歓声が上がる、それはアリーナの勝者への報酬、そして同時に観戦していた者たちの喜びでもある。
「みなさーん!メリーちゃんの勝利を記念して、次に注文されるドリンク1品半額ですよー!」
ここはPUB[Watership Down]、アリーナ観客向けのPUBでありうさぎ狩りでなくとも店員が勝利した時はこのように祝いのセールをするのだ、多くの常連がそれを知っている、だからこそ勝利を喜ぶ。
「あの小娘また腕を上げたのぉ、主様ーおかわりじゃ~」
そこには常連の
ドワーフの姿もあった、いつもカウンターに座り日本酒を呑んでいる彼女はいつもと変わらぬ不気味な笑顔で賞賛を行った。
「くくく、ヤり合うのが楽しみだわい、早く童のところまで上がってこい」
ドワーフはランクB、ランクEの
メリーバニーが彼女のもとへたどり着くのはかなり先のことになるだろうが時間間隔がズレ過ぎている
ドワーフには明日も10年後も違いはなかった。
そうこうしているうちに新しい客がカウンターに座った、一番安い物を注文したのを見るに懐は寂しいようだ。
「お兄ちゃん?1杯だけだからね?明日の弾薬費も厳しいんだからね?」
「わぁってるって、たっくうるせえな・・・う、うめえ!なんだこの酒は!こんなうめえ酒は初めてだ!マスター!おすすめをくれ!」
「お兄ちゃん!!!!」
そのやり取りを見て
ドワーフは先ほど以上の笑顔を見せた、面白そうなモノには首を突っ込むべき、それが
ドワーフの生き方であるがゆえに。
「あちらのお客様からです」
兄妹へ1杯ずつおすすめの酒が提供される、それと同時に
ドワーフが二人の隣へ座った。
「そいつは童からじゃ、童が作った酒を喜んでくれた礼にな」
この店の商品の殆どは
ドワーフが経営している企業の物、ルビコンの内に店を構えながら上質の酒が提供できるのはそれが理由である。
「お、おおおお兄ちゃんこ、これ瓶1本1COAMって書いてある・・・」
ドワーフはそれに笑顔で答えた、1COAMとは日本円にして1万円程でありこの酒が高級品であることを示していた、だが兄はそんなことを気にせず一気に呑んでいく。
「いい呑みっぷりじゃのぉ、主ら金が厳しいようじゃがここで働くというのはどうだ?時給は----「働かない!絶対に働かない!絶対にだ!」
そう叫び妹の分の酒も呑み干すと彼は走り去っていった。
「あ、お兄ちゃん待って!えっと代金は・・・」
「よい、童が払おう」
その言葉に感謝を告げると彼女は兄を追って走り出した。
「あの男・・・美味そうじゃのぉ」
ドワーフが今日最も不気味な笑顔を見せた。
「コイツで仕舞じゃぁ!」
ドワーフのAC黎明がスタッガーした相手にパルスブレードを振り下ろし敵を撃破する、その戦場には何十機ものMTに加えACも転がっていた。
満足した彼女は
グリッド051へ進路を取る、もちろん酒を呑むために。
「主様~いつものっとなんじゃぁ?」
「お兄ちゃん!もうやめて!明日のミールワームのお金も無くなっちゃうよ!」
「うるせえお前は黙ってろ!」
先日の兄妹が喧嘩をしていた、それを見て
ドワーフはいつものカウンターではなく
アンゴラの元へ向かった。
「奴らの調べはついたか?」
「妹の方はランク圏外の独立傭兵、兄は無職のようだ」
ほう、そう呟くと彼女の目が細くなった、そして
アンゴラへ手で合図を送る、もう一つの〈うさぎ狩り〉の始まりだと。
「主よ?金に困ってるようじゃのぉ、主にチャンスをやろう、童と
酒合戦で勝てば今日の支払いは童がしよう、だが負ければお主の全てを貰うぞ」
「ああん?いいぜ乗った!」
妹は止めることができなかった、断れば財産は底をつきACを使った仕事ができなくなる、必ず勝たせなくてはならなかった。
「何の騒ぎだ?」「アリーナは他の奴が使ってるから酒合戦だとよ」「魔女様に目を付けられるとはかわいそうに」
PUB内は合戦の準備が整い
ドワーフと姉妹の前に盃が用意された、ちょうど
ドワーフの神酒が1本分注げるサイズである。
「ルールを確認する、制限時間1時間の間により多く神酒を吞んでいた方の勝ち、兄妹側は両者が呑んだ量の合計で計算する、なお途中倒れた場合その時点で敗北となる、いいな?」
3名が頷く、そして火蓋は切って落とされた。
ドワーフは挑発するように1杯目を呑み干す、兄妹は負けじと呑み進める、
ドワーフは1杯目と異なり二人の様子を楽しみながらゆっくりと呑み進める。
50分程が経過した、
ドワーフは丁度9本目を呑み終わり兄は5本目、妹は6本呑みこれ以上は無理だと動きを止めている。
「これが最後の瓶だ」
そう
アンゴラが告げる、それを聞いた兄は真っ赤になった顔で勝ち誇ったように声を上げる。
「それで?それで終わりだって?!なら俺たちの勝ちだ!ひゃはー!」
妹も倒れないよう耐えながら少しだけ喜ぶ、それを楽しみながら
ドワーフは10本目を呑み干し。
「おかわりじゃ」
そう告げる、PUB内が静寂に包まれる、そしてその静寂を引き裂くのは。
「お待たせしましたー!8番倉庫から酒樽をお持ちしましたよー!」
ロップイヤーだった、ドワーフが合図を送った時点で
ロップイヤーに樽を取らせに行くことは決まっていた、今ある店の在庫全てでも
ドワーフが酔い潰れる事はないのだから。
「そーれ鏡開きじゃー!」
「お見事ー!」
明るい声が響き戦況が一変する、勝ち誇っていた男は一気に青ざめる、彼はもう自分が限界なのが分かっていた、追い詰められた彼は懐に手を伸ばし。
「こうなったらぁ、みんなまとめて焼いてやらぁあ゛あ゛!!!!!」
コーラルで作られた火炎瓶を取り出した、止める隙も無く火が付けられ床へと投げつけられ・・・。
燃えなかった、瓶が砕け散り火がコーラルへ燃え移るはずだった、だがコーラルは燃える暇もなく一瞬で霧散し、
それを見つめるアンゴラの瞳は紅く輝いていた、まるで全てのコーラルを吸い上げたかのように。
ロップイヤーが隠し持っていた麻酔銃で兄を眠らせる、同時に全てが無駄だった事を理解した妹は糸が切れたように意識を失った。
「なーんじゃもう終わりか?、お主ら!童のおごりじゃ、この樽は皆で呑め!」
歓声が上がる
ドワーフの神酒はPUBの中でも最も高い酒、それをタダで呑めるというのだから当然だ。
樽に群がる者たちを不気味な笑顔で見ながら
ドワーフは敗北した兄を引きずって店を出ようとする。
「妹はどうする?」
「それはこやつのモノではない、そちらに任せる」
そう言いながら
ドワーフと男姿を消した、行き先はルビコンの外、コロニーネザーランド。
「邪魔するぞ」
いつも通り窓から入り込み、下駄を脱ぎ用意された部屋履きに履き替える。
「あの娘の調子はどうなっておる?」
「ようやく意識がはっきりしてきた、やはりお前の神酒は人間にはキツイ酒だな。」
「そちらの方はどうだ?」
「加工と調教が終わった所じゃ、ちょうど家畜が足りなくなってのぉって甘酒ではないか!」
「神酒はお前が吞み切ってしまったからな」
ああそうじゃった、そう言いながら
ドワーフは甘酒を飲む。
「そうじゃそうじゃ、お主変わりはないか?あの時こーらる抑制ぷろぐらむだけでなく女王の力まで使ったじゃろう?」
「女王は今も寝てるよ、あの程度ならなんともない」
コーラル抑制プログラム、女王、その言葉の意味はきっとすぐに分かる、今日のお話はここまで。
関連項目
はい、終わりだよ!今回はあのわるーい魔女様悪神様のお話だったけどどうだったかな?あの妹ちゃんはこの後色々な未来に行ける可能性があるんだけどーその中でも兄を取り戻すため魔女神様の元へ行った場合は変わり果てた兄を見せられてしまい「虚ろな目で兄だったモノを世話する飼育員」か「復讐のため、
ドワーフの全てを奪うため努力するネザーランドの後継者候補」の二択になってしまうんだ、君はどっちが好みかな?どっちにしろそれはボクが語る物語ではないけどね、次回は
アンゴラ君の出自についてのお話さ!お楽しみにー!
最終更新:2024年06月18日 22:01