2018年第59回宝塚記念

登録日:2022/03/14 Mon 14:58:26
更新日:2025/02/02 Sun 17:47:56
所要時間:約 8 分で読めます





「悲願叶った和田竜二ミッキーロケット!」

第59回宝塚記念とは、2018年6月24日に阪神競馬場で実施されたGⅠレース。


出馬表



馬名 性齢 騎手 単勝
オッズ
人気
1 1 ステファノス 牡7 岩田康誠 39.5 11
2 ノーブルマーズ 牡5 高倉稜 40.0 12
2 3 サトノダイヤモンド 牡5 クリストフ・ルメール 3.9 1
4 ミッキーロケット 牡5 和田竜二 13.1 7
3 5 ストロングタイタン 牡5 川田将雅 14.5 8
6 アルバート 牡7 藤岡康太 138.2 15
4 7 パフォーマプロミス 牡6 戸崎圭太 8.5 4
8 ダンビュライト 牡4 武豊 10.3 5
5 9 サトノクラウン 牡6 石橋脩 11.9 6
10 ヴィブロス 牝5 福永祐一 6.5 3
6 11 サイモンラムセス 牡8 小牧太 69.4 14
12 タツゴウゲキ 牡6 秋山真一郎 166.0 16
7 13 ワーザー セ7 ヒュー・ボウマン(豪州) 14.9 10
14 スマートレイアー 牝8 松山弘平 55.9 13
8 15 ゼーヴィント 牡5 池添謙一 14.6 9
16 キセキ 牡4 ミルコ・デムーロ 5.7 2

天候:晴れ 馬場:稍重

レースまでの動き

3年後に大ヒットを引き起こすある作品のアニメが話題を集め、アーモンドアイが牝馬2冠を達成し、福永祐一騎手が19回目の挑戦で悲願のダービー初勝利を成し遂げ、スペシャルウィークテイエムオペラオーといった名馬たちが天国に旅立っていくなど、この年の春は競馬界に様々なことが起きた。

当時の古馬戦線は、昨年に王者キタサンブラックが引退したことで、有力馬たちによる群雄割拠の様相を呈していた。
ファン投票1位とともに1番人気に推されたのは菊花賞、有馬記念を制覇したサトノダイヤモンド。しかし凱旋門賞惨敗の後は不調で、復帰戦の金鯱賞は3着、前走大阪杯では7着と大敗。それでも復活の期待は高かった。
2番人気は後のジャパンカップ盛り上げ隊長菊花賞馬キセキ。前走日経賞は9着だったが、なお実力馬としてGI2勝目を挙げることが期待される。
3番人気のドバイマイスター、秋華賞馬ヴィブロスはドバイターフ2着から参戦。2つ目の国内GⅠ獲得に意欲を燃やす。

そのほかにも昨年の覇者サトノクラウン、AJCCを勝利したダンビュライト、日経新春杯勝ち馬である遅咲きパフォーマプロミス、そして好走を続けるミッキーロケットといった実力馬たちが出走。
加えて、このレースには実に21年ぶりの海外馬も出走していた。15/16年シーズンの香港年度代表馬、ワーザーである。
とはいえ初の海外遠征に加え、体重減が大きかったため、10番人気にとどまっていた。
なお、この年の春古馬GⅠ勝利馬だが、大阪杯を勝ったスワーヴリチャードは安田記念に出走するため回避、春天を勝ったレインボーラインは故障のため引退しており出走していない。

王者不在、どの馬にも勝つチャンスがある混戦。果たして勝者は。
平成最後の宝塚記念の、ゲートが開いた。

レースの展開

ハナを奪ったのはサイモンラムセス。タツゴウゲキ、スマートレイアーがそれに続く。ミッキーロケット、ダンビュライトらがやや前、その後ろの中段にサトノダイヤモンド、ヴィブロス、ノーブルマーズ、そしてサトノクラウン。ステファノスとパフォーマプロミスを挟んでワーザーとキセキ、最後方にアルバートという形でレースは進む。
1000mを59.4のやや早めのペースで通過、レースはよどみなく進む。

第3コーナー、依然としてサイモンラムセスが逃げる中でサトノダイヤモンドが外から進出を開始。内をついたミッキーロケットもスパートをかけ始める。
そして、最終直線。サトノダイヤモンドが先頭集団に並びかけるが、内のミッキーロケットが粘りこみ、先頭に立つ。サトノダイヤモンドは勢いを失っていき、内側にいたノーブルマーズが進出。さらにその外からはヴィブロス、そして香港のワーザーが上がっていく。
ワーザーは鋭い末脚で2番手まで上がり、ミッキーロケットも粘る。
果たして、白熱の一戦の勝者は。世界の実力か、1年ぶりの勝利か。

「ミッキーロケット頑張っている!外からワーザー!外からワーザー!」
「ミッキーロケット!ワーザー!ミッキーロケット!ワーザー!ミッキーロケット!ワーザー!」

「ゴールイン!振り切ったか4番ミッキーロケット!!」

クビ差で、ミッキーロケットが振り切った。和田騎手は鞍上で涙をぬぐう動作をする。*1

「悲願叶ったミッキーロケット和田竜二!」
「あの最強馬と呼ばれたテイエムオペラオーで、2001年天皇賞春を制して以来、17年ぶり!
和田竜二がGⅠを制しました!ミッキーロケットです!」

そう、このGⅠ勝利は、ただの勝利ではなかった。
田中勝春騎手の最長間隔GⅠ勝利記録を更新し、かつての最強馬の相棒は、17年ぶりに栄光を手にしたのだ。

レース結果

着順

着順 馬名 タイム 着差 後3F コーナー
通過順
1着 ミッキーロケット 2:11.6 35.8 7-5-3-2
2着 ワーザー 2:11.6 クビ 35.3 12-14-13-13
3着 ノーブルマーズ 2:12.1 3 36.1 10-9-7-7
4着 ヴィブロス 2:12.1 クビ 36.0 9-9-11-9
5着 ダンビュライト 2:12.3 1.1/4 36.4 6-5-5-7
6着 サトノダイヤモンド 2:12.4 1/2 36.6 14-9-8-2
7着 ステファノス 2:12.4 ハナ 36.2 12-12-11-11
8着 キセキ 2:12.5 クビ 35.9 14-15-15-15
9着 パフォーマプロミス 2:12.6 3/4 36.2 10-12-13-13
10着 スマートレイアー 2:12.6 アタマ 36.8 3-3-5-4
11着 ストロングタイタン 2:12.8 1 37.0 3-3-3-4
12着 サトノクラウン 2:12.8 クビ 36.8 7-8-8-9
13着 アルバート 2:13.4 3.1/2 36.9 16-16-15-15
14着 ゼーヴィント 2:14.6 クビ 38.6 3-5-8-11
15着 タツゴウゲキ 2:14.6 7 38.9 2-2-2-4
16着 サイモンラムセス 2:15.8 クビ 40.5 1-1-1-1

払い戻し

単勝 4 1,310円 7番人気
複勝 4 390円 6番人気
13 550円 10番人気
2 790円 11番人気
枠連 2-7 2,110円 7番人気
馬連 4-13 9,200円 44番人気
ワイド 4-13 3,450円 46番人気
2-4 3,540円 47番人気
2-13 7,160円 69番人気
馬単 4→13 19,630円 87番人気
3連複 2-4-13 93,450円 238番人気
3連単 4→13→2 492,560円 1,272番人気

上位3頭は全て単勝オッズ10倍以上であり、かなりの高配当が飛び出した。


人馬の物語

和田竜二騎手。
1977年・滋賀県出身の彼は、福永祐一騎手(現調教師)やJRA初の女性騎手の一人・細江純子氏(現競馬評論家)らと同期のJRA競馬学校騎手課程「花の12期生」の一人である。
デビューした1996年に重賞を初制覇、関西のホープとして期待されてはいたものの、ある馬と出会う1998年の段階では、まだまだ単なる若手騎手だった。

1998年、彼は当時所属していた岩元市三厩舎に入厩してきたある馬の主戦を務めることとなった。
その馬の名は、テイエムオペラオー。後に「世紀末覇王」と謳われ、最強馬の名をほしいままにする名馬である。
前目につけることは失敗したとはいえ、彼とともに1999年の皐月賞を勝利。GⅠ初制覇をともに成し遂げた。

しかし、残りのクラシック二冠は善戦止まりで、日本ダービーは武豊騎手が騎乗するアドマイヤベガの3着、菊花賞は渡辺薫彦騎手が騎乗するナリタトップロードの2着に終わった。
オペラオーの能力からすれば勝てていたかもしれないレースを勝ち切れなかったのは、無論相手の実力もあったにせよ、和田騎手の騎乗ミスが原因の一つだった。
馬主の竹園正繼氏は乗り代わりを要求するが、岩元師が「どうしても、と言うのなら転厩してくれ」とまで言って説得したことで、和田騎手はオペラオーの主戦を継続することができた。

しかし、次に負けるようなことがあれば今度こそ降ろされる。
「今年はもう負けられない」。
翌2000年、強烈なプレッシャーに苦しみながらも、和田騎手はオペラオーとともに歩み続けた。
重賞8連勝、年間GⅠ5勝、春秋グランプリと天皇賞制覇、この年に成立したばかりの秋古馬三冠制覇、そして年間無敗
記録を塗り替え、ジンクスを叩き壊し、ピンチを乗り越えたこのコンビの業績は、日本競馬史に燦然と輝く大偉業であり、塗り替えるものは現れないかもしれない、まさに「世紀末覇王」の進撃そのものだった。
和田騎手はオペラオーの引退式でこう語った。

「オペラオーにはたくさんの物を貰ったが、あの馬には何も返せなかった。これからは一流の騎手になって、オペラオーに認められるようになりたい」

その後の和田騎手の活躍そのものは非常に堅実だった。中央、地方を問わず勝利を積み重ね、関西リーディングや最多騎乗回数上位常連の一人に。2012年にはワンダーアキュートとともにJBCクラシックを制覇し、11年ぶりのGⅠ級競争勝利を上げる。もはやそこに、騎乗ミスも多かった若手ジョッキーの姿はなかった。

しかし、これだけ好成績を挙げても、和田騎手はオペラオー以来、中央のGⅠを勝てなかった
キャリア最高記録勝利を上げ、優秀騎手賞5位となった2017年でも、オークスではモズカッチャンに騎乗するも2着、テンで騎乗したクロコスミアはエリザベス女王杯でミルコ・デムーロ騎手に乗り代わりとなったモズカッチャンの2着。
「和田竜二はGⅠを勝てない」という言葉は、競馬ファンの間の常識に変化しつつあったのである。

2018年、師であった岩元調教師は定年退職。そして5月、オペラオーが心臓麻痺で急死。GⅠ勝利を最大の相棒に報告することは、もう叶わなくなってしまった。
しかし、一人の勝負師として、和田騎手の心は燃え上がる。「あなたのように速く強くなりたいから」と…。
5月末、同期の福永騎手がワグネリアンで悲願の日本ダービーを初勝利。和田騎手はオペラオーが皐月賞を制する前週に、福永騎手がプリモディーネでGⅠを初制覇したことを思い出したという。

一方、この時の相棒であるミッキーロケットも、同じく勝ち切れない馬だった。
菊花賞は同期サトノダイヤモンドの5着、翌年に勝利した日経新春杯以来、ミッキーロケットは善戦こそすれど勝ち切れないレースが続いていた。
GⅠをなんとしても勝ちたいという音無調教師ら陣営の気持ちは、決して和田騎手のそれに劣るものではなかったはずだ。

勝利インタビューで、和田騎手はこう語った。

「オペラオーが後押ししてくれたと思います。勝ってオペラオーに報告したかったんですけど…まあでも、やっとね。胸張っていきたいと思います」

余談

  • ミッキーロケットはこの後秋に2戦するも勝利はならず、最終的に脚部不安により種牡馬入り。ミッキー、ダノン系を中心に多数の繁殖牝馬を集めた。サンデーサイレンスが血統にないこともあり、キングカメハメハの後継の一角として期待されている。気がかりなのは受胎率がやや低いことだろうか。

  • 和田騎手は翌年ミツバでJpn1の川崎記念を勝利。2020年には大穴クリノガウディーで高松宮記念を制覇…かと思ったら、斜行のため降着、しかも騎乗停止になってしまった。2022年3月現在、和田騎手はこの宝塚記念以降中央GⅠは未勝利。とはいえ騎乗馬には有力馬も数多くおり、再度の勝利を期待するファンは数多い。

  • ミッキーロケットは17年前の宝塚記念、テイエムオペラオーが被害者メイショウドトウに初めて負けたあの日と同じ日付、同じ枠番での勝利である。さらにタイムは2分11秒6で、あの日のドトウの2分11秒7を0.1秒上回っていた。

  • とある競馬ファン曰くパドックで見たミッキーロケットはいつもとは違う名馬のようなオーラを放っていたという。もしかしたらテイエムオペラオーがミッキーロケットの身体を借りていたのだろうか?
    最後の直線で強襲してくるワーザーをクビ差で制したその姿はまさにオペラオーの勝ちパターンである。


  • 前走比-27キロの体重減とされた2着馬ワーザーだが、実は香港競馬はレース二日前に検量した体重が記録されており、日本のレース前に量るのとはタイミングが大きくずれている。
    そのため公式の体重が全然違うのもザラで、第55回安田記念3着で第39回スプリンターズステークス1着のサイレントウィットネスは570キロのはずが日本では550キロ台で走り、第45回高松宮記念1着のエアロヴェロシティは-16キロだった。先に教えてくれとなった人も結構いたとか。

追記・修正は和田竜二騎手のGⅠ勝利を祈願しながらお願いします。

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最終更新:2025年02月02日 17:47

*1 のちに大井競馬場で開かれたトークイベントによると、和田騎手はゴール時に涙をぬぐっていたのではなく、娘がくれたミサンガにキスをしていたのだという。