南ベリウス地方の汚染市街にて
一見廃墟とも思えるこの地域では今、ルビコン解放戦線が一体のACを相手に死闘を繰り広げていた。
『相手はたった一機のACだぞ!?』
『弾幕絶やすな、四脚MTの長距離砲で抑え込め!!』
『ダメです、前線MT部隊一気に薙ぎ払われました!』
『ああ、あいつもこいつも吹き飛ばされていく・・・ああ、こっちにもミサイルが・・・くっ来るなぁ!!』
解放戦線の通信は阿鼻叫喚と化している。やがて後方で指揮を取る四脚MTの前にそのACは降り立つ。
「こいつ・・・なんなんだ一体・・・」
その時、MTパイロットに通信が入った。なんと相手は目の前のACパイロットだ。
「・・・何者だ。」
だが声の主は戦いぶりからは考えられない、若々しいフランクな口調の持ち主だった。
『いやはや、こんな戦闘になるのは本当に想定外だったよ。説明不足だったことはすまない。』
「戦いを仕掛けておいて今更・・・ふざけるな!!」
だが相手はまるでその怒りを意に介しない。
『まあまあ落ち着いて聞いてくれ。俺がここに来たのは誰かの依頼での殲滅任務じゃない。俺自身おたくらに聞きたいことがあって来たのさ。』
その言葉にMTパイロットは絶句する。無理もない、警備にあたっていた同胞を躊躇いもなく撃破しておきながらいけしゃあしゃあとこんなことを言い放つのだから。
だが思い当たるところはあった。確かにこの戦闘が始まってから撃破された味方のほとんどは脱出に成功している。装置の不具合かタイミングが悪くて一部の仲間は不幸にも脱出できなかったが。確かに彼の言う通り戦闘が目的ではなかったのかもしれない。
「・・・何が目的だ。」
『聞きたいことはシンプルさ、この周辺にかつてコーラルを採掘していた鉱山があると聞いた。そこでは加えてミールワームの育成もしていて街として栄えていたともね。この惑星で長く開拓をしてきたおたくなら知っていると思ったんだが、どうかな?』
MTパイロットには心当たりがあった。かつて師叔ミドル・フラットウェルと会話した時に彼がこうこぼしていたことがある。
『以前はコーラルを採掘する鉱山で発展した居住区が近くにあったが、あれも目先のコーラルに釣られてすぐに枯渇し、衰退した』と。
(師叔が仰ってた、あの中央ベリウス地方にある鉱山か。)
だが同時に疑念も浮かんだ。
「それを知って、どうすると言うんだ?」
だが相手は言葉を濁した。
『うーん、そこは言えないな。流石にこっちの調査の全てを大っぴらにするとまずいからねぇ。』
この独立傭兵はコーラル調査のためと主張しているがひょっとすれば解放戦線を制圧するための拠点候補地を探っているのかもしれない。そうなれば組織にとっては致命的になりかねない。
「なら貴様を信用する道理はない。出ていけ、さもなくばここでくたばれ!!!」
四脚のMTは最大出力で飛び上がり、手に持っていたレーザーブレードをACに振り下ろす。
だがそのACはやはり只者ではなかった。そこから飛び退くのでもなく、右手に持っていたバズーカを撃つのでもなく。そこで何かの構えを取る。
(こいつ、何を考えて・・・)
そうMTパイロットが思っていた時には全てが決していた。白銀にミントブルー、ゴールドのカラーリングが施された、『美しさ』すら見せるACはその重量級の脚を上げてブースと共に自分より大きな重量MTを蹴り飛ばしたのだ。
「な・・・蹴り飛ばしただと!?」
その影響は大きく、見事に機体をひっくり返されたMTは姿勢を戻そうとする。だが比較的装甲の薄い下部が晒されたことは致命的なミスでもあった。
「残念だよ、いい話ができると思ったんだが。」
白銀のACは左手に装備していたコンテナ状の兵装を展開し、大きく横に払うようにして腕を勢いよく振った。すると小さな無数の球体が放出され、MTの周囲を囲んだ。
と、その次の瞬間MTは爆炎に包まれる。機体は見事にACSの過負荷で動作が硬直した。
そしてACは容赦無く大豊製のバズーカの照準を合わせる。一際明るいマズルファイアと共に放たれた大型榴弾はそのまままっすぐMTに着弾して追加の爆発を引き起こした。
「こんな一瞬で・・・追い詰められるだと!?」
MTコックピットではヒビの入ったディスプレイに映っているACを見てパイロットがさっきまでの威勢が嘘だったかのように怯える。
そしてACは間を与えることなく距離を詰めてくる。機体の中では絶え間なくミサイルの接近警報が鳴り響き、パイロットの精神を削っていく。
やがて上下左右に滅茶苦茶に振動が幾度もなく発生し、コックピットの計器がほとんど使用不能になった。メインカメラだけは皮肉にも機能していた。
「ひっ・・・来ないでくれ・・・頼む・・・師叔殿、助け」
誰にも助けが届かない室内でそう呟きながらACが近づいてくるのを見たのが最後の風景となった。
ACが蹴り飛ばしたBAWS製の四脚MTは勢いよく空中に飛び上がり、一回転して市街地にある廃墟アパートの一つに叩きつけられてそのまま停止した。
「・・・やはり簡単にはいかないよなぁ。流石に仲良くお話ししましょというのは都合が良すぎたか。」
ACのコックピットでは青年がそう呟いていた。
「仕方ない、ログだけ回収させてもらうよ。」
ACは地面を滑走して移動し、大破したMTの前に立つ。そのまま無事に残っていた戦闘ログをハッキングで入手した。
「・・・ああ、いつ聞いても嫌なものだな・・・気が滅入るよ。」
再生してしばらくすると目的の情報を入手した。
「・・・中央ベリウスか。遠くないな。」
そこで青年は暗号通信回線を開いた。
「・・・ああ、目的の場所の大まかな場所はわかった。ドローンを飛ばして調査してみてくれ。必要であれば俺も後で調査しに行く。」
通信を終えると、アサルトブーストを展開した重量級のACは雪がしんしんと降る中、灰色に濁った空へと飛び立っていった。
アーキバス進駐地にて
アーキバスの誇る主力AC部隊、ヴェスパーの第一隊長にしてアリーナ最高ランクに君臨するパイロット、フロイトはシミュレータで気になる機体データを見つけた。
「ほう、Aランカーの独立傭兵か・・・面白い、傭兵だが動きはまるで正規軍で身につけたような立ち回りだ。」
そこでフロイトのポケットに入れていた通信デバイスに着信が入る。それは作戦の立案・指揮を全て任せているヴェスパー第二隊長、スネイルからだ。
『フロイト、シミュレータでの敵の分析も重要ですが、いい加減作戦のブリーフィングにも出て来てください。今回の作戦は上層部も注目しているのです。』
「ああ、了解した。」
そう淡々と答えると何事もなかったのようにシミュレーションを開始する。しばらくしてルビコンに降り立つ全てのACパイロットが利用している傭兵支援システム『オールマインド』の機械的な音声が対象の説明を始める。
『今回の対象はランクA。AC名ルーン。識別名
ラッシュ』
彼がディスプレイ越しに見ている白銀にミントブルー、ゴールドの塗り分けが入った機体は、まさに汚染市街を襲撃した独立傭兵のそれだった。
「さあ、楽しませてくれよ。スネイルの要請を無視したんだ、それなりのものじゃないと困るぞ?」
フロイトはわずかに笑みを浮かべた。
オールマインドが戦闘開始をアナウンスする。
『検証を開始します。』
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最終更新:2023年11月26日 23:15