JR東日本209系電車

登録日:2025/02/03 Mon 09:30:31
更新日:2025/04/07 Mon 20:26:10
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209系は、JR東日本の通勤型電車である。


概要

老朽化した103系置き換えのために開発された車両で、内外装にそれまでの常識を覆す新機軸を多数搭載し、製造から整備まで、鉄道車両にトータルのライフサイクルを一から見直した形式である。
導入に際しては内装や設備、機器類が異なる試作車3編成(901系)を運用。この試験結果を経て最終的な仕様が決められ、約1000両が首都圏の各線に導入された。

本形式の設計は以降のJR東日本は勿論、全国各地の鉄道事業者、更には鉄道車両設計そのものにも多大な影響を与えた。
同社では本形式を「新系列電車」の一号としている。

導入経緯

発足当初、JR東日本に承継された103系は2400両にものぼり、この置き換えには従来の導入方式ではコストがかかることが問題視されていた。

折しもバブル崩壊が始まったため、最低限のコストで製造から運用を行うことを考慮した車両として開発されたのが本形式で、「重量半分」「価格半分」「寿命半分」を達成目標として開発された。
この三つを簡単に説明すると…
  • 重量半分
車重を軽減させ、省エネルギーと点検整備性の向上による維持費用を減らす。
  • 価格半分
製造メーカーごとに工法の差異を認め、大量生産を行うことで、量産効果によるイニシャルコストの低減を図った。後年、更なるコストダウンを図るために自社工場での生産を検討するようになり、これは新津車両製作所として結実することとなる。
  • 寿命半分
従来、鉄道車両は落成から20~30年使うことを前提としていた。
これを見直し、税法上の鉄道車両の減価償却期間である13年間は大規模な分解補修を行わず、仮に廃車にした場合でも経営上の影響を受けることがないようにすることを意味している。
うんと分かりやすく言えば、時代の変化で必要となった新しい機構やサービスを取り入れやすくすること。
落成から13年たった時に新しい通勤電車の導入メドが立っていれば209系はそれらで置き換えればいいし、そうじゃなければ209系をオーバーホールに回せばいいわけだ。

特に一番理解されなかったのは「寿命半分」だろう。
そもそもこの発想自体は209系から始まったわけではなく、初代小田急ロマンスカーのSE車を手掛けた山本利三郎氏も「丈夫に長く使える車両と考えると鉄道車両の進歩は遅れる」とほぼ同様の考え方を示していた。

JR東日本とは真逆の車両思想を持つ(であろう)阪急電鉄の技術者も、「そのような首都圏のJRじゃないと考えつかないし、スケールメリットの大きさを生かした逆転の発想」というコメントを残したとか。

時代は違えど同じく首都圏の次世代車両を見据えて開発され、「10年ごとに大整備して40年使う」、「そうすれば長い目で見ればローコスト・ハイパフォーマンスを実現できるし、40年先の地下鉄に応じた新車をその時に作った方が対応しやすい」というコンセプトの営団6000系とは真逆の発想であるが、どちらが正解であるかは言いがたい。
実際、209系はおおむね13年くらい後でE231系・E233系に置き換え及び状態の良かった車両は改造してより古い車両が走っていた路線に転用、営団6000系は42年供用したうえで16000系に交代とどちらも当初のコンセプト通りに進んでいる。

しかし、鉄ヲタ界隈は保守的な思想が多いことに加え、当時は「新車=豪華かつ頑丈そうな車両」という6000系のイメージが一般的だった。
本形式は見た目の安っぽさもあってか「使い捨て電車」「走ルンです」などと揶揄され、趣味界の評判はあまりよろしいものではなかった。
尤も、「走ルンです」の名称は元ネタになったレンズ付きフィルムも「廃棄後のリサイクルを前提にしている」、「使い捨てカメラ」と呼ばれていたことを考えると、上手いこと表現したともいえるが。


車両解説

本項では落成時点の0番台について解説する。

車体

ビード無しステンレス車体に、205系と同様に幕板部と窓下部にラインカラーの帯を巻く。
全体的に205系のイメージを残しており、正面部分はブラックフェイスに1枚窓で、白いFRPの成型品をまとっている。
前述した川重製・東急製で車体に差異が見られ、分かりやすい点では側面窓回りと妻面部分の仕上げ方だろう。

内装

白に近いグレー系でまとめられた。
座席は青いモケットで、事務用品の椅子にも似たS字型のバケットシート形状となり、座席の幅も拡大されている。
座席の端部には他人と干渉しないよう、それまでよりも大形の袖仕切り板が設置されている。
7人掛けの席には2・3・2と「・」の部分にスタンションポールが設けられており、座席区分に加え小さい子供や高齢者が立ち上がるのを助ける一石二鳥の役割を果たす。
ちなみに901系ではもう少し明るいクリーム系の内装も試作されたが、禁煙車なのにヤニが染みついたような汚れ方をしてしまい、グレー系になったという経緯がある。

側窓は車端部を除いて大型の固定式となり、熱線吸収ガラスを採用してカーテンを廃止した。
また、先頭車の車端部には車椅子スペースを設置している。
車内に掲示する銘板も、それまでのプレート式から製造メーカー・車両番号・号車をステッカーでひとまとめにしたタイプとなった。

ドアには開閉時に鳴動するチャイムとLED式の次駅案内表示器が設置された。
これは他社でも導入例があり特段209系が早いというわけではないが、全ての乗降口に設置されていたのは当時としては珍しかった。

機器類

制御装置は三菱電機製のGTO式VVVF制御で、主電動機はMT68形。
MT68の定格出力は95kWで、当時VVVF車のモーター定格出力は(カタログスペック上)120kW以上が当たり前で、一見心もとないようにみえるが、VVVF制御は短時間の過負荷にはある程度耐えうるため、実質出力は直流モーターにおける150kW相当となる。
運転台はJR東日本では初となる左手式ワンハンドルマスコンを採用したほか、901系試験中に発生した成田線踏切事故の教訓から、背後に非常用のレスキュー口が設置された。
側面ドアはごく初期の編成を除いて電気式を本格的に採用している。
空気圧縮機にはフランス・クノールブレムゼ製の製品を使用。海外部品の使用は当時これまた珍しく、以降JR東日本での標準仕様となった。

番台別解説

本項では新造車・改造車の順で紹介する。
950番台についてはJR東日本E231系電車を参照。

新造車

  • 900番台(901系)
1992年に登場した試作編成。
川崎重工製のA編成(900番台)・東急車輛製のB編成(910番台)・川崎重工/JR大船工場製のC編成(920番台) の3本が存在する。
209系との外観の一番の違いは幕板部の色で、落成当初は黒のラインだった。また、号車番号札も国鉄式のサボ受けタイプだった。
側窓ピラーが入っていたり、網棚が一部省略されていたり、つり革が無かったり、蛍光灯の位置が枕木方向だったり、側面扉上に液晶モニタがあったりと様々な新機軸が多々見られた。
1994年に209系への改番が行われ、幕板部が量産車と同じ水色となりそれぞれの編成に()内の番台が割り振られた。
試作的要素が強いため、2006年までに後述する500番台転属で廃車となった。
現在はクハ209-901が東京総合車両センターの正門に保存されている。

  • 0番台
京浜東北線に780両、南武線に12両が導入された。
基本設計は前述したC編成をベースとしている。
京浜東北線では1995年から6ドア車・サハ208の連結が開始され、この間は頻繁な編成替えを実施。
1998年にそれまで運用されていた103系・205系を追い出し統一完了、以降は試作車含め800両以上となる一大勢力として活躍していた。
また、日本テレコム(現:ソフトバンクテレコム)との共同試験で液晶モニターを設置した車両も存在した。

ところが、2005年に発生した車両故障で乗客が閉じ込められ、さらに固定窓故に車内換気が出来ず気分を悪くする人が続出。これを受けて各形式で側窓開閉工事が実施された。
この故障を受け、輸送密度の高い京浜東北線では新車に早急に取り換えた方が良いとの判断がなされ、E233系の導入が決定した。

E233系1000番台の導入に伴い、京浜東北線からは2010年に撤退し房総地区へ転出。
南武線の編成は2009年と2014年にそれぞれ廃車となり撤退した。

  • 3000番台
1996年の八高線高麗川電化に伴い導入された車両。
0番台に半自動ドアを追加した仕様で、それ以外の設計は0番台とほぼ同じ。
ラインカラーはウグイス+オレンジ帯。
2019年にE231系3000番台・209系3500番台に置き換えられて撤退。

  • 500番台
1998年に中央・総武緩行線に170両が導入された。
元々同線はE231系での置き換えが検討されていたが、103系の故障が頻発早急な取り換えが必要となったため、急遽間に合わせで導入されたリリーフ形式。
この形式から新津車両製作所が設計も担当している。

基本設計は0番台と同じだが登場間近だったE231系の設計を反映しており、拡幅車体で側面の窓が(先頭車を除き)中央部も含めて開閉式に変更された。

2編成は京浜東北線のデジタルATC化工事にともなう代替も兼ねて2000年に同線に転出、さらに3編成が上述の元901系のグループを置き換えるために2005~2006年に同線に転出した。
E233系の導入により、京浜東北線に転出したグループのうち4本が2008年に京葉線に転出。2010年には京葉線にもE233系が導入されたため、1編成を残して8連化され武蔵野線に転出した。
総武線の残留編成は2017年以降山手線から転入したE231系500番台に置き換えられ、全車武蔵野線と八高線に転出している。

  • 1000番台
1999年に常磐緩行線の増発に伴い2本が導入された。
0番台と同じストレート車体だが、正面には非常用貫通扉を設置。
地下鉄内での起動加速度確保のため、電動車の比率が6M4Tとなっており、 この番台から主電動機はMT73形を搭載している。
E233系の導入に伴い2018年に常磐線から撤退。
翌年からは中央線快速系統のグリーン車連結に伴う予備車として、豊田車両センターに転属し2024年まで使用された。

改造車

ちょうどオーバーホールの時期に後継車種の目途が立っていたことから、多くの車両が改造の上で転用された。

  • 3100番台
元りんかい線の70-000形。
2004年の10両化による組み換えで余剰が出た6両を編入し、不足する中間車2両を増備した。
その経緯から「平成の社形」、「21世紀の買収国電」とも呼ばれるとか。
こちらは生え抜きの3000番台より3年長く残り、2022年に引退した。

  • 3500番台
500番台を八高・川越線向けに転用したもので、半自動ドアとワンマン対応設備を取り付けている。

  • 2000番台・2100番台
京浜東北線を撤退した209系を改造したグループ。
房総地区の113系・211系置き換えのために導入され、線区の状況に合わせトイレとボックスシートの設置工事が実施された。
勿論VVVFを筆頭とした機器類も更新済みである。
2000番台と2100番台の違いは、前者が空気式ドア、後者が電気式ドアを採用している点。

  • 2200番台
南武線の0番台置き換え用に0番台を改造して導入された。
209系で209系を置き換える?と一瞬戸惑いそうだが、当時導入されていた0番台は空気式ドアで、メンテナンスの観点から電気式ドアへの統一を図りたかったのが導入経緯。
3編成が導入されたがE233系の導入に伴い撤退し、1編成は房総地区のサイクリング向け観光列車「B.B.BASE」へと改造された(改番は行っていない)。

事業用車両

MUE-Train以外車籍は存在しない。
  • MUE-Train
2008年に京浜東北線用ウラ2編成を多目的試験列車に改造したもの。
形式はすべて試験車を示す「ヤ」に改番されている。
車体帯は白となり、平行四辺形のブロックパターンがあしらわれている。
空気バネ式車体傾斜制御や次世代車両制御システム(INTEROS)の試験や検測機器の設置が行なわれ、前者はE353系、後者はE235系で実用化された。

  • 構内訓練車
0・3000番台の中間電動車を廃車後先頭車化し、訓練車としたもの。
大宮は湘南色、八王子は中央本線風オレンジバーミリオン、横浜はクリーム色、長野は211系風長野色と営業用車両にはなかったカラーリングとなっているのが特徴。
その他、大宮総合車両センターにはクハ209-7が脱線復旧用機材として設置されている。

  • Smart Station実験用車両
クハ208-7が2010年からJR東日本研究開発センター内にある新しい駅機能開発施設に設置された。
ドア用コンプレッサーや電源、無線LANが設置され単体で使用出来る。

派生形式・譲渡車

  • E217系
横須賀総武快速線向けの113系置き換えのために1994年に登場。
従来の近郊形同様、拡幅車体を採用し2階建てグリーン車を2両連結。
そして近郊形では初となる4ドアを採用したのが最大の特徴で、ラッシュ対策として普通車は9~11号車がセミクロスシートでその他はロングシートとなった。
見た目は変わらないが製造途中から地下線の安全基準が変わったため、正面が非貫通になっている。
2008年から2012年にかけて更新工事が実施され、帯の色が明るくなった。
一時期東海道線で運用されていたこともある。
E235系の導入に伴い、2025年3月で引退。

  • E501系
1995年に登場した、京浦都市線常磐線中距離電車向けの車両。
交直流版209系で、シーメンス製のドレミファインバータを国内の鉄道車両では初採用した(後に国産品へ交換)。
本来はこれで103系と415系をまとめて置き換えたかったようだがうまく行かず、その任務はE231系とE531系が担うこととなり、この間中電へのグリーン車連結も決定し、結果土浦以南から撤退してしまった。
その後は土浦以北及び水戸線で使用されていたが、E531系の導入で余剰車が出ており廃車も始まっている。
5両1編成が観光列車の「SAKIGAKE男塾」に改造されている。

  • 東京臨海高速鉄道70-000形
りんかい線の車両。
基本設計は209系だが、前面は独自のものかつ内装は木目調で袖仕切りは小型と印象は大きく異なる。
登場当初は4両編成だったが、2002年の大崎までの全通に合わせ6両および10両に編成を組み替え。
更に2004年に10両編成への統一に向けた増備・組み換えが行われ、これで余剰となった6両が上述の209系3100番台となった。
2011年から機器更新が実施され、2017年からは車内案内表示器がLCDに更新されている。
今後は71-000形への置き換えが予定されている。

  • 伊豆急行3000系
元2100番台の4両2編成を改造したもの。
アロハシャツ風のラッピングが施され、「アロハ電車」の通称がついている。
また、カラーリングは山側が青・海側が赤とオリジナル仕様の「リゾート21」をオマージュしたものとになっている。


総括

さて、JR東日本の新系列車両の第1号として華々しくデビューした209系。
初期の川重製について末期「こんな歪んでて大丈夫だろうか?」と思っていた人も多いだろう。
実際、京浜東北線からは不本意ともいえる形で撤退したが、それ以降は重大な欠陥もなく運行を続けており、ある車両は廃車、ある車両は更新という道を歩み登場から30年以上が過ぎた。

車内設備で挙げた項目はそのほとんどが209系から日本の鉄道車両で本格採用されたものであり、今では全国の新車で当たり前の装備となった。
特に交通バリアフリー法の制定後、新車に必須となった設備を法施行の7年前に準備していたのは慧眼があったと言えよう。

コストダウンと乗客サービスの向上という二律背反に挑む、海老名先生風に言えば「チェンジ&チャレンジ」の第1章となった209系。その物語はE231系へと続くこととなる。


関連作品

第1作第2作、および「プロフェッショナル仕様」では京浜東北線の0番台を、第3作では中央・総武線の500番台を運転可能。
特に3作品に渡って登場した0番台は「T車が多いことによるブレーキの効き始めの悪さ」「ATCによる走行の再現」と作品を重ねるごとにその再現度がみるみる上昇していった。

りんかい線沿線であるお台場を舞台にしており、テレビアニメ劇中に70-000形が登場しているシーンがある。また、テレビアニメ第2期が放送された2022年にりんかい線全通20周年を記念し、タイアップしたヘッドマークが1編成に設置された。

古今東西の鉄道車両を擬人化したキャラクター「でんこ」を扱うゲームで、209系がモチーフでんこが複数登場しており、25年2月現在では
  • 阿佐ヶ谷カノン(500番台中央線仕様)
  • 雲屋みゅう(Mue編成「MUE-Train」)
  • 今井浜マオ(伊豆急行3000系アロハ電車)
の3名が該当。
うち、マオは伊豆急行の公認キャラクターにもなっている。







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