おや?ついにやって来たのかい?
それじゃあ語りなおすとしようか、彼らの最後の物語を。
お手洗いは必要ないよね?お茶とお菓子も君にはあげないよ、はちみつレモンは・・・残念だ切らしてるよ。
じゃあ、始まりだ。
ここはPUB[Watership Down]、今はマスターの容体が悪化し連日休業中である。
「大丈夫ですか?マスター」
「うーん、厳しそうだねぇ」
最初から彼は限界だった、ルビコンにやってくる前の戦いで彼の体は致命的に汚染されていたのだった。
「すまない、私が用意できる手はもう全て・・・」
『こちらでも探してみましたが有効な物はありませんでした』
今までは
アンゴラが延命処置をしていたがそれも限界だった、女王エアもまた延命手段を探したが徒労に終わった。
「もう十分だよ、ただ戦って死ぬだけだったはずの僕がここまで幸せになれたのはみんなのおかげだ、君たちのおかげで僕は十分素晴らしい人生を送れたよ」
「・・・・・ありがとうございます、貴方が残した物は自分が必ず残します」
フレミッシュは覚悟を決めた、次のマスターとして彼の持つ全てを彼は託されていた。
「うん、よろしくね」
いつも通り軽いウンドワート、だが確実に弱っていた。
「すまないが席を外してくれるかい?ロップ君と二人で話がしたいんだ」
「ああ、行こう二人とも」
アンゴラがフレミッシュと女王エアを連れて部屋を出ようとすると・・・
「ああそうだアンゴラ君、あの時僕達を連れ出してくれてありがとうね」
ロップイヤーも感謝を述べる、この物語はアンゴラ君が二人を連れ出して始まった、おかげでボクも語り部をしている。
「・・・ありがとう、そう言ってくれると私も助かる」
そう言いながらアンゴラは扉を閉めた。
『まだ諦めません、何か手段を探してきます!』
女王エアが廊下を駆け出して店を飛び出る、アンゴラは扉の側に座りその隣にフレミッシュも座る。
「ロップ君、本当にありがとう、戦うだけの存在だった僕に生きる意味をくれたのは君だ、君が居なかったら僕はただの兵器だったよ」
「私もです、貴方と生きるためならどんなことでもしようと心に決めていました、例え世界の全てを敵に回しても」
二人は長い長い愛を語り合う、実際全てを敵に回す
ルートもあったと僕らの本来の物語には記されている、アンゴラ君が連れ出たおかげで無くなってしまったけどね。
「いやあ、ホントに楽しかったなぁ、残してきたみんなにはちょっと悪いぐらいだ、きっと僕は地獄に行く、その時はみんなに謝らないとね」
ロップイヤーが微笑みながら無言でウンドワートの手を握る。
「ありがとう、君はどうか天国にいって・・・」
ウンドワートの手から力が無くなりロップイヤーの手から滑り落ちる。
「!!〈レイヴン〉!・・・・・いえ・・・・いえ、例え地獄の果てでも、ずっとお側に・・・」
そう言いながら彼女は銃を自らに向け・・・
銃声が響いた
「!今の音は?!姐さん!・・・姐さん?」
「あ、ああ・・・・そうか・・・これが、大切な人を失う悲しみ・・・女王、あなたはこれに50年も・・・」
震えながら泣くアンゴラを慰めるようにフレミッシュは寄り添い続けた。
しばらくしてからアンゴラが顔を上げる。
「二人を埋葬する、手伝ってくれ」
「・・・はい」
二人の埋葬が行われ、そして、長い時が経った。
女王エアはこの世界で生きるレイヴンとエアのため、今度こそルビコンを守るためネザーランドへ向かった、新しいアイビスⅡを建造するために。
そしてアンゴラとフレミッシュは。
「もう神酒は仕入なくていいぞ、もう作れる奴も呑む奴も居ないからな」
「分かってます、これで引継ぎは全て終了、無事を願っていますよ」
アンゴラはまた旅に出る事にした、行き先はもちろん・・・。
「行ってくるよ、元気でな、マスターヘイズル」
「はい・・・姐さん!・・・・・・またのご来店をお待ちしております。」
笑いながら彼女は答える。
「気が向いたらな」
これにてPUB[Watership Down]の物語は、おしまい。
そう言って語り部は本を閉じる。
「うん、まずは素直な感想を言うとしようか」
ボクは目を閉じて深呼吸をする、アンゴラ君はそれを眉一つ動かさずに見つめる。
「素晴らしい物語だった、彼にこんな素敵なハッピーエンドがあるだなんて思わなかったよ、君も知ってるよね?ボクらの物語は本来ボクと彼が殺し合って相打ちになる、それ以外のエンディングはないんだ」
アンゴラ君が無言で頷く。
「そう、彼は必ず死ぬ、例えロップ君と共に逃げ出したとしても最後はボクと戦って彼女を残して死ぬ、そういう運命だ、でも君が変えた、変えてしまった、おかげでボクはこうして彼らの物語を外側から楽しめたよ、ありがとう」
アンゴラ君は驚いた顔をしている、まあ当然だよね。
「あはは、君もそんな顔するんだね、うん、最初はボクも許すつもりはなかったよ?でもあんな幸せそうな彼の顔を見せられちゃったらね、もう許すしかないじゃないか」
そう言いながらボクは立ち上がりアンゴラ君へ近づく。
「でもね、それでも罪は罪だ、君はボクらの物語をめちゃくちゃにしてあの星に居た人がみんな死ぬ原因を作った、その罪は償ってもらわないといけない」
「・・・覚悟している、どんな罰も受け入れよう」
彼女の目の前に立ち、そして目線を合わせるようにしゃがむ。
「君への罰は・・・ボクといっしょに旅をすること!」
笑顔でそう告げる、アンゴラ君はそれを聞いてぽかーんとした顔になった。
「あんな素晴らしいハッピーエンドを、ボクにもプレゼントしておくれよ!・・・お願い、ボクを人間にしておくれ」
「・・・いいのか?それはお前の願いで、他の者たちは─「大丈夫!もうボク以外に自我が残ってる人はココには居ないし先に旅立った二人がみんなを鎮めてくれたよ、だから君ができる償いはコレしかないんだ!」
アンゴラ君はしばらく驚いてそのまま笑い始めた。
「あはは、これ見てくれる?ボクらの時計、ずっと止まってたんだけど彼の死と共に動き始めたんだ、これでようやくボクは進む事ができる、じゃあさっそく行こうか、〈アリス〉」
「ははは、〈アリス〉?それが新しい名前か?いいだろう、どこまでも付いていくよ、マーチヘア」
「酷い!せめて時計ウサギにしておくれよ!」
ボクらは笑いながら歩を進める、素晴らしい旅へ向かって、ハッピーエンドへ向かって、きっとあの童話よりずっと不思議な物語、さあ楽しくなるぞ!
「次回!時計ウサギのドタバタ珍道中に乞うご期待!」
関連項目
最終更新:2024年06月19日 12:54