ジークフリート(英雄)

登録日:2013/6/15(土) 17:25:00
更新日:2024/05/02 Thu 12:05:29
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ジークフリートとは、ゲルマン民族の伝説における英雄である。

この項目ではジークフリートにまつわる大雑把な概要を書きます。

大雑把とはいえネタバレも含んでいるので、嫌な人は回れ右。




【概要】

上にも書いてあるように、ゲルマンの伝説における英雄。

ジークフリートにまつわる伝説はゲルマン民族の文化圏にいくつか存在するが
これは研究者のホイスラーによると5,6世紀あたりにライン河流域で発生した伝説の原型が各地に広まる上で変化していったからだとか。

まあ要するにいつの時代にもどこの国にも「ジークフリートの伝説ってなんかカッコいい!」という人間がいて
そいつらが「ぼくのかんがえたさいこうのジークフリートでんせつ」を無駄に高い技量で作り上げていったということ。
このフリー素材っぷりは英雄伝説の中でも他にはアーサー王伝説ぐらいしか見られないかも。

また成立から1500年くらい経過した近代でもワーグナーのように伝説を基に新たな物語を書く作者はいるし
彼や彼の振るう武器の名前や設定を使ったりもじったりする作品は日本国内にもある。
ジークフリートは時代や地域を越えて愛される英雄と言ってもいいかもしれない。
あなたも興味があったら自分なりのジークフリート伝説を書いてみてはどうだろうか?



さて、その伝説の中身はモノによって多少の違いはあれども基本的な部分

  • やんごとない血筋の出身
  • 歩く死亡フラグ
  • 冒険と竜退治
  • 美しい女性との恋
  • 暗殺されて死ぬ悲劇的な最期

はだいたい一致している。

しかしそれ以外の部分は伝説によって様々なバリエーションがある。




【各伝説における特徴】



エッダ&ヴォルスンガ・サガ
  • 北欧神話に含まれるエッダ・サガ。エッダは一つの作品ではなく、断片的なエピソードを記述した詩。
  • ヴォルスンガ・サガはそれらのエピソードをまとめ、欠落部分を補い、一連のストーリーとして仕立てたもの。
  • 名前がシグルズになっている。
  • 北欧神話の主神、オーディンの子孫で英雄1族ヴェルスング(ヴォルスング)の末である。一応は王子。
  • しかし生まれる前に父が死んだため、身分にふさわしい財産を持たない。
  • の名前は「グラム」。父の剣を鍛え直した物。
  • 予言によって己の生涯を予め知っている(同時に「運命には勝てない」と諦めている。)
  • 竜(ファブニール)を退治したことで得た能力は「小鳥の声が理解できる」こと。電波とか言っちゃダメ。
  • ヴァルキューレブリュンヒルト(シグルドリーヴァ)と愛し合うが、グリームヒルトの策略と忘れ酒によって彼女とは結ばれずにグズルーンと結ばれる。
  • その後、ヤンデレこじらせたブリュンヒルトの策略によって暗殺されるが、下手人とは刺し違える形になる。
  • 下手人はハゲネ(ハーゲン)ではなく、クリームヒルトの兄グンナル王とハゲネの弟グットルム。つまりシグルズの義弟。

[補足]
  • シグルズとブリュンヒルトが死んだところで話が終わっている、と思われることもあるが、一部のエッダとヴォルスンガ・サガではシグルズ死後の出来事も描かれている。
  • それによると、再婚相手のアトリ(エッツェル)がシグルズの財宝を求め、グンナルとハゲネを呼び出して殺してしまう。
  • グズルーン(クリームヒルト)は復讐を望まず、二人を殺した夫を責め、ハゲネの息子を手引きして復讐を手伝った。
  • ニーベルンゲンの歌で復讐鬼と化したクリームヒルトとは天と地である。どうしてああなった。



  • 13世紀に書かれた中世ドイツ叙事詩の最高傑作の1つ。
  • ニーダーラントの王子で、中世キリスト教社会の話なので北欧の神様は関係ない。
  • 両親ともに健在なため、立派な王子として育つ。
  • ゲルマンのヴァイキング的な行動と、中世の騎士道的な行動が混在していると言われる。
  • 詩の冒頭で死ぬことが宣言されている。それどころか事あるごとに死ぬ死ぬ言われる。
  • 剣の名前は「バルムンク」。ニーベルング族から財宝ごとふんだくった。
  • 竜(名無し)を倒したことで、良く知られる「背中の1点を除いてどんな刃も通さない」肉体になる。
  • 最初から最後まで一貫してクリームヒルトを愛しており、ブリュンヒルデからも武勇も位も自分より下と思われている。
  • 要らんことをしたせいで王の結婚の秘密がバレそうになり、その結果として暗殺された。
  • 財宝はクリームヒルトに相続されたが、その財産で余計なことするんじゃないかと警戒され、没収&ライン川に沈めて封印となった。
より詳しい内容はジークフリート(ニーベルンゲンの歌)を参照されたし。


○シズレクのサガ(シドレクス・サガ)
  • 13世紀半ばにノルウェーで編纂されたサガ。
  • 作品の完成はニーベルンゲンの歌よりやや遅いが、ベースとなる伝説自体は12世紀には既に北欧に伝わっていたらしい。
  • 主人公はシズレク(ディートリッヒ)。ニーベルンゲンの歌に登場し、復讐に巻き込まれて部下を殆ど失ったあの人である。
  • このサガでは、ジークフリートは主人公ではなく準主人公ポジション。
  • エッダ同様に王の子だが、父は存命。妊娠中の王妃に不倫を持ちかけた家臣が、夫バレを避けるため奸計で王妃を追放した後に生まれた。
  • エッダと同じく鍛冶師に育てられるが、こちらのジークフリートは乱暴者。耐えかねた育ての親が竜の棲む森に送り込んで始末しようとするも、なんと剣すら使わず竜を殺害してしまう。
  • 腹が減ってたので竜を食べようとしたところ、エッダのように鳥の声を理解できるようになり、育ての親の真意を知り「~の歌」のように血を塗って不死身の肉体となる。
  • いいとこ取りにも程がある。
  • 育ての親は命乞いに剣(グラム)を差し出したが、ジークフリートはその剣で養父を殺して旅に出た。ここでようやく剣登場。
  • 後の展開はニーベルンゲンの歌と似たような流れだが、ブリュンヒルトにガチで手を出している点で異なる(「~の歌」では姿を消して押さえ付けただけ)
  • ディートリッヒとのバトル展開もある。ジークフリート優位に戦いが進んでいたが、名剣ミームングが持ちだされたことでディートリッヒの勝利に終わっている。

[補足]
  • ミームングはジークフリートの肉体すら切り裂く剣。伝説の鍛冶師が息子のために作った逸品。
  • 最初ディートリッヒは普通に使おうとしたが、ジークフリートの要求で「切っ先を地面に突き立てたまま、柄を握らない」という条件で使用される。一体どうやって活用したんだ。
  • 別の伝承ではディートリッヒの火炎放射でやられている。本当に口から火ィ吐くんだよ、この英雄。どっちも人間やめてやがる。
  • これまた別の伝承だと、ジークフリートがディートリッヒに勝ったことになっているらしい。


○不死身のジークフリート

  • 上述の作品群とは少し離れた時代に書かれた民衆本。
  • 名前は「ザイフリート」とも。作品名も「角質化したザイフリートの歌」と訳されたりする。
  • 王子なのは共通だが、やんちゃが過ぎたために鍛冶屋に修行に出されたとやや北欧の伝説を意識した設定。
  • 竜を焼き殺した時に出てきた脂をすりこむことで背中の一部を除き角質の肌となった。
  • しかし基が脂だからか、高熱で角質の部分が解けてしまうなど微妙に劣化している。
  • 竜に囚われているお姫様を救うとRPG主人公的な行為をする。
  • 小人の予言で8年後に死ぬことを知るが、きっちり復讐が果たされるとも聞かされたために受け入れた。
  • もはやブリュンヒルトが影も形も存在しないため、騎士達の嫉妬で暗殺されたことになった。



○ニーベルングの指輪

  • ワーグナーによって書かれた楽劇。様々なジークフリート伝説が融合している。
  • ヴォータン(オーディン)の子孫であり、ジークムントとジークリンデがヨスガった為に生まれた子供。
  • 両親が死んだので小人ミーメに養育される。半ば野生児のように育ち恐れを知らないが、物語を通して精神的に成長をする。
  • 剣・ノートゥングは父の遺産であり、折れていたのを自ら鍛え直した。
  • 竜退治によって得たのは小鳥の声が聞こえるようになったこと。
  • 竜の血を浴びず、舐めてこの能力を手に入れたという展開へ。
  • 親しげに話しかけてきたら、「お前生意気だわ」とブチ切れてきたヴォータンの爺さんの槍をへし折り、父親の意趣返し。という独自の武勇伝を追加される。
  • 竜退治で手に入れた指輪が呪われていたという死亡フラグ。
  • ブリュンヒルデを愛するが、ジークフリートの持つ指輪を狙うハーゲンの策略によって忘れ薬を飲まされ引き裂かれてしまう。
  • けっきょくヤンデレこじらせたブリュンヒルデの恨みとハーゲンの欲望によって暗殺されてしまう。



とまあ、有名どころから大雑把な特徴を挙げてみたが
ジークフリートの伝説はこれ以外にも存在するし、劇なども作られている。
それらにも特徴があるし、また上に挙げたのも大雑把な部分しか書いていない。
もし興味が出たなら図書館とかで探して読んでみてください。


ただ、古いジークフリートの伝説には当然ながら著作権が無いので本によっては現代人の編集者の解釈によって加筆・修正、場合によっては他のジークフリート同士と混ぜ込まれ、元の話とはかけ離れているものもあるので注意が必要。そういうのが平気な顔して『ニーベルンゲンの歌』と銘打たれ収録されていることもあるのだ。
特にワーグナーのおっちゃんは、とことんヒロイックな歌劇にする為にかなり弄り倒している。

また近年増えた安い解説本や萌え本なども、トンデモな内容のを参考にして書いたり、文章の意味をよく理解しないまま書いたり、さらにはそんな風に書かれた解説本を参考資料にして書かれた本もあるので本当に注意。もっとも、これはジークフリートに限らず神話関連全てに言えることだが。

なので、ちゃんとした物が読みたいと思うなら事前に調べておく必要がある。
『エッダ』なら新潮社の、『ニーベルンゲンの歌』なら岩波文庫かちくま文庫が定番か。



ゲーム


有名どころの英雄伝説なだけあって、ファンタジー系のゲームでは名前なり武器なりがよく使われる。
適当なものを挙げていると・・・


○Fateシリーズ

英霊が戦うタイプムーンのFateシリーズにもジークフリートは姿を見せる。
第1作のFate/stay nightではシグルズ(シグルド)の持つグラムが登場。
本編では選定の剣(カリバーンなど)の原型である「メロダック(原罪)」という剣として書かれているのだが、何故か武器紹介の欄では「グラム」となっている。
衛宮士郎が投影したカリバーンを粉砕する活躍を見せた。理由は不明だが魔剣扱いであり、「バルムンクはグラムの別名」ということになっている。

その後、Fate/EXTRA CCCではブリュンヒルデのデータを取り込んだパッションリップのステータス画面で
ブリュンヒルデに関わる形でシグルズにも触れられている。

そしてFate/Apocryphaではジークフリート本人が登場。
基本的に『ニーベルンゲンの歌』に準拠しているが、逸話などに少々オリジナル要素込み。
また宝具(英霊のシンボルアイテム・能力)の名前に「ファヴニール」と書いてあったりと微妙に混同している。バルムンクもグラムとは似ても似つかない大剣であり、能力にも違いがある。
今までの設定と矛盾が色々あるが、まあ設定より作品を優先する型月の伝統といったところか。

後にシグルドの方も本人が登場。現状、シグルドとは「深い関連性はあるが別人」という設定で落ち着いている模様。



モンスターとして登場。色々とバリエーションがあるが、基本的には鎧兜に身を包んだ騎士として描かれる。
ぶっちゃけ名前を借りているだけに等しいが、そこはよくあること。


○女神転生及びペルソナ

登場悪魔もしくはペルソナの一体として登場。軽装の青年戦士といったいでたちで、背中には盾を背負っていることも。これで防御は万全である
初出はソウルハッカーズで、この時の種族は「英雄」
「英雄」は全て専用スキルを有しており、ジークフリートの専用スキルは敵全体に斬撃+魅了の「ラブ・ハート」
尤も、ラブ・ハートの性能自体があんまり高くない上に脳筋すぎる為使い勝手はイマイチ、作成するのはほぼ趣味の領域。
ペルソナではアルカナは「剛毅」で、能力的には物理攻撃系。
レベルも高くこちらでは優遇されている部類か。



この他にも様々なゲームに彼の名前や能力、武器が出ている。



漫画



○ニーベルングの指輪

里中満智子によるニーベルングの指輪の漫画版。
舞台の脚本に忠実でオペラの解説などが丁寧だが
一昔前の主婦向け漫画っぽい絵柄など人によっては退屈に思う事もあるかも。


○亡国のジークフリート

月刊少年ライバルで連載している天望良一の漫画。
『ニーベルンゲンの歌』をベースに、他のジークフリート伝説やオリジナルの要素をふんだんに盛り込んでいる。
「誉れ」を重んじる騎士達によるバトルアクション。
ドイツ語混じりのセリフ回しやとにかく強いジークフリートなど、波長が合えばハマるかも知れない。


○妖変ニーベルングの指輪

「外天の夏」「爆音伝説カブラギ」などの暴走族漫画で有名な佐木 飛朗斗(原作)&東直輝(漫画)による
『ニーベルングの指輪』をベースにしたファンタジー漫画。チャンピオンで連載されていた。
恐怖を知らない愚か者のジグルドが戦乙女ワルキューレのブリュートゥと出会い、数奇な運命に導かれる
が、 1巻で即終了。短い時はすぐ終わる佐木 飛朗斗の作品の中でも特に短い。









追記修正は竜を退治してからお願いします。

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最終更新:2024年05月02日 12:05