邂逅! 闇夜の襲撃者



「我が名はヴァイス……†終焉の罪刻みし黒き隻翼の死神(ししん)†」

 謎の口上が闇夜に響……かない。
 その声は広域回線に乗って、周囲の機体のコックピット内で発せられる。

「クソッ……こんなヤツに……ッ!」

 MTのパイロットは嘆く。
 実力や性能の差ではなく、このふざけているとしか思えないような
 意味不明な言語を発する不思議な生物に命を脅かされている、
 こんな状況に。

 ヴァイスはアーキバスの最新手術を受けたらしい強化人間。
 新手のカルト宗教? 炎天宗?
 いや、だがアレはブッディストの類いだったはず。
 こっちはそれとは大分毛色が違うようだし、別のナニカか?
 それとも強化手術で頭がやられたか?
 等と諦め半分に戦闘とは関係の無い疑問をめぐらせていたその時、
 真後ろからブースタの咆哮が聞こえる。

「ん……? もう一人……オオグチか……?」

 ほぼ原色の赤と白のカラーリング、黄色く光るセンサー、
 コア左側に貼られたニコニコでハイテンションなエンブレム。

「マキシママイザー……アリーナの新入りがどうして……」

 マキシママイザーX。
 同乗者、マイ・マキシマム
 引退した老傭兵を継いだらしいが、やっている事はまるっきり子供らしい。
 ほぼ勝負は決したと言うこの状況で一体何をしに来たというのか。

「……ロックできる! 敵の増援!? この状況でか!?」

 MTは彼の機体を除いて全て撃墜。
 そもそもこの戦い自体、解放戦線のMT部隊が
 ヴァイスの襲撃を受けた事による一方的なものだ。
 今更増援、それもACを投入する程ではないはず。
 絶望的な状況ながら困惑する彼に、増援と思われるその機体は、
 MTを通り過ぎ、ヴァイスの乗るAC、シュヴァルツフォーゲルに向かって
 ハンドガンを撃ちまくる。

「そこの黒いACぃー! 弱いものいじめは許しませぇーん!」
「ACマキシママイザーX、識別名マイ・マキシマム……†焔纏いし双刃の剣闘士†か」

 シュヴァルツフォーゲルはアサルトブーストを吹かして前進しながらそれを回避する。
 MTパイロットは更に困惑するが、これはチャンスだ。
 二人が仲間割れ(?)をしている今のうちに撤退を試みる。

「……遊びには付き合わん、我が†罪†となれ」

 だがACもそう甘いはずがない。

「†絶聖邪滅閃紅波†!」
「うぇッ!?」
「くっッソッッッッ!」

 シュヴァルツフォーゲルはマキシママイザーと交差の瞬間、
 おどろおどろしい名前のアサルトアーマーを発動。
 MTは吹き飛び大破、マキシママイザーもモロに受けてよろける。

「†残影冥月†展開……」

 そのままシュヴァルツフォーゲルは振り向き様にコーラルオシレータを二振り。

「潰えろ、†隻翼†……!」
「どぁーっ!?」

 更にブーストキックで追撃し、三連レーザーキャノンを叩き付ける。
 右肩に背負っていたバズーカが裂け暴発、コアブロックを守る装甲が赤熱して歪む。
 謎の固有名詞がポンポン出てくるが、最早マイにそんな事を気にする余裕も無かった。
 シュヴァルツフォーゲルは負荷限界で倒れかける冷めかけの赤熱に
 ニードルガンを押し付け、トリガーに指を掛ける、が……

『ヴァイス、タイムオーバーです。
 目標は既に達成しています。 増援が来る前に帰還してください』

 オペレータの声にヴァイスの手が止まる。

「あっ! にっ、逃げるつもりですか!?」
「否、見逃してやるというのだ。
 貴様の終焉が、ここではないというのならば……」

 背を向け、ブースタを真紅に燃やしながら黒き隻翼は飛び立つ。
 ACSが復帰したマキシママイザーの放つ弾丸はすり抜け、空に消えていく。

「待てー! 逃げるなぁー!」

 命のやり取りに正々堂々を求める必死の訴えと共に……。

 :
 :
 :

 程無く "解放戦線のMT部隊を壊滅させた" 赤いACは、
 解放戦線の増援として現れたACに迎撃され中破。
 黒い煙を吹きながら「卑怯物!」という捨て台詞を吐き捨てて撤退した。



+ 音声記録 : 正義の味方01
音声記録:正義の味方01

残骸から抜き取った音声データ
解放戦線のMT部隊を殲滅した独立傭兵マイ・マキシマムと
増援の傭兵オオグチの戦闘記録
----------

 糞ッ、全滅かよ……
 これだけ暴れたんだ、もう少しくらい運動してけよ!

 え!? や、あのこれ――

 ッるせぇ死ねぇぇぇッーーー!!

 ヴぉぁーーーーッ!?
 ちょっッッッまってこれわたしじゃッどぁーーーー!?



登場人物

タグ:

小説
最終更新:2024年04月25日 13:00