ダーク・シャドウ(2012年の映画)

登録日:2023/01/27 (金) 20:23:35
更新日:2024/02/21 Wed 06:25:46
所要時間:約 12 分で読めます







200年ぶりに甦ってしまいました。




概要


『ダーク・シャドウ』(原題:Dark Shadows)は、2012年5月11日にアメリカで公開されたホラーコメディ映画。
日本では2012年5月19日に公開された。
監督はティム・バートンで、盟友ジョニー・デップとは8度目のコンビ作となる。
他にも『007/カジノ・ロワイヤル』でボンドガールを演じたエヴァ・グリーン、デップと同じくバートン作品常連のヘレナ・ボナム=カーター、
バットマン リターンズ』でキャットウーマンを演じたミシェル・ファイファー、『キック・アス』のヒット・ガールを演じたクロエ・グレース・モレッツと、豪華な女性キャスト陣がウリ。

原作は1966年から1971年にかけてアメリカで放送されたソープオペラ*1『Dark Shadows』。
当時「昼メロのスタイルを変えてしまった」と言われるほど大ヒットしたシリーズで、大人向けが主流だった昼メロには珍しく、ティーンにも人気を博していた。
というのも放送された時間が中部標準時間で午後3時、東部標準時間では午後4時。つまり、子供たちが学校から帰宅してくる時間帯だったのである。
さらに当時この時間帯には子供向けの番組がほとんどなかったため、吸血鬼やら幽霊やら魔女やらが登場するドラマはニッチな需要を突いていた。
なので、バートンもデップも子供時代にこのドラマに夢中になっていたというわけ。
特にデップにとって主人公バーナバス*2を演じることは長年の夢であり、バートンに監督させるようワーナーを説得した。
また、ミシェル・ファイファーも原作の大ファンであり、本作製作の噂を聞きつけた彼女は自らバートンに電話し出演を希望したという。
舞台が1972年なのはドラマ終了後の年というだけでなく、バートン自身周囲との感性の違いから孤立していたのがさらに悪化していった悪夢の思春期の始まりという意味を込めて選ばれた
ちなみに日本でも1970年の映画版が『血の唇』*3として公開されているが、そのキン肉マンに出てくる超人の神々みたいなポスターは非常に強烈なインパクトなので一見の価値あり。
なお、ドラマは週5日放送という過密スケジュールにより撮影は基本的にワンテイク。そのため、セリフを間違えたり小道具が落下したりなどのハプニングもそのまま残されているという、エド・ウッド作品ばりのことになっていたらしい。

こうした背景もあり期待値が高かった本作であるが……批評的には芳しくなかった。そのためか、興行収入も大コケとまでは行かないものの微妙な成績に。
アメリカの大手映画レビューサイトRotten Tomatoesでの批評家からの支持率は35%、視聴者からの支持率は46%。
ぶっちゃけバートン作品でも黒歴史扱いされがちな『PLANET OF THE APES/猿の惑星』とタメを張れる低さである。*4
というのも本作は脚本に問題を抱えており、元々『ビッグ・フィッシュ』や『チャーリーとチョコレート工場』などで知られる実力派ジョン・オーガストが手がける予定だったのが、
途中で『高慢と偏見とゾンビ』や『ヴァンパイアハンター・リンカーン』作者のセス・グレアム=スミスに交代し脚本が再度執筆された。
オーガストの脚本は「ヴァンパイアによるゴシックで、『ゴッドファーザー』的な大河ドラマ」を予定していた。
が、映画の企画が進むにつれて方向性が変わり、コメディ色が強い内容になっていった。
グレアム=スミスにとっては本作が脚本家デビュー作であり、バートンの大ファン故に気合を入れてそれらしい要素を盛り込みまくった。……盛り込みすぎた。
皮肉にもそれが仇となり、全体的にまとまりが足りずキャラクターの掘り下げ方もアンバランス、さらに終盤で説明不足な展開が相次ぐことに。
オーガスト自身脚本家としての最高傑作の一つと語っているほどの自信作だっただけに、その無念は如何ばかりのものであっただろうか……
また、キャストも8度目のデップ出演に加え、ヘレナも7作連続出演とマンネリ気味だったことを指摘されたのもあるのか、以降バートンの監督作品で二人が出演した作品は今の所ない。
まあ、ヘレナとは2014年に別れたし、ジョニデは冤罪事件もあってハリウッドに絶縁宣言したんだけどね……
そうした評判の中、バートンの次回作として発表されたのは……自身の原点に立ち返った作品であった。

あらすじ


1760年、コリンズ家は事業拡大を目指し、英国リバプールから新大陸アメリカへと渡っていった。
メイン州にて水産会社を設立した一族は、当時のアメリカで珍しかった英国由来の産業技術で成功をおさめ、その町にはコリンズポートの名前が付くほど栄えた。
15年後、一族の屋敷コリンウッドが完成し、バーナバスは大変な女たらしに成長。
女中のアンジェリークは男女の関係になりながらもフられたことにより彼を深く恨み、魔女の力で両親や恋人ジョゼットを殺害。
さらに彼女の恨みはこれだけに留まらず、バーナバスを永遠に苦しめるためにヴァンパイアに変えた挙句に町民を焚きつけて、地中に封印させるのだった。

……それから長い年月が流れて1972年。
バーナバスが埋葬された場所がマクドナルドの工事現場になったことで偶然封印は解かれ、彼は約200年ぶりに復活する。
しかし当のコリンズ家はすっかり零落し、家族の心もバラバラになっていた。
「家族だけが真の財産だ」という父の教えを胸に一族復興のために奮闘するバーナバスであったが、アンジェリークもまた彼の復活を嗅ぎつけていた……

登場人物


  • バーナバス・コリンズ
演: ジョニー・デップ/ 日本語吹替:平田広明

コリンズ家最盛期の当主で、子孫たちからは先祖の中で一番立派だったと言われている。
しかしてその実態はプレイボーイでアンジェリークの恨みを買い、ヴァンパイアにされ200年近く封印されていた。
復活後は落ちぶれた一族復興と打倒エンジェル・ベイ社を目指すが、時代の違いによるあまりにも大きなカルチャーギャップの壁にぶつかる。


一方で適応力はかなり高く、現代の音楽を気に入ったり、キャロリンにヴィクトリアの気を引くためのアドバイスを求めたり、ヒッピーの集会に参加したりしている。
なお、ヒッピーたちはその後全員皆殺しにされました
家族思いだが女癖は悪く、(ヴィクトリアを守るためと言いつつも)宿敵のアンジェリークにあっさり誘惑されてやたらアクロバティックなラブシーンを見せつけてくる。
ぶっちゃけ自身がヴァンパイアにされたのは自業自得以外の何物でもないし、そのせいで一族も200年近く呪われることになったので、実は主人公でありながら全ての元凶でもある。

特技は催眠術。これで実質唯一の使用人ウィリー*5を真面目に働かせるようにしたり、漁師たちのボスであるクラーニー船長をエンジェル・ベイ社から離反させたりした。
この催眠術をかける時の手の動きは、エド・ウッド作品でもおなじみドラキュラ俳優ベラ・ルゴシへのオマージュだろう。
また、ヴァンパイアなのでまばたきをしないという設定になっている。

  • エリザベス・コリンズ・ストッダード
演:ミシェル・ファイファー/ 日本語吹替:高島雅羅

現在のコリンズ家の当主。
最初はバーナバスのことを疑っていたが、自分も知らなかった隠し部屋の存在を教えられたことから信用するように。
その際、「自分の素性は明かさないように」と約束させられる。
バーナバスが呪われた事情やアンジェリークの正体を知ると「憎むだけなら殺せば済むこと。呪うのは愛情の裏返しよ」と指摘。
さらに「でも家業を何とか続けて屋敷を守ってくれたわ」と擁護している。

  • ジュリア・ホフマン博士
演:ヘレナ・ボナム=カーター/ 日本語吹替:高乃麗

デヴィッドのカウンセラーとして雇われた住み込みの精神科医だが、アルコール中毒のため二日酔いで動けないことも多い。
催眠術が得意で、人外のバーナバスにも効くほど。これで彼の素性を聞き出した。
秘密を知った彼女はバーナバスを人間に戻そうと、彼の血を人間の血と入れ替えようとするが……


  • アンジェリーク・ブシャール
演: エヴァ・グリーン/ 日本語吹替:深見梨加

バーナバスの幼馴染で、コリンズ家の女中を務めていた魔女。
彼に対して一途な愛を持っているが受け入れられず、可愛さ余って憎さ百倍とばかりにヴァンパイア化の呪いをかけたヤンデレ
その後も素性を変えたりしながら生き続け、現在は東海岸のあらゆる港を牛耳るエンジェル・ベイ社の社長を務め、町の名士として尊敬されている。
バーナバス復活を知り、誘惑するが……体のことはともかくそれでも彼は折れなかった。
最終的にバーナバスを自身の脱ぎたてパンティと共に再び棺桶に封印しコリンズ一族の缶詰工場を爆破、バーナバスの殺人を警察に暴露する。
なお、デヴィッドのおかげで封印は20分のみで済んだ模様。しかもバーナバスの口元からはパンティの切れ端が……


  • ヴィクトリア・ウィンターズ
演:ベラ・ヒースコート/ 日本語吹替:本名陽子

コリンズ家に家庭教師としてやって来た女性。愛称はヴィッキー。本名はマギー・エヴァンズ。
幽霊が見える体質故に家族に施設送りにされ、そこから脱走してきた過去を持つ。
バーナバスの恋人ジョゼットに瓜二つで、彼に目をかけられる。
そして彼女もバーナバスに惹かれていくのだった……


  • ロジャー・コリンズ
演:ジョニー・リー・ミラー/ 日本語吹替:清水明彦

エリザベスの弟で、デヴィッドの父親。
だが息子に対する愛情はなく、不倫していた所をバーナバスに目撃される。
その後父親としてやり直すか町から出ていくかの選択肢を突きつけられるが、あっさり後者を選んで去っていった。

  • キャロリン・ストッダード
演:クロエ・グレース・モレッツ/ 日本語吹替:白石涼子

エリザベスの娘で、絶賛反抗期中。15歳。アリス・クーパーのファン。
デヴィッドばかり構われていることに焼きもちを焼いている。
バーナバスから年を聞かれ、「今すぐ子供を作らぬとお前の畑は不毛と化してしまうぞ」と、現代の価値観ではセクハラ以外の何物でもないアドバイスを受ける。
その後舞踏会を開きたいというバーナバスに対し、ハプニングが必要だと教えた。


  • デヴィッド・コリンズ
演:ガリヴァー・マグラス/ 日本語吹替:矢島晶子

エリザベスの甥。10歳。
5歳の頃に母親が溺死し、それ以降母の幽霊が見えるようになったというが、家族からは信じてもらえていない。



余談


〇バーナバスを演じたデップは役作りのためダイエットを行っている。
その方法は緑茶を大量に飲み、低果糖の果物を食すこと。
これにより、体重を約9キロ落とすことに成功している。

〇屋敷のリフォーム場面で使われた音楽はカーペンターズの名曲「トップ・オブ・ザ・ワールド」。
発表されたのは物語の舞台である1972年。
歌詞も「空には雲一つなくて、太陽の光がまぶしい……」の部分はヴァンパイアのバーナバスにとって皮肉だが、全体で見るとアンジェリークへ対する皮肉とも取れる。

〇物語後半の舞踏会のシーンで「お招きをありがとう」とバーナバスに声をかける招待客4人を演じるのは、原作のオリジナルキャストたち。
その内訳は、ララ・パーカー…アンジェリーク、ジョナサン・フリッド…バーナバス、デヴィッド・セルビー…クエンティン、キャスリン・リー・スコット…マギーとなっている。
また、本人役でロックミュージシャンのアリス・クーパーが出演しているが、彼の名を聞いたバーナバスが「アリス・クーパーという娘が幼馴染にいた」と言うシーンがある。
これはアリス・クーパー自身が広めた「その名前の由来は、ウィジャ盤を通じて交信した、1600年に魔女裁判にかけられた少女から」という都市伝説が由来となっている。

〇扶桑社ミステリーより『ダーク・シャドウ 血の唇』が出版されている。
こちらは1970年の映画版のノベライズとなっている。




“血は水より濃い”という言葉がある。
血が記事を追記し、修正し───呪うのだ。




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最終更新:2024年02月21日 06:25

*1 いわゆる昼ドラで、スポンサーに石けん会社が多かったことからその名がついた

*2 元は放送開始から10か月後にテコ入れとして登場したキャラクターで、彼の登場により作品の人気に火が付いた

*3 続編は劇場未公開だが、本作公開後に『血の唇2』としてブルーレイがリリースされている

*4 あちらの批評家からの支持率は44%、視聴者からの支持率は27%

*5 厳密にはもう一人ミセス・ジョンソンがいるが、高齢のためまともに働けない