雪室俊一

登録日:2021/12/17 Fri 18:26:20
更新日:2025/02/10 Mon 03:09:07
所要時間:約 9 分で読めます





雪室(ゆきむろ)俊一(しゅんいち)日本の脚本家。

【プロフィール】

生年月日:1941年1月11日
出身地:神奈川県横浜市
所属:日本放送作家協会会員
別名義:西浦あかね、洋駿太郎

【経歴】

当初はアニメの脚本家ではなく小説家を目指していた。
中学校卒業後に、昼間は新聞配達・工員・書店の店員・電報の配達などの仕事をしながら定時制高校に通う一方で、懸賞小説への応募やシナリオ研究所で脚本の勉強をする日々を過ごす。

その後、新人シナリオコンクールに応募した脚本『近頃の若いやつ』の佳作入選を機に脚本家の松浦健郎の内弟子になる。
松浦の下から独立した後は、1965年に日活映画『あいつとの冒険』で脚本家としてデビュー。
そして、1965年に『ジャングル大帝』の脚本に参加してからはアニメ中心に活動するようになり、『魔法使いサリー』『キテレツ大百科』『サザエさん』等の多くの作品を手掛けていった。

【脚本家として】

実は最初からアニメに良い印象を抱いていたわけではない。
『ジャングル大帝』の脚本を書く事になった時『鉄腕アトム』の生原稿を一読したところ、クセ字で読みづらい上に印刷すらされておらず演出家が勝手にいじることができる状態だった
後年のインタビューで「ホンを刷らないということは、ホンを大事にしていない証拠です」「ドラマでは、作家に無断でホンが変わっちゃうなんてことはなかったので、僕は本当に驚きました。」と述べる程受けた衝撃は大きく、「もう二度とアニメは書かない」とまで思っていた。

その後、兄弟子から「『ハリスの旋風』の脚本を書いてみないか」とやや強く勧められたので仕方なく一本だけ書いて制作会社に持っていったが、案の定ボツだった。
しかし1週間後、元々書いていたライターが遅筆だったという事情もあって、制作会社から「あのホンを使いたい」という電話を貰う。
その際、「原作をちゃんと読んでください」と言われたので『ハリスの旋風』を読んだところ、ちばてつや先生によって生き生きと描かれた人間の描写に感動。
以後は心を入れ替えてアニメの脚本を書くようになり、『ハリスの旋風』の大ヒットに伴ってアニメの仕事が増えていった。

特色

原作に無いオリジナル要素を入れる傾向が強い。
例を挙げると、「ひみつのアッコちゃん」で最も有名な呪文「テクマクマヤコン テクマクマヤコン ○○になれ〜」(テクニカル・ジッマイ(ヤ)コンパクトの略)、元に戻る時の「ラミパス ラミパス ルルル……」(スーパーミラーの逆さ読み)は、具体的な案が思い付かずとりあえず仮に書いた物で、それがそのまま採用された。
当人は後に修正するものだと思っていたので、採用に驚いている。

他にも『キテレツ大百科』のブタゴリラの本名(熊田薫)、『サザエさん』の波野イクラ、等原作では名前が無かったキャラの命名をしている。
イクラの名前の由来は娘の好物である「いくら」から付けている。*1

サザエさんの脚本家として

やはり雪室俊一を語る上でサザエさんは外せない。
城山昇と並ぶ古くからサザエさんに関わってきた脚本家で、ファンからは親しみを込めて「雪室御大」「雪室大先生」と呼ばれることも多い。
初期の代表作は1970年に放送された「ぼくはもらわれる」。
また1977年10月2日に放送された「放送九年目のへんな手紙」では自分自身を作中に登場させ、本人役で声優としても出演した。
この回はサザエたちが「最近のタラちゃんは初期と比べていい子になりすぎた」「脚本家がしっかりしてないからだよ」
などという台詞を連発するメタ全開の回であった。
当時については「昔はめいっぱい書いていた」と振り返っている。今もめいっぱい書いていると思います。

2000年代以降の作風について言えば、起承転結のはっきりしたエピソードがほとんどを占めている。
また、特定のキャラクターがエピソードの中心を占めることが多いが、主にメインに据えられるのは波平カツオノリスケ・イクラ・かもめ第三小学校組などで、主人公であるサザエがメインの回はかなり少ない。
また後述するように、ゲストキャラ回もかなり多い。

他の脚本家と比べると、磯野家のあるあさひが丘以外が主な舞台になる回や、あさひが丘内部でも磯野家の普段の行動圏から外れた場所が舞台になることが比較的多い。
なお、公園メソッドはほとんど使わないことでも有名。

それ以外にも、雪室回には初見でも「これは絶対雪室回だ!!」とはっきりわかるようなポイントが多い。
以下にいくつか挙げておく。


  • 強烈なゲストキャラ
メインの脚本家の中では、ゲストキャラ回がかなり多いのだが、そのキャラクターが揃いも揃って強烈。
番組史上最強クラスのツンデレの料理人*2世界観のおかしい少女漫画家
やたら作画に恵まれたロリータファッション美少女*3 、磯野家全員が爆睡するほどつまらないくせに話の長い映画監督*4などはまだマシなほうで、
お笑い番組が好きなガマガエル*5元女子サッカー選手のサイコパス*6
そして磯野家の敷地内に勝手に犬を捨て、挙句「使わないならその犬小屋ください」とタダで持って行った和服の婦人(終始笑顔)*7
など、常軌を逸しているようなゲストキャラも少なくない。


また、アニメのサザエさんにしては例外的に、ゲストキャラが回を跨いで登場したり、一時的に準レギュラーとして定着することもある。ヤカマシさん*8や大工のジミー*9など。


  • 大正義ヒロイン早川さん
2010年あたりから顕著になってきた傾向性。
それまではヒロインズの中でも花子・カオリに次ぐ三番手といった扱いだった早川さんの出番が急激に増え、カツオとの絡みが猛プッシュされるようになったのである。
これは熱いカツハヤプッシュとして、雪室脚本回の見どころの一つに挙げられている。

幼馴染キャラのようにカツオを起こすために早朝に電話をかける約束をしたり*10、カツオと一緒に無人駅という渋いスポットにデートに出かけたり*11
かと思えばカツオがタラちゃんを騙した時には、それとなくカツオの非を指摘してタラちゃんに謝るように仕向けたりと、まさにメインヒロイン級の活躍である。
かつては設定が存在するかも怪しかった早川さんの両親も、いまや準レギュラーである。

一見すると雪室先生がカツハヤ推しなのかと思えるが、「初恋橋わたろう」*12、「天下の美少女花沢さん」、
「花沢さんの絶交宣言」*13などカツ花の良回もかなり多い。


  • クレイジーサイコ堀川くん
堀川くん(サザエさん)の項目参照。


この他にもいつも以上にハイエナになるノリスケやツンデレになる波平など、キャラクター面での雪室回のカラーはかなり多い。
また、穴子さんの奥さんが登場するのはほとんど雪室回である。


しかし、近年では以下の点で批判される事が多い。

  • 元々はワカメの憧れの対象である真面目な優等生だった堀川君のサイコパス化
  • カツオやかおりちゃんを始めとする一部のキャラクターの冷遇
  • 悪い意味でのキャラ崩壊

特に、ノリスケが勝手に磯野家のジェラートを食べてしまった話はかつて無いほど大炎上し、後日雪室先生自らコメントを出す事態になってしまった。

と、ここまでだとカオスな回を書く脚本家のように思えるかもしれず、特にネット上ではそのような声が多く聞かれるが、
雪室回の真骨頂は緻密に張り巡らせた伏線とセリフなしの心理描写により、7分という短い時間の中でしっかり起承転結のある話を描くという点である。
この点では名作と呼ばれる「父さん新婚時代」*14や、サザエさんのミステリー回の中でも出色の出来である「伊佐坂先生スランプ中」*15「父さんの散歩道」*16を見てもらうのがいいだろう。

また、しばしば「サザエさんの世界の価値観は現代にそぐわない」と指摘される事があるが、雪室先生は「(自分の中では現代とのギャップは)ないですね。時代に合わせようと思っていませんから。『サザエさん』は、あの世界であって、現代ではないのです。」と述べている。
サザエさんは、あくまでフィクションなので何でもかんでも現代に合わせる必要は無いと考えているのだろう。

総じて言えば、サザエさんの中でもストーリーがはっきりしていて、笑いどころもわかりやすいエピソードが多く、さらにエピソード間の関連もわかりやすいので、
初心者の入門には適している脚本家だと言えるが、他の脚本家の回と比べると独自の要素が強いので、その点には要注意である。

【主な作品】



追記・修正は全自動卵割り機を買った人がお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 雪室俊一
  • 雪室先生
  • 雪室御大
  • サザエさん
  • 脚本家
  • キテレツ大百科
  • 先鋒
  • 堀川くん
  • 起承転結
  • 神奈川県
  • 横浜市
  • やたら濃いゲストキャラクター
  • ひみつのアッコちゃん
  • 井上敏樹の師匠筋
  • ブタゴリラ
最終更新:2025年02月10日 03:09

*1 原作者の長谷川町子は新聞で「チドリ」と回答しているが、アニメスタッフには伝わっていなかった模様。

*2 2010年4月25日Cパート「波平よりもがんこ亭」

*3 2007年4月8日Bパート「中島くんにラブレター」

*4 2013年5月26日Aパート「穴子さんの指定席」。なお、映画のタイトルは「熱い氷河」

*5 2006年6月4日Cパート「となりの児雷也」

*6 2011年11月20日Bパート「マスオ大根の花」

*7 2006年12月17日Cパート「わが家の猛犬」

*8 マスオの仕事場の清掃員。2007年5月6日Aパート「マスオとヤカマシさん」で初登場

*9 モデルは原作にいるキャラであり、他のエピソードにも度々登場するのだが、2000年代後半から2010年代前半まで準レギュラーとして登場していたジミーは明らかに固有キャラ

*10 2013年2月3日Cパート「朝をよぶハヤカワさん」

*11 2014年4月13日Aパート「ハヤカワさんの駅」

*12 2006年4月9日Bパート

*13 2011年9月4日Cパート

*14 2007年6月24日Cパート

*15 2007年1月27日Cパート

*16 2013年5月26日Cパート