サトノクラウン(競走馬)

登録日:2023/12/28 Thu 05:26:27
更新日:2025/03/27 Thu 12:06:28
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サトノクラウン(Satono Crown)とは日本の元競走馬

メディアミックス作品『ウマ娘 プリティーダービー』にも登場しているが、そちらでの扱いは当該項目参照。
サトノクラウン(ウマ娘 プリティーダービー)


【データ】

香港表記:里見皇冠
生年月日:2012年3月10日(11歳、存命)
父:Marju
母:ジョコンダⅡ
母父:Rossini
調教師:堀宣行(美浦)
馬主:(株)サトミホースカンパニー
生産者:ノーザンファーム
主戦騎手:クリストフ・ルメールミルコ・デムーロ
セリ取引価格:6090万円
獲得賞金:6億3210万3100円
通算成績:20戦7勝[7-1-1-11]
主な勝鞍:'16香港ヴァーズ(GⅠ)、'17宝塚記念(GⅠ)、'15弥生賞ディープインパクト記念(GⅡ)、'16~'17京都記念(GⅡ)、'14東京スポーツ杯2歳ステークス(GⅢ)

【王の血筋】

いきなりではあるが、ここからは独自研究丸出しのディープな話となる。

まずはこの記事を読んでいる方々にひとつ質問をさせていただきたい。

「あなたにとって、『良い血統の競走馬』とはどんな馬ですか?」

……競走馬の血統を評価するうえで、とりあえず目がいくのは父馬の血筋───父系の内容だろう。
日本競馬において、期待できる血筋は何といってもサンデーサイレンスの子孫。
中でもディープインパクトハーツクライの仔となれば、それだけでも中長距離の大レースを制する期待が持てるというものである。
他方、近年ではキングカメハメハに代表されるミスタープロスペクターの系譜も隆盛を誇っている。
サンデーサイレンス系に比べれば距離適性は短くなる傾向があるものの、芝砂問わず走れる万能さは特筆もの。きっと安定したパフォーマンスを見せてくれることだろう。

そして、父系と同じかそれ以上に重要なのが母馬の血筋───母系の内容である。
「種牡馬のあたりはずれはわからなくとも、あたりの繁殖は確実にいる」との主張も聞かれるほどで、どんな種牡馬をつけても良い仔を出す、
のみならず、その娘もまた繁殖牝馬として良い仔を出すという名繁殖は実際に存在している。
そうした繁殖牝馬の系統は名牝系として大いに評価され、仔の期待感を高める材料となる。
古くは「華麗なる一族」「ミスナンバイチバン系」、近年であれば「薔薇一族」「ダイナカール系」「スカーレット一族」あたりが有名だろうか。
こうした大牝系の出身でなくとも、母馬がかつて産んだ仔や親戚筋に活躍馬がいるといった実績は、馬の未来に大きな期待を抱かせる。
母系の詳細にまで興味をもって調べるようであれば、あなたももはや立派な血統マニアと言えるだろう。

また、以上の内容とは別の観点での評価もある。
日本で結果を出している血統というのは、すなわち日本でメジャーな血統に他ならない。
要は似たような血統の競走馬がごまんといるわけで、繁殖においては「血統の多様性が薄れる」「交配できる相手が限られる」といった問題がどうしても生じる。
そうした点から、日本であまり見ることのないマイナーな父系───異系の馬に対する需要が出てくるのである。
実際、サンデーサイレンスも当時日本で隆盛を極めていたノーザンダンサー系の牝馬に配合するための異系種牡馬として日本にやってきたのだ。
今は流行っていない血筋が、一周回って良血の扱いになる。まさしく馬産の妙といったところだろう。

さて、こうした話を踏まえ、サトノクラウンの血統を見てみることとする。

Marju
1988 黒鹿毛
ラストタイクーン
Last Tycoon(愛)
1983 黒鹿毛
トライマイベスト
Try My Best(米)
1975 鹿毛
Northern Dancer
1961 鹿毛
Nearctic
Natalma
Sex Appeal
1970 栗毛
Buckpasser
Best in Show
Mill Princess
1977 鹿毛
Mill Reef
1968 鹿毛
Never Bend
Milan Mill
Irish Lass
1962 鹿毛
Sayajirao
Scollata
Flame of Tara
1980 鹿毛
Artaius
1974 鹿毛
Round Table
1954 鹿毛
Princequillo
Knights Daughter
Stylish Pattern
1961 鹿毛
My Babu
Sunset Gun
Welsh Flame
1973 鹿毛
Welsh Pageant
1966 鹿毛
Tudor Melody
Picture Light
Electric Flash
1962 鹿毛
Crepello
Lightning
ジョコンダⅡ
Jioconda(愛)
2003 鹿毛
Rossini
1997 鹿毛
Miswaki
1978 栗毛
Mr. Prospector
1970 鹿毛
Raise a Native
Gold Digger
Hopespringseternal
1971 栗毛
Buckpasser
Rose Bower
Touch of Greatness
1986 鹿毛
Hero's Honor
1980 鹿毛
Northern Dancer
Glowing Tribute
Ivory Wand
1973 鹿毛
Sir Ivor
Natashka
La Joconde
1999 鹿毛
Vettori
1992 鹿毛
Machiavellian
1987 黒鹿毛
Mr. Prospector
Coup de Folie
Air Distingue
1980 鹿毛
Sir Ivor
Euryanthe
Lust
1994 栗毛
Pursuit of Love
1989 鹿毛
Groom Dancer
Dance Quest
Pato
1982 鹿毛
High top
Patosky
5世代内の近親交配 Northern Dancer 9.38% 4×5
Mr. Prospector 9.38% 4×5
Buckpasser 6.25% 5×5
Sir Ivor 6.25% 5×5

ああうん、なんぞコレ

……一言で終わってはさすがにアレなので、順番に解説していく。

父系を遡っていくと、4代父にノーザンダンサーの名前がある。
つまるところ、サトノクラウンはノーザンダンサー系の馬であり、この時点で二流・三流の誹りを受けるような血統でないことはわかる。
しかし、ノーザンダンサー系と言えば古くはニジンスキー、新しくはサドラーズウェルズやダンジグ。サトノクラウンはそのどれでもないトライマイベストの系統である。
この系統、血統地図を塗り替えるような超大物こそいないのだが、なぜか父系はつながり、ニッチな領域で結果を出すというしぶとさで知られている。
近年では英GⅠミドルパークステークスを勝ったDark Angelが種牡馬入りし、欧州芝の短距離というカブいた条件で活躍馬を多数輩出してみせた。近年では日本に遠征して安田記念を勝った香港の名馬ロマンチックウォリアーなんかもこの系統の出身である。
ノーザンダンサー系の中でもマイナーな部類ではあるが、しぶとく生き残り存在感を発揮している。一言で表現するならば、そんな父系の末裔ということになるだろう。

また、サトノクラウンの父系に関してはひとつ重要な強調材料がある。
注目すべきは祖父のラストタイクーンで、この馬の血は実のところ日本競馬に大きな影響を与えている。
日本競馬史上初の「変則二冠」を達成し、日本にミスタープロスペクターの血を根付かせる原動力となった大種牡馬───キングカメハメハの母父が、ほかならぬラストタイクーンなのである。
父系と母系の違いこそあれど、サトノクラウンも同じラストタイクーンの孫世代。
ヘイルトゥリーズン系の種牡馬に駆逐され、日本ではもはやマイナーとなったノーザンダンサー系ではあるが、
日本競馬への適性は大いに見込めると考えてもよいだろう。なんだ異系の良血じゃないか!


父系についてはこのくらいにして、次は母系である。
父系に輪をかけてわけのわからん感じの見た目ではあるが、実のところ評価点はすぐに見つかる。
サトノクラウンとまったく同じ配合で生まれた姉馬、ライトニングパールが英GⅠチェヴァリーパークステークスを制しているのだ。
遡れば、3代母のLustの兄馬・姉馬にも欧州のGⅠを制した者がいる。
全姉及び近親にGⅠ馬がいるというのだから、これはもう文句のつけようがない。なんだ異系n(ry





日本で流行っている血統をほとんど含まない、異系の良血牡馬。
これは期待できるぞとまとめてしまいたくはなるのだが……話はそう簡単ではなかったりする。

父のMarjuは1992年に種牡馬入りし、多くの活躍馬を輩出したが、その中で日本競馬に馴染みのある名前といえばインディジェナス。スペシャルウィーク日本総大将として出走し、凱旋門賞馬モンジューを打ち破った1999年ジャパンカップの2着馬である。
他には2001年宝塚記念を勝ったメイショウドトウもラストタイクーンの直系孫にあたるが、クラウンの生年は2012年なので10年も前から孫世代が活躍していた事になり、メイショウドトウの子(ラストタイクーンからすれば曾孫)は2012年がラストクロップ。
異系といえば聞こえはいいが、実際は20年前の化石血統との見方もできてしまう。
実際、Marjuは2011年に23歳で種牡馬を引退しており、2012年生まれのサトノクラウンは彼の最終世代産駒(ラストクロップ)であるのだから、これらの事実を見ても血統の古さはやはり否定できないだろう。
また、ライトニングパールが勝ったチェヴァリーパークステークスの施行条件は2歳牝馬限定の6ハロン。日本では存在すらしていない条件のGⅠである。
ライトニングパール自身も3歳以降は勝利を挙げられず、早々に競走生活から引退してしまった。これが日本競馬における競走能力の裏付けになるかといえば、ぶっちゃけかなり微妙な感じである。
Lustのところについても、結果を出したのはあくまで兄と姉。Lust自身がGⅠを勝ったわけではないだろうと難癖はつけられてしまう。

総じて間違いなく一流ではあるのだが、日本競馬で走る前提のもとで手放しに評価できるかというとちょっと怪しい。
結局のところ、サトノクラウンが異系の良血となるか化石の凡骨となるかは、競走馬として実績を残せるかどうかで決まるのである。
そんな彼は母馬の胎内にいるうちに日本の生産者───ノーザンファームに購買され、この国にやってくることとなった。

【王と原石と】

2013年セレクトセール、1歳馬の部。
イギリスGⅠ勝ち馬の全兄弟」「活力に満ちた男馬」との触れ込みで、ジョコンダⅡの2012*1───のちのサトノクラウンが上場された。
そんな彼を見初めたのが、GⅠ勝てないことと「サトノ」の冠名で知られる大物オーナー、里見治氏。
曰く「ひと目ぼれした」「どうしても欲しかった馬」とのことで、ディープインパクトを筆頭に幾頭もの名馬を所有し、超人的な相馬眼で知られる金子真人氏らとの競り合いを5800万円で制し見事落札。
サトノ軍団悲願のGⅠ制覇をその身に託され、競走馬としてのキャリアをスタートすることとなった。

なお、里見氏はこの年の1歳馬を12頭落札している。お金持ち
中でも6600万円で落札したトゥービーの2012───のちのサトノラーゼンはGⅡ京都新聞杯を勝つなどの活躍を見せ、2億円以上の賞金を稼いだ。
他の10頭?聞くな

……そして、セレクトセールの目玉ともいえる当歳馬*2の部。
里見氏は手持ちの資金を惜しげもなく注ぎ込み、マルペンサの2013を落札した。
その落札額、実に2億3000万円。この年全体でも上から2番目という超高額での落札であった。

サトノクラウンとマルペンサの2013───のちのサトノダイヤモンド
彼らがサトノ軍団の呪縛を解き、数々の栄光を里見氏へともたらすこととなる。

【王の出陣】

サトノクラウンは美浦・堀宣行調教師のもとに預けられ、2014年10月25日にデビュー。
短距離GⅠ馬の弟ではあったが、その馬体から中距離への適性を見込まれ、東京競馬場芝1800mで卸されることとなった。
ここを1馬身半ちぎって勝利し、次走はGⅢ東京スポーツ杯2歳ステークスを選択。馬群を割って伸びる強い競馬でアヴニールマルシェを差し切り、見事重賞ウィナーとなった。
ゲートで立ち上がり、調教再審査を食らったのは御愛嬌

明けて3歳。
春の初戦は皐月賞のトライアルであるGⅡレース報知杯弥生賞ディープインパクト記念を選択。なげえよ
この年はサトノクラウン含めて重賞馬6頭が揃うというハイレベルの陣容で、後にGⅠNHKマイルカップを制するクラリティスカイも出走していた。
しかしここでも2着に1馬身1/4の差をつける快勝。無傷の3戦3勝でクラシック初戦、GⅠ皐月賞に臨むこととなった。
過去に弥生賞までを無敗で制して皐月賞に出走した馬は9頭*3おり、その全頭が3歳シーズンの終わりまでにGⅠレースを制している。
うち5頭はクラシック三冠のいずれかを勝利し*4、残りのうちの2頭───1984年シンボリルドルフと2005年ディープインパクトは無敗の三冠馬となった。
「GⅠを勝てない」サトノの呪いを打ち破るのは、間違いなくこの馬の仕事になる。ファンの期待は大いに高まった。

迎えた皐月賞。
サトノクラウンは堂々の1番人気に推され、中山2000mのスターティングゲートに馬体を収めた。
……しかし、2歳時に見せていた気の悪さがここでも出てしまい、スタートからいきなり後手を踏んでしまう。
なんとか立て直して大外から徐々に進出していった……のだが4角出口で思わぬ形で災難に見舞われる。
同厩のライバルでもあるドゥラメンテが突如としてドリフトの如き大斜行をかまし、サトノクラウンの前を塞ぎかける形になってしまったのだ。
これで進路を狭められた影響もあってか、直線伸び切れず6着入線。
1着入線は当のドゥラメンテ。鞍上のミルコ・デムーロにはドゥラ免停開催4日の騎乗停止処分が下されたものの、最終順位は到達順のとおり確定となった。
続くGⅠ日本ダービーでは評価を落とし、3番人気で出走。
ここには条件戦から這い上がった同期の桜───サトノラーゼンも出走しており、共に打倒ドゥラメンテを目指して戦うこととなった。
レースは後方からの追い込みに懸けるも、先に抜け出したドゥラメンテを捉えられず3着。
2着にはサトノラーゼンが入り、サトノの馬で2着3着というたいへん嬉しくない結果になってしまった。

……そして実のところ、サトノクラウンの馬体はひとつ問題を抱えていた。
生まれつき仙腸関節*5に大きなズレがあり、身体全体に歪みを生じているのである。
このため疲労が溜まりやすく、日本ダービーから1ヶ月が経ってもなお状態が上向かないほどであった。
休養中に関節周りの筋肉が鍛えられたことでいくらか改善はしたものの、結局秋のトライアルは使えず、ぶっつけ本番でGⅠ天皇賞(秋)に出走。
レースではいいところなく17着に大敗し、再びの休養に入った。
無敗の弥生賞馬がGⅠを獲れないまま古馬となるのは史上初。そういうジンクスは破らんでいいから……
ファンと関係者の期待を大きく裏切る形で、サトノクラウンの3歳シーズンは終わりを迎えた。

【王の前に道は無く】

古馬となったサトノクラウンはGⅡ京都記念で復帰し、2着に3馬身差の快勝。
立て直しの勝利を掴み、一介の早熟馬でなかったことを証明する。
その後は香港遠征を敢行し、現地の国際GⅠクイーンエリザベス2世カップに出走。しかし気性難の身に遠征は厳しかったか、またもいいところなく12着と大敗。
帰国後のGⅠ宝塚記念は同期のクラシックホース、ドゥラメンテとキタサンブラックの争いを後方から傍観するだけの6着。なお勝ったのは人気薄のマリアライト
彼らとの間には、もはや埋め難いほどの差がついてしまった。そう痛感せざるを得ない敗戦であった。

……そして、迎えた秋シーズン。
悩めるサトノクラウンの前に、衝撃的なニュースが飛び込んでくる。


この一冠だけは渡さなかったサトノダイヤモンド!

薄曇りの京都競馬場で

ついにダイヤモンドが輝きました!


サトノダイヤモンド、GⅠ菊花賞を制覇
里見氏が望んでやまなかったGⅠ制覇を、クラシックの舞台で見事実現してみせた。
サトノクラウンに懸けられた期待は、彼の与り知らぬところで意義を失ってしまったのである。

そうした事情が伝わったわけでもないだろうが、サトノクラウンは次走の天皇賞(秋)を14着と大敗。
3戦連続の惨めな敗戦は、競走馬としての力落ちを示すに十分な説得力があった。
このままサトノクラウンは勝利から遠ざかり、栄光を掴むことなく引退する。
そんな絶望の未来も、もはや現実的なものとなりつつあった。

【王の後に道は在り】

サトノクラウンはGⅠジャパンカップをパスし、再びの香港遠征を敢行。現地の国際GⅠ香港ヴァーズへの出走を決断する。
……そしてこの年、同レースには誰もが認める世界的強豪が出走してきていた。
凱旋門賞を2着し、続くブリーダーズカップ・ターフを制覇。世界を股に掛けて活躍するアイルランドの超有力馬、ハイランドリール*6である。
当日はハイランドリールが単勝1.3倍の圧倒的支持を受け、サトノクラウンは大きく離された4番人気。単勝オッズは11.4倍。
この時点でハイランドリールは世界のGⅠを4勝。うちひとつはほかならぬ前年の香港ヴァーズである。
一方のサトノクラウンはGⅠ未勝利。GⅠを勝つ以前に、近走まったくいいところがない。
せめて直線食い下がる姿くらいは見せて欲しいというのが、彼を追い続けたファンの本心であったかもしれない。

レースではハイランドリールが軽快な逃げを披露。直線に入るとあっさり後続を引き剥がし、残り300m時点で3馬身ほどのリードを確保する。
これはもう決まったか……と思われた刹那、馬群を割って懸命に追い込んでくる馬が1頭。
黒鹿毛の馬体に、緑基調の勝負服。ゼッケン4番、サトノクラウンであった。
鞍上の「マジックマン」ジョアン・モレイラ*7騎手渾身の追いに応え、サトノクラウンは驚異的な豪脚でハイランドリールに肉薄。
そのまま2頭一騎打ちの追い比べに持ち込み、1/2馬身差し切ってゴールイン。

サトノクラウン、香港ヴァーズを制覇
日本調教馬による香港ヴァーズ制覇は2001年ステイゴールド以来15年ぶりの快挙。
サトノ初のGⅠ制覇こそ成らなかったが、サトノ初の海外GⅠ制覇を見事成し遂げてみせた。
ハイランドリールと3着馬の間についた着差は実に6馬身。自身が紛れもない世界レベルの実力者であることも満天下に示してみせたのだった。

世界のトップホース相手に捥ぎ取った勲章を手に、サトノクラウンは2017年も現役を続行。
初戦は前年と同じく京都記念。前年のダービー馬マカヒキや日経新春杯を制しのちに宝塚記念を制するミッキーロケットといった有力馬を抑えて勝利し、連覇を達成する。
……このあたりになると、勘のいい馬券師はサトノクラウンの本質を認識し始めていた。
わかりやすくするために、3歳以降のサトノクラウンの戦績を書き出してみることとする。

レース名 条件 馬場状態 着順
弥生賞 中山2000m 稍重 1着
皐月賞 中山2000m 6着
日本ダービー 東京2400m 3着
天皇賞(秋) 東京2000m 17着
京都記念 京都2200m 1着
QE2世カップ 沙田2000m 稍重 12着
宝塚記念 阪神2200m 稍重 6着
天皇賞(秋) 東京2000m 14着
香港ヴァーズ 沙田2400m 1着
京都記念 京都2200m 稍重 1着

馬場管理の方針が異なる海外の2レースを除けば、勝ったレースはすべてが荒れ馬場
国内良馬場での最高実績は日本ダービーの3着で、それ以外は掲示板にすら入れていない。
つまるところ、サトノクラウンは馬場が渋らないと本領を発揮できない馬なのではないか?との推測ができるのだった。
……そして、良馬場開催となったGⅠ大阪杯は案の定6着敗退。重馬場巧者との評価を確固たるものとする。

馬場状態を左右する要素、それは天候開催時期
多分に運が絡むところではあるが、日本競馬には毎年のように荒れ馬場で開催されるGⅠレースが存在している。
梅雨時の阪神競馬場で、開催最終日に執り行われる春のグランプリレース───宝塚記念である。重馬場苦手ってことで回避したのにことごとく良馬場での開催だったもいるけど
前年に続き、サトノクラウンは宝塚記念に出走。1番人気は史上初の春古馬三冠を狙う同期のトップホース、キタサンブラック。
馬場状態は望み通りの稍重発表。ここで負ければもはや勝負付けは完了し、キタサンブラックの上に立つことは二度と叶わなくなる。
競走馬としてのプライドを懸け、サトノクラウンは最強のライバルとの決戦に臨んだ。

レースは中団から進め、うまく展開をコントロール。
直線キタサンブラックの外側から仕掛け、残り200mでついに先頭に立つ。
もがくキタサンブラックを力づくの豪脚で引き剥がし、内から伸びてきたゴールドアクターをも抑え込んでゴールイン。

サトノクラウン、宝塚記念を制覇
自身初の国内GⅠタイトルを掴むとともに、天皇賞(春)でキタサンブラックに敗れた同門の後輩、サトノダイヤモンドの無念も晴らしてみせた。
キタサンブラックは馬群に沈み、まさかの9着敗退。すっきりしない形ではあったものの、キタサンブラックの覇道に待ったをかけることには成功したのだった。

秋は前哨戦を使わず、天皇賞(秋)に直行。
この年は直前に台風22号が直撃し、府中の馬場は不良を超えてもはや田んぼともいえる状態となっていた。
喜ぶべき状況とは言えないものの、馬場自体はサトノクラウンにとってお誂え向きのコンディション。
キタサンブラックに引導を渡すべく、サトノクラウンは府中2000mのスターティングゲートに馬体を収めた。

レースではキタサンブラックがまさかの出遅れ。後ろからの競馬を余儀なくされてしまう。
サトノクラウンは中団から進め、徐々に押し上げる競馬で先頭を覗う。
……だが、荒れ放題の内ラチ沿いを駆け上がり、猛然と前に出る馬が1頭。春に一矢を報いた最大のライバル、キタサンブラックであった。
サトノクラウンも懸命の末脚を見せたものの、キタサンブラックはそれ以上の驚異的な豪脚で府中の直線を猛進。最後はクビ差及ばず2着敗退。
春のリベンジを果たされるとともに、国内最強の称号も手中に収められてしまった。

続くジャパンカップは10着。年末のGⅠ有馬記念も13着と大敗。
翌年も現役を続行したものの、もはや競走馬としてのピークアウトは明白であった。
ラストランとなったジャパンカップはアーモンドアイの叩き出した異次元のレコードに屈し、9着敗退。
これをもって現役を引退し、種牡馬入りすることとなった。通算成績は20戦7勝、獲得賞金6億3210万3100円。

とかく安定感のない印象ではあったが、実際には走る条件がはっきりしている馬であり、
そのあたりをわかっている馬券師からの人気は非常に高かった。
負けっぷりの潔さからオッズも比較的に高くついたため、信じて買い続ければ必ず返してくれるという孝行馬でもあった。
身体的なハンデを背負いながら、大きな故障なく6歳まで走り続けたことも特筆に値する。
サトノクラウンを支え続けた厩舎スタッフの頑張りもまた、讃えられるべき覇業といえるだろう。

【引退後】

引退後は社台スタリオンステーションにて種牡馬入り。
サンデーサイレンスの血を持たず、その他主流血統とのバッティングもほぼ無いという血統的な希少価値、「これ日本で走るのか?」との疑念についても自身の競走成績で反駁済とあって、
種牡馬としての需要は大いに見込まれていた。

2023年までは種付け料100~150万を行ったり来たりしているリーズナブル枠。
そうした中で初年度産駒のタスティエーラが弥生賞ディープインパクト記念を制し、サトノクラウン産駒初の重賞勝利及び父子2代の制覇を達成。
皐月賞はキタサンブラック産駒のソールオリエンスに屈するも、次走の日本ダービーでは直線しぶとく末脚を伸ばして勝利。
史上90頭目の日本ダービー馬となり、クラシック無冠に終わった父のリベンジも果たしてみせた。
続く菊花賞では父の鞍上を務めたモレイラ騎手を迎え、ドゥラメンテ産駒のドゥレッツァに食い下がり2着に善戦。
クラシック三冠競走を全て連対という優秀な成績を残し、今後の活躍も期待されている。

イクイノックスを筆頭に優秀な産駒を多数輩出しているキタサンブラック、早世し僅かな世代しか残せなかったものの産駒が著しい活躍を見せるドゥラメンテ、
全日本2歳優駿を無敗で制したフォーエバーヤング*8を輩出したリアルスティールと、2015年クラシック世代の牡馬は種牡馬としての活躍が著しい。
サトノクラウンも初年度からダービー馬を輩出するという絶好のスタートを切ったが、現状では同期のライバルたちと比べて勝ち上がり率が低く、
ダートでの「潰し」もあんまり利かないとあって、全体的な評価は残念ながらよろしくない。2025年3月時点で重賞馬は未だタスティエーラ1頭のみである。
大物を出したことで得た需要をどこまで活かせるか、要注目である。

そのタスティエーラだが、母馬のパルティトゥーラとサトノクラウンにはちょっとした縁が存在する。
サトノクラウンが勝った2017年宝塚記念の同日、東京7Rで開催されていた条件戦を制したのが、ほかならぬパルティトゥーラなのである。
その2頭の組み合わせからダービー馬が出るのだから、競馬というのは何とも面白い。

【創作作品での登場】

2022年2月放送のぱかライブTVで初登場。元"xxxx01"。
1周年記念ショートアニメーションにてとあるウマ娘が姿だけ登場し、サトノダイヤモンドから「サトノグループ」の「クラちゃん」と呼ばれていること、
元ネタ牡馬ウマ娘に共通する右耳にクラウン(王冠)をつけていることから九分九厘サトノクラウンだろう……と誰もが思ってから公表されるのに9ヶ月かかった
快活なお姉さんキャラで、香港での勝ち星や癖の強い戦績が強くフィーチャーされ、広東語を口癖のように使うマルチリンガル、逆境で燃えるタイプという設定になっている。
サトノダイヤモンドと共に進行役を務めた新シナリオ「グランドマスターズ」の紹介PVでは英語交じりで喋る様子が確認できる。


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最終更新:2025年03月27日 12:06

*1 「ジョコンダⅡが2012年に産んだ仔」の意。まだ競走馬としての名前が決まっていない幼駒は便宜的にこのような呼ばれ方をする。

*2 その年生まれたばかりの馬。要するに0歳。

*3 弥生賞が重賞でなかった時代のメイタイは除く。

*4 1965年キーストンが日本ダービー、1972年ロングエースが日本ダービー、1973年ハイセイコーが皐月賞、2001年アグネスタキオンが皐月賞、2009年ロジユニヴァースが皐月賞をそれぞれ勝っている。

*5 骨盤と背骨をつなぐ関節。

*6 フランケル産駒。主な勝ち鞍に2015年セクレタリアトS、香港ヴァーズ、2016年KG6&QES、ブリーダーズカップターフ、2017年コロネーションカップ、プリンスオブウェールズS、香港ヴァーズ。現在は北海道日高町のエスティファームで種牡馬入りし活動中。

*7 1983年、ブラジル出身の男性騎手。貧しい大家族の末っ子として生まれ、様々な苦難を乗り越えて騎手になった苦労人でもある。この当時は香港を拠点としており、2013年9月には開催された9レース中騎乗した8レース全てで勝利するという離れ業をやってのけた。ちなみに「マジックマン」の異名は巧みな騎乗技術で勝ち切れない馬や気性難の馬を勝たせる様子を讃えられたもので、他にも香港ではその圧倒的成績から「雷神」と称えられたこともある。

*8 Cygamesの親会社であるサイバーエージェント社長、藤田晋氏の所有馬。なんの偶然か誕生日は2021年2月24日、ウマ娘がリリースされた日である。