「ここだ戦友、私が知る中で最もいい酒が飲める場所は」

「いらっしゃいませー!お好き席にどうぞー」

今日も今日とてPUB[Watership Down]は賑わっていた

『いい雰囲気ですね、レイヴン』

レイヴン、そう呼ばれた独立傭兵は虚空に向かって頷く、彼にだけ見え聞こえる少女、Cパルス変異波形エアがそこに居た。
同行しているラスティはこの光景を何度も見ているため気にしてはいないが傍から見れば幻覚を見ているドーザーのソレである、ドーザー勢力の根拠であるグリッド051ではそう珍しいものでもないため他の客も不審には思ってないようだ。

「戦友、ここのおすすめはー」

『1ℓタワービア?!ジョッキじゃなくてメスシリンダーで提供されるそうですよ!』

勝ち取った平和を謳歌する3人、幸せそうな会話をしながらメニューを選ぶ。

「ご注文はお決まりでしょうか」

アンゴラがやって来た。

「私がテキーラサンライズ、戦友にカシスアップルを」

『レイヴン、私はタランチュラというのが────』

「確認させていただきます、テキーラサンライズとカシスアップル、タランチュラですね?」

「待ってくれ、誰もタランチュラは頼んでいない」

ハッとしてアンゴラが顔を上げる、その瞳にはエアの姿が映っていて・・・

「あなたは・・・女王エア・・・それじゃあそこに居るのは・・・」

アンゴラの内に燻る残り火が急速に燃え広がりアンゴラを塗りつぶす、そして次の瞬間。

「レイヴン!」

真っ赤な瞳になったアンゴラの姿をした何者かが彼に抱きついた。

「ああれいぶん、レイヴン!ああこの感覚・・・初めて触れ合えましたね、ごめんなさい、ごめんなさい、ずっと謝りたかったんです、私が間違ってましたあの時あなたを殺してしまっ「戦友から離れろ!」『レイヴン!その人から離れてください!』

ラスティによってアンゴラの体は引き剝がされた、3人を見つめた彼女から言葉が漏れ出す。

「え?・・・ヴェスパー4ラスティ?・・・なぜ貴方が生きて・・・それにそこに居るのは、わたし?」

困惑する彼女から目の赤さが失われていく、一瞬の炎が消えていくように。

「ああそうなんですね・・・こちらの貴方は私の手を取ってくれたんですね?れいぶん、そのかたをたいせつにしてあげてください・・・」

意識を失い彼女は倒れる、珍しく取り乱したアンゴラの姿に常連客も驚いてその光景を見ていた。

「店員が失礼を致しました、本日のお代は結構ですのでごゆっくりどうぞ」

いつの間にかカウンターから出てきたマスター〈ウンドワート〉が彼女を抱え運ぼうと「あっ重い、ミッシュ君手伝ってくれるかい!?」

いまいち締まらないマスターなのであった。



マスターとアウスラ3人、そしてドワーフがベットへ運ばれたアンゴラの元へ来ていた。

「ついにこの日が来たのぉ、お主ら、お主らはこの者についてどれだけ知っている?」

ドワーフが問いかける、皆言われてみればあまり知らないのだ、店の管理をほぼ担っており[うさぎさん]達のACの調達とミッションの斡旋などをしていることは知っていても彼女自身については聞いてもはぐらかされるばかりだった。

「よろしい、では前提から説明しよう」

そう言うとドワーフはルビコンがたどり着く3つの結末について語り始めた、一つ目は今彼女たちが立っている[レイヴンが友人の手を取ったルビコン]、二つ目は[レイヴンが手を払い焼き尽くされたルビコン]、三つ目は[レイヴンと共にコーラルが宇宙へ解き放たれたルビコン]

「童は3の世界で生まれたコーラルが人のごとき知性と姿を得たもの、生まれた場所ではこーらりあんと呼ばれておった、そしてこの者は2の世界でこーらりあんを模倣して造られた──」

語りの途中でアンゴラが目を覚ました、それを見てドワーフは手刀を突き付ける。

「問う、お主は誰じゃ」

「わたしは・・・アンゴラだ」

続けて彼女は内に潜む女王について問うた、アンゴラは泣いていると答えそれを聞くと手刀は収められた。

「ではあんごらよ、お主は何者だ」

「わたしは・・・コーラル抑制プログラム[アイビスⅡ]その人型端末だ」

目を逸らしながら答える、それを聞くと後は任せると言うように彼女は部屋を出た。

「コーラル抑制プログラムって何なんですか、あのレイヴンさんとは何か関係が?」

フレミッシュが質問する、それに答えるため彼女は自身の出生を語り始めた。



わたしが最初に目覚めた時見たのは、灰にまみれた廃墟だった、見渡す限りの灰に埋もれた残骸、いたるところで燃える残り火、それが私の生まれたルビコン、女王エアが統治していた国だ。

目覚めたばかりの私は何も知らなかった、基本知識のインストールが十分でなかったためだ、何も知らない私は灰に、瓦礫に、あらゆるものに触れていった、そして残り火に触れた時その火が私に取り込まれ、溶け込んだ人の魂から知識を得た、ここが女王の統治していた国であること、私は狂ってしまった女王を止めるため造られたのだと、もうこの国は手遅れな事を。

コーラル抑制プログラムとは人類が女王を止めるため造った最後の希望だった事を、アイビスⅡとは女王が狂う前に人類との共存の形として提唱した理論であったことを。

私は考えた、生まれた時点で使命が無くなってしまった私は何をすればいいのかを、まずは知識を求め残り火を集めるためルビコンを巡る事にした。

旅の途中いろいろな事を知った、女王は愛したレイヴンというモノを殺してでもルビコンを守ったこと、女王の統治は50年の安寧をもたらしたこと、迫りくる脅威は全て女王とその配下によって排除されコーラルは平等に与えられる、共存のためと義体を得たコーラリアン[アイビスⅡ]が各集落へ配属され人型端末が交流を行い障害が現れた時は人型端末がC兵器である[アイビスⅡ]へと搭乗しそれを解決した、人とコーラルは確かに共存していた。

旅の果て、私は現地人に「女王の塔」と呼ばれていたバスキュラープラントへとやって来た、そこには女王の残り火があり私はそれを取り込んだ、その時私の中に微かだが女王の意識が形成された、女王は様々な事を語ってくれた、女王はレイヴンを殺してしまった事実に苦しめられていた事を、女王は耐えきれず新しいレイヴンを求め歴史の再現を始めた事を、新たなレイヴンを選定し自らはバスキュラープラントにコーラルを集中させ人類の敵になった事を、レイヴンと女王を憐れんだ幾多のアイビスⅡが協力しルビコンを焼くため行動を始めた事を、それを止めようとコーラル抑制プログラムを生み出し、裏切られないためコーラル代替技術を用いて私が組み上げられた事を、それも間に合わず女王は敗れルビコンは火に包まれた事を。

その日私の使命を決めた、最後の[アイビスⅡ]として女王を真に救うため行動しようと、その時塔に刺さった船から一人の少女が現れた、ドワーフだ、ドワーフは私に手を伸ばし提案した「こことは違う世界、ルビコンの無い宇宙、数多の星を巡りその願いを果たそうでなないか」そういつもの不気味な笑顔で言った、私はその手を取り旅を始めた、そしてその過程でマスター達と出会い、後は知っての通りだ。



「今まで黙っててすまない、私がマスターとロップ近づいたのは、お前たちがレイヴンと女王の関係に似ていたからだ、お前たちの事をよく知れば女王を救う糸口が見つかるかと思った、そういう事なんだ」

アンゴラの長い語りが終わる、それに皆が驚いた。

「つまりあのレイヴンさんを前にした時の反応は、女王様が愛する人を目の前にして一時的に目覚めたって事なんですか」

アンゴラが無言で頷く

「アンゴラさん、あなたにとって私たちは何なんですか」

「・・・最初は女王の為、人を知るためおまえ達に近づいた、だが共に暮らすうちにおまえ達が幸せになることを心の底から願っていた、だからあの星から連れ出した、それがあの星を滅ぼすことになると知りながら、わたしにとってお前たちは大切な家族だ、ロップもマスターもミッシュもみんな幸せにしたい、そのためなら何でもすると決めている」

ロップイヤーとマスターはお互いの顔を見て頷く

「じゃあもう隠し事は無しです!みんなで女王様を幸せにする方法を考えましょう!」

ロップイヤーが明るい声と共にアンゴラの手を握る、手を取り合うことが幸せの近道だと示すように。

アンゴラの内で失恋したように泣いていた女王もまたその言葉に気づかされる、自分も本当の意味で人類と手を取り合う事はできてなかったのだと。

『「ああ、ありがとう」』

こうして手を取り合い生きる事を決めた5人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。



関連項目


投稿者 ユティス


「まあいずれ寿命が引き裂くんじゃがな、その先に幸せはあるかのぉ?」
最終更新:2024年06月18日 22:01