親キャラ-白毛

銀髪の姫様はまるで王にて


私は電話機の奥の人にイライラを軽く込めた声をぶつける。

「これはどういうことなのよ?」

電話の奥からは、申し訳なさと面倒くささがブレンドされた声が返ってくる

「いや、それは…その…すまなかった。君が出発してからの一ヵ月で大きく情況が変わったんだ。」

「変わったって?」

「ルビコ二アン達が、一人の独立傭兵を旗印に、大規模な反旗を翻した。その最中でアーキバス(ウチ)からも無視できない損害が出たんだ。
それで、既に残ってた本部隊は撤収してね。代わりに本社の戦力が回復されるまでの雇われ部隊が配備されたんだ。だから、俺が行く予定だったのもキャンセルされた。
逆に、一度撤退したベイラムからは、巻き返しを狙って新たな戦力が送り込まれた。今のルビコンは、解放戦線の力が大きく増したみつどもえに逆戻りだよ。」

電話の奥で話すのは、私がアーキバスに「借り」を作るために奮闘してたころに、何度も現場監督としてあった男。

彼の協力も得てアーキバスから航路の交渉を勝ち取ったのだが…

「確かに、話に聞いてた感じとはずいぶん違うわね。…まぁいいわ。傭兵の需要が残ってれば」

と言ったあと、軽く挨拶をして電話を切った。


そう、当初の予定とはずいぶんと変わってしまったが、正直企業同士の争いなどは今までも嫌と言うほど見てきたので、それはどうだろうとまぁいい。

食ってくことが重要なのだ。


仕事の斡旋は支援システムに任せるとして、来て直ぐに依頼は斡旋されない。

数日先の依頼までは既に受ける人が決まっている。

暇な日時を人や物でも眺めて潰そうと、夜のマーケットに繰り出してみたのだが…

―ガラの悪さ。

マトモな人はいっぱいいるようだが、一部にだいぶ目立つような人がいて気になるし、それを他の人は気にしてないので「いつものことなんだな」と思う。

そして、興味深い物や気持ち悪いものが売ってるマーケットを見繕い数時間。

夜も更けたのだが、客はどんどん増えてくる。

ごった返した人ごみを抜け、路地に入った時だった。

―!!

全身の毛が逆立つ。

尻をさらりと触られる感じがした。
痴漢だ。

…流石未開の治安も悪い田舎惑星だ。誰だか知らんがぶっ〇してやる…!

そう思いながら脊髄反射の速度で相手の手を掴む。
相手の腕に触るだけでも気持ち悪いが。

相手はいかにもといった風体の、恰幅の良いメガネをした下品な印象のおっさnだった。

相手はこちらの反応速度にギョッとした顔をする。

私は人ごみの中からその手を引っ張り出す。

人ごみから外れた路地で、男は気まずそうな顔を浮かべる。

「…よ、よく反応できたな…恐ろしい反射神経だ」

「はぁ…アンタみたいにおっさんに構ってられたくない訳…流石は辺境の無法惑星ね…。」

と言うが相手はにやりと笑い。

「…辺境の無法地帯には警察はいねぇんだぜ…!」
とにじり寄って来た。

―逆ギレ!?

逃げようとするが、悲しいかな私が彼を人ごみから引き抜いたので、彼の方が人ごみに近く逃げ切れない。裏の路地は足元が悪くとても逃げられる気がしない。

―こんなクズに―!

そう思った時。

(クズ)が、全身をビクリと震わせた。
そして…白目を向いてぶっ倒れた。

「え…?」

ぶっ倒れた彼をつんつんしてみても、目覚める気配がない。一体何が…

と、向こうから声がした。

「おい娘さん、怪我はないかの。」
と、銀髪の少女が声をかけてきた。

よく見ると、右手にはスタンガンが握られている。

彼女が助けてくれたのか。

「こんな場所にこんな時間に女性の一人歩きは危ないじゃよ。」

と言ってきた

「た…助かりました。」

とお礼をしっかり言う。

彼女は、見た感じ私よりも小さい少女だった。

「あの…女性の一人歩きは危ない…と言いましたけど、貴女は…大丈夫なんですか?」
と問う。

「…え、何でじゃ?」

何でと言われても。
この人は鏡を見たことが無いのか。
「いや…その…?その銀髪とか…私より目立つんじゃないですか?」
と聞くが。

「ああ…そういう…。大丈夫じゃよ。儂、男じゃし。」

「は?」


私は彼の今までの説明を受けた。

「って言うことは…、あなたがその、第n次制海戦争で活躍した、白毛さんと…!?」

「そういうことじゃ。あの頃は戦うことしか出来なかったからな。たとえ嫌だったとしても強くなれたもんじゃ。」

「そんな…ひど」

「おおっと、本人が気にしてないことを気にするのはNGじゃ。」

と話に釘を刺される。

「それにしても…その身体は生きづらくはないんですか?」

「別に。ずっとコクピットに括り付けられてるよりはマシじゃし。ここらじゃ儂の名も知れてるからな。セクハラをしてくる奴なんぞ同僚くらいしかおらぬ」
と笑い飛ばす。

ど、同僚…。

「まぁ、治安なんてあってないようなもんじゃから、今回のようなことも、あとスリとかも気を付けることじゃ。じゃ、次は戦場で。」

と言って去っていく。

…!?

「あ、何で私が傭兵だって…」

「動きを見れば分かる。それは戦場で鍛えられた反射神経じゃ。」

見た目こそ幼いが、その老兵の大人さに、脱帽する他なかった。

私などまだまだ若輩だ。



投稿者 ootori

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小説 ootori
最終更新:2023年11月27日 02:53