ミーナ「……大体はバルクホルン大尉から聞きました」

坂本「先ほど医務室から連絡があった。もう大丈夫だそうだ」

俺「……」

 俺は立ったまま何も言わずにいる。

ミーナ「バルクホルン大尉とリーネさんの言っていた通りだと、アナタは罪に問われないでしょう」

俺「どういうことです?」

 そこでようやく俺が口を開く。

ミーナ「突然変形して速度があがるなんて誰も予想できませんし、何よりハルトマン中尉が負傷したのはアナタを庇ったため」

坂本「確かに怪我を負わせてしまった原因はお前にもある。が、そのお前がいなければハルトマンは死んでいた」

ミーナ「今回の件は誰も罪には問われないでしょう」

俺「……」

ミーナ「俺少尉?」

俺「納得がいきません」

坂本「納得がいかないとは?」



俺「あれは自分の不注意です。自分があと少し反応が早ければハルトマン中尉も怪我をすることは無かったでしょう」

ミーナ「いいえアナタの責任ではないわ」

俺「違います。自分の責任です」

ミーナ「……どうしても自分の責任というのかしら?」

俺「……はい」

 俺はミーナの瞳を見据えてはっきりと答えた。

ミーナ「はぁ……じゃあ何か罰を与えれば納得するわけね」

俺「はい」

坂本「おいミーナ」

ミーナ「では俺少尉、アナタは今日から三日間トイレ掃除よ」

俺「……それは罰なのですか?」

ミーナ「何か罰を、と言ったのはアナタよ俺少尉」

俺「……了解」




ミーナ「……ふぅ」

 俺が出て行った後ミーナはため息をついた。

ミーナ「頑固な人ね」

坂本「はっはっは、わたしはそういう性格は嫌いではないがな」

ミーナ「……俺少尉って扶桑生まれなのかしら?」

坂本「どうした急に」

ミーナ「ただなんとなく扶桑の考え方と似てると思って」

坂本「ふむ……そう言われればそうだな。って資料見てないのか?」

ミーナ「それがね……」

 そう言ってミーナはどこから取り出したのか紙を坂本に手渡す。

坂本「……これは」

ミーナ「出身地の欄が未記入。これじゃあどこ出身かわからないわ」

坂本「誕生日の欄も書かれていないな……よく見たら年齢の欄も数回書きなおした跡がある」

ミーナ「まあ、大体想像はつくわね……」


医務室

俺「……」

 椅子に座りハルトマンの寝顔を見る。
 すぅすぅと普段のように寝息を立てて眠っている。宮藤と医者が頑張ってくれたようだ。
 無事なのを確認すると俺は袖から本を一冊取り出し読み始めた。
 内容はなんてことは無いただの絵本。それこそ殆どの人が知っている童話白雪姫。

俺「……」

 一体その本は今までに何十、何百、何千回読まれたのだろう。表紙はところどころボロボロでページも汚れている。
 一ページ一ページじっくりと一言一句逃さぬように俺は見る。
 それでもすぐに読み終わってしまうのが絵本というもので、読み終わると絵本を袖に戻し、また別の本を取り出す。

 俺は三時間ほどそれをずっと繰り返していた。




 三時間経過したころ俺は袖に本を戻し、立ち上がろうとした。

ハルトマン「……俺って本当に絵本が好きだね」

 クスクスとハルトマンの笑いが聞える。

俺「……何時から起きてました?」

ハルトマン「俺が来てからずっと」

 ふぅ、と俺はため息をつき再び椅子に座り直す。
 俺は袖に手を入れるとリンゴとナイフを取り出した。

俺「まあ、話せる元気があるってことはいいことです」

 そんなことをいいながら丁寧にリンゴの皮をナイフで剥く。

ハルトマン「うまいね」

俺「姉に徹底的に鍛えられましたんで」

 剥かれたリンゴをカットして、袖から出した皿に載せるとハルトマンに手渡した。



ハルトマン「……俺、あの時言ったこと覚えてる?」

俺「覚えてますよ」

ハルトマン「ごめんね。きっと聞かれたくないことだったんだろうけど、あの人形のこととか、子供のこととか……」

俺「……姉は」

ハルトマン「?」

俺「姉は、捨て子だった自分にとって母親のような存在でした」

ハルトマン「……俺」

俺「気にしないでください。自分が勝手に話していることです」

 起き上がろうとするハルトマンを俺は止める。

俺「当時の姉も弟を病気で失ってしまい、悲しんでいたところ自分を見つけてくれたらしいです」

ハルトマン「でもそれって」

俺「代用でもなんでも、自分にとって初めて触れる愛情でした」




俺「……そして姉の結婚。悲しかったですが、自分の姉の幸せを喜ばない弟なぞいません。その頃自分は軍に志願するか迷ってるところでした」

 ふぅ、とまたため息を一つ。

俺「姉が妊娠したという知らせを受けた直後でした。ネウロイが姉のいる町に攻撃を仕掛けたというのを聞いたのは」

 ハルトマンが俺の手に視線をやると血が出そうなほど強く握りしめている。

俺「……街は燃え死体も残りませんでした。せめて復讐をしてやろうと軍に入り、偶々魔力があったためウィッチになり。ネウロイが全て殲滅される瞬間を見せてやろうとあの人形を作りました」

ハルトマン「俺……」

俺「まさかそんな自分がネウロイを倒せないウィッチになるなんて思いませんでしたがね……」

 話終わったのか三回目のため息をつく。

ハルトマン「……悲しいね」


俺「別に悲しくなんてありません。世界はネウロイによって家族を奪われた人が――」

 ハルトマンがふるふると首を横に振る。

ハルトマン「違う。悲しいのは、俺の方」

俺「……自分が?」

ハルトマン「復讐なんて俺のお姉さんも、子供もきっと……ううん、絶対望んでない」

俺「……」

ハルトマン「悲しみは憎しみじゃ絶対に癒せない」

俺「……」

ハルトマン「それに、ネウロイを全て倒したとして俺はその先どうするの?」

俺「……では、こちらも中尉に質問です」

ハルトマン「なに?」

俺「なぜ中尉は危険を冒してまで自分を助けたのですか?」

ハルトマン「何故そんなことを聞くの?」


俺「……なんとなくです」

ハルトマン「わかんないかな~。家族が危険なら守るのは当然じゃない?」

俺「……家族?」

ハルトマン「そ、家族。ここのみんなはみんな家族だと思ってる。もちろん俺も中に入ってるよ」

俺「自分も……ですか」

ハルトマン「きっと俺もどこかで守りたいと思ってる。じゃなきゃわたしにあんなこと言わないし」

俺「……自分はネウロイの復讐しか考えてない人間です」

ハルトマン「嘘つき」

俺「嘘なんか」

ハルトマン「復讐しか考えてないなら何故助けたかなんて聞くの? わたしのお見舞いにくるの?」

俺「……」




ハルトマン「きっと俺も間違ってると思ってるんだと思う」

俺「……じゃあ、自分はどうすればいいんですか。自分は戦えないウィッチです。誰かの助けを借りなければ前線にも行けません」

ハルトマン「その誰かをまもってあげる人になればいいじゃん」

俺「誰か?」

ハルトマン「ここにいる人でも、これから出会う人でも……。俺の魔法はそれができる」

俺「……誰でも?」

ハルトマン「そう、誰でも。でも個人のより好みとかはあっていいかなー」

俺「……最後の質問いいでしょうか。何故自分に袖に入れる許可を迷わず出したんです?」

ハルトマン「え~出さないと死ぬって」

俺「まあそうはいいましたが、もし自分が嘘をついていたりどこか別の場所で置き去りにしたり、そんなことは思わなかったのですか?」

ハルトマン「んー……そうだね。信じてたから、かな。今でも信じてるけど」



ハルトマン「あ、ごめんねなんか偉そうなこと言い続けちゃって」

俺「ハルトマン中尉」

ハルトマン「な、何?」

俺「……自分は疑うことしかできないウィッチです。しかしアナタが信じるなら自分もアナタを信じましょう」

ハルトマン「俺……」

俺「自分は不器用なので、複数を守ることはできません。ですからまずはアナタを守ることにしましょう」

ハルトマン「え、何で私?」

俺「より好み、というわけです」

 ハルトマンはその時、俺の笑顔を初めて見た。

ハルトマン「俺の笑顔初めて見た」

俺「そうですか? 自分はそんなに笑顔出したことがなかったでしょうか」

ハルトマン「うん。いつも無愛想か愛想笑いだったから」



俺「……今後は気を付けるようにします」

ハルトマン「あ、そうだ。いい加減ハルトマン中尉って言われるの堅苦しいからさ、エーリカでいいよ。中尉もいらない」

俺「しかし……」

ハルトマン「あー痛いなー傷が痛いなー」

俺「……わかりましたよ。エーリカ」

エーリカ「それでよーし。さ、リンゴ食べよっと」

俺「あ、もうひとつだけ」

エーリカ「もー何?」

俺「なんで自分の部屋によく入るんですか?」

エーリカ「同じような散らかりっぷりだから」
最終更新:2013年02月02日 13:09