パンサラッサ(競走馬)

登録日:2024/11/10(日) 01:40:00
更新日:2025/04/20 Sun 02:37:42
所要時間57秒4!57秒4という超ハイペース!…ではなく約 40 分で読めます


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10億超え 1800m巧者 2020年クラシック世代 20年クラシック世代 24年の時を越えて 24年前の夢の続き 57秒4 G1馬 Panthalassa これが諦めないってことだ ひとつの技を鍛え上げた者 もう一人の主人公 イクイノックスのライバル ウマ娘匂わせ勢 オイルマネー奪取 サウジカップ スタコラサッサとパンサラッサ ターニングポイント ツインターボの後継者 ドバイターフ パンくん パンサラッサ マエダレーナの2017 ミスタープロスペクター系 ミスペンバリーの2017 ミームを継ぐ者 モンジュー ロードカナロア ロードカナロア産駒 一芸特化型 世界のパンサラッサ 中山記念 中東魔王 二刀流 令和のツインターボ 令和の逃亡者 令和最初の個性派 前田玲奈 前田玲奈「私はパンサラッサの母です。いつの間にか産んでました」 千両役者 吉田豊 名勝負製造機 坂井瑠星 執念のブービー回避 大欅の先に辿り着いた馬 大逃げ 広尾レース 挑戦者に大欅の加護を 新時代の逃亡者 本初之海 極限の逃げ 歴史の目撃者 池田康宏 渋滞する肩書 矢作芳人 福島記念 競走馬 菱田裕二 記録にも、記憶にも残る馬 誰もまだ見ぬ大海の果てへ 逃げ馬 逃亡者 道草を食う←文字通り 限界への挑戦 鹿毛



世界に追われる逃亡者

22'宝塚記念 本場馬入場 ラジオNIKKEI 山本直アナ

パンサラッサ(Panthalassa)とは、日本の元競走馬・現種牡馬である。
主に1800mのレースで無類の強さを誇り、己の限界に挑むような大逃げ戦法で多くのファンを魅了し、日本調教馬初の海外芝ダート両GⅠ勝利などの偉業を達成した稀代の逃亡者である。


+ 目次

データ

  • 生年:2017年3月1日
  • 父:ロードカナロア
  • 母:マエダレーナミスペンバリー
  • 母の父:モンジュー
  • 生国:日本
  • 生産者:木村秀則(北海道新ひだか町)
  • 馬主:広尾レース(株)
  • 調教師:矢作芳人(栗東)
  • 主戦騎手:吉田豊*1
  • 戦績:27戦7勝[7-6-0-14] (中央競馬23戦5勝、海外競馬4戦2勝)
  • 主な勝鞍:23'サウジカップ(GⅠ)22'ドバイターフ(GⅠ)、22'中山記念(GⅡ)、21'福島記念(GⅢ)、21'オクトーバーS(L)
(特記事項:22'天皇賞・秋2着、22'札幌記念2着)

  • 獲得賞金:18億4466万3200円 ※2024年10月現在 日本馬歴代5位

誕生~育成

誕生

2017年3月1日、北海道新ひだか町の木村秀則牧場で誕生。
父は香港スプリント2勝など短距離・マイルGⅠ6勝を達成した世界の龍王ことロードカナロアで、本馬は3年目の産駒にあたる。
母ミスペンバリーは現役中こそ未勝利であるが、産駒としては後に重賞2着のオープン馬となるディメンシオン、青葉賞2着馬のエタンダールがいた。
母父は99世代欧州最強馬として君臨し、エルコンドルパサーを破り凱旋門賞馬に輝いたことで知られるモンジュー
屈指の名スプリンターであるロードカナロアのスピード、そして欧州最強馬モンジューのスタミナを受け継いだ彼は、後にその才を存分に発揮することとなる。

オーナーは一口馬主クラブの広尾レース(株)。当時は重賞勝ち馬こそいたが、まだGⅠホースとは巡り合えていなかった。
一口2万5千円×2,000口(計5,000万円)で募集され、名前はハワイの海神の名を持つ世界の父から連想し、ペルム紀から三畳紀にかけて超大陸パンゲアを囲っていた原初の海を意味する「Panthalassa(パンサラッサ)」と名付けられた。

育成時代

パンサラッサと名付けられる前、2018年には北海道浦河町の谷川牧場で4ヶ月間、中間育成を受けていた。なお、この時の夜間放牧にはミルフィアタッチの2017という鹿毛の馬もいた。
育成を行ったシュウジデイファーム曰く「素直な気性で手がかからない」とのことだった。
2019年に、栗東の矢作芳人厩舎に入厩。矢作厩舎といえば、ダービー馬ディープブリランテ、ドバイターフを制したリアルスティール、この年に年度代表馬となったリスグラシューなど、多くの名馬を育てた名門。矢作師は、厩舎を中小企業、自身をその経営者と見立て、とにかく優勝賞金を稼ぐことで厩舎や馬主*2に利益をもたらすことを重視する調教師。それゆえに馬の能力や適性を見極めて勝負ができると判断すれば、国内だけでなく、海外の高額賞金レースにも積極的に管理馬を挑戦させる国際派であり、これがパンサラッサの運命を後に大きく変えることになる。
担当厩務員は同厩舎所属で、厩務員歴40年以上を誇る大ベテラン、池田康宏氏。

名門厩舎に預けられ、競走馬としてのデビューが着々と進んでしたパンサラッサ。しかし、この世代の矢作厩舎には、ある一頭の天才がいた…

2歳

デビュー戦~ホープフルS -立ちふさがる天才-

デビュー戦はゴルシの許嫁後の重賞2勝馬ロータスランドの6着に敗れ、2戦目はキズナ産駒のアカイイトに交わされ2着。
3戦目は10月の京都2000m。この日は不良馬場であったが、凱旋門賞馬を母父に持つパンサラッサはその馬場適性を存分に発揮し、番手から進め4角で先頭に立つと上がり最速40.3秒で押切り初勝利*3
その後は1勝クラスで敗れるが*4、12月28日のホープフルステークス(GⅠ)に出走登録する。勝鞍が未勝利のみの本馬であったが、出走登録が13頭しかいなかったこともあり出走。単勝173.4倍の12番人気というブービー人気で本番を迎える。ここで初めて逃げ戦法を選択し1000m60秒9と平均ペースで逃げ、4コーナーで4馬身離して直線に向かった時、番手で控えていた馬が持ったまま並んできたのである
…この馬こそ、ディープインパクトの傑作、同厩舎・同世代の天才、コントレイルである。間もなくあっさり交わされ、コントレイルのGⅠ初制覇を見る形で6着に敗れた。

3歳~4歳春

大海、未だ目覚めず

翌年には若駒Sに出走するが4着、弥生賞では重馬場ということもあり5番人気に推されるが9着に終わり、皐月賞・ダービー出走は叶わなかった。6月に阪神の1勝クラスをミドルペースで逃げ切り無事2勝目を挙げる。7月にはラジオNIKKEI賞に出走するもバビット*5に5馬身差で逃げ切られ2着。
秋には再びクラシック出走に一途の望みをかけ神戸新聞杯に出走する。ここでコントレイルと再戦、最後の直線で必死に縋ろうとするパンサラッサであったが、コントレイルに涼しい顔で難なく交われ、そのまま12着入線でクラシック出走の夢は叶わなかった。そして、コントレイルとの対決はこのレースが最後となった*6
その後は10月の東京2000mのリステッドであるオクトーバーSに進めるも2着で収得賞金が加算できず、続けて福島記念に登録するも賞金不足で除外となるなど、中々勝ちきれず賞金も足りず除外という悪循環が暫く続いた。特に福島記念の除外前は坂路で好タイムを連発し、騎乗予定だった川又騎手が「僕の重賞初制覇だったかもしれないのに」とコメントするほど馬体の完成度が高かった*7
また、この頃はダート路線も検討されており、一時期JBCクラシックにも出走登録をしていた。12月には国内初ダートとなる師走ステークスに出走、1番人気に推されるも直線で伸びを欠いて結果はタイキフェルヴール*8の11着に終わる。どうやら彼に日本のダートは合わなかったようだ。
また、彼にはスタートがあまり上手くないという、逃げ先行馬としてはかなりの悩みの種を抱えていた。実際、明け4歳の2月に出走した中山記念では出遅れが響いて中団で進めざるを得ず、7着に終わっている。4月にマイラーズカップに出走…と思いきや左前肢跛行が発覚、無念の競争除外となってしまい、そのまま春を全休することになった*9

4歳秋

オクトーバーステークス -運命の出会い、そして覚醒の時-

復帰戦は10月、昨年2着のオクトーバーSとなった。そしてこのレースで、彼は1人の騎手との運命的な出会いをする。
その騎手の名は東の豊こと吉田豊。かつてメジロドーベルでGⅠ5勝の他、マイネルラヴ*10、サイレントハンター*11などに騎乗したベテランジョッキーである。しかしオーロマイスター*12のマイルCS南部杯勝利以降10年以上に渡りGⅠ勝利からは遠ざかり、さらには2017年に事故で骨折し1年以上の休養となり、この影響で有力馬への騎乗機会も減少、2021年には親友だった調教助手を落馬事故で亡くす等、不幸なニュースが続いていた。
このレースではシルヴァーソニック*13、アフリカンゴールド*14といった後の個性派達も出走していたが、スタートをうまく決めるとそのまま吉田騎手は思い切ってどんどん逃げの態勢に入り、かつてサイレントハンターで見せた大逃げ戦術を炸裂させた。1000m59秒と稍重の馬場としては早いペースで後続を大きく突き放して直線を迎え、最後はプレシャスブルー*15が迫ってくるもそこは持ち前のど根性が発揮、ハナ差凌いで勝利。実に1年半ぶりの勝利を掴んだ
後の彼の代名詞ともいえる大逃げ戦法、その才覚がついに開花した時だった

福島記念 -令和の大逃亡者、爆誕-

オクトーバーS勝利で無事に賞金を加算したパンサラッサが次に出走したのが、昨年度除外となった福島記念であった。吉田豊騎手はヒュミドール*16の騎乗予定があったため、鞍上は菱田裕二騎手*17となった。スタートしたパンサラッサは予想通り逃げた。逃げたのだが…その逃げが尋常じゃなく速い。2Fは10.8秒、続く3Fも10.9秒…その果てに生まれた1000m通過タイムは……

57秒3

通常、2000mのレースでは58秒台すら早いとされるが、これはまさに破滅的と言ってもいい超ハイペースである。番手で付いて来た馬もいたため大逃げにはならず縦長の展開になったが、彼だけは4コーナーに入っても全く垂れない。むしろ番手で付いてきた馬が物凄い勢いで垂れていき、最終直線に入った時は既に7馬身差。ヒュミドール達が追い上げていくも届かず、1分59秒2、4馬身差で鮮やかに逃げ切り、ついに重賞初制覇を遂げた。この勝利により、父ロードカナロアは産駒のJRA全10場での重賞制覇を達成した。

ヒュミドールに騎乗していた吉田豊騎手は後年、新聞の取材(東スポ競馬 吉田豊連載(ご縁)【47】)で
「前にいった馬達は下がっていくだろうと思っていた」
「皆がズルズル後退する中、パンサラッサだけは下がらずまだ先頭で粘っていました
と当時の心境を語った。この一見破滅的なペースこそがパンサラッサのペースであり、その形に持ち込めば非常に強い馬であるという事を後の主戦騎手はこの時感じていたのである。

GⅢ、1000m57秒台の破滅的逃げ、勝ちタイム1分59秒台、4馬身差勝利、青い勝負服…福島競馬場ではかつてこれと瓜二つな勝利をした馬がいた。そう、七夕賞のツインターボである。ツインターボとパンサラッサを比較した動画や投稿が一気に広がり、かくして一躍有名になった彼は、こう呼ばれるようになった。

「令和のツインターボ」

と。

さらにこの福島記念から20分後、阪神競馬場ではエリザベス女王杯が開催され、10番人気の馬が勝利する大波乱が起きていた。
その10番人気の馬こそ、未勝利戦で自身を下し初勝利を掴んだアカイイトである。未勝利戦1,2フィニッシュだった2頭がそれぞれ重賞初制覇(しかもアカイイトはGⅠ)を手繰り寄せたのである。

半月後の東京競馬場、かつて自身を2回下し無敗三冠馬となったコントレイルが、ラストランのジャパンカップを勝利し有終の美を飾った。
世代の主役はターフを去った。しかし、その主役に比肩するかもしれない新たな主役が現れることを人々はまだ知らなかった。

有馬記念 -逃亡者、グランプリの舞台へ-

福島記念を勝利したパンサラッサの陣営は、年末の大舞台、有馬記念へ挑戦することを決定。
第1回特別登録を行った17頭の中では優先順位15位となりなんとか枠に滑り込むことに成功した。
鞍上は引き続き菱田裕二騎手、公開抽選では1枠2番を引き、堂々の逃げ宣言を行った。

しかし、そこは年末の大舞台、出走してくるメンバーも強豪ぞろい。
レースは1000m59秒5の平均~やや早めのペースで逃げるも、やはり距離の壁が厳しかったか4コーナーで早くもパンサラッサの先頭はここで終わり!タイトルホルダーに抜かされ後続にもどんどん抜かれてしまい、結局エフフォーリアのグランプリ制覇を見届けながら13着に敗れてしまった。
ちなみに大逃げの大先輩ツインターボは1994年に有馬記念に出走し大逃げで場内を沸かせたものの、4コーナーでナリタブライアン達に抜かされ、12着から大差離された最下位13着で敗れている。そのため、同じ13着で敗れたことから「やっぱり令和のツインターボだろ」と競馬ファンからネタにされた一方、パンサラッサは16頭中の13着での敗北であったため、そこまで負けていないのでは?と考えるファンもいた。

5歳春

中山記念 -見事に決めたぞ、逃亡者パンサラッサ

5歳となった彼の始動戦は昨年7着に終わった中山記念。この年の出走メンバーはダノンザキッド*18などがいたが、彼にとって1800mは最適な距離では?という事もあり2番人気に推された。鞍上はここから再び吉田騎手となる。
なお、レース数日前の記事で池田厩務員より「遠征競馬は遠足気分になるから走る」とコメントされ、パンサラッサ=遠征大好きというのがファンに定着し始めた。

このレースではトーラスジェミニやコントラチェックをはじめ、逃げ先行で競馬をする馬が多くいたが、福島記念でパンサラッサの強さを知った吉田騎手はスタートをうまく決め、そのままガンガン押しまくって先頭に立つ。2Fから7Fまで11秒台を連発するハイラップ逃げを披露、福島記念と似たような超縦長の展開となった。1000mタイムは57秒6と、ここでも超ハイペース。これには堪らず、先行勢は次々脱落、しかし、パンサラッサの走りは全く衰えることなく、パンサラッサだけが最後の直線に入っても逃げ続ける。
残り200mでようやくカラテ*19達が追い上げるも会心の逃げきりを決め重賞2勝目を挙げた。
2勝とも前半1000mを57秒台というハイペースで逃げ、それでいて後続馬達が脚を使わされ次々撃沈、かと言って後方に構えて仕掛けようとしても届かず…という対戦相手から見れば厄介極まりない強い競馬をしており、1800mでは本当に強い馬であることを示したのである。ただ1頭だけが最終直線へ入っていくその姿は、まるでオールカマーのツインターボだと言うファンも多かった。

重賞2勝でレースの選択肢が大きく広がったパンサラッサ。レース後、矢作調教師より次走は大阪杯(GⅠ)、またはドバイの国際GⅠドバイターフ(メイダン芝1800m)のいずれかとの発言があったが、その後ドバイからの招待を受領したと広尾レースから発表があった。
遠足大好きなパンサラッサは、ついに海外への遠足を堪能する機会を得たのである

ドバイターフ -その速さ、世界を渡る

ドバイターフと言えば1着賞金4億超えの高額レース、当然世界からも強豪が集う大レースであり、騎手も海外経験が豊富な外国人ジョッキー、または国内リーディングジョッキーが騎乗することが多い。そうした中、矢作調教師が鞍上に指名したのは再び吉田騎手であった。
吉田騎手が海外レースで騎乗するのは、04年ドバイワールドカップでリージェントブラフ(9着)に騎乗して以来であり、海外のGⅠどころか、重賞の勝利経験すらなかった。このため吉田騎手も矢作師に最初頼まれたときは「本当に僕で良いんですか?」と驚いたという*20が、矢作師は「パンサラッサを手の内に入れている吉田豊騎手」という事で指名し、吉田騎手も快諾した。

本年度のドバイターフには、前年度覇者ロードノース*21、ぺガサスWCターフ連覇を含むGⅠ3勝馬の米国馬カーネルリアム*22といった世界の強豪、日本からもNHKマイルC覇者のシュネルマイスター*23、富士S覇者ヴァンドギャルド*24が参戦していた。特にロードノースは鞍上がレジェンドジョッキーのL・デットーリであったこともあり、国内オッズでもシュネルマイスターに次ぐ2番人気。一方、パンサラッサは3番人気であった。これはGⅠで未勝利だったことに加え、これまで彼が重賞を制した福島や中山は小回りのコースであったのに対し、メイダンはかなり大回りな競馬場。ワンターンで最終直線もかなり長く、逃げ脚がやや生かしづらいコースでもあることが懸念されていたことが大きい。
しかし、砂漠のど真ん中という土地柄ゆえ平坦なコースで、阪神や中山のような上り坂が最終直線に無いため、逃げ足が鈍りにくいという有利な条件もあった。

馬番11番、12番ゲートでの出走となったパンサラッサは当日、パドックに入った時は割と落ち着いていたが、メンコを外すとテンションが異常に上がってしまった。これではスタートを上手く切れないため、吉田騎手は早く落ち着かせようと真っ先にスタート地点に移動した。ゲート前でルンルンになっているパンサラッサが映像に映ったが、あれでも落ち着かせた方なのである。
早めにスタート地点に移動したことが功を奏し、スタートを上手く決めたパンサラッサはハナを取っていく。しかし、二番手にカーネルリアムがピタッと番手で付き三番手以降もしっかりついて来たのである。溜め逃げか?っと疑問に思ったファンも多かったが、1000m通過タイムはというと58秒25。ただし実はドバイと日本では計測のタイミングが異なるため*25、これを日本の計測タイミングに変えると57秒前半…つまり福島記念や中山記念並の超ハイペースである。にも関わらず、後続馬が付いてきてしまったので大逃げにはならなかったのである。
そして直線に入ってもパンサラッサは依然先頭、すると2番手のカーネルリアムや先行勢がパンサラッサの逃げに摺りつぶされて後退してしまったのである。人気の一角だったシュネルマイスターをはじめとした後続馬も殆どが伸びて来ず、残り300mになるとパンサラッサと後続馬には3馬身以上の差が広がっていた。ただ2頭だけ、ロードノースとヴァンドギャルドだけは差し脚を残しており、パンサラッサを強襲してくる。そして…

パンサラッサが!パンサラッサが並んでゴールイン!!
接戦です!8番ロードノース15番ヴァンドギャルド!( )
三頭ゴールにもつれるように入りました!( )

実況:ラジオNIKKEI 大関アナ

3頭ほぼ同時にゴールインするというまさかの光景。結果は写真判定に委ねられることに。写真判定の最中、現地映像では、何度もゴールシーンがリプレイされ、判定に使われている写真も複数公開された。写真を見た限り、ヴァンドギャルドが3着らしいことはわかったが、1着を争うロードノースとパンサラッサはどちらが前なのかは全く分からない。写真によって見え方が変わるほどの接戦だった。

そして長い写真判定の結果…電光掲示板に映し出された1着馬はなんとパンサラッサとロードノースの2頭が同着アパパネとサンテミリオンを思い出した日本の競馬ファンも多かったであろう
パンサラッサは初GⅠ制覇を海外のドバイターフで、それも同着という非常に珍しい結果で達成してしまったのである。ついでにロードノースもこれまた史上初のドバイターフ連覇という偉業を達成した。

これにより広尾レース(株)は所持馬初のGⅠ勝利を飾った。吉田騎手は初の海外重賞制覇、池田厩務員は厩務員歴50年を間近にして担当馬初のGⅠ勝利を成し遂げた。ただ写真判定の影響で順位確定から表彰式までかなり忙しく、歓喜に浸ってる余裕はなかったという。
表彰台も両騎手、両馬主、両調教師がトロフィーを掲げ合い、互いを称えるという国際GⅠとしては極めてまれな光景が広がっていた。あとデットーリが田豊にキスをしていた

さらに勝ちタイムは1分45秒77。これがどれほど凄いかというと、これより早いタイムは当時世界最強に輝いたジャスタウェイただ1頭…どころかそもそも1分45秒台に入っていたのが当時ではジャスタウェイしかいなかった*26それをパンサラッサは自ら逃げのペースを作ってこの領域に到達していたのである。

実績・実力双方で稀代の逃げ馬であることを証明し、人々に感動を与えたパンサラッサ。これはもうネタ馬などでは決してないと人々は確信し、かつて世界を制した父がそう呼ばれたように、彼をこう呼んだ。

「世界のパンサラッサ」

と。

宝塚記念 -最強の逃げ馬対決!その果てに待つのは-

かくして劇的なGⅠ勝利を成し遂げたパンサラッサは次走、欧州遠征を計画していることを矢作師は明かした。…が、その後ロシアによるウクライナ侵攻に伴う国際情勢の悪化により次走を宝塚記念に変更した。
上半期総決算ともいえるグランプリレースであり、出走メンバーも強豪ばかり。
特にタイトルホルダーとは互いに古馬GⅠ馬になってから初の対決となり注目度が高かった。馬番11での出走となり、距離不安からか6番人気となった。
逆にタイトルホルダーとパンサラッサで潰し合うのではという声も。もしかするとパンサラッサがいなければタイトルホルダーが1番人気になっていたかもしれない

なお、本項目の冒頭はこのレースでの本場馬入場の実況である。世界を制したパンサラッサらしい見事な表現であると語るファンも多い。

レースが始まると、あまり行き脚がつかず、加速にもたついてしまう。一方のタイトルホルダーはスッと前に出たため、タイトルホルダーが逃げるのか!?とざわつく中、必死にしごいてなんとかハナを取ることに成功。むしろタイトルホルダーが譲った
向正面に入り関テレ岡安譲アナの「スタコラサッサとパンサラッサ」という実況と共に逃げていく。が、パンサラッサがハイペースで逃げていくも、タイトルホルダー達とは3馬身程度しか差がついていない。そして最初の1000mは57秒6!これまで宝塚記念で最も早かったのは2012年ネコパンチ*27の58秒5であり、まさしく前代未聞のペースとなった。その後も超ハイペースは続いていき、1600m1分33秒4と同日の未勝利戦1600mよりなんと1秒も速いこれ芝2200mのレースだぞ

こうなると、これまでのレースから見ればハイペースに耐え切れず二番手以降の馬が脱落して…となるのだが、天皇賞・春を7馬身差で逃げ切ったタイトルホルダーは別格だった
後に控えた馬達すらまともに脚が溜められない中、タイトルホルダーだけは直線でも衰えず上がり2位の末脚で押し切っていく。
逆にパンサラッサの方が坂にかかるところでガス欠を起こし次々と抜かれ8位入線。かくして2頭の逃げ馬による対決は、タイトルホルダーの完勝という結末に終わった。

そしてその結果生まれたタイムが2分9秒7。アーネストリー*28の持つレコードを0秒4更新する大レコードになったわけだが、この立役者となったのはパンサラッサであることは間違いないだろう。
むしろこんな無茶をしたら最下位になってもおかしくないのだが、8位に残れたのは元来のスタミナ所以か。

5歳秋

札幌記念 -北の大地、2頭の逃亡者-

秋初戦は芝2000mの札幌記念となった。スーパーGⅡで有名な本レースだが、この年も例外ではなく、前年度覇者にしてマイルGⅠ3勝のソダシなど、パンサラッサを含めるとGⅠ馬5頭*29、そこに宝塚記念から引き続き参戦のウインマリリンや、金鯱賞をレコード勝ちし『令和のサイレンススズカ』と呼ばれたジャックドールらが参戦。特にジャックドールとは「令和のサイレンススズカ対令和のツインターボ改め世界のパンサラッサ」という逃げ馬対決で注目度がかなり高かった。

レースは良馬場となり、スタートするとユニコーンライオンが先頭を取ろうとするが、内からパンサラッサがハナを取りに行き、そのまま逃げの態勢に入る。一方でジャックドールは4番手で控えてレースを進めていく。
そして向こう正面に入るのだが、やはり今回も大逃げ態勢は取れない。超ハイペースかと思いきや、2F以外は12秒台前後とパンサラッサにしてはやや遅め、1000m通過タイムも59秒5と良馬場2000mとしては平均程度のペース…といつものレースから見れば一見どうした?ってなるようなラップである。
これでは後続馬のスタミナが削れず直線で捕まるのでは?と危惧されたまま直線を迎え、ソダシら後続馬がパンサラッサを捕まえに…来れない。なんと後続馬達が全頭バテバテ*30になっていた。
実は良馬場といってもこの日の札幌は直前まで稍重であり、しかも札幌は時計のかかる洋芝。そのため馬場がかなり重くなっておりこれでも実は相当なハイペースであった。そう、今回のパンサラッサはもう一つの武器である重馬場適性を活かしたレースを見せており、大逃げにならなかった事で他の馬は見事に釣り上げられていたのだ。
こうして後方が壊滅していったのだが、ただ1頭ジャックドールだけは生き残って逃げるパンサラッサに追いすがってきた。そして残り100mで交わして*31勝利。パンサラッサは2着入線となった。

こうして北の大地の逃げ馬対決はジャックドールに軍配が上がった。

天皇賞・秋 -先頭を、どこまでも先頭を

次走は秋の一大決戦、天皇賞・秋。このレースには前述のジャックドールの他、ドバイシーマクラシックを制したディープインパクト産駒のダービー馬シャフリヤール、コントレイルの主戦も務めた福永祐一騎手が手綱を握るドレフォン産駒の皐月賞馬ジオグリフ、そしてこの時点ではクラシック2戦2着の東スポ杯2歳S馬であったキタサンブラック産駒のイクイノックスが出走。
この他にもバビットなど逃げで勝った馬達が勢ぞろいしており、誰が逃げるのか!?と話題になった。逃げ馬ズラリ、15頭

パンサラッサは7番人気。これは距離不安やスタートが苦手、前走でジャックドールに敗北などもあるが、そもそも天皇賞・秋自体逃げ馬が全く勝てていない事が大きかった。
府中の直線は非常に長く、後続からの差し脚が伸ばしやすいため、逆に逃げ馬は不利となる。同型の馬が多いなら尚更……そう思われていた。
だがーー

矢作調教師と吉田騎手は、それがむしろチャンスだと考えていた。

そして、レースがスタート。出遅れがちだったパンサラッサは、今回五分の蹴り出しに成功する。
実は、ここ2レースの出足の悪さは「落ち着きすぎ」ていたことが原因と矢作師は分析しており、今回のレースでは、普段ゲート入り直前に外していたメンコをゲート裏輪乗りの時点という早めの段階で外し、意図的にテンションを上げるという対策を取っていた。見事にそれが功を奏した形だ。*32

そして、他の逃げ馬などお構いなしとばかりにハナを切ってペースを上げていく。そして...あれだけいたはずの逃げ馬たちは、誰1頭としてパンサラッサを追いかけなかった。
2番手のハビットがゆったりとペースを作り、同型のジャックドールとノースブリッジは、それを追走するだけ。パンサラッサはバビットを物凄い勢いで引き離していき、あっとう間に10馬身を超えるリードを作り出した。そして、レースも半分を過ぎたところ...


最初の1000m、57秒4!!
57秒4という超ハイペース!( )
パンサラッサの大逃げだぁっ!!!( )

実況:フジテレビ 立本アナ

24年前の大逃げと全く同じ1000m通過タイムに、観客席から大きなどよめきが上がった。それだけでなく、後続との馬身差、ただ1頭大ケヤキの向こうを通過する姿まで24年前と同じ景色が広がっていた。
2番手集団は1000m60秒前後*33のスローペースで推移。こうなると後続の馬も我慢比べとなり、迂闊には動けない。

実は、これもパンサラッサ陣営の作戦通りだった。ただでさえ逃げ馬が勝つには厳しい条件が並んだ上で、競りかけてくるかもしれない同型の馬が多くいる今回のレース。しかし、実はその中で、前半1000mを57秒台で走って勝った経験がある馬はパンサラッサただ1頭だけ。それゆえに、パンサラッサのペースに付き合うのは、他の逃げ馬にとって自滅行為でしかない。
このことから、矢作師は今回のレースをこう読んでいた。

「他の逃げ馬同士が牽制し合うことで、パンサラッサは却って逃げやすくなるのではないか」

そして、レースは陣営の読み通り進み、パンサラッサは自らの理想の競馬に徹することとなったのだ。彼とそれ以降の馬群の差は、4コーナーに入る時点で15馬身、最終直線に入る時点では実に20馬身以上にまで開いていた。

令和のツインターボが逃げに逃げまくっている!
さぁ、パンサラッサ!このまま逃げ切る事が出来るのか!?( )これだけの差!これだけの差!
さぁ4コーナーを回って直線コース!さぁ、後ろは届くのか!?後ろは届くのか!?このまま逃げ切るのか!?( )

世界のパンサラッサの逃げ!( )

実況:フジテレビ 立本アナ

かつて令和のツインターボと呼ばれたパンサラッサが、ロードカナロアの子として、世界のパンサラッサとしてその名を轟かせた。彼の馬生を再現するような熱い実況と共にパンサラッサはひたすら突き進む。

このまま逃げ切ってしまうのか?!誰もが固唾をのんでレースを見つめてた。

直線コースに入って後続の馬群がパンサラッサに殺到。残り500m、400m、300m...徐々に馬群と先頭の差は詰まるが、パンサラッサもしぶとく粘り続け、残り200mを切っても5馬身のリードを保つ。
しかし、残り100mでパンサラッサの脚が上がりはじめる。結果、残り50mでイクイノックスに交わされ、掴みかけた勝利は、その手からこぼれ落ちてしまった。

そこからは惰性に近い形でゴール板まで走り切ることとなったが、イクイノックスの後ろから脚を伸ばしていたダノンベルーガをハナ差でしのぎ切って2着の座は守ることに成功した。

パンサラッサは力を出し切り、勝利まであと一歩まで迫っていただけに、レース後、吉田騎手は「最後まで頑張っていただけに何とかしたかった」と、悔しさを滲ませていた。

矢作師に至っては、目論見通りレースが進み、パンサラッサも吉田騎手も完璧な競馬に徹していた上に、残り200mまで1着が射程圏だった状況で敗れたことから、悔しさのあまり、観覧席で自分の近くにあった椅子をゴール直後に思いっきり蹴り飛ばしたという。
しかし、メディアインタビューでは「負けた悔しさより馬を褒めてあげたいです。」と、愛馬の激走を労うコメントを残した。

敗れはしたものの、パンサラッサは前評判を覆し、いや、それどころか日本競馬史に残る名レースの主役を演じたのである。

後年、吉田騎手や生産牧場の木村秀則氏は最も記憶に残ったパンサラッサのレースとして本レースを挙げており、彼の代表レースと言われたら真っ先にこのレースを思い浮かぶファンも非常に多い。

香港カップ -本初之海之不覚-

次走は香港カップへの出走が発表された。なお、香港馬名は「本初之海」となかなかカッコイイ。
このレースの出走に当たって、陣営は国内の調整はそこそこに、現地での調整をしっかり行う方針とした。

が、これが裏目に出てしまう。
レースはスタートして60秒台(日本ラップで59秒台)とパンサラッサとしては平均ペースとなり、隊列もそれほど縦長ではない。そして直線に入っても離すどころか逆に後続にどんどん抜かれてしまい、香港最強馬ロマンチックウォリアー*34の10着に敗れてしまった。
池田厩務員曰く、現地調教がハード過ぎて本来の調子が出なかったとの事。なんともらしく無い敗北であったが、この敗戦を陣営が次走でしっかり生かすのであった。

6歳春

サウジカップ -1000万ドルの逃亡劇-

担当厩務員である池田厩務員はこの年が定年であり、パンサラッサを担当する最後の年となった。
そうした中発表されたパンサラッサの次走、それはドバイターフへのステップレースとして、1着1000万ドル(約13.1億円)世界最高賞金のダートGⅠ、サウジカップ(キングアヴドゥルアジーズ1800m)への出走である。
1800mの巧者であるパンサラッサと言えども、ダートは2年前、リステッド競争である師走ステークスで走って11着惨敗して以来であり、無謀ではないかという声も多かった。
最高賞金額という事で当然メンバーも強い。ダート王国であるアメリカからは、前年度の同レース2着にしてドバイワールドカップ覇者でありL・デットーリが鞍上を務めるカントリーグラマー、サンタアニタダービーとペンシルベニアダービーを制したテイバが参戦。地元勢にも前年度カントリーグラマー達を蹴散らして制したエンブレムロードが参戦してきた。
一方の日本勢とはいうと、フェブラリーS3連覇を蹴って参戦したカフェファラオ、ダート転向後破竹の勢いでチャンピオンズCを勝利したジュンライトボルト、前年度UAEダービー覇者にしてGⅠでも好走を続けるクラウンプライド、秋天以来の対決ジオグリフ、ドバイターフ以来の対決ヴァンドギャルド、そしてパンサラッサ…なんと6頭中3頭は芝が主戦場の馬である。これには海外メディアも「数は多いが、適性に疑問のある馬ばかりだ」と首をかしげた。

勿論、米国や地元勢が強力なのは承知の上。矢作師も前年度にマルシュロレーヌ*35で挑戦しており、サウジカップがどういうレースなのかを知った上での選択だった。
実はキングアヴドゥルアジーズ競馬場のダートは日本の砂とは違い、北米のような土ダートにウッドチップが混ざったもの。ウッドチップは乾燥気候であるサウジアラビアにおいて保水性を高めるために使用しているのだが、この影響か芝馬でも適性が合えば走れる馬場であった。事実、第1回2着のベンバトル*36、第2回優勝馬ミシュリフ*37など、過去には芝馬達が上位に入線していた。
香港カップの反省を踏まえ、日本でしっかり調整を行い、現地での調整は最小限にとられた。

馬番は7、ゲート番は1番となった。スタートに課題のあるパンサラッサにとって、1番はスタートに失敗すると包み込まれるおそれがある、かなり危険な枠だった。しかし、そんな不安はどこへやら、レース前も首をブンブン振って元気いっぱいのパンサラッサであった。

そして、レースが始まると、生涯最高と言っても過言ではないロケットスタートを決め、一気に先頭に立つことができた。結果、内ラチまで馬を寄せる必要がなく、その分脚を温存できる最内の枠は、むしろ有利にはたらくことととなった。
ジオグリフ、カフェファラオ、クラウンプライドといった日本勢、そして米国のテイバが先行し、その後ろにカントリーグラマーが控える展開となった。
そして半マイル(800m)通過タイムは45秒85と日本と変わらず超ハイペースで走るパンサラッサの姿があった。4コーナーを迎えると日本勢4頭が他国の馬達を引き連れていくという構図に。

さあ日本勢が、先頭2番手3番手4番手で直線コースを迎えそうだ!
ラジオNIKKEI 小塚アナ

直線に入り、残り200mまで進んでも隊列は全く変わらない。
パンサラッサが依然先頭を走り、ジオグリフ達が抜こうとしても差を全く詰められない。そしてテイバが既に脱落、エンブレムロードら後方勢も追い上げが届かない。しかし1頭だけ、カントリーグラマーだけがデットーリの鞭に応えて抜群の末脚で日本勢を次々とちぎり、先頭のパンサラッサに襲い掛かる。そして…

カントリーグラマーが追い込んで来た!

粘る!パンサラッサと!外からカントリーグラマーが!並ぶ!

パンサラッサ押し切ってゴールイン!!

逃げ切った!パンサラッサ!!サウジカップ制覇ァ!!!*38

ラジオNIKEEI 小塚アナ

世界のパンサラッサが、世界の矢作厩舎が、再び伝説を成し遂げた瞬間だった。最後の最後までパンサラッサがカントリーグラマーの猛追を振り切り、ダートでも世界の頂点に立ったのだ。
日本調教牡馬として初の海外ダートGⅠ制覇、そして日本調教馬全体としても初の海外芝ダートダブルGⅠ制覇という超偉業を成し遂げたのである。令和のアグネスデジタル誕生
その達成したレースが世界最高賞金額のダートGⅠサウジカップであり、この勝利で一気に1000万ドル(当時のレートで13億1865万円)を獲得。賞金額合計が実に18億4466万円。これは20世代最高額だったコントレイルを6億円以上上回り、当時の歴代日本馬ではアーモンドアイキタサンブラックに次ぐ第3位にランクイン。余りにも賞金加算額が高すぎてJRAのシステムが悲鳴を上げた*39ほどである。
さらに賞金配分の取り決めがサウジアラビアでは騎手10%(ちなみにJRAだと5%)であり、吉田騎手はこのレースだけで1.3億もの賞金を獲得した。誰が言ったか中東の豊

吉田騎手「忘れられないレースになりました。騎手をやっていて良かった。」

矢作師「この世でこんなことが起きるなんて…信じられない」
いずれもUMATOKU 2023年2月27日記事より

陣営の誰もが驚きと喜びを隠せずにはいられなかった。池田厩務員に至っては喜びの余り歓喜の涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた

1着のパンサラッサ以外にも3着カフェファラオ、4着ジオグリフ、5着にクラウンプライドが入線しており、海外メディアも手のひら返しで「これは中東版ジャパンカップだ!」と日本勢の大健闘を称えた。一方、カントリーグラマーはエンブレムロードにリベンジは果たしたものの2年連続2着となった。そしてこのカントリーグラマーを持ったままで19馬身ちぎった馬のような何かがいることに日本のファンは戦慄を覚えたとか

なお、レース翌日、サウジカップ公式Xアカウントより、 池田厩務員に引かれながら道草をもぐもぐ食べる様子が投稿されている。 サウジカップの美しい馬服*40に身を包み、朝日に照らされながら朝ご飯を食べるパンサラッサの姿は必見。

この結果を受け、次走は本来予定していたドバイターフでなく、ドバイワールドカップに決定した。
既に賞金額が日本馬歴代3位(当時)となったパンサラッサ。仮にドバイワールドカップで4着以内に入れば賞金額が日本馬歴代1位、優勝すれば世界1位となるため、彼への期待は非常に大きなものとなった。

ドバイワールドカップ -苛烈な追跡者達、そして頂きに立つ旧友-

ドバイワールドカップでの日本からの出走馬は、サウジカップから引き続き参戦のカフェファラオら4頭に加え、一昨年のチャンピオンズC・帝王賞や昨年JBCクラシック覇者のテーオーケインズ、ダートから芝転向後ジャパンカップを制したヴェラアズール、そして谷川牧場時代共に過ごしたミルフィアタッチの2017…改め東京大賞典と川崎記念を制したウシュバテソーロ。米国からはカントリーグラマー、サウジからエンブレムロードが引き続き参戦する他、英国からアルジールス、地元UAEからリモースなどが出走してきた。
引いたゲートはなんと大外15番。逃げ馬のパンサラッサにとって相性最悪の番だった。

この数十分前に流れた恐怖映像の余韻が収まらない中、レースが始まる。しかし行き脚が付かず、手綱をしごいて何とか先頭に貼り付けたが、その後リモースから苛烈なマークを受け続け、1000m59秒台とダート2000mとしては超ハイペース、その後もマークし続けられ息を全く入れられず4コーナーで苦しくなり後退してしまった。
しかし、前方で自身が徹底マークされるという事は後方のマークが手薄になるという事でもあった。自身の後退に呼応するかのように、4コーナーから谷川牧場時代の同僚ウシュバテソーロが猛烈な末脚でアルジールス*41に襲い掛かり、世界の頂点に立った。一等星に輝くウシュバテソーロを見ながら、パンサラッサは10着入線となった。

このレースをもって春全休が決定、今年度いっぱいでの引退も発表された。8月の英国への遠征が計画されたが、6月に繋靭帯炎が発症し、断念となった。

余談だが、この日のドバイターフにおいて、1年前にパンサラッサと同着優勝を決めたロードノースが出走。あのレース以降GⅠでの勝利から見放されていたが、ここで見事復活勝利。史上初のドバイターフ三連覇の偉業を達成していた。

6歳秋~引退

ジャパンカップ -空の彼方へ最後の大逃げ

復帰レースについて12月頭のダート1800mチャンピオンズカップも候補にあったが、最終的に11月末のジャパンカップとなり、これが事実上のラストランとみなされていた。
出走メンバーの筆頭は前年度天皇賞・秋以来の再戦であり、世界最強馬として君臨していたイクイノックスである
それ以外にもタイトルホルダー、ヴェラアズール、ディープボンドといったこれまで戦ってきた相手に加え、前年度ダービー馬ドウデュースや前年度の二冠牝馬スターズオンアース、この年の三冠牝馬リバティアイランドらが参戦。

ジャパンカップは芝2400mのレースであり、今までのペースで走れば間違いなくスタミナが持たない事は明らかであったため、それほど大きく逃げられないのではという声も一部あった。
しかしレースがスタートすると、パンサラッサは2番手のタイトルホルダーをどんどん突き放していき、そして…

1000m通過タイムは57秒6!10年間で最も速いペースです!
ラジオ日本 実況 清水アナ

不安説などなんのその、向こう正面で堂々と大逃げするパンサラッサの姿がそこにあった
ラストラン、たとえ距離が長いと分かっていても己が走りを貫き通したのである。
この57秒6というタイム、10年間どころか歴代のジャパンカップでも最速であった。それまでの最速が2020年にキセキが出した57秒9、コース形態が違うとはいえ、事件とまで言われたあの1989年のイブンベイ(58秒5)より1秒近く速いと言えばその凄まじさがわかるだろうか。

3コーナーに差し掛かるとパンサラッサは自らの意思でさらに進み、ただ一頭だけ先頭指定席と言わんばかりに直線に向かう。その姿にかつて何度も先頭で直線を迎えたキセキの姿を重ねたファンも多かった。

パンサラッサ、堂々たる逃げっぷり!
これが世界を震撼させた逃げの脚か!!( )

直線に向かい、坂を上る所でやはり脚が上がってしまうパンサラッサ。根性で必死に抗おうとするも、後続勢が一気に差を詰めてくる。
そして残り200mで単独2番手に上がったイクイノックスに一気に抜き去られてしまう。この時、「またお前か!」と言わんばかりにイクイノックスの方に首を振るパンサラッサの姿が映し出された。…とは言え、1800までと思われていた彼が2200まで持ちこたえ、限界を超えて走り続けたことはいろいろと感じさせるところである。
そしてイクイノックスが世界最強を証明する中、まるで燃え尽きたかのように馬群に沈んでいき、12着での入線となった。
それでも最後の最後まで自分の走りを守り通したパンサラッサは、ファンにまた大きな感動を与えた。

レース翌日、現役引退とアロースタッドで種牡馬入り、さらには引退式も行われることも発表された。
オフシーズンはオーストラリアへシャトルされることも発表された。

引退式

引退式について、当初は12月23日の予定であったが、軽度の感冒(要するに風邪)により翌年1月8日に延期となった。
サウジカップの美しい馬服を纏いながら入場するパンサラッサ。

引退式の前、競馬ソングライターであり、広尾TCの会員でもあるブルーノ・ユウキ氏による「パンサラッサの歌」が披露されていた。
実はこの歌、2歳時に既に作られていたのだが、その歌詞には「今日も逃げるの」「世界を作るのは君だけ」といった、後の競争生活の予言ともいうべき内容があり、矢作師も盛大に感心していたとか。

矢作師からはパンサラッサについて様々な思い出が語られた。

「海外GⅠを2勝するという素質は感じられていたのでしょうか?」
矢作師「いえ、全く思っておりませんでした…」

実はパンサラッサは元々世界で活躍するような素質の馬とは思われていなかった。
横にいたコントレイルという天才とは、比較する事自体が難しいくらい、かつては実力が違いすぎていた。
しかし彼は、努力だけで覆すことが困難なサラブレッドの世界において、その努力で才能を開花させたのである。
まさに「努力の馬」というべき存在であったと語った。

そしてパンサラッサの子供に期待する事はとの質問に対しては

「やはり、イクイノックスの子供を負かして欲しいです!!」

吉田豊騎手は海外で騎乗する緊張感を与えてくれたパンサラッサへの感謝の言葉と、最も印象に残ったレースは天皇賞・秋で惜敗した事だと語った。観客「ソンナコトナイヨー!!」

「パンサラッサの子供でまた逃げますか?」
吉田騎手「そういう機会があればぜひ」

また、池田元厩務員は、引退式当日のパンサラッサは元気が余り過ぎて危険を感じたくらいだという事を語ったうえで、定年退職前にGⅠ制覇したパンサラッサに対して以下のように続けている。

僕も(自分の担当馬の)GⅠ制覇を諦めていたんですけど
最後の最後にGⅠ制覇を成し遂げてくれて

あの馬には諦めないということを教わりました

引退式は広尾レース(株)の中尾代表からの言葉で締めくくられた。

「パンサラッサの勝負はまだ続きます。これからもパンサラッサの、パンサラッサの子供達の応援をお願いします!」

余談だが、パンサラッサの退場時は矢作師ではなく、吉田騎手が騎乗していた。
コントレイル・リスグラシュー「ずるい」*42

引退後

逃亡者の血、海を渡る

引退後はアロースタッドで種牡馬として繋養された。初年度の種付け料は300万円と非社台生産、繋養馬としては中々に強気な価格となったが実績を考えれば妥当なところか。
ただ、この年は多くのスターホースが引退し近い価格帯の種牡馬同期には社台繋養の名マイラー・シュネルマイスターや、血統構成が近くまたクラシックディスタンスを中心に活躍したタイトルホルダーが存在する事、早熟性が高いとは言えない馬が生産の世界では好まれにくい事もあり、国内での種付け頭数はパカパカファームの牝馬を中心に54頭とやや少数に留まった。
ただパンサラッサは元々シャトル種牡馬として南半球での繁殖も決められていた為、ある意味彼にとっての本番はそちら。パンサラッサを気に入った生産者、オーナーから複数の繁殖牝馬を宛てがわれたようだ。
オーストラリアでは種付け料が約160万と日本の半額ほどだったのもあってか100頭あまりに種付けを行った。
翌年の種付けについては2024年12月に250万に値下げが発表された。

遠足好きのパンサラッサの血はとうとう赤道を超え、世界へ広がる。
日本かあるいは豪州か、彼の血とあるいはミームを継ぐ馬たちが走り出すことに期待したい。


競走馬として

彼の競争スタイルと言えばやはり大逃げが思い浮かぶが、明らかに大逃げと呼べるレースをしたのは21'オクトーバーS、22'天皇賞・秋、23'ジャパンカップくらいで、海外GⅠや国内GⅡなどでは大逃げにはなっておらず後続馬が付いてくるハイペースな展開になっただけである。
このレースこのレースあたりが有名だが、大逃げというのは馬の気性を理解しながら飛ばし、馬身を大きくつけて2番手以下を惑わせ、かつ息を入れつつラップを刻む、後方に強力な馬がいて自身は殆ど警戒されないような馬といった複雑な要素が絡み合って逃げ切る場合が多い。

それに対しパンサラッサは、そんな事知るかと言わんばかりにひたすらかっ飛ばしアドバンテージを稼ぐだけ稼ぐスタイルである。特筆すべきはこれが決して気性難による「暴走」ではなく、鞍上と息のあった「戦略」であったことだろう。

戦術としても他の大逃げとは一線を画している。例えば、大逃げの代表格サイレンススズカとは、実は逃げのスタイルが大きく異なっている。実際にお互いの代表レース1998年金鯱賞と2022年天皇賞(秋)のラップを比べると以下

12.8-11.2-11.2-11.5-11.4-11.4-12.0-12.4-11.7-12.2 1:57.8(1998 金鯱賞)
12.6-10.9-11.2-11.3-11.4-11.6-11.8-11.6-12.4-12.7 1:57.5(2022 天皇賞(秋))
※赤文字は12.0秒以内の箇所

20年以上の年月差があり馬場状態が全く異なること、そもそも2022天皇賞(秋)の最後のラップはイクイノックスの数値も含んでいることなどからあくまで参考程度なのだが、二つのラップを見比べるとその差は一目瞭然。
スズカの逃げは残り800から少し息をいれ、最後少しだけ末脚を伸ばす形だが、パンサラッサの逃げは道中全く息を入れず飛ばしまくり、最後は惰性で粘り切る形となっている。

極限までペースをあげて後続の選択肢を奪う、「戦略」の大逃げ
競馬の長い歴史でもこんなスタイルをとるGⅠ級ホースは少なく、令和の○○などといった文言では表現できないパンサラッサ独自の強みだったといえる。

また、彼が逃げると57秒台といったラップタイムが毎回飛び出てくるが、このラップ自体は現実の競馬でも見ることがある。ただ中距離以上でこのラップが出た場合、殆どは逃げ馬同士が競り合ってしまったり馬自身の気性の影響で飛ばしまくったりしているため、悉く後半スタミナが切れて撃沈する。しかしパンサラッサの場合、母父モンジュー由来のスタミナのおかげで1600~1800m付近までは持ちこたえるほか、それが過ぎても100~200m程度なら驚異的な根性で粘り切って走るのである。

では1600m以下は、というとその距離だと57秒台は大逃げでも何でもなく少し速い程度のタイムであるため、持ち味が生かせない。逆に2000m以上になると、距離が長すぎて攻めたラップを出しにくい。以上の事から、1800mでは歴代最強クラスと考えるファンも多い。

ただ残念なことに、日本にはパンサラッサがパフォーマンス良く走れる大レースが少なかった。ワンターンの1800~2000mの距離」でかつ「(序盤からペースをあげるため)1コーナーまでの距離が長い」ことが条件だが、チャンピオンズカップ(中京1800m)は1コーナーまでが短い&日本特有の砂ダートであり、香港カップ(香港2000m)は1コーナーまでが近すぎる。ラストランに選んだジャパンカップ(東京2400m)は1コーナーまでは長いものの距離そのものが明らかに長く、陣営のレース選択の苦労が見て取れる。
そのため、「もし国内(特に阪神など)に1800mの芝GⅠがあれば…」と想像してしまう人も多数。
ドバイ勝利以降は海外レースを積極的にローテーションに組み込もうとしてたのも、日本では力を発揮しきれない事情を克服するため、そしてサウジ勝利以降はわかりやすい賞金や名誉は十分得たので、より広いレース適性の模索して可能性を切り開く事を優先した方が種牡馬としての将来性もある状況になったのも大きい。
それだけに諸々の事情で欧州遠征が断念されたのが非常に惜しい話である。

同時にパンサラッサが出走すると途端にレースが引き締まることが多かった。逃げ馬不在のレースではどうしても逃げのペースが遅くなり、直線に入ってからの末脚勝負、というレースになりがちである。一方、パンサラッサはハイペースでどんどん逃げていき1800~2000mではスタミナが尽きる前に逃げ切ってしまう。迂闊に番手につけば巻き込まれて撃沈、かといって後方に控えすぎると大逃げで稼いだアドバンテージを生かされ届かなくなる…他騎手は常にそれを考えながら走る必要がどうしても生じてしまう。この厄介さ、面白さは笑いながら走るアイツにも通じるところがある。

そしてパンサラッサが出走するレースの相手が実力者揃いであることも大きい。
これまでパンサラッサと走ったことのある面々を振り返ってみると、コントレイルやデアリングタクト、ウシュバテソーロといった同期の面々は勿論のこと

一世代前の最強馬 クロノジェネシス
2021年の年度代表馬 エフフォーリア
稀代のステイヤー タイトルホルダー
ドバイ王者 シャフリヤール
白毛のアイドル ソダシ
世界最強 イクイノックス
2022年ダービー馬 ドウデュース
2023年の三冠牝馬 リバティアイランド
その他ロードノース、ロマンティックウォリアー、カントリーグラマーといった海外勢
etc…
と強豪が勢揃いしている。
裏を返せばそれだけの実力者でなければパンサラッサと渡り合うことはできないという意味でもあり、彼はある意味で相手に恵まれていると言える。
特に秋天のイクイノックスとの対決は顕著で、2頭のその後の評価や人気を決定付けた。

さらに中山記念の池田厩務員のコメントにもある通り、この馬は遠征好きである。サラブレッドはデリケートな生き物であり、馬運車で長距離移動しただけで体重が数十キロ減って体調が悪化する馬も多くいる中、彼は厩舎が遠征準備するだけで気分がルンルン、馬房から目をキラキラさせ、移動中も飼い葉をムシャムシャ食べる。それは海外遠征でも同様で吉田騎手も「海外の方が落ち着いている」なんてコメントが出てくるくらい。そんな彼が、海外志向の強い矢作厩舎に入厩出来た事は幸運だったと言えよう。事実、関西馬にも拘わらず勝鞍の殆どは関東と海外のレースであるため、「遠足ガチ勢」とファンから呼ばれていたり。

そして大逃げをする競走馬には「馬群が苦手」「とにかく前に行きたがる」「走る気が強すぎる」など気性面に何かしらの難がつきものだが、パンサラッサは調教中に調教師を振り落としたりレース後に首を振り回したりと気性難というよりもやんちゃ坊主であり、レース中は特に問題があるわけではなかった。天皇賞・秋前では「馬場入場の時にわざと大観衆の前でメンコを外してスイッチを入れる」という池田厩務員の発言*43から陽キャ疑惑も。さらに引退後、試験種付したら非常に積極的に種付けしに行ったため、ドSタイプだと言われたことも。
一方で音に敏感なようで、栗東では坂井瑠星騎手の車の音にビビり、危うく破壊しそうになったとか。初勝利をくれた鞍上なのに

余談

オクトーバーSで劇的な逃げで勝利したが後年ラジオ番組でこの時どうして逃げたかが調教師から語られた。
実はこの時騎手には「ハナ奪っても折り合えるから前目で」と指示を出したのだがかかったうえに大逃げになってしまったのだ。
結果的に勝利できたものの騎手は勿論調教師もここまでかかるとは予想外だったが、馬に脚質が合ってると思い調教師も逃げが好きだったこともあり以降逃げることになった。
ちなみに大逃げに対しては弟子の坂井瑠星騎手やスタッフなどから「そんなに逃げなくても…」と苦言を呈されていたとも語っている。なお弟子はレモンポップというダートでも指折りのGⅠ逃げ馬が愛馬になる

パンサラッサが与えた影響は非常に大きく、中にはパンサラッサを付けるために繫殖牝馬を購入したクラブも現れた。その牝馬の中にはコックスプレートを8馬身差で勝ち、アローワンスを加味すれば2024年ぶっちぎりの世界一に輝いたヴィアシスティーナという超大物*44まで。

彼の異名のうち、「令和のツインターボ」については実況でも読み上げられ引退後も様々なメディアで取り上げられることも多いが、一方で成績を見てもツインターボと比較するのは失礼ではないか?という意見もごく一部で存在する。だが、これについては有名になったきっかけがツインターボと多くの点で重なる事以外にも、サイレンススズカと例えるとどうしてもあの秋天での故障や、その秋天での本当の勝利者の事もあり中々大きく取り上げづらいのも実情であろう。

さらに余談だが、令和のサイレンススズカと言われたジャックドールは23'大阪杯で逃げ切り勝ちを収めるのだが、その勝ち方が11秒台5連発の精確なラップを刻んで後続の脚を削るというむしろミホノブルボンを彷彿させる勝ち方であった。タイトルホルダーしかり個性豊かな逃げ馬達が勢ぞろいな時代であった。彼ら3頭は非社台系の日高生産馬であることから、日高逃げ馬三銃士と呼ぶ声もある*45

こちらの作品では2024年10月時点でパンサラッサの名は登場していないが、とあるキャラのエンディングで2022年天皇賞・秋と思われるレースが登場している。なおその二日後にパンサラッサがサウジカップを制したので、トレーナーも競馬民も双方が大盛り上がりすることとなった。あとその作品に出演しているとある声優は脳を焼かれすぎてパンサラッサの母を名乗りだした。

パンサラッサのサウジ制覇の衝撃は少なくない方面に影響を与えている。
それまでサウジカップデーでは日本での馬券販売はなかったが、翌年2024年からはサウジカップのみだが日本でも馬券販売が行われるようになった
その2024年のサウジカップでは、パンサラッサとも対戦したジャックドールが出走を予定していた。故障により断念することとなったが、パンサラッサと札幌記念で接戦を繰り広げたジャックならば、もしかしたらがありえたかもしれない。*46
2024年12月8日、香港カップを勝利したロマンチックウォリアーの陣営が、次に出走するレースとして翌年2025年のサウジカップを選択した。これにあたり馬主であるピーター・ラウ氏がワールドホースレーシングのインタビューを受けたのだが、パンサラッサのサウジカップでのパフォーマンスがロマンチックウォリアーのサウジカップ出走を決めた理由として挙げた。
ロマンチックウォリアーはこの年に日本の安田記念でも勝利を収めて話題になり、生涯獲得賞金は34億にも上る世界賞金王として君臨したが、パンサラッサの挑戦はそんな世界一の座に着く馬にも影響を与えたのだ
そしてその2025年サウジカップは、正真正銘のダート初挑戦となったロマンチックウォリアーと日本ダート現役最強馬のフォーエバーヤングによる一騎打ちの末にフォーエバーヤングが勝利を挙げた。
これにより矢作調教師はパンサラッサに続くサウジカップ2勝目も達成。そしてこの勝利で日本調教ダート馬としては歴代1位となるレーティング128を獲得し、暫定世界一位となったのだ。
間接的にだがパンサラッサの成功が2頭の対決へと繋がり、同時に矢作調教師が過去に述べた「サウジカップのダートは芝馬でも走れる」を再現。これによりサウジカップは「芝とダートの馬場適性を問わない異種交流戦的な要素を持つ、世界最高賞金を賭けたドリームマッチの舞台」としての側面も証明したのだ、というのは言い過ぎだろうか。

伝説のレースとなった2022年の天皇賞・秋、それは世界最強馬として君臨したイクイノックスの初GⅠ勝利でもあった。彼の世界最強への道はパンサラッサを抜いてゴールした所から始まり、翌年のジャパンカップでパンサラッサを抜き去りゴールした所で大団円を迎えた。イクイノックスを所持するシルクホースレーシングの米村代表も引退式のメッセージで、自身を負かしたジオグリフ、ドウデュースと並んでパンサラッサに触れており、彼の存在が陣営にも影響を与えた事が伺える。

JRA広報誌、優駿が企画した「未来に語り継ぎたい名馬100」では第16位にランクイン。これは同期ではコントレイル(14位)に次ぐ順位であり、錚々たる優駿達の中で多くのファンから支持を集めた。

逃げる度に大歓声が沸き、本当に逃げ切るのかと思わせるような根性も併せ持ち、天皇賞・秋で24年前に止まった時計の針を再び動かし、芝ダート両方で世界の強豪から逃げ切ってみせたパンサラッサ。コントレイルという同期・同厩の無敗三冠馬がいながらも、努力を重ね、数多くのGⅠ馬や年度代表馬、阪神三冠馬、ドバイターフ三連覇馬、ドバイワールドカップ馬、果てには世界最強馬といった強烈なライバル達との死闘で観客を魅了し続け、稀代の名馬となった大逃亡者はまさに世代のもう一頭の主人公だった。

これから先、強い大逃げ馬が現れた時、人々はパンサラッサの再来と呼ぶことだろう。
かつて彼自身が令和のツインターボと呼ばれ、そして世界への道を歩み始めたように…

追記修正は、1000万ドル持って逃亡した方にお願いします。
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最終更新:2025年04月20日 02:37

*1 坂井瑠星騎手が未勝利戦勝利を含め8戦騎乗、21年福島記念や21年有馬記念では菱田裕二騎手騎乗、他多数

*2 矢作師の弁では、厩舎を企業とするなら、馬主は株主であるとのこと。

*3 なお、6着には後に地方移籍後川崎記念(Jpn1)を勝つライトウォーリアがいた。

*4 ちなみにここでもアカイイトと対決している

*5 ナカヤマフェスタ産駒。主な勝ち鞍はこの他にセントライト記念があり、2024年にも京都記念で3着に入り、同年10月現在も現役。

*6 余談だが、この神戸新聞杯、2着に日経新春杯を勝つヴェルトライゼンデ、4着にGⅠ2着4回のディープボンド、8着にステイヤーズS勝馬アイアンバローズ、14着に中山GJを連覇するイロゴトシなど、かなり豪華な顔ぶれだった。

*7 なお、川又騎手は4年以上後、2025年2月のシルクロードステークスでエイシンフェンサーに騎乗し、重賞初制覇を成し遂げた。

*8 フリオーソ産駒。主な勝ち鞍はこの師走Sで、次走の東海Sがラストランとなった。

*9 後年のGⅠ制覇時、矢作師はこの時騎乗していた坂井騎手が早く気づき、無理させなかったおかげで馬がよくなったと語っている。

*10 シーキングザゴールド産駒。主な勝鞍はタイキシャトルのラストランだった98年スプリンターズS。

*11 サンデーサイレンス産駒。主な勝鞍は産経大阪杯、新潟大賞典2勝で、大逃げ戦法で有名。また、98年天皇賞・秋でサイレンススズカから離れた2番手にいたのもこの馬。

*12 ゴールドアリュール産駒。マイルCS南部杯でエスポワールシチーを下している。

*13 オルフェーヴル産駒。後にダミアン・レーン騎手を背にステイヤーズS、レッドシーターフHと長距離重賞を2勝、23年天皇賞(春)で3着入りを果たした葦毛のステイヤー。一方で22年天皇賞(春)でスタート直後に落馬後、そのままカラ馬のまま完走、ゴール後柵を超えてふて寝するなどの珍エピソードもある。

*14 ステイゴールド産駒。主な勝ち鞍は22年京都記念で、Twitterをする馬として人気を博した。

*15 ディープインパクト産駒。主な勝鞍は3勝クラスの初富士Sでキセキやリスグラシューと同じ17世代ながら、23年まで52戦出走した。

*16 オルフェーヴル産駒。勝鞍はノベンバーS(3勝クラス)で、ダイヤモンドSなど重賞2着3回。

*17 栗東所属騎手。代表馬は24年天皇賞・春のテーオーロイヤル。

*18 ジャスタウェイ産駒。勝鞍はホープフルS、東京スポーツ杯で香港C2着、マイルCS3年連続掲示板など。他にも毎日王冠でゲートを壊して外枠発走となるも3着に入るなどの珍エピソードもある。

*19 トゥザグローリー産駒 主な勝鞍は22年新潟記念、23年新潟大賞典で24年10月現在も8歳ながら現役。主戦騎手は菅原明良騎手

*20 「優駿 2022年5月号」より

*21 ドバウィ産駒。この時点でプリンスオブウェールズステークスも制しGⅠを2勝していた。

*22 リアムズマップ産駒の葦毛馬。祖母はグラスワンダーの全妹ワンダーアゲイン。

*23 キングマン産駒で勝鞍は他には読売マイラーズカップ。ドバイターフ前までは掲示板を一度も外していなかった。

*24 ディープインパクト産駒。主な勝鞍は富士Sの他、「何、シベリアンタイガー!?」の実況で有名な三年坂特別。去年のこのレースでも2着に入っている。また彼の半弟が道悪巧者で有名な皐月賞馬ソールオリエンス

*25 ドバイや欧州はゲートが開いた瞬間から計測を開始するのに対し、日本や北南米はゲートから5m先にある光計測器を先頭馬が通過してから計測するため、1秒前後ほど差が出る。

*26 2024年12月にメジャードタイムがコースレコードを塗り替えたが、次走のジェベルハッタにて・・・。

*27 ニューイングランド産駒。江田照男騎手でルーラーシップ、ウインバリアシオンらを退けて日経賞を勝ったことでも有名で、2023年10月よりノーザンレイクでメイショウドトウや牧場猫メトと共に暮らしている。

*28 グラスワンダー産駒で宝塚記念、金鯱賞など重賞5勝。主戦騎手はタップダンスシチー、エスポワールシチーなどで有名な佐藤哲三騎手。

*29 他にはオークス馬ユーバーレーベン、香港ヴァーズ2勝のグローリーヴェイズ、9歳のダービー馬マカヒキ。

*30 上がり最速がハヤヤッコの36秒6

*31 ただし一瞬だがパンサラッサも差し返そうとしている。

*32 実際は馬場入りしてすぐに大観衆の前でメンコを外してスイッチを入れるプランだったのだが、このときは比較的最初からテンションが高かったため、プランより遅め、普段より早めのこのタイミングで外すことに決めたという。

*33 パトロールビデオの再生時間を確認すると、バビットが1000m標識を通過したのがパンサラッサから約3秒後だったので、大まかに計算するとこのタイムになる

*34 Acclamation産駒のセン馬でこの香港カップがGⅠ2勝目、その後も勝利を重ね、2025年2月現在で4ヶ国でGⅠ10勝。この中には日本の安田記念も含まれるなど、自身が日本馬キラーになる先駆けのレースでもある。結果的にこの両者の直接対決としては最初で最後となった、のだが・・・。

*35 オルフェーヴル産駒で日本調教馬初の海外ダートGⅠ制覇を成し遂げた女傑。サウジカップの6着がラストランだった。

*36 ドバウィ産駒の英国馬。ドバイターフなど芝のGⅠ3勝。現在は日本とオーストラリアでシャトル種牡馬をしている。

*37 アイルランド産のメイクビリーヴ産駒。仏ダービーなど芝GⅠ3勝、特にドバイシーマクラシックはイクイノックスに破られる前までのレコードホルダーだった。

*38 なお、この後「初ダートで!初ダートで!」と師走ステークスを忘れてうっかり実況してしまい、このせいで「パンサラッサ、初ダートでサウジカップ制覇!」という誤解が広がってしまったとか。師走ステークスは1番人気だったとはいえ、当時は彼自身の知名度がそこまで高くなかったのもあるが。

*39 当時、2桁億円の賞金加算に対応できていなかった。

*40 この馬服は全て手縫いで製作。サウジカップの公式Xでその製作動画が投稿されている。

*41 ちなみにアルジールスの生産はゴドルフィン、そしてウシュバテソーロの祖父はゴドルフィンキラーなステイゴールド。こんなところでも血の運命かと話題になった。

*42 矢作厩舎所属馬の引退式では矢作師が騎乗している事が多かったのだが、師の見た目で想像できる通り斤量がとんでもないので…

*43 ただし、実際にはゲート裏でメンコを外していた。

*44 購入自体はコックスプレートより前だったが、あまりにも圧勝し過ぎて引退が伸びてしまわないかと心配しているんだとか。…デビュー戦でパンサラッサに勝ったロータスランドみたいな話である。

*45 パンサラッサがタイトルホルダー、ジャックドールの両方と3戦以上対戦経験があるのは戦歴の通りだが、タイトルホルダーとジャックドールは阪神GⅠを逃げ切り勝ちした同期(パンサラッサの1歳年下)という共通点はあったものの距離適性の違いか対決したことは一度もなかった、だが何の因果かジャックドールは引退後レックススタッドに預託という形で種牡馬になりタイトルホルダーとは同じ職場仲間になっている

*46 なお、ジャックドールは2025年に屈腱炎を再発。これを機に引退となり、23年の天皇賞(秋)が実質的なラストランとなった。