シルフィーヌ二世とトルーヴ姉弟を強引に連れながらエルニア近衛騎士団と次期シルヴァの少女、そして少数のウッドエルフ派の若者たちは走る。エルヴン帝国、そしてリンデルの森から抜け出すために。最前線でダークエルフ達と戦い続ける同胞に報いるために。 派閥の違いもあり日常的に対立しあっているウッドエルフとエルニア近衛騎士団であったがこの時ばかりは意見と目的が一致し互いに協力し合えていた。共通の敵を前に団結しあえるとは何たる皮肉かとエルニア近衛騎士団団長は思う。近衛騎士の大半は保守派であるウッドエルフの事は良く思っていない、それは保守派の者たちも同様のはずだった。しかし、逃げるためとはいえ手を取り合えている。これを皮肉と言わずしてなんと言えばいい。そうこうしている内にリンデルの森を抜けインブロジア森林帯に、国外に足を踏み入れた。このまま森林帯も駆け抜けるつもりであった。しかし――――――
「離してください!」
シルフィーヌ二世が抵抗しだしたのだ。恐らく思考が現実に追いついたのだろう。手を引いている近衛騎士を振りほどこうとしているが大した力もない故にろくな抵抗になっていない。
「シルフィーヌ様、わがままを言わないでください。貴女様をテネブルの連中に奪われるわけにはいかないのです。今我らの同胞が戦場でダークエルフ共と戦っている。貴女様にはそれに報いる義務があります」
「ではどうして私達は逃げているのですか?! 武器を取って戦うべきではないのですか?! どうして……!」
「貴女にそんな力も術もない! か弱いお姫様に何ができる!? 少し考えれば誰だってわかることだ! 貴女にできる義務と責任はダークエルフ達の手中に収まらないことだけだ!」
「ではどうして私達は逃げているのですか?! 武器を取って戦うべきではないのですか?! どうして……!」
「貴女にそんな力も術もない! か弱いお姫様に何ができる!? 少し考えれば誰だってわかることだ! 貴女にできる義務と責任はダークエルフ達の手中に収まらないことだけだ!」
エルヴン帝国に戻ろうと駄々をこねるシルフィーヌに騎士団長は声を荒げて諫める。こんなことで時間を取られるわけにはいかなかった。ここで手間取って敵に捕まってしまえば何もかも無駄になってしまう。
「……俺達も戦って抵抗するわけにはいかないのか?」
「冒険者の一人や二人が加わったところで意味がありません。それよりも早く逃げるべきです。ここも安全地帯ではありませんので」
「その通りだ。このインブロジア森林帯はさっさと通り抜けたい。森に殺されるのは御免だからな」
「その通りだ。このインブロジア森林帯はさっさと通り抜けたい。森に殺されるのは御免だからな」
そう言って再びシルフィーヌを強引に走らせようと近衛騎士が手を引き始める。シルフィーヌはもちろん抵抗しようとするが無意味だった。振りほどくことすらできていない故にされるがままだった。シグルとエイダはそんな彼女を見てどこか悲し身が混じった難しい顔をしている。シルフィーヌがか弱いことに近衛騎士団長は初めて感謝した。変に力があれば説得に時間を取られていたことだろう。現実はたいして時間を取られることなくすぐに走り出すことができている。このまま何事も起きなければいい。そう思った時だった。
近衛騎士の一人に空から降ってきた火球が直撃し、いともたやすく燃やし尽くされたのだ。やけに威力が高いのか大きな爆発音を立ててクレーターを作り出している。一行は驚愕し、トルーヴ姉弟は真っ先に周囲を警戒しだす。
近衛騎士の一人に空から降ってきた火球が直撃し、いともたやすく燃やし尽くされたのだ。やけに威力が高いのか大きな爆発音を立ててクレーターを作り出している。一行は驚愕し、トルーヴ姉弟は真っ先に周囲を警戒しだす。
「いやー、まさかっすねー。珍しくドゥローが散歩して来いっていうから不思議だったんすけど、まさかまさかしるふぃーぬにせい?と遭遇するなんて」
「いけないんすよ? 偉い人が真っ先に逃げだすなんて。全くこれだから知的種族というやつはダメダメなんすよ。わが身可愛さにすーぐに逃げだす……。人の家族を焼き殺しておいて血も涙もないっす」
アリュマージュは呆れたような表情で一行を眺めている。どうやってこの場を切り抜けるか、近衛騎士団長の頭はそのことでいっぱいになる。しかし、この男から走って逃げきることなど不可能だ。どうすればいい。思考を巡らせていると真っ先に動き出す者がいた。
エイダ=トルーヴがアリュマージュ相手に火属性魔法エクスプロードを放っていた。アリュマージュは爆発に身をさらしている。しかし傷一つ付いていない。近衛騎士団長は信じられない物を見るようにエイダに視線を向ける。そしてさらに信じられない物を見た。
エイダ=トルーヴは親の仇を見るような憎しみに駆られ顔を歪めているのだ。普段の彼女の姿を思えばあり得ないことであった。エイダの様子にシルフィーヌも驚愕している。
エイダ=トルーヴがアリュマージュ相手に火属性魔法エクスプロードを放っていた。アリュマージュは爆発に身をさらしている。しかし傷一つ付いていない。近衛騎士団長は信じられない物を見るようにエイダに視線を向ける。そしてさらに信じられない物を見た。
エイダ=トルーヴは親の仇を見るような憎しみに駆られ顔を歪めているのだ。普段の彼女の姿を思えばあり得ないことであった。エイダの様子にシルフィーヌも驚愕している。
「いやー、なんすかその炎? ちゃっちいっすよ?全くこれだから人族は……弱いくせにすぐに暴力に走るなんてどんだけ野蛮なんすか?」
呆れたと言いたげな口調だった。そんなアリュマージュの態度がさらにエイダの憎しみを煽ったようだった。
「人の村を、家族を焼き払っておいて……どうしてそんな風でいられるんだお前は!」
エイダはアリュマージュ相手に突撃し至近距離でエクスプロードを放った。しかしアリュマージュは片手でそれを受け止める。
「人の村? 家族? ちょっとちょっと、先に自分の家族を焼き殺したのは知的種族の方っすよ? そんな一方的に憎まれても困るんす!」
アリュマージュは拳を振りかざしながら火炎を放った。エイダの放った魔法よりも高威力だった。そのためエイダは勢いよく吹っ飛ばされる。
「こっちは正当な敵討ちなんすよ! アンタらに大事な姉さんと母さんを焼き殺されたんすから! 誰に殺されたかなんてわからないっすけどね!」
大量の火球を周囲に撒き散らしながらアリュマージュは叫ぶ。火球はエイダやシルフィーヌ達に降り注がれる。近衛騎士とウッドエルフ達は魔法で防壁を貼り火球をしのぐも数発当たったところで砕けてしまった。そして意図せずに木々に当たり燃え移る。エイダはすぐさま体勢を戻しそれらを躱しながら魔法で牽制する。
「それと私の家族に何の関係がある! 村の人たちに何の関係がある! 適当に焼き殺しておいてよくそんなことをぬけぬけと!」
「言えるんすよ! 自分は家族を、姉さんも母さんも父さんも、大事な仲間も殺されているんすから!」
「言えるんすよ! 自分は家族を、姉さんも母さんも父さんも、大事な仲間も殺されているんすから!」
互いに魔法を放ちながらエイダとアリュマージュは激情を叫び合う。しかし、アリュマージュには傷一つ付いていない。対照的にエイダの方はアリュマージュの攻撃が当たることもあるためかあちこちに小さな火傷を負っている。アリュマージュの魔法は正確にエイダを狙っているのだ。
「ほら! その程度っすか! 根性が足りないんすよ!」
そう言ってエイダとの距離を縮め炎を纏った拳を直撃させ吹き飛ばす。エイダは火だるまになりながら地面を転がる。その隙を逃さずアリュマージュは再び距離を詰めるべく駆け出す。
「エイダ!!!」
シグルはエイダの元へ駆け寄り庇うように立ちはだかる。そして突き出された拳を剣でいなす。アリュマージュの姿勢が崩れたところで剣を突き立てるが彼の全身を保護するように吹き出された炎によって防がれる。炎の勢いに負けシグルは後ずさる。それをアリュマージュは見逃さない。
「アンタもその程度っすかね?! 期待外れもいい所っすよ!」
アリュマージュは炎を纏わせた拳を放ち、シグルはそれを剣で打ち払い攻撃が当たらないよう躱す。それが何度も続く。アリュマージュの拳は速く、熱く、そして重い。剣で拳をいなすので精いっぱいだった。そんな時、体勢を取り戻したエイダが真横から魔法を放ちアリュマージュを吹き飛ばした。シグルが防御で手いっぱいだったからこそアリュマージュだけを狙えたのだ。エイダは体中のあちこちに軽い火傷を負っていたが直前で威力を軽減させることができたためまだ動けるようだった。
「シグル! あれをやるよ!」
「……! 分かった!」
「……! 分かった!」
エイダが足元に魔法陣を描きながら呪文を口にし、彼女の身体が赤く発光する。火属性の魔力が彼女の身体から発散される。そしてシグルの二振りの魔導剣を触媒に赤い炎が勢いよく噴き出す。炎と共に吹き出した熱で空気が揺らめく。トルーヴ姉弟の切り札である連携魔法、トルーヴ式火炎剣。それを見たアリュマージュは不敵に笑う。
「それが本気っすか! ならこちらも本気を出すっすよ!!!」
シグルとエイダに呼応するようにアリュマージュは魔力を解放し炎へと変換する。アリュマージュが発生させた炎は木々に燃え移り焼き尽くす。シグルは駆け出し拳を構え迎え撃つ姿勢を取るアリュマージュとの距離を縮める。そして彼の懐に足を踏み込んだ刹那、拳と剣を互いに打ち合った。互いの獲物に纏わせた炎と炎がぶつかり合い周囲に余波を撒き散らす。しかしそれが長くは続くことはなく、アリュマージュの拳がシグルの剣を打ち砕きシグルの胴体に届く。そして爆発と共にシグルは血を吐きながら殴り飛ばされた。
エイダはシグルがアリュマージュに撃破されたことに驚愕し意識をそちらに向け、それが致命的な隙となった。アリュマージュはエイダに巨大な火球を放つ。彼女は数瞬遅れて気づき対応しようとするも一手遅かった。火球がエイダに直撃するとともに大爆発を起こした。爆風が周囲一帯を襲いインブロジア森林帯の木々を吹き飛ばす。シルフィーヌ達は防壁を貼って爆風のダメージを防ぎ飛ばされないようにすることで精いっぱいだった。
爆風が止み彼女がトルーヴ姉弟に目を向ける。その瞳には血を吐きながら、あるいは大火傷を負って地面に倒れ伏すシグルとエイダの姿が映る。
エイダはシグルがアリュマージュに撃破されたことに驚愕し意識をそちらに向け、それが致命的な隙となった。アリュマージュはエイダに巨大な火球を放つ。彼女は数瞬遅れて気づき対応しようとするも一手遅かった。火球がエイダに直撃するとともに大爆発を起こした。爆風が周囲一帯を襲いインブロジア森林帯の木々を吹き飛ばす。シルフィーヌ達は防壁を貼って爆風のダメージを防ぎ飛ばされないようにすることで精いっぱいだった。
爆風が止み彼女がトルーヴ姉弟に目を向ける。その瞳には血を吐きながら、あるいは大火傷を負って地面に倒れ伏すシグルとエイダの姿が映る。
「…………シグル様……? …………エイダ様……?」
シルフィーヌにとって目の前の光景は信じられない物であった。自分よりはるかに強いはずのシグルとエイダが敵に敗れ倒れている光景がどうしても現実として受け止められなかったのだ。
「うっひゃー、危なかったっすけど自分の勝ちっす! ヴァン君に自慢できるっすかね! ドゥローに、もしかしたら陛下に褒められちゃうかもっすね!!」
アリュマージュの場違いな明るい声が戦場に響く。自分たちよりも強いはずのシグルとエイダが敗北したことに実力の差を実感させられる。このままでは全滅すると判断した近衛騎士団長は剣を抜いてシルフィーヌ達の前に出る。
「私が殿を務める! トルーヴ姉弟を回収し、陛下を連れてこの場から全力で脱出せよ!」
部下達に命令を下しアリュマージュへ突撃する団長。命令に応じ二人の近衛騎士がトルーヴ姉弟の回収に向かう。それをアリュマージュはつまらないものを眺めるような目で見ている。心底どうでもいいと言いたげであった。雄叫びを上げて突撃してくる騎士団長を
「つまらないっすね」
一言言い放ち、適当に腕を振って焼き払った。騎士団長は黒焦げとなって倒れ伏す。そしてアリュマージュはシルフィーヌの方へ意識を向ける。
「それじゃしるふぃーぬにせい? 一緒に来てもらうっすよ。君を連れて行けば自分テルミドール陛下に褒められるんすから」
何事もなかったように自分に笑いかけてくるアリュマージュにシルフィーヌは言い知れぬ恐怖を覚える。そんな彼女に構うことなくアリュマージュはゆっくり歩を進める。騎士団の面々がシルフィーヌの前に出るも恐怖で武器を握る手が震える。
「あ、しるふぃーぬにせい以外は殺すっすから。別にいらないっすから。それにあんたらの中に自分の家族を焼き殺した仇がいるかもしれないっす」
炎を吹き出しゆっくりと距離を詰めてくる。そんな時だった。横から水の刃が直撃する。当然ながらシルフィーヌでもなければ共に逃げていたウッドエルフでも騎士団の誰かでもない。全く別の第三者。アリュマージュにとって痛くもかゆくもない攻撃だがそれでも鬱陶しいと感じる程度には不愉快であった。
「全く誰かと思ったら……せるふぃーって言ったっすか?しるふぃーぬにせいのお姉さんの……」
「セレーネだ。人の婚約者の名前を間違えないで欲しいのだがな、ダークエルフ」
「セレーネだ。人の婚約者の名前を間違えないで欲しいのだがな、ダークエルフ」
水の刃が飛んできた大本にアリュマージュは視線を向ける。そこにはエルフの男が一人構えていた。アリュマージュにとってはたいして興味がわかないし知らないエルフであったがシルフィーヌ達にとっては見知った顔だった。
「……ヨルク……お兄ちゃん……?」
ヨルクと呼ばれたエルフ。かつてのセレーネの婚約者であり王配、そしてシルフィーヌの義兄になるはずだった男。そしてセレーネの死と共にエルヴン帝国から背を向けた者。戸惑いを隠せないシルフィーヌに柔らかい笑みを浮かべながら一瞥し、すぐさまアリュマージュを睨みつける。深い怒りと憎悪を瞳に宿しながら。
「あいにくと君が邪魔なのでな。ここらで退場してもらおうか、ダークエルフの四天王」
「は? 誰に物を言ってるっすか? 下等生物ごときが。自分に勝てるとでも?」
「は? 誰に物を言ってるっすか? 下等生物ごときが。自分に勝てるとでも?」
ヨルクの言葉に不快感を示しつつ炎を全身から吹き出し始めるアリュマージュ。数秒と絶たないうちに草木や枯葉、そして周辺の木々に火の粉が当たり燃え始める。しかしヨルクはそんなアリュマージュを鼻で笑い、そのことにアリュマージュはさらに不快感を表情に表す。
「なんか? 下等生物ごときが自分をバカにしたっすか? 対した奴っすよ。勝てるとでも思ってそうっすね」
「いや……僕では無理だろうさ。僕ではね?」
「いや……僕では無理だろうさ。僕ではね?」
ヨルクの言葉にアリュマージュはいぶかしむがすぐさま思考を切り替え燃やし殺そうと炎をさらに燃え上らせる。その瞬間、横から何かがアリュマージュ目がけて攻撃を仕掛け、彼を地面に叩きつけたのだ。シルフィーヌ達には何が起きたのかと一瞬目が点になり、すぐさま事態を把握した。生き残りの騎士とウッドエルフがシグルとエイダを回収しに向かい、残りの騎士たちはシルフィーヌの手を引いて走り出した。アリュマージュはあっと声を上げるもすぐさま別方向の攻撃に再び地に転がることとなる。
「何なんすか?! お前! 何かしたっすか?!」
「僕が何かをしたわけではない。君の無知が招いたことさ。この森は自らを傷つけるものに容赦しない。僕はただ最適なタイミングで乱入しただけの部外者だ」
「僕が何かをしたわけではない。君の無知が招いたことさ。この森は自らを傷つけるものに容赦しない。僕はただ最適なタイミングで乱入しただけの部外者だ」
ヨルクが言い終えるや否やというタイミングで地中から木の根が飛び出しアリュマージュに襲い掛かる。彼は炎で木の根を燃やすも攻撃が止まるどころか勢いづく始末であった。
そんなアリュマージュをヨルクは嘲る。それも楽しげな様子で。
そんなアリュマージュをヨルクは嘲る。それも楽しげな様子で。
「君は森を怒らせた。その怒りを身をもって知ると良い」
ヨルクの嘲りに反応し頭に血が上るアリュマージュだがその刹那、同じ四天王であるドゥローの言葉を思い出した。インブロジア森林帯で戦闘を行うなら木々に傷つけてはいけない。逆に不利になるという忠告を。インブロジア森林帯に生息する樹木は防衛本能が強く傷を与えた者に対して情け容赦なく攻撃を仕掛けてくる習性があるのだ。自らの身を守るために、傷を与えた者に報復するために。彼はドゥローの言葉を聞いて知っていたはずだったが、正直に言ってどうでもいい物として認識していたがためにすっかり忘れてしまっていたのだった。そしてドゥローの忠告通りにアリュマージュは一転して不利な状況に追い込まれたのだ。何故なら森一つを敵に回してしまったのだから。木々がざわめく。地鳴りが響く。すでにヨルクはアリュマージュから背を向け一目散に逃げだしている。シルフィーヌ二世一行もだ。アリュマージュは彼らを追いかけようとして、木々の情け容赦ない報復に晒されてしまう。そしてしばらくの間、アリュマージュの悲鳴が周囲一帯に響き続けることとなった。
ヨルクの導きもありインブロジア森林帯を抜けたシルフィーヌ二世一行は森の近くの洞窟に身を潜めていた。シグルやエイダ、そして騎士団の中で傷を負った者の治療を行うためだ。騎士団の面々はアリュマージュの戦闘の余波で火傷を負っていた。シルフィーヌと非戦闘員のウッドエルフを守るために身を盾にしていたのだ。戦闘に割って入れなかったというのもあるが。そしてアリュマージュと直接戦闘を繰り広げていたシグルとエイダの状態はひどいものだった。シグルはあちこちに小さな火傷を複数、そして胴体はアリュマージュの打撃によりうっ血、痣が出来るほどだ。ヨルクの見立てでは肋骨を折っているらしかった。
エイダの方はというと骨が折れてたりはしていなかったが全身に大やけどを負っていた。皮膚が炭化していないだけ奇跡だとのことだ。
エイダの方はというと骨が折れてたりはしていなかったが全身に大やけどを負っていた。皮膚が炭化していないだけ奇跡だとのことだ。
「二人ともアリュマージュと戦ったというのに命があるのは奇跡だね。並の実力者ならもう死んでいるところだよ」
ヨルクは感心した様子を見せながらウッドエルフの者たちと共にシグルとエイダの治療を行っていた。手慣れた様子のヨルクにウッドエルフ達はおろか、生き残った騎士団の面々も感嘆の声を漏らしている。
「ひとまずしばらくは安静にするべきだ。特にエイダ……だったかな? 彼女の容態はひどいものだ。きっと跡が残るだろうね……」
そう言ってヨルクは洞窟の外に向かって歩き出す。それを騎士団とウッドエルフの面々は期待を込めた眼差しで見ていた。傷つき倒れ、意識を失っているシグルとエイダの前でうなだれているシルフィーヌから目をそらすように。シルフィーヌは自分が我がままを言ったせいでシグルとエイダがこんなことになったと感じていた。自分が弱いせいだと。
「……ごめんなさい、……ごめんなさい……!」
意識を失っている二人にシルフィーヌの謝罪が届くことはなく、彼女はずっと謝罪を続けるだけであった。誰もシルフィーヌに叱咤することも気にかけることもなかった。
一方ヨルクは洞窟の外で見張りをしていた。いつ敵が来るかもわからないためだ。ある程度周囲に細工をしているとはいえ心許ないことには変わりはない。その上エルヴンから逃げてきた騎士団の面々も役には立たないと判断したというのもある。
(……シグルとエイダと言ったかな……。あの二人があんな状態じゃなければ頼れたんだけどな……)
アリュマージュに敵わなかったとは言え、エルヴン帝国のエルフに比べるまでもなく勇敢だと思った。少なくとも見ていた限り最後まであきらめる様子は見られなかった。その上生き残っているあたり、まだ成長の余地が残されている。そんなことを考えている時だった。
背後から騎士の一人とウッドエルフの少女――――――オーフィアと呼ばれるアルボス=シルヴァの孫娘――――――が神妙な面持ちで近づいて来たのだ。
背後から騎士の一人とウッドエルフの少女――――――オーフィアと呼ばれるアルボス=シルヴァの孫娘――――――が神妙な面持ちで近づいて来たのだ。
「何か用?」
ヨルクは振り返ることなく用件を口にするよう促す。騎士とオーフィアは顔を見合わせて頷き合い口を開く。
「エルニア帝国に……リンデルの森に帰ってきてくださいませんか?」
そんな言葉をヨルクは鼻で笑った。何も分かってないと言いたげに。オーフィアは一瞬怯むもすぐさま表情を切り替えて続きを口にする。
「あなたが……ヨルク様が戻ってきてくだされば……、リンデルの森は百人力です。アリュマージュを前に果敢であったヨルク様がいてくだされば……きっと――――――」
「無理だよ。僕一人が戻ったところでテネブルのダークエルフ共に敵いっこないって。僕はおいしい所に割って入っただけ。それに褒めるのならあの人族の冒険者二人の方だ。あの姉弟の方がよっぽど果敢だよ」
「ですが……ヨルク殿がいなければ、我々が全滅していた」
「運が良かったんだよ。ちょうど都合よく木々の怒りが噴出した。いつ動き出すか予想がつかなかったしあのタイミングでアリュマージュに攻撃してくれなかったら僕なんてあっという間に灰になっていたさ」
「無理だよ。僕一人が戻ったところでテネブルのダークエルフ共に敵いっこないって。僕はおいしい所に割って入っただけ。それに褒めるのならあの人族の冒険者二人の方だ。あの姉弟の方がよっぽど果敢だよ」
「ですが……ヨルク殿がいなければ、我々が全滅していた」
「運が良かったんだよ。ちょうど都合よく木々の怒りが噴出した。いつ動き出すか予想がつかなかったしあのタイミングでアリュマージュに攻撃してくれなかったら僕なんてあっという間に灰になっていたさ」
オーフィアと騎士の言葉を容赦なく切り捨てる。事実、あのタイミングでインブロジア森林帯の樹木がアリュマージュに報復しなければヨルクの実力ではなす術などなかった。腐ってもテネブル=イルニアス軍団国の四天王だ。実力を比較することすらおこがましいとさえいえる。そしてアリュマージュと同格のダークエルフが後三人もいる。その更に上には魔王のテルミドールが君臨している。自分一人が戻ったところで焼け石に水ですらない。意味がないのだ。もっともそれだけが理由ではないのだが。
「それにね……僕はエルヴン帝国にもリンデルの森にも戻る気はない。誰に頼まれてもね」
「……どうしてですか?」
「……どうしてですか?」
オーフィアの疑問の声にヨルクは冷たい表情を浮かべながら振り向く。何の期待も感情もない、冷たい顔だった。
「エルヴン帝国なんて懐古主義の馬鹿どもに付き合う気なんてないしウッドエルフ達のように静かに暮らす気もないからだよ。あんな古臭くて辛気臭い、過去の栄光に縋りつくだけの民も教えも、何もかもなくなってしまってもいいとすら思ってるよ」
侮蔑の感情すら籠っていない平坦な声にオーフィアと騎士は思わず後ずさりをした。目の前にいるエルフが異物のように感じられた。「何より」と、そんな二人に追撃を掛けるようにヨルクはさらに言葉を紡ぐ。先ほどに比べていくらか感情が乗った声色で。
「あそこにはセレーネがいない。あの森も君たちもセレーネを守ってくれやしなかった。そんな場所に戻る価値なんて一つもないよ」
ヨルクとシルフィーヌ二世一行とは反対方向の、インブロジア森林帯とテネブル=イルニアス軍団の境界線上に一体のヴァルカイックが降り立っている。その背中には一人のダークエルフ――――――四天王の一人ドゥローが、アリュマージュを抱えている。
アリュマージュの帰還が遅いために青筋を立てながら連れ戻しに向かったところ、彼がインブロジア森林帯の樹木たちに攻撃されていたのだ。一方的にやられることはないとはいえ木々の攻撃にダメージが蓄積されていったのだろう。ボロボロになって倒れそうになったところをヴァルカイックに命じて突撃し無事に救助したのだ。もっともアリュマージュを助けるためにに木々を燃やすよう命令したためドゥローを乗せていたヴァルカイックがインブロジア森林帯の敵となってしまったのだが。
可哀そうなことをしてしまったと思いドゥローはヴァルカイックを労いその背中を撫でまわす。しかし、何か気に食わなかったのか背筋を立てることでアリュマージュを抱えたドゥローを地面に叩き付けるように降ろす。「ツンデレさんですね」と朗らかに笑うドゥローを無視してヴァルカイックは寝床に戻っていく。それを見届けつつドゥローはアリュマージュを乱暴に地面に降ろした。
アリュマージュの帰還が遅いために青筋を立てながら連れ戻しに向かったところ、彼がインブロジア森林帯の樹木たちに攻撃されていたのだ。一方的にやられることはないとはいえ木々の攻撃にダメージが蓄積されていったのだろう。ボロボロになって倒れそうになったところをヴァルカイックに命じて突撃し無事に救助したのだ。もっともアリュマージュを助けるためにに木々を燃やすよう命令したためドゥローを乗せていたヴァルカイックがインブロジア森林帯の敵となってしまったのだが。
可哀そうなことをしてしまったと思いドゥローはヴァルカイックを労いその背中を撫でまわす。しかし、何か気に食わなかったのか背筋を立てることでアリュマージュを抱えたドゥローを地面に叩き付けるように降ろす。「ツンデレさんですね」と朗らかに笑うドゥローを無視してヴァルカイックは寝床に戻っていく。それを見届けつつドゥローはアリュマージュを乱暴に地面に降ろした。
「それで? 何やってるのですかアリュマージュ。よもや私の忠告を忘れたとは言いませんよね」
「すいません、忘れてたっす」
「すいません、忘れてたっす」
アリュマージュの返答にドゥローは青筋を立てる。人の親切を無視しやがってと罵倒したくなったがそれを飲み込み、代わりに大きなため息をついた。
「全く、あの森を軽率に敵に回して……今後の貴殿の運用を考え直さなくてはいけません。何を考えているのですか貴殿は」
「しるふぃーぬにせいが逃げようとしてましたっす。捕まえたかったんすけど……ほんと申し訳ないっす」
「しるふぃーぬにせいが逃げようとしてましたっす。捕まえたかったんすけど……ほんと申し訳ないっす」
アリュマージュの言葉にドゥローは息を呑む。ドゥローは彼への説教を中断することにした。
「確かなのですね?」
「この目で直接見たんで。逃がしてしまってすいませんっす」
「普段なら折檻と行きたいところですが今日のところは見逃して差し上げましょう」
「この目で直接見たんで。逃がしてしまってすいませんっす」
「普段なら折檻と行きたいところですが今日のところは見逃して差し上げましょう」
そう言ってドゥローはアリュマージュに背を向ける。向かう場所はテネブル=イルニアス軍団国の『王宮』だ。すぐさまテルミドール様に報告せねばと考える。
「私は急ぎの用事が出来ましたので。後で下の者たちに運ばせますから今はそこで休んでなさい。しばらくは動くのも辛いでしょう?」
「ドゥローが運んでくださいっすよ……。とは言え動くの辛いっす。あちこち痛いっす」
「重要な情報を掴んだので罰は無しとしましょう。それでは」
「ドゥローが運んでくださいっすよ……。とは言え動くの辛いっす。あちこち痛いっす」
「重要な情報を掴んだので罰は無しとしましょう。それでは」
そう言ってドゥローは速足でその場を後にし、アリュマージュは彼の手の者が迎えに来るまでしばらく横たわっていた。折檻されなかったことにほんの少し安堵しながら、アリュマージュは空を見上げた。