく大きな手のひらが優しく添えられる。
「そ。まぁ、ゆっくり考えなさい。
そのための時間と場所は私たちが用意してあげる」




関連項目

投稿者 堕魅闇666世
最終更新:2024年02月04日 04:46